産業を側面から支える介護福祉サービス

(2016年06月30日)

介護離職ゼロに!  全国初のサポート始動


 介護の大変さは当事者になって初めてわかると言われる。親の介護でつきっきりになり、会社を退職する「介護離職」は企業にとっても問題となる。介護離職は企業努力では解決できない社会問題だ。高崎市は今年4月から全国初となる24時間365日体制の「介護SOSサービス」を開始した。介護離職ゼロと高齢になっても安心な高崎づくりは、企業誘致や働く世代の流入にも効果のある施策であり、高崎の産業力を後押しするものとなりそうだ。

 
「商工たかさき」 2016/6号より
  

■サポート体制に都市間格差

●産業誘致は都市の総合力で

 高崎市の富岡賢治市長は、高崎市の産業誘致、シティプロモーションを展開するにあたって、産業立地や誘致制度が優れていることに加え、高崎の福祉、教育、文化、生活環境などが企業に総合的に評価されることが必要だと強調してきた。産業活力によって福祉や教育、文化、都市基盤を充実させ、プラスの循環をつくっていくことが高崎市の都市づくりとなる。市民生活の充実と産業活力は一体のものである。
 そうした観点から、24時間365日体制の「介護SOSサービス」、市内26カ所の「高齢者あんしんセンター」の設置、緊急通報装置と安否確認センサーによる「高齢者あんしん見守りシステム」、GPSによる「はいかい高齢者救援システム」は、高崎市を特徴づけるサポート事業になっている。
 徘徊対策でGPS装置の無料貸与やそれを見守るセンターの設置を全国の全ての自治体で実施しているわけではなく、特に24時間365日の介護緊急支援「介護SOS」は全国初で、高崎市は突出したサポートを実施していると言える。
 

●使い勝手の良い高崎方式「SOSサービス」

 高崎市の介護SOSサービスは、24時間365日、面倒な手続きは不要、電話一本で在宅支援や宿泊サービスを格安の料金で利用できる制度で、介護保険の認定を受けていない高齢者であっても利用できるのが大きなポイントだ(制度の詳細は別表)。法令によって細部にわたって規定されている介護保険と比べ使い勝手がよい。しかも深夜も含めた24時間体制、元旦から大晦日まで休みなく対応してくれるというのは、本当にありがたい。急な冠婚葬祭、介護疲れのリフレッシュとして、たまには映画や旅行に行きたいなど、理由を問わず利用ができる。まちなかで誰もが自由に使える「高チャリ」と同様に堅苦しさがなく、使い勝手の良い高崎方式となっている。
 SOSサービスは、急な用事やリフレッシュのような目的でも使えるので、介護離職の抑止だけではなく日常的な家族の介護ストレスを軽減できる。介護疲れによって精神的に追い詰められ、悲しい事件に及んでしまうなどの報道も目にすることがあるが、高崎市のSOSサービスは、こうしたケースの駆け込み寺としても期待される。
 

●高崎だからできた「介護SOS」

 SOSサービスは介護ヘルパーによる24時間365日の待機体制がベースになっている。電話受付と訪問サービスがケアサプライシステムズ株式会社(島野町)、宿泊サービスは、社会福祉法人新生会(中室田町)とニューサンピア株式会社(島野町)が受け皿となっている。
 電話で済んでしまう問い合わせもあるが、相談があった場合はとにかく、介護ヘルパーが2人一組で現場を訪問して状況を把握し、対応してくれるので心強いシステムだ。2人で訪問するのは、現場での機動力や利用者の安心感を考慮してのことだ。
 ケアサプライシステムズは県内最大規模となる327人もの介護ヘルパーを擁する。新生会は榛名丘陵に高齢者ニュータウンのような街区を形成し、SOSサービスでの宿泊は自宅まで送迎も可能だ。利用者が快適に安心して使えるレベルの高い内容となっている。
 SOSサービスを支える高崎の介護事業者の力は全国に誇れるもので、高崎市福祉部の田村洋子部長は「きめ細かい介護サービスを提供している民間事業所が充実している高崎だから実現できた」と語る。
 

●介護保険のすき間を埋める

 医療でも健康保険がきく保険診療と保険がきかない自由診療があるが、介護サービスにも、介護保険が適用される介護保険サービスと、介護保険制度外の非介護保険サービスがあり、両者を合わせて広い意味での介護サービスが形成される。
 介護保険制度のサービスだけでは介護や支援を必要とする高齢者の生活を支えることができないと考えられており、民間事業者による非介護保険サービスのニーズが高まっている。非介護保険サービスは、利用者の現状と介護保険制度のすき間を埋める役割を果たしていると言えるが、介護保険適用外なので全額自費となり、本人や介護する家族等の負担が大きくなる。
 高齢者の現状と介護保険制度のすき間を埋めるサポートが低料金で使えるようになれば、本人や家族の安心につながる。しかし法令によって市町村に実施が義務づけられていない「すき間を埋めるサポート」は、あくまでオプションであり、市町村の財政力やまちづくりの考え方、更にはサービスを提供できる事業者の有無などによって都市間格差が生じる。高崎市の介護サポートは、住民の安心のよりどころとなるもので、高崎のまちづくりの理念をあらわしている。
 

■医療・福祉は高崎の基幹産業

●県内最大規模の医療・福祉

toku1-4高齢者あんしんセンター車両

 高崎市は、長期にわたって医療体制の強化・充実が求められてきたが、国立高崎病院の建て替えで高崎総合医療センターが完成し、救急医療、高度医療に力を入れてきた結果、現在、高崎の医療環境を嘆く声は聞こえない。民間医療機関がそれぞれの役割を果たしていることもあり、市民アンケートでは、高崎の医療環境は充実しているという結果も現れている。
 平成26年経済センサスを見ると、高崎市の医療・福祉分野は1,351事業所、従業者2万3,902人で、全国屈指と言える医療都市・前橋市を従業数で上回った。高崎の産業界におけるポジションも、卸小売業の4,664事業所、従業者3万8,498人、製造業の1,539事業所、従業者3万1,388人に次ぐ就業規模となっている。実際に介護ビジネスに関わっている人数は、統計値を更に上回っていると見られる。
 介護分野は、従業者が数人から10人程度までの小規模の事業所が多い傾向にあるが、高崎には県内広域にも展開する大規模な事業所もあり、介護SOSサービスのような体制づくりが難しい事業を実現できる土壌があった。
 

●身近な相談窓口である「包括支援」とは

 高齢者の生活を社会で支えるシステムとして、介護保険制度が平成12年(2000年)にスタートし、「介護ビジネス」と呼ばれる事業分野が生まれ、高齢社会における成長産業とされてきた。
 デイサービス(通所介護)や訪問介護は地域密着で、小規模な介護ステーションを市内のどこに行っても目にする。また利用者が自宅の前で送迎車に乗降している風景も日常のものとなっている。
 ところが介護保険は非常に広範で、知っているつもりでも、いざ当事者になると制度内容を理解するのは容易とは言えず、不安を抱えることになってしまう。不安に対する身近な相談窓口として、専門家による「地域包括支援センター」があるのだが、「包括支援」という言葉は一般にはなじみが薄く、難しいという声は当初からあったが、地域包括支援センターは介護予防や高齢者が暮らしやすい地域づくりも担う重要な施設となっている。
 

●高齢者サポートを大転換

 地域包括支援センターの設置数は決まっておらず、身近な生活圏を基準としている。高崎市は、平成27年度に「待つ福祉から出向く福祉」を掲げ、地域包括支援センターをそれまでの9カ所から、中学校区を基準とする26カ所へと3倍増するとともに、地域包括支援センターの運営方法を市の直営から民間委託に変更した。名称も親しみやすい「高齢者あんしんセンター」に変え、数年の間に各管轄地域内の全高齢者を訪問していくことも活動内容に盛り込まれた。
 地域の拠点となる「高齢者あんしんセンター」には、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員等が配置され、委託された事業者は、専門性の高い人材がきめの細かい業務を担っている。負担の大きな業務を少人数の精鋭でこなしている。高崎市のような人口30万人以上の中核市クラスの都市力では、26カ所も開設するのは不可能と見られたが、これを実現する事業所の力が高崎にはあった。
 26カ所のあんしんセンターでは、委託された事業者の事業所内に設置されたケースもあり、地域の高齢者に親しまれている。「この地域はこの事業者が支えてくれる」という信頼関係が生まれ、事業者側のメリットも大きい。民間活力を柔軟に活用した事業実施は、高崎市らしい手法だ。
 あんしんセンターへの相談件数は年間4万件に及び、高齢者の大きな支えになっていることが示されている。介護に関することだけではなく、今年1月の大雪の時には、あんしんセンターが地域の高齢者宅に連絡をとり、要望があった世帯には市職員の雪かき応援隊を派遣した。まさに「出向く福祉」の最前線として地域の高齢者を支えている。
 

急な残業や出張でも使える「SOS」 介護離職ゼロは企業にもプラス

 今年度始まった介護SOSサービスも、高崎市の「出向く福祉」の一環と言えそうだが、こうした高齢者サポートは「企業活動を後押しする力になる」と高崎市福祉部の田村部長は語る。親の介護に直面する年代は働き盛りの40代から50代。介護離職ゼロを進めることができれば、企業にとっても人材の喪失を抑止できる。
 田村部長は「介護のために残業はできませんとなかなか言えない。企業の中心となって働いている40代、50代が介護のために離職してしまえば経営へのダメージも大きい。介護SOSサービスは、高崎市の地方創生につながる事業にもなっている」と、企業の従業者にも周知を呼びかけている。介護の手助けが必要になったら、介護SOSサービスが力を貸してくれる。高齢社会が進み、介護をしながら働く人たちが増加する。介護サポートは、高齢者を支えるだけでなく、働く世代が活躍できる環境づくりを進める役割も担っている。
 

■これも高崎の実力
介護SOSサービスや高齢者あんしんセンターを支える事業所

 

●介護SOSサービスの窓口
介護ヘルパー300人のサービス力

toku1-5
toku1-6ケアサプライシステムズ(株)
デイサービスでのレクリエーション

 
ケアサプライシステムズ株式会社
(高崎市島野町890―8、飯島芳臣社長)

 
 327人もの介護ヘルパーを擁し、県内広域に事業展開するケアサプライシステムズ株式会社。藤和グループ(駒井實社長)の社会貢献として、介護SOSサービスの補助事業に登録した。「同社の力が無かったら、介護SOSサービスは実現できなかった」と高崎市福祉部の田村部長は語る。
 通常業務と並行して24時間365日の体制づくりは、同社に勤務する介護ヘルパーの献身的な働きによって実現されている。SOSサービスの勤務シフトは70人によって構成されているというから、組織力に驚かされる。
 SOS電話「027―360―5524」はケアサプライシステムズが電話受付をし、介護SOSサービスの窓口機能を担う。利用者から住所氏名等の基本情報や依頼内容を伝えてもらい、訪問サービスであれば同社のヘルパーを派遣、宿泊サービスであれば社会福祉法人新生会もしくはニューサンピア株式会社へ連絡する。
 事業が始まってから1カ月半ほどで入電は110件を超え、35件の出動があった。冠婚葬祭や家族旅行に安心して出かけることができたと好評だ。急に入院した一人暮らしのお年寄りから「衣類も何も用意していない、助けてほしい」とSOSコールがあり、ヘルパーが病院に出向き自宅から入院に必要な衣類などを届けた事例もあった。
 同社の飯島芳臣社長は「クオリティの高い介護サービスを提供しており、蓄積された経験をSOSサービスでも生かしている。また、こうした新規事業を機にヘルパー資格を持ちながら生かせていない方々にも興味を持っていただき、仲間として参加していただくことを切に願っている。」と語る。「介護SOSサービスは高崎市が全国初。この事業を成功させ、全国に介護離職ゼロの取り組みが広がるよう、がんばっていきたい」と意気込みを示している。
 

●高齢者施設の先駆者
グレードの高い福祉を提供

toku1-7
toku1-8社会福祉法人新生会の施設全景

 
社会福祉法人新生会
(高崎市中室田町5983、原慶子理事長)

 
 榛名山のふもとに10数棟の建物が並び、木立の中にマンション街のような風景が広がる。社会福祉法人新生会は、戦後、榛名荘病院の療養所を前身に、高齢者福祉の先駆けとして事業を展開してきた。入居者は500人を超え、豊かな自然の中で安心して老後を過ごしたい高齢者のためのグレードの高い施設から地域の福祉ニーズに対応した施設など各施設は意匠性も高く、事業の奥行きが深い。他市町村に展開するのではなく榛名の地に根ざした新生会の施設全景は、空撮でないと知ることができない。榛名の室田地域の高齢者あんしんセンターもこの敷地内に開設され、通所や居宅介護の拠点として地域住民に信頼されている。
 「福祉を心豊かな文化に育てたい」と原慶子理事長は語る。新生会の評価は高く、首都圏からの入居者も多い。学生などボランティアの受け入れも積極的で、年間延べ1千人が研修し、専用の宿舎も開設されている。
 介護SOSサービスの宿泊サービスは、生活支援ハウス内の個室を使い、最大6人の受け入れができる。室内はホテルを思わせ、ベッドはセミダブルと、ぜいたくな仕様だ。宿泊サービスの利用は、健康な人が対象となっているが、万が一の場合も、専門スタッフがおり、医療機関が隣接しているので安心だ。
 新生会は、“Human・Art・Life・Care”の頭文字「HALC」を理念に掲げ、拠点となるコミュニティセンター建設に取り組んでいる。認知症やアルツハイマー病の治療研究や芸術活動による創造的な生活環境を目指した施設で、ホールにはパイプオルガンも設置していきたいそうだ。
 

●自分の親に使わせたい施設
太田に国内最大にデイサービスも

toku1-9toku1-2(株)エムダブルエス日高
(リハビリトレーニングを取り入れたデイサービス)

 
株式会社エムダブルエス日高
(高崎市日高町349、北嶋史誉社長)

 
 まるでスポーツジムかカルチャーセンターのようなMWS日高の地域交流センター。次世代型デイサービスして機能性とデザイン性にあふれた施設だ。高崎、前橋、沼田、太田に11カ所の施設を展開し、井野(高崎)、元総社(前橋)、沼田、太田の拠点施設は大規模で、特に太田は国内最大のデイサービスセンターとなっている。交通拠点性を生かした送迎能力を持ち、高速道路も活用するので4つの拠点は県内全域をカバーできる。
 「介護を支援に、支援を自立に、自立の人はさらに健康に。利用者の回復、改善に力を入れ、選ばれる施設になっている」と北嶋史誉社長は語る。地域交流センター内には喫茶店もあり、リハビリトレーニングの合間に、コーヒーを味わう人の姿も見られる。介護施設のイメージを変え、スポーツを楽しむような雰囲気なのでプラス志向の精神的効果も大きいだろう。
 健康寿命を伸ばし、公的な医療費や介護給付費を抑えるためにも、介護予防や軽度の高齢者の運動教室に力を入れていく考えだ。利用者の生活にも着眼し「デイサービスを利用する人は、一人で外出して買い物をすることにも苦労している」と、センター横に移動販売車を巡回させ買い物ができるようにするなど多機能で多様な高齢者ニーズに応える施設づくりを行っている。また買い物をすることで、機能回復訓練にもつながっている。しかも荷物は帰宅時に送迎車で家まで運んでくれるので、重たい荷物を持たずにすむ。
 「団塊の世代が高齢者となり、高齢者の考え方、感覚も変化しているので対応していくことが重要」と北嶋社長は語る。同社の地域交流センターは時代を先取りしているといえる。
 新高尾・中川地区の高齢者あんしんセンターがMWS日高の地域交流センター内、南陽台・馬庭・南八幡の高齢者あんしんセンターが日高リハビリテーション病院内に開設されている。北嶋社長は、受け持つ地域のサービス充実に更に力をいきたいと考えている。「あんしんセンターの委託事業者がお互いに切磋琢磨し、高崎市全体の福祉レベルを上げていきたい」と語っている。
 各事業者の力と持ち味を生かしていくことで、全国でも高水準の高齢者サポートを提供することができ、高崎の都市力の一翼を担っている。

■介護SOSサービス
高崎市内に在住し、住民登録がある65歳以上、見守りや介護が必要な方
 
●訪問サービス
介護や見守りを必要としている高齢者の家族や高齢者世帯において、介護の手配が必要となった際に、プロのヘルパーが即時訪問し介護サービスを提供。ヘルパーの派遣は高崎市内全域。
利用料金:1時間あたり250円(税込)
原則1ヶ月5回まで利用が可能
 
●宿泊サービス
家族や介護者が、介護ができなくなった場合に、
短期の宿泊、食事を提供。
利用料金:1泊2食付2,000円(税込)、
     1泊2食・送迎付3,000円(税込)
原則1ヶ月3回まで利用可能(1回の利用は2連泊まで)
入館時間は原則8時から20時まで
 
●専用ダイヤル
電話:027-360-5524(24時間365日利用可能)

 
(商工たかさき・平成28年6月号)

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