販路拡大に成果を上げる小規模事業者

(2016年07月26日)


 顧客を増やし売上を伸ばしたいと、どの企業の経営者も切実な思いを抱えているのではないだろうか。特に中小・零細企業では経営者が忙しくて時間がない、やり方がわからない、費用の捻出が難しいなどの様子もうかがえる。高崎商工会議所はこうした企業をサポートし、「小規模事業者持続化補助金」を活用する事業計画策定支援に取り組んでいる。

 
「商工たかさき」 2016/7号より
  

●販路拡大を目的とした補助金

 「小規模事業者持続化補助金」は、規模の小さな事業者を対象に販路開拓に役立ててもらう補助制度で、顧客拡大や売上増につなげていくものだ。小規模事業者を対象に、原則50万円を上限に費用の3分の2が補助され、経営者を後押しする制度となっている。
 この補助金は、経営計画と具体的な補助事業計画を策定し、計画にもとづいて販路拡大事業に取り組んでもらうことが目的。高崎商工会議所の管内事業所では、平成26年度36件、平成27年度129件、平成28年度96件の申請実績があるが、国からの採択は狭き門となっている現状がある。しかし、補助金の採否に関わらず、策定した事業計画は、企業の糧として継続的に取り組んでいただいている。小売店や飲食店であれば、客層やオススメ商品の明確化、ものづくり企業では見本市への出展要望は強く、製品、技術のPRなどに生かしていただいている。
 昨年度に高崎商工会議所が実施した会員アンケートでは、事業計画に関心を持っている企業は全体の約半数となっている。今回の特集を参考に、補助金に関わらなくても多くの会員企業に事業計画づくりに取り組んでいただきたい。高崎商工会議所は、会員企業の事業計画づくりを全力で支援していきます。
 
 

■団体観光客の誘致に成功

有限会社 松邑
高崎市南大類町570

安中取締役

 

●宴会の少人数化が売上に影響

 瓦塀で囲まれ、日本庭園のある格調のあるたたずまいが印象的な「とうふ料理専門店の松邑」は、国道354号線沿いのランドマークといえる。収容数は大広間・個室を合わせて150席、こだわりの豆腐料理が評判の人気店である。
 松邑の安中淳子取締役は、慶事・法事で利用する団体客の少人数化に、不安を感じていた。宴会の頻度減少や少人数化による外食産業の構造変化は、松邑の売上にも表れていた。
 「以前は親戚を大勢集めて大広間で盛大に行われていた慶事・法事は少なくなり、ニーズが変化している。お客様の獲得や新商品の販売を強化したい」と安中さんは、持続化補助金を活用しようと高崎商工会議所を訪れた。
 

●ホームページリニューアルの目的は

 安中さんは補助金でホームページのリニューアルをしたいと考えていた。単に見栄えを良くするのではなく、お客様の獲得につなげていきたいと、当所に相談した。
 まずお店を取り巻く最近の動向、松邑の強みと弱みを考えてもらった。「あらためて聞かれるとひとつ、ふたつ程度しか思い浮かばなかったが、強みを活かして弱みにはどんな対応が必要なのかが見えてきたような気がしました」と語る。
 強みである「客席数が多い」、「駐車場が広い」、「高速道のインターチェンジが近い」、「富岡製糸場の世界遺産効果で観光ツアーが多い」などを生かし、来店客を増やす方法として観光客をターゲットにしようと思い切った決断をした。
 高崎ICから富岡までのルート上に、観光バスの団体客を収容できる規模の大きな飲食店は少ない。こだわりの豆腐料理と和を基調とした店舗のしつらえ、リーズナブルな価格は、お客様の心をとらえていた。以前から観光の団体客に利用され、一度使ってもらうと松邑の魅力がわかってもらえるので、リピート客も増えていたところだった。
 

●取り組みの効果で対前年比プラスに

 販路拡大の方向として、団体客向けのランチメニューにターゲットを絞り、ホームページでも団体客への訴求力を高めた。また旅行代理店向けのチラシを作成し、DMで宣伝することにした。
 さらに当所で行っている展示販売会・商談会の支援を聞き、以前商品化していた「おからまんじゅう」のパッケージを変更し販路を探す計画も盛り込んだ。
 補助金申請は初めてだったが、今回の取組みは助成金をもらうだけことが目的ではなく、売上を上げる為に何をすればよいのかを整理するきっかけとなった。実際にホームページリニューアルが完了した9月ごろから、団体客も増え売上も前年に対して上昇に転じた。
 

●メニューの商品化と販路拡大

 人気メニューだった「おからまんじゅう」は商標登録を行って商品化したが、実際は簡単には売れずお店でテイクアウトとして販売する程度だった。
 補助金を活用し、展示販売会や商談会へ出展することをきっかけに商品名を「卯の花まんじゅうに」変更しパッケージも一新した。昨年9月に当所の主催で、新宿駅で開催した物産フェアは、初めての出展だったが、直接お客様との対面販売や、バイヤーとの商談で得た経験は貴重だった。
 「商工会議所の物産展に出展したということが知られるようになり、地元のイベントや金融機関の商談会にも、出展のお誘いがくるようになりました」と手応えを感じている。店舗が軌道に乗り、団体で訪れる観光客から「おみやげ売り場はありませんか」と頻繁に聞かれるようになり、新たなニーズも生まれた。次は物販部門の拡充しようと安中さんは動き始めている。
 
 

■PVのプレゼンで全国に展開

株式会社アイティーエム
高崎市下之城町584-70

細谷社長

 

●高齢者を見守る画期的なシステム

 「紙媒体の資料だけでは、臨場感が伝わらない」。プロモーションビデオを製作し、営業効果に手応えを感じているのが株式会社アイティーエムの細谷勤社長だ。
 孤独死ゼロを実現するため、高崎市が全国に先駆けて導入した「高齢者あんしん見守りシステム」「徘徊高齢者救援システム」は、アイティーエムが開発したもので、高崎市の福祉施策を特徴づけている。細谷社長はこのシステムの全国展開をめざしている。
 「あんしん見守りシステム」は、緊急ボタンを押すと受信センターと通話ができる通報機器と、一定時間、人の動きが止まると自動通報する「安否確認センサー」を高齢者宅に設置するもので、設置費用、使用料は自治体が負担するので利用者は少額の通信料だけで済む。高崎市では、これまでに約2千6百件が設置され、救命や死亡の早期発見につながっている。また、GPSシステムを利用し、認知症の徘徊で所在不明になった高齢者を発見する「徘徊高齢者救援システム」も早期保護に役立ち、所在不明者が東京都内で発見される事例もあった。
 

●ドキュメンタリー動画で再現し訴求力を高める

 見守りシステム、徘徊高齢者救援システムの導入効果は大きいが、パンフレットや資料の説明では、プレゼンテーションの時、相手の心を動かす力が弱いと細谷社長は考えていた。プロモーションビデオを製作したいが、思いのほか費用がかかる。そこで「小規模事業者持続化補助金」を活用し、ドキュメンタリー形式の本格的なプロモーションビデオを計画した。
 認知症高齢者の徘徊による家族の負担感、徘徊で所在不明になった時の家族の心配、このシステムによりすばやく無事に保護し喜ぶ様子を5分間のドラマで再現した。制作はプロの映像監督とカメラマンに依頼し、テレビドラマや映画の撮影のようであったそうだ。シナリオづくりや役者まで全て社員が担当し大活躍した。
 

●技術とニーズを生かした製品開発

 さらにアイティーエムでは、見守りシステムに迷惑電話撃退機能を加えた「ほっとコール」システムを開発した。高齢者を狙ったオレオレ詐欺が巧妙化し、被害が後を絶たないが、怪しい電話を自動的に拒否できれば未然に防止できる。この機能は他社に例が無いという。
 「ほっとコール」は、あらかじめ登録された電話番号から着信した場合だけ受話器の呼び出し音を鳴らし、登録されていない場合は自動的に着信拒否する。登録されてない電話番号から着信があった場合は、家族にその電話番号を通知し、相手を確認してもらう。このシステムを使うと、お年寄りが詐欺犯と直接会話することがなく、だまされるリスクも減らすことができる。
 また、寝たきりの患者の介護おむつにセンサー取り付け、排泄を通知するシステムを開発し、おむつ交換を適時に実施できるようにした。介護施設や病院では一定の時間間隔で全員を一斉にチェックしていることが多いそうだが、このシステムを使えば、すぐに交換してもらえるので患者も快適で、スタッフの労力も軽減する。
 

●優れたシステムの販路を開け

 現場ニーズを踏まえてアイティーエムが開発した製品は、高齢化社会の課題を解決する優れた機能を持っているが、細谷社長は営業力を強化し、販路を広げていく必要性を感じていた。
 作成したプロモーションビデオの訴求力は大きく、展示会などでの上映を通じて、全国の自治体や病院から引き合いが寄せられているという。
 見込み客が増え、細谷社長はプロモーションビデオを持って九州も一周。ホームページもリニューアルし、このビデオを見られるようにし、アクセスも増えている。細谷社長は、全国各地の事業者間コラボを推進するなど、全国に知られるオンリーワン企業を目指し、新たな営業戦略を描く。
 
 

■リピーターが大きな財産 ネットショッピンングを機能強化

有限会社タンポポ
高崎市鼻高町1380

長坂専務

 

●ホームページの不具合を改善

 長坂牧場「みるく工房タンポポ」は、全国的に有名な高崎ブランドとなっており、牧場でとれた新鮮な牛乳を使った「飲むヨーグルト」やジェラードの詰め合わせは、高崎市ふるさと納税の返礼品として人気となっている。鼻高展望花の丘と隣接し、高崎の観光スポットとしても集客している。テレビで紹介されることもあり、放送後はホームページのアクセス数が大きく増えるそうだ。
 タンポポの旧ホームページは、店舗の創業にあわせて知人に作ってもらったもので10年以上が経過し、長坂幸夫専務はリニューアルの必要性を感じていた。
 一番の懸案は、スマホからアクセスした場合、決済機能がうまく動作しないことで、お客様からも不便さが指摘されていた。不具合の原因はわからず、「ネット購入のお客様を損失していたことはまちがいない」と感じていた。
 長坂さんは、百貨店の物産展などで全国を回って自ら試飲・販売の現場に立ち、タンポポの魅力を直接、消費者に伝えながら販路を開いてきた。物産展で訪れた都市の消費者から電話やネットで注文が入ってくることも多く、ホームページは全国のお客様とタンポポをつなぐ大切なツールだ。
 長坂さんは「小規模事業者持続化補助金」を使って、ホームページを全面リニューアルし、ネットショッピング客が利用しやすいデザイン・コンテンツにあらため、もちろん決済機能もスムーズになった。
 

●おいしさを知っているリピーター

 タンポポの主力製品「飲むヨーグルト」と「ジェラート」は、隣接の牧場から届いたしぼりたての牛乳から作られ、味わってもらって初めてその魅力が伝わる。「新鮮な牛乳を使った製品づくりは大手企業にはできない」と製品に大きな自信と誇りを持っている。
 創業時はゼロからのスタートで、地道に対面販売を積み重ね、顧客を一人、また一人と増やしていくしか方法がなかった。現在もその販売方法を継続し、百貨店の物産展出展に年間の大半を費やしている。各地で出会ったお客様がリピーターとなり、タンポポの大切な財産となっている。物産展の会期中に何回も来てくれるお客様も多い。「酪農家の製品なのでお客様に安心してもらえる。乳製品と言えば北海道のイメージが強い。全国で販売できて本当にありがたく、うれしい」と語る。
 

●イベント販売にも力をいれたい

 もちろん地元高崎や群馬のイベントでも、タンポポに出展依頼の声がかかる。また企業のショールームや展示場などでも来場者サービスでタンポポのジェラートを提供したいとリクエストされるそうだ。主催企業にとってもタンポポのジェラートは家族客の集客に結び付き、WIN WINの関係だ。
 こうしたイベント用の備品、ポータブルな什器類を拡充し、需要に応える体制を整えていきたいと考えている。
 売ることの大変さを身を持って知っている長坂さん。「きちんとしたものを、まじめに売っていきたい」という真摯な姿勢が、顧客に伝わっている。
 
 

■飛躍をめざし新製品の販路開拓

株式会社トステック
高崎市柴崎町905-4

山森社長

 

●産学連携で世界初「e自警灯」を開発

 街路灯と防犯カメラを一体化し、機能性を高めた「e自警灯」を、株式会社トステックは群馬大学との産学連携で開発した。
 「e自警灯」は、街路灯と防犯カメラが一体化されているので夜間でも鮮明なカラー映像が記録でき、映像は暗号化と二重パスワードによってプライバシー保護されている。記録はSDカードに保存され、パソコンにダウンロードできる。またGPS時計により常に時刻は正確だ。犯罪や事故の映像を再生する場合、二重パスワードの第一キー解除でモザイク処理された映像、第二キー解除で鮮明な映像となる。「e自警灯」には世界初の技術が使われ、特許を出願している。
 「e自警灯」は平成21年から手掛けており、現在、改良した2号機を商品化している。伊勢崎市、前橋市などで既に採用されており、連続放火で困った町内が導入するなど効果を上げた実績がある。山森利行社長は、まず群馬県内へ「e自警灯」を普及させ、その後、県外へも拡販していきたいと考えている。
 

●技術をベースに想像力を発揮する企業

 また加工分野では、シリコンゴムを鋳型に使って、低コストで小ロット多品種の金属製品を製造できる「ラバーキャストマシン」を開発した。このマシンは、戦艦や戦闘機、機関車などの模型パーツを組み立てる月刊誌、釣り具、仏具等の製造で既に使われている。応用分野は幅広く、試作品や企業のノベルティグッズや観光地の携帯ストラップなどを簡単に作ることができる。「小ロットで受注先がみつからなかった製品を作ることができる」と山森社長は、新たなニッチ市場の開拓に挑戦している。
 「e自警灯」と「ラバーキャストマシン」は、全くジャンルの異なる製品だ。幅広く製品開発を行うトステックは、産業用機械やプラントの制御装置を設計・製造するエンジニアリング企業で、食品製造、半導体・ハイテク関連、ロボット制御、船舶など幅広い顧客を持つ。顧客の要求に臨機応変に対応できる技術力、業務知識、創造力がトステックの持ち味となっている。他社がさじを投げたシステムを依頼されることもあり、顧客への信頼は厚い。
 

●見本市への出展で大きな収穫

 山森社長は、受託型の制御機器開発に加え、個性的な製品を持ったメーカーとしてステップアップしていきたいと考えてきた。そこで「小規模事業者持続化補助金」を活用し、東京ビッグサイトで開催された中小企業総合展「新価値創造展」(主催・中小企業基盤整備機構)への出展を計画した。
 この展示会は、テーマの「新価値創造」に沿う必要があり、専門家による審査で出展者が選考されるハードルが高い展示会だ。出展を通じて顧客への提案力を高め、ノウハウを蓄積することも狙いだった。
 出展に合わせて営業ツールとなるカタログパンフレット、資料映像を制作し、来場者へ積極的にプレゼンテーションできた。会場ではコラボできる他社技術にも気付き、自社の課題も見えるなど、収穫は大きかった。
 

●結束の固い技術集団

 トステックは平成6年に5人で創業し、現在社員20人に成長した。山森社長は事業計画の中で「e自警灯」を一つの部門に育て、会社の売上も4割程度増やしていきたいと考えている。社員の定着率は極めて高く、家業を継ぐために退職した社員がいる程度だ。親分肌の山森社長のもと、水を得た魚のように力を発揮する社員の結束は固い。「ここからが勝負」とトステックの意気が上がる。
 
 

■経営計画は補助金のためではなく企業の指針

●経営計画は難しくない

 持続化補助金申請に経営計画は必須だが、取り組んだ事業者からは「経営計画は、補助金申請のためだけに行うのではなく、今後の経営の指針として作成するもの」という声があり、経営に大きく生かしてもらうことができた。
 「経営計画の作成は、難しいものではなく普段から考えて行く指針をまとめあげるもの」と語る経営者の一人は、作成した計画を上回る成果を上げている。
 

■小規模事業者持続化補助金

 小規模事業者の事業の持続的発展を後押しするため、小規模事業者が、商工会・商工会議所の支援を受けて経営計画を作成し、その計画に沿って取り組む販路開拓等の経費の一部を国が補助する制度。
補助金の申請は商工会議所へ事業支援計画書の作成・交付を依頼する。経営計画の作成や販路開拓の実施の際、商工会議所の指導・助言を受けられる。
 

●補助率

経営計画に基づいて実施する販路開拓等の取り組みに対し、原則50万円を上限に、補助率3分の2の補助金が交付される。※共同事業等は上限金額が異なる。
 

●補助対象

小規模事業者(以下の従業員規模の事業所)
・卸売業、小売業:常時使用する従業員の数が5人以下
・サービス業(宿泊業・娯楽業以外):常時使用する従業員の数が5人以下
・サービス業のうち宿泊業・娯楽業:常時使用する従業員の数が20人以下
・製造業その他:常時使用する従業員の数が20人以下
 

●対象となる事業

 経営計画に基づき、商工会議所の支援を受けながら実施する販路開拓等のための事業
対象となる取り組みの例=広告宣伝、集客力を高めるための店舗改装、展示会・商談会への出展、商品パッケージや包装紙・ラッピングの変更など。
 
 平成28年度実施分の公募は終了していますが、実施年度によって数次にわたって募集されることもあります。詳しくは高崎商工会議所にお問い合わせください。

 
(商工たかさき・平成28年7月号)

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