高崎のおもてなし 1

胸元に咲く春のおもてなし

志尾 睦子

 3月22日から4月6日まで、第28回高崎映画祭が開催されました。高崎市文化会館で23日に行われた授賞式では、是枝裕和監督はじめ赤木春恵さんや福山雅治さんなど総勢9名の受賞者がご登壇され、華やかな式典となりました。
 式典と言えば、胸元に記章が飾られます。来賓やゲストには赤い花記章が定番ですが高崎映画祭では受賞者の方々の胸に、生花のコサージュが飾られます。それも黄色いチューリップ。15年来ずっと続いています。ここには、お忙しいなか高崎に足を運んでくださる受賞者の方々へのおもてなしの心が詰まっています。
 一輪のチューリップと一本の若い麦の穂で作られたシンプルなコサージュ。初々しくかわいらしいチューリップはエネルギーを放つ黄色、春の温かな陽気でぐんぐんと伸び始めたばかりの麦の穂は、生命力を感じさせる黄緑色で、この組み合わせは毎年の定番です。作っているのは中居町に住む尾内かつ代さん。そもそもの始まりは、15年ほど前。高崎映画祭の前代表茂木正男さんが絵本原画展に足を運んだ際、来賓者の胸にあしらわれた赤いチューリップのコサージュに出会った事でした。それを見た茂木さんが数ヶ月後に控えた高崎映画祭でも使いたいと、製作者の尾内さんに申し出たそうです。初回の指定は黄色いチューリップ。その後試行錯誤で八重の珍しいものにしたり、クリーム色やオレンジ色の提案をしたりと尾内さんも趣向を凝らしたものの、茂木さんの答えは「シンプルな黄色いチューリップを一輪」と決まっていました。受賞者の方々へはここを起点に更に羽ばたいてほしい、特に若者たち、新人さんには頑張ってほしい、そのエールを表現するのが黄色だったようです。
 茎が柔らかく、頭の重いお花をすくっと立たせピンで胸元に飾るというのは、実はとても大変です。生花なので、手間取ればそれだけお花に力がなくなります。茎が折れてしまうこともあります。それゆえ、生花のコサージュをやめたいという声が、映画祭スタッフの中からあがることもありましたが、茂木さんは生花にこだわりました。それは、お忙しい中おこしいただく来祭者へ、温もりのある春のプレゼントをしたい、心ばかりのエールを形にしたいという強い思いからです。その思いに尾内さんにも、折れないような工夫を施し、ピンの種類を考えたりと改良を重ねられ、今に至っています。
 胸元に咲く春のおもてなし。高崎映画祭を生んだ故茂木正男さんの思いを乗せた春の息吹今年も受賞者の胸元に春の息吹を感じる事が出来ました。

是枝裕和監督(第28回高崎映画祭授賞式)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。