高崎のおもてなし 10

人々を見守る「幸福のだるま」のおもてなし

志尾 睦子

 新しい年を迎えました。年末年始はどちらも慌ただしく忙しいものではありますが、年明けは新たな気持ちになれる分、忙しさも明日の活力に変えられる気がするから不思議です。そしてより良き一年をしっかり祈願するのは誰もが自然に行うことでしょうが、それには高崎縁起だるまも欠かせません。鶴亀のお顔は凛々しいのですがどこか愛嬌があり、見ていると自然と笑顔になれる気がします。
 だるまと言えば「高崎だるま」というほど、全国生産量の大多数を誇っている当地、毎年上州空っ風が吹く頃からだるま製造は佳境を迎え、張り子のだるまさんは次々とお正月に向けて出荷されて行きます。縁起物、季節物の顏もありますが、「高崎だるま」は日々の生活に溶け込む高崎の風景。市内のいたるところで一年中市民の生活を見守ってくれています。
 張り子のだるまはもちろん、縁起だるまをモチーフにした多種多様な品々が身近にあります。高崎駅の西口にあるだるまの壁画、高崎祭りで出現する巨大だるま神輿、国道18号線の安全を見守るだるま等です。
 なかでも高崎駅の西口、ペデストリアンデッキに繋がるコンコース出口の左右に鎮座する紅白のだるまは異彩を放っています。硬質で重厚なそのだるまさんは「幸福のだるま」と題された美術工芸品。東京駅の「銀の鈴」や、日本橋三越店のエンブレムなどを手がけた東京芸術大学学長で日本が誇る金工作家・宮田亮平さんの作品です。
 高崎駅に設置されたのは平成9年、新幹線口に置かれたことも、東西口に別れて置かれていた事もありますが、今はさながら狛犬のように、高崎駅正面の大通りを背に、紅白だるまが両脇に並んでいます。ここがベストポジションだと私は思います。高崎の玄関口に鎮座し、街を往来する人々を見守る役目があるように映るからです。来高者にとってはこのだるまの門構えは鮮烈な印象を残すようで、記念撮影をしたり、だるまの頭を撫でている人を見かけることがありますが、市民にとっては普段意識して見ることがないほど溶け込んだ風景の一つなのではないでしょうか。
 だるまが長く人々の生活に根付き愛されている理由は、ただの縁起を担ぐ置物ではなく、手を合わせる対象だからだ、と聞いたことがあります。土着のだるま信仰とパブリックアートの融合は、希代の文化人が培って来たさりげない文化の道標なのかもしれません。主張することなく、しかし誉れ高い。高崎人のおもてなしは、こんなところにも現れているのです。

●JR高崎駅にあるモニュメント
「幸福のだるま」宮田亮平作

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。