私のブックレビュー3

『歩いて行く二人』

志尾睦子

岸恵子 吉永小百合 世界文化社

大女優ここに君臨す 〜その品位

 いわゆる芸能本と呼ばれる類いには全く手の出ない私ですが、これだけはどうにも気になっていました。日本映画界を代表する女優お二人の対談本。岸恵子さんと吉永小百合さんというお二人の顔合わせが何とも興味をそそり、思わず手に取りました。雑誌の企画で実現したというお二人の初めての対談は2009年の秋横浜で、でした。その別れ際、岸さんが次回の再会を「ぜひ、パリで」とおっしゃたそうで、その言葉を胸に、吉永さんは岸さんへお手紙をしたためたそうです。「是非パリで、横浜の対談の続きをさせて頂きとう存じます。そして雑誌だけでなく、単行本に出来ましたらと願っております。」巻頭に直筆のお手紙が掲載されています。美しくしなやかな文字に、吉永さんの麗しさと熱意が写り、映画女優の気品を今一度知らされた気がしました。

 そうして2回目は2013年の6月にパリで、同年の10月には再び横浜で3回目の対談が行われました。この3回の対談が本には収録されています。女優としての対話から、若き日の恋愛や結婚、といったプライベートな話題や、世界情勢や世界平和についてなど、お二人はとても自由にリラックスして会話されています。岸さんも、吉永さんも大がつく女優である事以外、その人生の軌跡や生活を知る手段はあまりなく、時折流れてくる芸能ニュースでの語り口くらいでしかそれらを知らなかった私には全てが面白く、刺激的でした。

 映画女優としての始まりは、お二人ともそれを「導かれた」と形容し、それぞれ押しも押されもせぬ大スターであることを自覚して生きておられますが、当然その道筋は全く違い、考え方もそれぞれ違います。この対談本にある大きな魅力は、同調と共鳴で会話が進んで行かないところです。吉永さんは“性格の不一致”という言葉が好きだとおっしゃいます。互いを「即決型の岸さんと、なかなか決められない私」と語ります。そう嬉々として語らう表情が、弾む声が本から聴こえてくるのです。思い立ったら突き進み物事をはっきりもの申すという岸さんの、語る言葉のテンポや語気の強弱までが聴こえて来てしまうのです。本の中でさえ、彼女たちの姿形は踊り活き活きと、生命力を放つのです。

 大女優とは斯くも美しく、人間性の豊かな生き物かとうっとりとしてしまいました。願わくは幾度目かの対談をこの手で実現させてみたいと、つい大それた夢を抱いてしまいました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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