ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.8

花よりもなほ

志尾 睦子

 2006年 監督:是枝裕和
 出演:岡田准一/宮沢りえ
 
クソを餅に変える方法

 すっかり寒くなりました。年の瀬も近づいてくると何かと気忙しくなりますね。特にこの時期は寒さも手伝ってか、いつのまにか心がこわばってしまい、人に対して寛容になれなかったり、周囲を敵視してしまうなんてことはないでしょうか。心が少し疲れたな、という時には是非、人情と笑いの物語で一息入れていただきたいものです。今回はそんな視点からオススメしたい一作です。
 時は元禄15年、舞台は江戸です。父の仇討ちのため信州から江戸に出てきた宗左衛門は、その時を待ちつつ長屋で暮らしていました。憎き仇人金沢十兵衛は江戸にいるもののなかなか捕らえることができず日は過ぎゆき、里からの仕送りも途絶えがち。そのため宗左衛門は、長屋で寺子屋を開いて生計を立てようとすっかりこの地に馴染んで生活をしています。実は宗左衛門は、剣の腕がからきしダメなのです。敵を憎む気持ちもあり、家のためにも藩のためにもせねばならない仇討ちであり、それこそが武士の生き方と理解しているのですが、十兵衛を探し出すことに恐れを抱いているのも事実でした。
 季節が巡り、ある時宗左衛門は十兵衛を見つけます。しかし、すでに刀を下ろし妻子とともに慎ましく暮らしている仇の姿に、二の足を踏んでしまうのです。十兵衛をこっそり見に行っては、宗左衛門は悩み続けます。仇討ちとは、一体なんなのだろうか、と。
 宗左衛門にそう思わせるのは他でもない長屋の人たちとの生活がありました。貧しいけれど、日々を楽しく、豊かに生きようとする長屋の住民。長屋には素性のわからない人もいて、もちろん善人だけがいるわけでもなく、皆がいつでも仲が良いわけでもありません。騒動も多々ありながら、ここで暮らす人たちはそれぞれを認め合って存在しています。そうした彼らとの生活は、宗左衛門に武士としての生き方よりも、人としての生き方を考えさせていくのです。
  憎しみの連鎖をどこで断ち切るか。人の間違いや過ちをどうやって許すのか。時には逃れられない運命もあるけれど、それをどう受け入れるか。宗左衛門や長屋の面々が、不器用ながらも温かくそのヒントを伝えてくれます。人生のおかしみや悲しみが凝縮した落語のような映画なのです。いくつもの印象的な言葉が登場人物たちから語られますが、「クソを餅に変える」には、大いに納得し、そのうまさにうなりました。
 是非、本作のお供には温かい緑茶と少しの甘いものをご一緒に。気持ちの凝りがほぐれること請け合いです。(2017年11月:商工たかさき)

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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