ビジネスパーソンにお薦めするこの一本 No.17

ドリーム

志尾 睦子

アメリカ 127分
監督:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソン/オクタヴィア・
スペンサー/ジャネール・モネイ

業を支えた女性たちの
闘いに学ぶ

 猛暑の夏です。外に出ると暑いというだけで、顔をしかめている自分がいます。暑さで体力が奪われるだけでなく、気力も奪われてしまうから要注意です。しかめっ面では、機運も下がってしまうというもの。暑さを攻略しながら涼やかな風を心に吹き込みたいところです。
 さて、今月は時代に大きな風をもたらした女性たちの歴史的史実に基づく作品をご紹介します。1958年から63年にかけて行われたNASAの有人宇宙飛行「マーキュリー計画」を支えた黒人女性たちの物語です。
 時は1960年代初頭。人工衛星の打ち上げにおいてソ連に先をこされたアメリカは、次なる有人宇宙船計画には負けまいと勇んでいました。バージニア州ハンプトンにあるNASAラングレー研究所に勤める、キャサリン、ドロシー、メアリーは、ロケットの打ち上げに欠かせない“計算”をするチームに所属していました。チームの全てが黒人女性であり、高い能力を備えた彼女たちは日々、研究のために身を粉にして働いていましたが、人種分離政策がまかり通っていた南部の地では、彼女たちの仕事環境は劣悪と言えるものでした。
 ある日、キャサリンはその高い能力を買われ、マーキュリー計画の本部メンバーに抜擢されます。赴いた配属先は今までいた場所から800m離れた棟で白人たちしかない場所。有色人種用のトイレもなければ広い敷地内を移動するための共用自転車も彼女は使えません。黒人には機密事項は教えられないと、渡されるのは黒塗りの資料。コーヒーポットさえも人種分けされる環境下で彼女は歯を食いしばります。
 他方、計算チームでメンバーを統率するドロシーは、実質管理職業務をこなしているのに、人種差別から昇進ができません。更に、スーパーコンピューターの導入計画が進み、計算手としての自分たちが解雇されるのは時間の問題と悟ったドロシーは、自分たちの仕事を守ろうと、ある行動に出ます。また、エンジニアを目指すメアリーは、女性で黒人である自分ではエンジニアにはなれないという現実を突きつけられます。白人専用の学校でしか、エンジニアになるための必要な学位が取れないからです。ならばと彼女は、通学許可を得るために裁判を起こすのです。
 彼女たちの闘い方は、力づくではありません。どんな状況下でも希望を失わず、できる事をただ精一杯成し遂げようとするのです。そこに生き方の極意があるような気がしました。
 暑い夏、彼女たちの爽やかな笑顔は一服の清涼剤となるでしょう。


高崎商工会議所『商工たかさき』2018年8月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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