ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.26

三度目の殺人

志尾 睦子

2017年 日本 124分
監督:是枝裕和 出演:福山雅治/
役所広司/広瀬すず

事実と真実の境界を見極める

 今年のゴールデンウィークは令和元年に重なり大型連休となりました。新しい時代になるといって何かが劇的に変わる訳ではありませんが、このタイミングを働き盛りの年齢で迎えてみると、社会の一員として新しい時代を心豊かに生きられるよう、努力を惜しんではならないなと、そんな風に思っています。そのためには物事をどう見て判断するかはとても重要な訳ですが、今回はそんな視点を大いに刺激してくれる、極上のサスペンスドラマをご紹介します。
 川崎の河川敷で強盗殺人事件が起きます。近くの食品加工会社の社長が焼死体で発見されたのです。犯人は元従業員の三隅。彼は容疑を認めており、加えて30年前にも殺人の罪で無期懲役の判決を受けていました。三隅はこのままいけば間違いなく死刑となります。三隅の国選弁護人を引き受けた重盛は非常にクールな敏腕弁護士で、死刑確定と思われている今回の事件にどう勝つかを考えていました。勝つとはつまり、検察側が求刑する死刑を減刑する事です。戦略的にことを進めていく重盛は、優位になる根拠を探し出していきます。重盛のスタンスはいつでもはっきりしていて、被告人を理解する必要はなく裁判に勝つためにあらゆる事実をどう使いこなすか、にありました。
 しかし三隅は面会するごとに証言を変えていきます。その度に重盛は根気強く、事実を探し出し物事の整合性をつけていきます。重盛は勝つための裁判を試みますが、もちろん決して事実を捏造するわけではありません。事実は出来事なので変えようがありません。ただ、その事実は使いようによってはいくつもの真実になりうるわけです。被害者の妻も、その娘も、口外できない秘密を抱えています。一つを明らかにすると他も明らかになる。あるいは、その逆ということもある。言葉に出したことが全てなのか、闇の中に置き去りにされた事実がまだあるのか。そうして、裁判に勝てる事実が出てきた時、三隅は一転して無罪を主張するようになりました。その真意は一体どこにあるのか…。
 緻密に構築された脚本と、非常に細やかな登場人物のキャラクター設定が、謎解きだけに終わらない奥深い法廷サスペンスを作り出しています。何よりも役者陣の熱演と、きめ細かな演出は見ものです。映画の醍醐味にあふれた名品のような映画ですので、二度三度見たくなること請け合いです。
 さて、本当とは何か、真実とは何か。答えることはできるでしょうか。


高崎商工会議所『商工たかさき』2019年5月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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