ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.55

女神の見えざる手

志尾 睦子

2017年 アメリカ 2時間12分
監督:ジョン・マッデン
出演:ジェシカ・チャステイン/
マーク・ストロング/他

勝者は相手の一歩先を読む

 落ち着かない世の中においても日々は過ぎ、事態は進んでいきます。自分の生活サイクルや日常は自分の手でしか整えられませんが、その手元をどうするかは、やはり社会次第なところもあります。社会全体を作る一つは政治であり世論。無関心でないことが力になるのだと、コロナ禍を経てさらに強く感じるようになりました。世論をつくる一人として、今と先々を考えた仕事を、しっかりこなしたいと思うこの頃です。

 さて、今回は日本ではまだ馴染みの薄い、ロビイストに焦点をあてた作品をご紹介します。政治家のお家騒動を描くものは多いですが、これはそのいわば外側を描いています。政治を動かすための戦略ビジネスを題材にした刺激的で面白みに満ちた作品です。

 大手ロビイスト会社に身を置くエリザベスは、百戦錬磨と言われる花形ロビイスト。きっちり整った髪型に真っ赤なルージュ、体にフィットしたハイブランドで身を包み、15センチヒールで颯爽と歩く彼女は、見た目から一切の隙がありません。クライアントの主張や有益な事業展開に結びつくように、政策決定やルール形成に影響を与えていくには、膨大な情報収拾と的確な理論と戦略が必要です。チームになって一つの案件に挑むものの、24時間頭をフル稼働させる彼女には同僚と気を許して世間話をする時間さえありません。ある日、彼女は連邦上院で開かれる銃規制強化法案をめぐる反対派陣営から白羽の矢を立てられます。エリザベス自身は銃規制に賛成派ですが、クライアントを勝たせることが彼女の仕事。意気揚々と面談に臨んだ彼女でしたが、女性票を取り込むため広告塔として起用されたとわかり、さらに依頼人の女性蔑視を見過ごせない彼女はその依頼を一笑に付し、結果会社を辞めてしまいます。

 画して彼女は銃規制法を支持する小さな会社に移籍し、この戦いを勝ち取るために奔走します。アメリカ政治を動かす仕組み、情報操作やメディアの立ち位置や使い方。それらを通して濃厚に描かれる政治的戦いがスリリングに展開し目が離せなくなります。華麗な彼女の戦略が、無理だと思われていた大逆転をつかもうとするその時、彼女は相手陣営に抹殺されるべく追い込まれてしまいます。そして思うのです。この銃規制法をめぐる勝ち負けは、一体誰のものなのかと。

 一流のロビイストが抱える光りと影に、大いなる衝撃と力を得る一作です。先を見越す力を鍛錬しようと思わないではいられませんでした。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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