ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.59

ガチ星

志尾 睦子

2017年
監督:江口カン  
出演:安部賢一/福山翔大/他


本気を出せば
人生の季節は変えられる

 暦は立春を迎えました。時期としては寒さの深まる頃ですが、生命の芽吹く温かな春がすぐそこに来ていると思うと、縮こまった体がほぐれていくような気分にもなります。人生においてうまくいかないことが続いたり、耐え忍ぶ時間を過ごすことを冬の時代と称しますが、それもいつかは季節が巡り春になるもの。立春という言葉を聞くと、毎回そんな人生の浮き沈みが重なります。季節のように時間が来れば雪が溶けるわけではないのが人生の難しさであり、尊さでもありますね。

 さて今回は、そんな冬の時代から抜け出して新しい芽をふかせた男の物語をご紹介します。

 主人公は39歳の濱島浩司。プロ野球選手として活躍したのも数年前までで、今やだいぶ落ちぶれた濱島は、ついに戦力外通告を受けてしまいます。野球に全てを賭けながらも、思うように動けなくなっていく自分の力に対してどうすることもできなかった濱島は、ますます自暴自棄になり堕落していきます。妻には三行半を突きつけられ離婚。手を差し伸べてくれた親友を裏切り、息子との約束もすっぽかしてしまう。何をやってもうまくいかない、やる気も起きない濱島は、負のスパイラルに陥っていくばかり。息子から約束を守らなかった理由を問われた濱島は、咄嗟に、「仕事があったから」と嘘をついてしまいます。ちょうど、競輪選手は40歳を過ぎても養成学校に入れることを知った矢先の事でした。濱島はそれを機に、一念発起して競輪の道に進むことを決めます。

 頭を丸めて競輪学校に入学した濱島を待っていたのは想像を絶する教官の扱きと、20歳以上も歳の離れた若者たちからの蔑みでした。プロ野球選手だった意地と体力、そして負けん気で訓練を続ける濱島でしたが、休日となると自堕落な生活に逆戻り。日々体力を使う時間ができただけで、心を入れ替えて人生を賭けるところまではいかなかったのです。癇癪を起こして退学しようと荷物をまとめた濱島は、休日で誰もいないはずの訓練室で1人黙々と練習している久松に気がつきます。己の人生を賭けて競輪に挑む久松に濱島は感化されるのですが、久松の本気を知るのには長い年月を要することになるのでした。

 40歳を過ぎてこれまでと違うことをする現実的な難しさと、気力を失った人間の不安定さは決して他人事ではないリアルさがあります。でも、本気になれば人生は変えられるのだという強いメッセージが胸に迫る心地よい一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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