ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.60

すばらしき映画音楽たち

志尾 睦子

2016 アメリカ
監督:マット・シュレーダー

心を尽くすから
心が動かせる

 三寒四温で春の訪れを実感する毎日、そろそろ高崎の梅も見頃を迎えます。可愛らしい色合いの花が芳しく咲き誇るのを見ると自然と心が和みますね。五感を研ぎ澄ませると心が動くものだとつくづく思います。そうすると気忙しい時間も少し穏やかに感じられ、気持ちに余裕を持てるような気がします。

 お散歩に出かける時間がない時は、映画音楽を少し大きめの音で聴くのをお勧めします。数分でも、できれば目を瞑って、心で聴くようにするとさらにリラックス効果が高まります。

 さて今回は、そんな映画音楽にまつわる作品をご紹介します。ワンフレーズ聴いただけで、そのタイトルがわかってしまうような名曲があります。それらはいかにして生まれたのか、を紐解くドキュメンタリーです。アカデミー賞に輝いてきた名曲・名作の数々が賑やかに登場しそれだけでも楽しくなってしまいます。

 映画監督がどのようにしてその作品のイメージを音楽家に伝えるのか。その依頼方法や、それに応える音楽家たちの提案方法も、当たり前ですが人によってそれぞれ違います。スティーブン・スピルバーグ監督は撮影したばかりの『E.T.』を繋いだフィルムをジョン・ウィリアムズに見せ、その場であの名曲の一節が生まれていました。片手でさらっとひいた旋律が世界中と時代を飲み込む名曲になっていたことに驚きを隠せません。意図を伝える映画監督側の手法も違えば、受け取って提案をする作曲家側の作り方も千差万別です。『007』のボンドのテーマの生まれ方も、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の壮大で厚い音楽性も、全ての作曲家によってものづくりの方法論が違います。それぞれの手法とアイデアで生まれたひとつの旋律が、今度は映画的な構造に則り、オーケストラ演奏へと変貌していく様子も圧巻でした。

 才能があるから素晴らしい音楽が生み出せる、と一概にくくれるものではないことが本作を見ているとよくわかる気がしました。才能だけではない、彼らの生き方や考え方、そしてチームでの仕事力が、ものを生み出すことへの原動力とアイデアにつながっていることがよくわかったからです。互いの存在とその仕事をリスペクトしながら作り上げていく世界だからこそ、物語をさらに厚く豊かにし、そして人々の心を強く動かしていくのでしょう。これはどんな仕事の姿勢にもつながると思いました。専門家だからこそ呟ける数々の名言にも心を掴まれます。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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