志尾睦子の映画づくし14

イル・ポスティーノ

志尾 睦子

1994 1時間44 分 イタリア=フランス
監督:マイケル・ラドフォード 
出演:フィリップ・ノワレ/マッシモ・トロイージ

言葉に出会い、人に出会う

 爽やかな風が流れる季節になりました。加えて緑が色濃くなって行くのを日に日に感じます。青々とした草木の勢いというのは生命力を授けられるようにも思えて、その中にいるだけで力が漲ってくるようです。こんな風に感じる季節の巡りは、生活のリズムやモチベーションにも小さな変化を連れてきてくれるように思えます。自分で大きく何かを変えるのは勇気がいることですが、流れに身を任せ小さな変化をそのまま受け入れていくと、意外と大きな一歩が踏み出せたりするのかもしれません。ということで、初夏の陽気に誘われてそんな気分を思い出させてくれた一作をご紹介します。

 舞台はイタリアの小さな島。漁師の父親と暮らすマリオは、うだつの上がらない日々を過ごしていました。そんなある日、チリの偉大な詩人であり外交官のパブロ・ネルーダが政治的な問題で祖国を追われ、ナポリ沖のこの地に身を寄せることになりました。世界的にも大変人気のある詩人のパブロには、各国から毎日ファンレターが届きます。そのため島の郵便局は、パブロ専属の配達員を募集することにしました。パブロに興味を持ったマリオはすぐさまその職に申し込み、晴れて配達員としてパブロに出逢います。

 配達時に垣間見る偉大な詩人の生活や振る舞いにマリオは憧れを抱くようになります。しかしながら、パブロの方は彼を配達員としてしか認識せず事務的に対応するのみ。マリオは、そんな彼の態度に少しの寂しさを覚えながらも、パブロの本を手に取り、彼の詩に触れることですっかりパブロと詩に心酔してしまうのでした。そうして日々が過ぎる中で、パブロとマリオの間には会話が生まれるようになりました。毎日の生活にハリが出てきたマリオは、生まれて初めて恋をします。美しい娘・ベアトリーツェへの募る思いをパブロに相談し、右往左往しながらも彼女へ思いを伝えるまでに成長するのでした。

 パブロとマリオ、年の離れた友が過ごす人生の大切な時間が、青く光る海と、どこまでも広がる美しい空、そして清々しい日差しの中で、紡がれていきます。毎日繰り返される配達は同じ道なのですが、1日1日が、かけがえのない輝きに満ちていることに気付かされ胸を打たれます。

 脚本にも参加したマリオ役のマッシモ・トロイージは病を抱えながら撮影に参加し、撮影終了からわずか12時間後に41歳で夭逝されました。人生の尊さを感じずにはいられない名作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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