志尾睦子の映画づくし16
83歳のやさしいスパイ
志尾 睦子

2020年 チリ・アメリカ・ドイツ・オランダ・スペイン
脚本・監督:マイテ・アルベルティ
出演:セルヒオ・チャミー/ロムロ・エイトケン
本当に必要なものは・・・
今年もひときわ暑い夏になりそうです。暑い夏には冷房のよく効いた映画館でスカッとした映画だなと、トム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』シリーズ最新作を観てきました。アクション超大作のスパイものを堪能したのですが、ふと、アクションのないこれまた面白いスパイ映画があったなと思い出しました。ということで、今回はチリの高齢者施設を舞台にしたスパイ大作戦をご紹介したいと思います。
始まりは、A&A探偵事務所が出した新聞広告。「80歳から90歳の退職者。長期出張が可能で電子機器を扱える方」多数の応募者から選ばれたのは83歳のセルヒオでした。セルヒオの仕事は、老人ホームへの潜入。依頼人は入所者の娘で、母親が虐待を受けているかもしれないと疑っており、その調査でした。早速担当の探偵ロムロから、必要情報、報告のための暗号、スマートフォンやスパイ用アイテムの操作をレクチャーされるのですが、どれもこれもセルヒオにはちょっと難しい。それでもどうにか、実の娘の協力も経て、スパイとしての任務にあたることになりました。
本作、面白い設定でチャーミングな登場人物の登場に、物語だと思って観ていたのですがなんとドキュメンタリーのようで、驚きと共に不可思議な感覚にとらわれながら、奥深い人間模様に魅了されていきました。
潜入先は聖フランシスコ特養ホーム。セルヒオは新しい入居者として生活を始めます。心が優しく紳士なセルヒオはすぐにホームの人気者になり彼自身も生活を楽しむようになりました。実はセルヒオ、数ヶ月前に愛する妻を亡くし、この任務に就くまでは張り合いのない日々を過ごしていたのです。
日報を欠かさずするものの、彼の楽しそうな様子にロムロは少しクギを刺します。依頼人が求めているのは虐待の疑惑を決定づける証拠。それを集めなくてはダメだと。改めて任務も頭に入れながら、セルヒオは持ち前のやさしさと面倒見の良さから、次第に入居人たちの良き相談相手にもなっていくのでした。
スパイ活動をするセルヒオと、入居者たちの日常がカメラに映し出されることで、彼らの楽しい毎日とその裏にある孤独が見え隠れして来ます。
離れていても愛する家族を想う気持ちもあれば、家族と離れて暮らす寂しさ、迷惑をかけたくないという思いやりもある。さまざまな事情と環境に置かれて、人は生きる。人を観察することで見えてくる生きることの真髄が、静かに胸を打ちました。
- [前回:天気の子]











