志尾睦子の映画づくし16

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

志尾 睦子

2023年 127分
監督:成田洋一 
出演:福原遥/水上恒司


8月、かつての時間・人々に思いを寄せて

 危険な暑さが続いています。昔はこうではなかった。大変なことになったと、日常の会話がそんな言葉に埋め尽くされる毎日です。「どうすることも出来ない自然の猛威」は、突如湧いて出たものでもなく、全て人類が選択してきた生活が地球温暖化に結びついているわけで、この先をどう生きていくかにも結びつくのだと思うのです。戦後80年の暑い暑い夏、戦争への思いも、同じ思考のもとに考えることができるような気がします。先人たちが辿ってきた道が今につながり、今が先に繋がる。知らないことを知ること、そして自分ごととして過去の時間を受け止めることの大切さを痛切に感じます。


 さて今回は、過去が自分の時間になった少女のお話をご紹介したいと思います。
 主人公は高校生の百合です。父を早くに亡くし、鮮魚店で懸命に働く母と二人暮らし。思春期真っ只中の百合は、なんだかいろんなことにイライラしてしまい母の苦労をわかりながらも、つい反抗的な態度をとってしまいます。ある日、進路のことで母と喧嘩になった百合は家を飛び出しますが、行くあてもなく、近所にあった防空壕跡で時間潰しをすることに。


 眠ってしまった百合が目覚めると、世界は一変、1945年の6月になっていました。右も左も分からないとはまさしくこのこと、現代の制服姿でうろちょろする百合は、偶然通りかかった軍服姿の彰に助けられます。どこから来たかもわからずひとり彷徨っている百合を不憫に思った彰は、軍指定の鶴屋食堂につれて行き、女将のツルに彼女を託します。妹を亡くしたばかりの彰は百合にその影を重ね、空襲で娘と孫を亡くしたツルもまた、百合を家族のように受け入れます。


 度重なる空襲、苦しい生活の中でも、手を取り合い懸命に、少しでも和やかにと日々の時間を積み重ねるツルや、食堂に集まる百合と同世代の若者たちとの時間を積み重ねながら、百合は少しずつ、今の自分の状況や自分自身を受け止めていきます。
 そしてあっという間に2ヶ月が経ち、8月になりました。現代から来た百合はこの戦争がどうやって終わるのかを知っています。そして特攻隊員である彰がこの先どうなるのかも。一緒に過ごすうちに彰に特別な思いを抱くようになった百合は、身を切られるような複雑な思いの中、彰と、最後の時間を過ごします。
 情報や知識を正確に収集し考えることはとても大事なことですが、そこに思いを馳せることこそが、大切なことだと伝えてくれる作品です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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