志尾 睦子の映画づくし19

オットーという男

志尾 睦子

2023 アメリカ 2時間6分
監督:マーク・フォースター 
出演:トム・ハンクス

大きなハートを大切に

 地球温暖化の影響で、近い将来日本の四季が二季になる、と言う説に触れた時は心底驚きましたが、今夏は本当にそうなるのだなと実感が湧いてきました。それは、怖さにも似た感覚だったのですが、冷静に考えてみると一年中夏の場所も、冬の場所もあるわけで、自分が感じる怖さの正体は、「今までそうだったものが失われていく」ことなのだなと、少し涼しくなった秋の入り口に思いました。様々なことがこの思考に結びつくなあと思いながら、秋の夜長をゆっくりと過ごそうと思っています。

 と言うことで、今回は人生という大きなテーマを前に、“変わることの行方”を優しく描いた作品をご紹介します。
 主人公は初老の男・オットーです。結婚当初に購入した、ピッツバーグ郊外の住宅地に長年住んでいます。数年前に勤めていた会社を退職、半年前には最愛の妻も亡くし、今は一人暮らし。曲がったことが嫌いなオットーは、毎日近所をパトロールし、町の自治を守るために隣人や訪問者を捕まえては口うるさく説教を垂れる毎日。だからオットーはこの住宅地の管理をしている不動産会社からも目をつけられています。

 そんなオットーは文句を言うのが生きがい、と言うわけではなく、孤独を募らせ、自分の人生をしまおうと計画を立てていました。ホームセンターでその道具を購入し、いざ実行に移そうとしたその時、閉めたブラインドの隙間から、無断駐車をしようとしている車を発見します。黙っていられないオットーは外に出て注意をするのですが、それが新しく引っ越してきた家族との出会いでした。

 1人静かに人生を振り返り悲しみを抱えて旅立とうとするオットーの前に現れたのが、大きなお腹を抱えた人懐こいマリソルと、ちょっと頼りなさげなトミーの家族でした。人生のお終いを決意しているオットーは、幾度となくそれを試みますが、どうにもうまくいきません。なぜなのか。それをオットーは少しずつ、マリソルや近所の人たちとの触れ合いによって、気付かされていきます。

 悲しみや怒りは、喜びも美しさも飲み込んでしまうことがあります。そうしていつのまにかガチガチに包まれてしまった心を、オットーはずっと大事にしてきたのかもしれません。マリソルはその大事にしてきたものを理解してくれる人でした。そうして手を差し伸べてくれる人がいたことで、オットーは、自分らしい時間を取り戻していくのでした。
 心象に寄り添う音楽と名優の存在感も見どころです。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

高崎の都市力 最新記事

  • 株式会社環境浄化研究所
  • シネマテークたかさき
  • ラジオ高崎
  • 高崎市
  • 広告掲載募集中