志尾睦子の映画づくし20
鑑定士と顔のない依頼人
志尾 睦子

2013 イタリア 2時間4分
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 出演:ジェフリー・ラッシュ/ ドナルド・サザーランド/他
秋の夜長は極上のミステリーで
暑い夏から寒い冬へ。今年はグラデーションを楽しむ秋の時間がいつもより短い気がします。気候はそうだとしても、気分はやはり秋の夜長を楽しむルーティンに応えたいな、と思う毎日で、映画を見たり読書をしたりする時間を意識的に増やしています。秋に楽しむ映画のジャンルとしておすすめなのはミステリー。日常の難しいことや悩みは一旦横に置いて、目の前のエンターテイメントに身を委ねてみる。主人公が翻弄される謎や世界観に没入しながら、物語の結末に辿り着くとき、どういうことだったのだろうともう一度一から見直したり読み直したりしたくなる。そうして思考を巡らし気持ちを動かしていくと、なんだかスッキリしてくるもので、自分の現実にもちょっと向き合う力が養われてくるものだ、と私は信じています。ということで、今月は、そんな時間におすすめの極上ミステリーをご紹介します。
主人公は初老の美術鑑定士、ヴァージル・オールドマン。彼は一流の鑑定士として長らくこの世界で財と地位を築いてきました。潔癖で孤高。恋も結婚もせず、ひたすら美術に命を費やしてきた人物です。心が休まるのは、自分の審美眼で手に入れてきた数々の肖像画コレクションを眺めている時。実はこれらの肖像画は、自分が取り仕切るオークションで、贋作だと偽って値段を下げ、相棒のビリーに競り落とさせて手に入れたもの。そうして世間を欺きながらも、ヴァージルは自分の眼には絶対的自信がありました。
ある日、ヴァージルの元に、資産家の令嬢から両親が亡くなった後の財産を鑑定して売ってほしいという依頼が舞い込みます。約束の時間に何度行っても会えない依頼人・クレアに最初は不信感を持つヴァージルですが、実は彼女が広場恐怖症で人前に出られないことを知ると彼女の気持ちに寄り添うようになりました。クレアの家にはヴァージルの心を捉える貴重な美術品も数々あり、それを手に入れようとする思いと同時に、クレアに次第に愛情を注いでいくようになります。恋を知らないヴァージルは、クレアの家で見つけた機械の部品を届け復元を依頼する機械職人ロバートに、恋愛指南を受けるように。そうしてようやく、ヴァージルは、初めて人を愛し、その人に触れる喜びを知っていくのですが…。
真偽を判断する仕事に人生を費やしてきたヴァージルの人生がどのように変わるのか、そしてそれはなぜそうなるべくしてなったのか。人生の謎は、実は辿ってきた道にある。のかもしれません。
- [次回:ストレイト・ストーリー]
- [前回:オットーという男]












