志尾 睦子の映画づくし21
ストレイト・ストーリー
志尾 睦子

1999年 アメリカ 111分
監督:デヴィット・リンチ
出演:リチャード・ファーンワース/シシー・スペイセク
急がずゆっくり誠実に
師走になりました。その謂れは、僧侶のような普段落ち着いている人でも、12月は年末で忙しく走り回るから、だそうですが、言葉の持つ力というのは大きいなと実感します。物事や締め切りに追われるというのは事実としてあるとしても、私は師走だからと、気忙しいモードにカチッと合わせてしまうところがあります。時は確実に進みますし、時間も限られますが、自分の気持ちに合うように、限られた時間を大事に大切に実感を持って過ごすこともまた大切なことかもしれないと、近頃は強く思うようになりました。ということで今回は、年末で忙しいという皆さんに、とっておきの一作を、お届けします。
主人公は73歳のアルヴィン・ストレイト。アメリカのアイオワ州ローレンスで娘のローズと2人で暮らしています。ある日、家の中で転倒してしまったアルヴィンは、医者から、歩行器が必要だと諭されます。加えて、あちこち体にガタが来ていることも告げられるのですが、杖をつけば歩けると治療を拒否して家に帰ってきてしまいます。程なく、今度はウィスコンシン州マウント・ザイオンで暮らす3歳年上の兄ライルが心臓発作で倒れたという知らせを受けます。実はアルヴィンはライルと仲違いをしたまま10年疎遠になっていました。今しかない。そう思ったアルヴィンは、ライルに会いに行くと決めます。子どもの頃のように兄と一緒に星空を眺めるために。
アルヴィンにとって何より大事なことは、自分の力で会いに行くこと、でした。車の免許を持っておらず、歩くのもままならない彼に、思いつく交通手段は長年使っている芝刈り機だけでした。周囲の反対を押し切り、自分の思うままに、芝刈り機にトレーラーを括り付け、旅に必要なものを詰め込み、出発。
しかしすぐに故障して引き返さざるを得なくなりました。それでもアルヴィンは諦めず、わずかな所持金をはたいて古いトラクターを譲り受け、もう一度時速8キロの旅に出かけます。
限られた時間を前に、アルヴィンは決して急ぎません。自分のペースで時間を掴み、確実に目的に近づきます。そうして時速8キロの道程は、アルヴィンにさまざまな出会いを見つけさせてもくれるのでした。
本作は実話を元にしていて、実際のアルヴィンが旅した道のりをそのまま辿って撮影されています。73歳の誠実な大冒険を、その空気感まで追体験できます。気忙しさに負けてしまいそうな私たちに、本作は大事なことを教えてくれます。
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