石碑之路 散歩風景10

吉永哲郎

 万葉歌碑を前に立ち、刻された歌をよく読める碑は少ない中で、前回の石碑から100mほど歩くと、高さ80センチ、横164センチの大きな北村九皐(きゅうこう)書の歌碑があります。「利根川の川瀬も知らずただわたり浪にあふのす逢へる君かも」とすぐ読める東歌です。
 歌意は「利根川の川渡りできる浅瀬を確かめず、やみくもに裸足でわたり、思わぬ川波にぶつかるように、あの人に思いがけず出会ったことよ」です。


 万葉集に利根川を詠んだ歌はこの一首です。裸足で渡ることができる利根川はどのあたりかを考えますと、渋川上流域ではないかと考えられ、この歌の背景は対岸の人との交流が考えられます。川は異文化との境の意味を持ち、これを超えることは困難を極めたと思われます。通婚圏の拡大は、対岸の人との出会いを覚悟と勇気をもって行動する若者しかできなかったかもしれません。この「徒渉(ただわたり)の歌」は、人との出会いを求める若者の激しい心情を吐露した歌だと私は思います。


 この歌の歌碑は他に2カ所あります。建碑した土地の人々の思い入れを思います。一つはみなかみ町役場の南西、利根川と赤谷川との合流点から北の利根川沿いにあり、古くから「ただわたり」の地名があったところです。もう一つは中世長尾氏居城があった渋川市旧子持村白井宿にあります。
さて、里山の山中にある利根川の歌碑、万葉の若者たちの情念の炎が、碑の影に見えます。ここは川の恋ではなく「野の恋」の里山だから。

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