石碑之路散歩風景15

吉永哲郎

 3月になりますと野道の傍らに菜の花や青い大根の花を目にします。特に菜の花は、つみな・かきなといって、この地の春の食卓に登場します。4月中旬くらいまで、各地の道の駅や農産物即売場に並んでいます。

 今回の歌碑は横151cm、横43cmとめずらしい横長です。万葉仮名で刻された武士桑風の書です。訓読しますと「上毛野佐野の茎立ち(くくたち)折りはやし我は待たむゑ今年来ずとも」となります。

 「茎立ち」とは薹(とう=花をつける台のような茎)が立ったアブラナ・カブのことです。両毛地区で古くから栽培されてきた伝統野菜で、現在は栃木県佐野市付近が盛んです。秋に播種し、冬から春にかけて伸びてくること茎葉の茎を、手でかいて収穫することから「かき菜」の名がついたと言われます。また「茎立ち」は野菜の意味だけではなく、まっすぐに伸びる形状から「ククノチノカミ」の意を含んでいます。神名「クク」は、茎の古形で草・樹木の幹の部分をいい、「チ」は「オロチ・イカズチ」の「チ」と同じ神霊を意味する語で、古事記・日本書紀に登場する「木の神」のことです。


「はやす」は、「霊魂を分割増殖する意、訪れを待つ呪術」で、一首は「上野の佐野の茎立ちを折り採って神に供えながら、あなたを待つわ。今年お見えにならなくとも」と、私は鑑賞しています。倉賀野神社の摂社(本社に縁故の深い神を祀った社)の「木神社」に「ククノチノカミ」がお祀りしてあります。万葉人の日常をのぞいた思いがしました。

高崎の都市力 最新記事

  • 株式会社環境浄化研究所
  • シネマテークたかさき
  • ラジオ高崎
  • 高崎市
  • 広告掲載募集中