今こそ、音楽を考えよう ~オール群馬で考える音楽文化~

(2019年12月26日)

1 群馬のクラシックファンはたったこれだけ

 

堤志行(高崎マーチングフェスティバル協会・元理事長)

 

既に多くの人が報道で知る通り、令和元年11月、高崎芸術劇場開設に関する一連の不祥事で3人の逮捕者が出たことは誠に残念なことであった。私は長年にわたり、高崎芸術劇場建設に関わりを持ってきた立場であり、残念な気持ちで一杯である。

誠に憂慮すべき不幸な出来事であるが、私は、これから高崎芸術劇場が芸術の進展に大きな役割を果たしていくと確信する一人として、このホールとホールが奏でる音楽に愛情と期待を持ってきた一人として、私見を述べたいと思うし、多くの市民、県民、音楽ファンが意見を交わす時であると考えている。

 

クラシック音楽ファンは人口の1%

クラシック音楽ファンは人口の1%が定説で、東京など人口の多い大都市は当然ファンが多く、優れたオーケストラと音楽ホールも集積し、質の高いコンサートが数多く開催されている。地方都市と東京の格差は音楽文化においては大きく、産業や経済以上に大きな落差が生じている。「音楽のまち高崎」といえども、東京や大都市にはまだまだ及ぶものではないが、高崎芸術劇場が開館したことによって、群馬交響楽団を核にして群馬・高崎の芸術文化の水準が大いに高まるものと期待が寄せられてきたと私は感じている。

人口の1%の比率で考えると群馬のクラシックファンは約2万人、県央部では高崎市(37万人)と前橋市(33万人)を合わせ人口約70万人、クラシックファンは約7千人ということになる。

 

公演平均で1800人

令和元年9月にオープンした高崎芸術劇場では9月から12月までクラシック音楽の有料コンサートが【表1】のように6回行われ、来場者数は延べ1万人超となっている。1公演の平均入場者数は約1800人となっている。高崎芸術劇場大ホールの席数は演奏会によって変動するが2000席前後で約9割の入場者となっているようだ。

高崎芸術劇場音楽ホール(小ホール)では、【表2】のように8公演が行われ来場者は2450人、1公演平均は約300人となっている。

1カ月ごとに見ると月平均の入場者数は大ホール2800人、音楽ホール300人の合計3100人となっている。

 

【表1】高崎芸術劇場大劇場

  • 9月28日=高崎音楽祭 群馬交響楽団特別演奏会<コバケンの巨人>
  • 9月29日=酒井 茜&マルタ・アルゲリッチ ピアノ・デュオ・リサイタル
  • 10月26日=第552回定期演奏会。
  • 11月3日=トリエステ・ヴェルディ歌劇場「椿姫」
  • 11月6日=ケント・ナガノ指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団 辻井伸行(ピアノ)
  • 11月23日=第553回定期演奏会

 

【表2】高崎芸術劇場 音楽ホール

  • 9月21日=ペーター・ロダール&中嶋彰子 デュオリサイタル
  • 9月22日=クリスティン・ルイスソプラノリサイタル
  • 10月1日=仲道郁代 ピアノ・リサイタル
  • 10月30日=イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)&アレクサンドル・メルニコフ(ピアノ)
  • 11月1日=平日午後のモーツアルト1 渡邉康雄・群馬交響楽団
  • 11月14日=マリコとオペラ(林真理子)
  • 11月23日=アルディッティ弦楽四重奏
  • 12月1日(日)=エマニュエル・パユ(フルート)

 

 

前橋での公演は1カ月466人

同時期に前橋市民文化会館で開催されたクラシックコンサートは、大ホール2公演で来場者1100人、小ホール1公演300人で合計1400人、1カ月平均466人となっている。

前橋市民文化会館でのクラシックコンサートは、【表3】となっている。一般に受け入れられやすい内容が選ばれている。しかし、入場数は必ずしも多いとは言えず、クラシック音楽ファンとしては、残念な限りである。

 

 

【表3】前橋市民文化会館のクラシック公演

  • 2019年
  • 7月=松田華音(小ホール)
  • 10月26日=朴葵姫(パク・キュヒ) ギター・リサイタル(小ホール)
  • 10月26日=菊池洋子&群馬シティフィル(大ホール)、
  • 11月11日=ポーランド国立ワルシャワ室内歌劇場オペラ魔笛、(大ホール)
  • 12月15日=ベルリン・コンツェルトハウス室内オーケストラ(大ホール)
  • 2020年
  • 1月12日=キエフバレエ「白鳥の湖」(大ホール)
  • 3月23日=フェドセーエフ指揮チャイコフスキー・シンフォニーオーケストラ

 

ベイシア文化ホールの惨状

ベイシア文化ホール(群馬県民会館)は1971年に開館し、群馬を代表する歴史あるホールで、2千席を超える大ホールを有している。

ベイシア文化ホールは、貸館のみの運営で、クラシック音楽文化の発信力は、残念ながらゼロと言ってもよいだろう。群馬交響楽団を含むクラシック音楽のコンサートは、ここ数年、行われていない。人口30万人を有する県都前橋のホールで、オーケストラコンサートが全く行われていない、いくらなんでもゼロはないだろうと言わざるを得ない。

 

オーケストラ公演は1回700万円

クラシック音楽のコンサートにかかる費用をおおまかに見ると、オーケストラ出演料が400万円以上、指揮者が70万円以上、ソリストが一人30万円、ホール会場費が50万円、プログラム印刷などその他雑費が50万円で最低でも600万円となり、曲目などによって700万円は見込んでおく必要があり、民間の興業では興行者の利益が加わる。

来場者を1000人とするとチケット代は7000円で、1500人で4700円と試算される。在京オーケストラのS席が平均で7000円程度である。

ベイシア文化ホールでオーケストラのコンサートが行われない理由は簡単で、クラシックコンサートは、チケットが売れず利益が見込めないからである。もちろん、赤字が出ないことに越したことはないが、行政や公益的な事業者の支えが、地方都市のクラシック音楽には必要だ。

前橋市民文化会館においても、前述のような現状であり、前橋のクラシック音楽ファンは、どのように感じているのか、うかがってみたい。

 

移動音楽教室でクラッシックファンが増えるのか

高崎市と前橋市で1カ月に行われたクラッシックコンサートの来場者数は高崎市3100人、前橋市466人で合計3566人となる。来場者の大半が群馬県民と仮定すると、クラシックファン数の推計値7千人の約半数となっている。

ジャンルを問わず音楽ファンが劇場に足を運ぶ動機は、〇〇市でやっているからという行政区分はあまり関係がない。アーティストの魅力や知名度、演奏曲目や出し物、料金、利便性、友人の勧め(女性に多い)などが動機として挙げられるようだ。

どのようにすればクラシック音楽ファンが増えるのだろうか。群馬交響楽団が長年実施している移動音楽教室や高校音楽教室は音楽ファンの形成に役立っているのだろうか。また、この音楽教室によって群馬出身のプロ音楽家が現れたか?

これまでクラシック音楽ファンが増えた現象としては、「のだめカンタービレ」がヒットし、テレビや映画、新聞雑誌などメディアに大きく取り上げられたことが挙げられる。

また、ピアニスト・辻井伸行さんのように話題性の高い演奏家、海外コンクールでの入賞者などのコンサートは、料金や開催地までの遠近に関わらず、ファンの足をコンサートホールに向けさせるきっかけとなっている。

 

クラシックを高崎芸術劇場で日常化

個々のコンサートについては、主催者や内容・規模が様々で、一律に比較することは難しいが、プロモーター68社が加盟するコンサートプロモーターズ協会のまとめでは、2018年の1年間に東京都内で行われた公演は、全ジャンルの合計で9672回、群馬県内は163回となっており、高崎芸術劇場の公演は開館からたった3カ月間しか経過していないにも拘わらず、かつてない公演数となっている。

群響の東毛公演、草津国際音楽アカデミーなど高崎・前橋以外でのクラッシックコンサート、芸術活動も貴重だ。

一般の人がクラシック音楽を楽しむ機会を、高崎芸術劇場は日常化していると言え、地方都市では貴重な役割を持つホールである。

 

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