就職戦線、変化あり!

就職事情の変化と市内大学の経営戦略

就職戦線、変化あり!

 高崎には4年制大学が6校あり、県内、近県の他都市と比較しても大きな集積だ。人材育成とともに、各大学とも地域貢献に取り組み、1万人を超える学生の若者パワーがまちの活力となっている。

 少子化や就職氷河期と呼ばれる厳しい環境の中で、大学や大学生はどのように取り組んでいるのか。市内大学と企業、就職支援機関に話を伺い、新卒者等を取り巻く就職の現状を探ってみた。

数字上の就職率は9割、実際は6割か

 大学をさぼって麻雀にふけった四畳半下宿は、古き良き時代の話である。今は講義をさぼる学生は少なく、欠席が多ければ本人はもとより保護者も大学に呼び出される。教員も研究だけでなく学生生活全般の相談に乗り学生に慕われている。大学は変わった。

 少子化の一方、大学進学率は増加し県内でも大学数が増えている。大卒者の就職の厳しさは、不況だけではなく、学卒者数の増加など様々な要因が指摘されている。

 厚生労働省が発表した今年3月の大卒者就職率は93.6%で、当事者の学生たちが「就職氷河期」と震える状況とは思えない。しかしこの就職率は、表(7ページ参照)のように大卒者総数のうち「就職希望者」から算出されたもので、卒業時に「就職を希望しない学生」が、大学院進学も含め、全体の3割程度も存在する。この3割の学生は、本当に就職を希望していなかったのだろうか。若者の就労を支援する「ぐんま若者サポートステーション」の太田和雄さんは「新卒者の5人に2人は就職していない。実際の就職率は60%程度で、フリーターなど若者の非正規雇用が増えている」と指摘する。

キャリアサポート室が就活を支援

 企業が新卒予定者の採用内定者を決める時期が早まり、戦後から続いた就職協定は廃止、替わりに経団連が定めた倫理協定では、企業側の採用情報の公開は3年生の12月1日、選考開始は4年生の4月1日とされた。大学生の就職活動は3年生の12月から始まり、4年生の秋まで続く。大学の授業に出席していると就活ができない現状が学生にあり、大学の支援が必要になっている。

 大学には、学生の就職を支援する部門「キャリアサポート室」が設けられ、カリキュラムにも資格取得や就職試験対策講座が盛り込まれている。大学の「就職課」に求人票が綴って置いてあった時代とは、雲泥の差だ。

 学生の就活は、就職情報企業が運営するインターネットサイトから、履歴書に替わる「エントリーシート」を企業に送信することから始まる。キャリアサポート室はエントリーシートの書き方や面接試験の手ほどきを行い、就活に向かう学生の背中を押す。

学内のダブルスクールも当たり前

 今回、取材を通じて就職氷河期でも看護師や保育士など慢性的に労働力が不足している分野では、学生の就職は安定していることが示された。看護学部の学生は入学時に進路がはっきりしている。いわゆるサムライ資格「○○士」や高度な語学力などが必要な職種では、資格を持った学生は就職に強い。

 公認会計士や公務員をめざす学生は、大学とは別に夜間の専門学校に通って受験対策を行い、こうした現象は「ダブルスクール」と呼ばれている。大学内に低料金で受講できるダブルスクール機能を設けて学生の便宜をはかり、大学の差別化をはかることも多くなった。他にも情報処理の資格など、学生の就職に有利な資格取得を奨励、支援している。

 企業の採用基準は「量から質」へと変化し、「即戦力」を求める傾向にあると言われ、大学もすぐに企業の役に立つ人材の育成に力点を置くようになった。

優秀なのに不採用? 企業が求める人材とは

 ところが、実際に学生を採用する市内のある企業の人事担当は「一番重視するのはコミュニケーション力、きちんと大きな声であいさつができることです」とシンプルな答えだ。太田さんは「人事担当は、その学生がいっしょに仕事をしたいと思う人物かどうかを見ている。大学の成績や資格は実際にはあまり重視しないことも多い」と指摘する。

 大学では、コミュニケーション力の養成や面接試験での自己PRも就活講座に盛り込んでいるが、企業では「学生が、揃ったように同じ反応をするので面白くない」と不満顔だ。

 大手就職支援会社の調査では、コミュニケーション力を重視する企業と、資格や業務知識が就活に重要だと考えている学生の意識のズレが示されている。

中小企業にとっては人材確保のチャンス

 学生が実感している就職難の背景の一つには、有名企業に志望が集中し、競争が激化していることが挙げられる。就活はインターネットの就職サイトが中心なので、学生が社名を知っている企業に偏ってしまう。太田さんは「地方の製造業や卸売業などの中小企業は学生に知られておらず、応募者が集まりにくい」と言う。

 また、就職サイトへの登録や企業説明会にかかる費用を負担に感じる企業もある。採用人数の少ない中小企業は、大勢に応募されても選考に困るということもある。

 多くの学生が就職難で流動しており、中小企業にとって人材確保のチャンスとなっているが、学生と地域の中小企業が出会う場は残念ながら少ない。太田さんは「説明会で企業のトップが直接面談して企業理念を話せば、学生の気持ちは動く」と言葉を強めている。

就職氷河期に挑む
大学のキャリアサポート戦略

 学生は、大学にとって学費を支払う「お客様」でもあり、有名企業に学生が就職することは、大学のブランド力として生徒数の増加や大学のレベルアップにつながる。受験生や保護者の大学選びには、就職率やキャリアサポート体制も重視されている。学生に学びやすい環境を提供し、親身に相談にのり、就活を手伝うことが大学の役割の一つとして定着している。

 学生の就職希望では、公務員をめざす安定志向や地元志向が強まり、公務員試験対策や資格取得のためのダブルスクールなど学生ニーズに応じた対策を大学側が様々に用意する傾向が顕著だ。手厚いキャリアサポートは、大学の標準装備になってきた。

就職戦線、変化あり!

高崎経済大学
公務員試験対策を1・2年生から

■金融・公務員志望に特色

 高崎経済大学は学生4人のうち3人が県外出身者。全国から人材を集め、全国に人材を輩出している。1学年が約1千人、大学院まで含め4千人超の学生がキャンパスで学ぶ。

 入学時から将来の就職をイメージさせるため、就職ガイダンス・講座の開催、情報提供など、キャリア支援に力を入れている。

 3年生はその年度に合格した先輩から話を聞き、就職活動の大変さを実感している。公務員志向の学生増加と、採用試験が難しくなっていることから、公務員試験対策は、1・2年生から準備しないと難しい。大学では10年ほど前から学内での対策講座を開設し、今年からその内容を見直し強化しており、3年生では学生の15%程(約150人)が参加しているそうだ。

■全国各界で活躍するOBの力が好影響

 一般企業への就職先は商社・メーカーなど多くの業種・分野に及んでいる。大学創立から55年にわたって広く経済界に人材を送り、企業のトップで活躍しているOBは数多い。こうした人脈が、学生の就職に大きく役立ち、全国にある同窓会組織が一肌脱ぎ、学生の就職活動を支援している。

 OBを招いて就職をテーマにした交流会を学内で開き、企業がどのような人材を求めているか、また若手のOBからは、就職活動の苦労話やノウハウの伝授もあり、学生が求めているリアルな情報が喜ばれている。石川弘道学長は「高経大は愛校心が強いOBが多く、大学としても心強い」と話す。

■独自の企業説明会に県内他大学の学生も

 求人開拓のため大学職員が全国を回って売り込みをかけるとともに、企業説明会も高経大独自で学内開催している。これまで求人があった企業等に呼びかけ、昨年は110社超が集まっている。この説明会は県内大学に解放し、他大学からも学生が参加している。

 「本学はまじめでがんばっている学生が多い」という石川学長。しかし「自己PRが控えめで、勝負する時はもっと積極的になって欲しいですね」と感じているそうだ。

就職戦線、変化あり!

高崎商科大学
本格的なキャリア指導で難関試験突破

■実学重視の人材育成

 高崎商科大学は、商都高崎にふさわしいビジネス系大学として、実学重視・人間尊重の人材育成に取り組んでいる。渕上勇次郎学長は「人・将来・学び・地域」を要素に「つながる大学」を提唱し、21世紀型の新しい商学部づくりに取り組んでいる。「就職につながる」、「資格につながる」、「人のつながり=絆」など、様々な考えが込められ、昨年度はカリキュラムを再編し6分野のコース制度をスタートさせた。

 資格取得、検定対策も指導し、日商簿記1級、日商販売士1級、税理士科目試験「簿記論」合格者も生まれている。

■学内ダブルスクール「PCDプログラム」

 本格的なキャリア指導として、専門学校とも提携し、独自の学内ダブルスクール「PCDプログラム」(プロフェッショナル・キャリア・ディベロップメント)を始めた。

 これは、会計士・税理士養成、人気企業への就職支援、教員養成、公務員養成、TOEIC(英語によるコミュニケーション能力を評価する世界共通テスト)800点をめざすバイリンガルプログラムで構成し、難関試験突破をめざす学生を支援する。専門学校に通うダブルスクールに比べて割安で、遠方に通う必要がなく学生の負担軽減にもなる。会計士養成では、国内でも著名な講師を招へいするなど、力を入れている。

■就職では人間力が問われる

 キャリアサポート室では、年間70コマのガイダンス・就活講座を行いながら、学生の個性をつかんでいる。サポート室の職員が講師をつとめ、学生との距離を縮めながら相談に来やすい人間関係を築く。

 サポート室の職員は学生全員の顔を覚えている。大手企業の内定者や公務員合格者を輩出する一方、職員自ら企業開拓に靴を減らして個性的な中小企業を学生に紹介する。サポート室では「学生自身に考えさせて行動させたい」と就活を通じた成長を期待している。渕上学長は「人間力が問われる時代であり、バランスのとれた専門教育と人間教育を確立していきたい」と話している。

就職戦線、変化あり!

上武大学
少人数ゼミで顔の見える学生指導

■個別指導を4年間継続

 就職ガイダンスは、入学式が終わった直後から始まる。保護者も含め、4年後を見据えた取り組みについて理解してもらうのが目的だ。

 ビジネス系の学部は1年生から4年生まで、少人数制のゼミで教員が学生を指導。看護学部も個別指導を取り入れている。学生ごとに講義への出席・成績状況、個別面談の結果などがファイルされ、学年で担当教員が替わっても対応できるシステムになっている。

■地元企業のトップ講話や資格取得奨学金制度

 看護学部は他大学同様、求人が多く、余裕をもって就職先を選ぶことができている。ビジネス系学部では、就職先が企業や官公庁などで、近年は公務員を志望する学生が増えている。一般職に加え、警察、消防が多いのも特徴だ。

 地域企業のトップから企業経営を学ぶ講座が好評で、これまで高崎信用金庫や市内の企業経営者に依頼し講演を実施し、就職試験の小論文対策にも役立てている。

 また、学生の専門的な興味を深めるため、資格取得奨学金を贈り、モチベーションを上げている。提携している専門学校で資格を取得しようとする学生もおり、学費等の負担軽減をはかる措置も講じている。さらに資格を単位認定しやる気を引き出す取り組みも行っている。簿記や情報処理では特別クラスを選抜し、専用ルームやパソコン貸与など優遇している。選抜試験の競争率は激しいそうだ。

■充実したキャリアサポート

 キャリアカウンセラーが個別相談に応じるほか、週2日、ハローワークによる出張相談窓口が開設され、多くの学生が利用しているそうだ。

 大学独自の企業説明会には80社超が参加し、昨年から高崎商科大、前橋国際大、関東学園大と連携し、持ち回りの説明会も開催されている。

 上武大学の中村光一教授は「開学以来、社会に役立つ人材の育成に取り組んできた。今後も、コミュニケーション能力を重視していきたい」と話す。全国に名を馳せる上武大学の運動部は、あいさつや礼儀がしっかりしており、企業からも一目置かれているようだ。

就職戦線、変化あり!

高崎健康福祉大学
健康と医療福祉の
あらゆる分野で専門家を育成

■資格分野で強みを発揮

 「健康医療福祉の分野で、21世紀に求められる人材の育成をめざしている」と語る須藤賢一学長。4学部7学科で、保育士、幼稚園教諭、介護福祉士、社会福祉士、管理栄養士、看護師、理学療法士、薬剤師など資格分野では、強みを発揮している。学科ごとの進路決定も明確だ。

 保育、看護、福祉分野は慢性的な労働力不足で、就職は抜群に良い。仕事が厳しいとされている介護分野でも、「介護施設でがんばりたい」と目的を持った学生が増えているそうだ。高齢者に対する思いやりや信頼感など人格面の教育も重要になっている。

 難関の社会福祉士、薬剤師試験は対策を強化していく考えだ。情報系学科では、診療情報管理士や情報処理技術者などの資格を身につけ、就職に役立てている。

■今こそ企業との緻密なパイプを

 指導教員によるアドバイザー制度とキャリアサポートセンターによって学生を厚く支援する体制を確立している。看護学科では、80の医療機関を招いた学内説明会、OBが就職や国家試験対策を語る就職講座を実施している。

 一般企業への就職は、情報系の学生が中心になっている。キャリアサポートセンターでは「厳しい時代であり、今こそ企業との緻密なパイプが必要」と話す。就職は安泰と言われる看護、福祉分野でも「あぐらをかいているわけにはいかない」と求人開拓に余念がない。

■新学科を増設「攻めの大学経営」

 平成13年に4年制大学として高崎健康福祉大学を設置して以降、学部学科を増設し、全学生数で2,200人の私大に成長した。須藤学長は「心理系の学科が県内に無いので設置するかどうか検討したい」と学科の強化をはかる。

 あわせて地域貢献と学生の実習施設を兼ね、クリニック、リハビリステーションや訪問看護ステーションなどを立ち上げていく考えだ。「健康と医療福祉の分野で幼児からお年寄りまで、全ての世代に関わる人材を育成したい」と意欲を示している。

就職戦線、変化あり!

群馬パース大学
進路目的が明確、
病院や医療系企業に全員就職

■希望に沿った医療機関に全員が就職

 看護師や保健師、理学療法士を育成する群馬パース大学は、医療機関にほとんどの学生が就職、保健所や医療系企業などを希望する学生もおり、就職率は100%と堅い。病院は看護師不足で、関東近県を中心に学生の希望に沿った就職先が見つけられる。看護学科定員70人に対し求人件数500件超という売り手市場だ。

 専攻が明確で、藤田清貴教授は「モチベーションの高い学生が入学してくる。4年制になり就職先が広がった」と話す。

 就職ガイダンスでは、卒業生を招いて勤務先病院の特徴や業務内容、職場の雰囲気を語ってもらっている。病院を勤務体験するインターンシップは、パース大学独自に低学年から積極的に推進している。こうした取り組みにより、就職してからのミスマッチを防いでいる。

■臨床分野を新設。大学院で高度教育

 パース大学では、医療現場で今後団塊世代の大量退職を迎える臨床検査技師の新たな需要に応えるため、来年度「検査技術学科」を新設する。現在、専用の学科棟も建設中だ。現代医療では患者の診断・治療を行う上で、検査データを適切に判読し、診療支援を行う優秀な検査技師が不可欠となっている。

 病院や研究機関の管理的な立場では、修士、博士の学位が求められるため、パース大学では、現在、看護・理学療法分野の大学院修士課程を持っているが、今後は臨床検査分野も視野に入れている。

 藤田教授は、検査技術学科について「遺伝子工学など最先端の高度技術も取り入れ、国内有数の不妊治療、生殖医療の専門家を講師に招く予定」と話している。3学科体制により、医療系大学としてパース大学の独自性を確立していく考えだ。

取材メモ

 今回の取材で特に印象に残っているのは「私が子どものころは近所の人とのふれあいも多く、目上の人に対しての話し方や規律などを学べる機会が生活の中にあった。まさに地域に育てられたようなもの」という太田氏の言葉。現在はコミュニケーション力を学ぶ場も少なく、学校がその役割を担うようになってきているのだろうか。

 取材でお邪魔した企業の人事担当者からは「早期退職する人の中には、休憩時間に一人で過ごしていた新人が多い」と実情を明かしてくれた。逆に職場の上司・先輩と雑談を交わすなど、積極的に人間関係を築こうとする姿勢があれば、「上司も自然と面倒をみたくなり、結果的に仕事の覚えも早く、大きなミスも少なくなる」と感じているようだ。

 「そういう意味では新入社員に休憩時間はないのかもしれませんね」と人事担当者は笑った。

 基本的なコミュニケーション力は、社会に出てから、より重要になってくるということは皆さんも実感としてあるだろう。

 都市や会社が成熟していくには、やはり人の力が必要だ。このコミュニケーション力が今後の企業や社会の礎となっていくように感じた。

■高崎経済大学

経済学部/経済学科・経営学科
地域政策学部/地域政策学科・地域づくり学科・観光政策学科

■高崎商科大学

商学部/商学科
流通・マーケティングコース、情報・メディア・eビジネスコース、経営・経済コース、 会計・金融コース、観光・ホスピタリティコース、地域・国際・キャリアコース

■上武大学

ビジネス情報学部/会計ファイナンス学科・アジア地域ビジネス学科・スポーツマネジメント学科
経営情報学部/経営デザイン学科・メディアマネジメント学科・看護学部/看護学科

■高崎健康福祉大学

人間発達学部/子ども教育学科
健康福祉学部/医療情報学科・社会福祉学科・健康栄養学科
保健医療学部/看護学科・理学療法学科
薬学部/薬学科

■群馬パース大学

保健科学部/看護学科・理学療法学科

勝ち残る専門店

グラスメイツ
グラスメイツ
メガネ店の店員も買いに来るメガネ専門店
辰巳
辰巳
印傳と陶器の専門店/県外からもお客様
有限会社三洋堂
有限会社三洋堂
パソコン全盛時代に書道のおもしろさを伝える

すべての記事を見る