北関東最大の都市型商業施設が高崎駅西口に

平成28年春のオープンをめざす
高崎駅西口の様相が大きく変化

 昨年10月の報道で、高崎ビブレが今年3月末をもって閉店し、新たに隣接地を含む用地に株式会社イオンモールが運営する都市型の商業施設が建設されることが伝えられ、大きな驚きを与えた。
 この商業施設は北関東で最大の都市型の大型店舗となり、平成28年春に開業が予定され、年間で1千万人の集客を見込み、商業にとどまらず、高崎の都心部の構造や機能にも大きな影響を与えることになりそうだ。
 このイオンモールが計画している商業施設の他にも、高崎駅周辺には商業、ビジネス、文化、スポーツなどの大型都市集客施設が建設され、平成30年には高崎都心部の様相は大きく変化することが予測されている。

「商工たかさき」 2014/4号より

イオンの新戦略・駅前立地型モール

 高崎駅西口に出店する大型商業施設については、イオンモール本社からは公式な発表は出ていないが、高崎市は同社との交渉や現在に至る経緯により出店計画を正式なものとして受け止め、関連する都市整備等を始めた。関係筋への取材とイオンモール株式会社の戦略から、今回出店する店舗について考察してみたい。
(㈱イオンモールの正式発表はないが、高崎市が発表した資料及び関係者の取材で構成)

●高崎駅西口の街区が新しい大型商業施設に

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 この都市型商業施設は、イオンモール株式会社・イオングループが建設する今までの業態とはコンセプトの異なる新しい都市型商業施設で、予定地はイオングループの高崎ビブレを中心に、グランドホテル長谷川、市所有の日本通運跡地など約7,400㎡。9階〜10階建て、延べ床面積約4万5千㎡、テナント数は約200店、北関東最大規模の都市型商業施設として計画されている。地元雇用は約1,000人、テナントの一部は地元商業者を導入する計画だ。
 3月31日、この出店計画に伴い高崎ビブレはニチイ以来38年間の幕を閉じた。高崎ビブレの福地尚司店長は同日に行われた閉店セレモニーで顧客に感謝の意を示すとともに「一旦店を閉め、新しく生まれ変わっていくことを決断した。次の詳細についてはまだ正確に決まっていないが、前向きに新しく生まれ変わってやっていきたいと思っている。この地域と共に歩んでいくため大きく生まれ変わって皆様方に貢献していきたい」とあいさつし、今後に含みを持たせた。

●イオンの新戦略「都心回帰が新しいトレンド」

 新しい商業施設をイオンモール株式会社の動きから見ると、同社では、新たな都市型拠点モールの開発を進めており、今年2014年11月にオープンが予定されているJR岡山駅前の「イオンモール岡山」が新しいコンセプトの旗艦店として位置づけられているとされている。また、昨年2013年12月にオープンした「イオンモール幕張副都心」は芸能・アニメ、スポーツなども取り入れた体験型テーマパークとなっており、グループの総力を結集した旗艦店となっている。
 イオンモール株式会社は、2013年版の成長戦略で4つの成長領域を示し、その一つに「大都市マーケット」を挙げており、「従来の都市郊外の大型モール中心の店舗開発に加え、都心回帰・大都市への人口集中に対応し、人口集積地や駅前立地でのモール開設を強化します」と位置づけている。(イオンモール株式会社公式ホームページより。以下イオンHP)。

●駅前開発に力を入れ、新規出店も加速

 イオンモール株式会社は、モール開発について、棟高町のイオンモール高崎のような「2〜3階の低層階で、2つ以上の核店舗を配して、この核店舗を専門店モールで結ぶ2核1モールを基本」としているが、「お客さまのモールへのアクセスは主に車を想定しているため、立地は大都市および地方中核都市の近郊・郊外の車で30分圏、商圏人口は40万人以上の商圏を基本としているが、鉄道の駅前・駅至近の立地でもモールを展開しており、今後イオンモールでは、都市近郊・郊外の大型モールに加えて、都心回帰・大都市への人口集中というメガトレンドに対応し、人口集積地や駅前立地モール開設にも取り組んでいきます」と、都心部、駅前のモール開発に力を入れていく方針だ。今後、出店ペースを加速し、国内の新規店舗では2015年度期10店、2016年度期10店を計画している。国内店舗数は、2013年度期61店を2016年度期に85店に拡大する計画だ。(イオンHP)
 高崎駅前に建設する商業施設は、同社のこうした新戦略に位置づけられるものと考えられる。

●周辺の民間駐車場を活用し回遊性創出

 関係者への取材では、高崎駅西口の大型商業施設には来店者用の駐車場は予定しておらず、周辺の民間駐車場を利用していく考えだという。
 イオンモール株式会社は店舗を開設する場合、3,500台以上の駐車場を基本としているようで、棟高町のイオンモール高崎店もこの規模の駐車場を備えている。高崎駅前の計画地に、この規模の駐車場を確保することは現実的ではない。また、この一帯で高崎駅西口前に進入する車両、高崎髙島屋駐車場へ入庫する車両と交錯する状況になれば、週末などは激しい渋滞が予想される。
 駐車場を独自に持たずにまちなかに分散させる同社の考えは、高崎駅西口一帯の交通渋滞を回避し、まちなかの回遊性を創出するとともに、鉄道利用の来街者を増加させるなど、高崎の集客構造や、人・車の動線を大きく変化させる可能性がある。
 高崎市は高崎駅西口、新商業施設、高崎髙島屋、駐車場の「ウエストパーク1000」までペデストリアンデッキで結ぶ計画を進めており、平成26年度からデッキの設計に着手する。高崎駅東西の交流性を高めていき、最終的には高崎芸術文化センターや新体育館まで含んだ回遊性を創り出していきたい考えだ。

●駅に直結、鉄道利用の来街者増加も

 同社では、モール開発を「まちづくり」と捉えており、「地域の自治体や地域社会との連携・協力はとても大切なものです。これまでも地域と一体となり、産業振興や都市整備の中核事業として位置づけられた開発事業などを数多く手がけてきました。地域の活性化と、質の高い満足をお客さまにお届けすること、その両立に努めています(イオンHP)」としている。
 今回の商業施設の計画は、高崎市とまちづくりの理念を共有しており、中心商店街、高崎髙島屋、高崎モントレー、高崎駅のE‘SITE、東口のヤマダ電機LABI1高崎まで含んだ一体的な商業集積をめざしている。近隣駐車場を活用することで来店者にまちなかを歩いてもらい、エリア一帯のにぎわい創出を狙う。
 群馬県民の独特の発想で、自動車や駐車場等の課題に目が行ってしまうが、高崎駅東西に、駅直結の大型商業施設群が連なることになり、鉄道による交通拠点性が大きな相乗効果を上げることになる。店の前まで乗りつける県民の車依存体質に一石を投じることになるだろう。

●感度の高い顧客層を狙う

高崎駅前を活性化させる都市集客装置に
 高崎駅西口の商業施設のコンセプトについて現状は、「これまでのイオンモールとは違った全く新しいコンセプト(関係者)」とされており、どのような商業施設になるのかは未知数だ。
 高崎では、東京都心部と遜色のない感覚を持つ顧客が多い一方、欲しい物がないという不満が潜在することから、ファッション、デザインにこだわる購買層をターゲットに、東京と変わらないトレンドと「高崎しかない」魅力を提供し、存在価値を示す。また、高崎駅利用者の待ち時間にあわせた利用もはかり、20代から40代を狙う。イベントなども含めて高崎駅前の活性化をはかり都市集客装置として機能させる考えだ。
 構想では、1階に食物販売、2階から7階にファッションなど、上階にレストランやフードコートを計画している。屋上ガーデンも計画。地元飲食店の導入も考えており、飲食を充実させるという。

●高崎の地域性を活かしたランドマークに

 イオンモール株式会社は、モール建物について「施設の内容、環境や交通への影響など、さまざまな点について考慮するとともに、出店地域の特徴に合わせた建物スタイル表現を積極的に導入しています(イオンHP)」としており、高崎駅西口の商業施設では、地域性を活かしたビルにしていく計画だ。アントニン・レーモンドが設計した群馬音楽センターの意義や、ブルーノ・タウトが住んでいたことなど、高崎の建築文化を参考にしたいと考えているようだ。
 建物の外観や施設のデザインなどはこれからとなるが、高崎駅前を象徴するランドマークの一つになるだろう。メインエントランス付近にイベントスペースを設置し、音楽活動や社会貢献活動を支援する予定だ。

ペデデッキ構想を一気に推進

●長年の構想がいよいよ実現に

 高崎市は「イオンモール株式会社の出店は正式に決まっている」と高崎市議会でも説明しており、高崎市の松本泰夫副市長は「高崎駅西口への出店計画に合わせ、市が持っていた西口のペデストリアンデッキ構想を一気に推進したい」と考えを示している。
 7頁の図のように高崎駅西口と新商業施設、高崎髙島屋、「ウエストパーク1000」駐車場までデッキで結ぶ計画で、平成26年度予算に今年度分の工事費2億円を盛り込み市議会の承認を受けている。松本副市長は「開店と同時に開通させたい」と話し、作業を急ぐようだ。
 このペデストリアンデッキ工事は、当然のことながらイオンモール株式会社や高崎髙島屋の了解が得られているから進められるもので、既に市とイオンモール側の協議が行われているものと見て良い。

●民間開発に合わせてデッキを延伸

 ペデストリアンデッキは高崎駅と周辺のビル群を接続し、高崎駅周辺の開発に合わせて進められてきた。
 高崎駅西口のペデストリアンデッキは、平成2年(1990)に完成し、ウェストワンビル(W1ビル)やラメルセ(W2ビル)などと接続している。高崎市では、この当時から西口北方向へのデッキ延伸を構想し、第四地区市街地再開発事業計画(W4)などとして推移してきた経緯がある。東口のペデストリアンデッキは、平成20年にヤマダ電機LABI1高崎が開店したこときっかけに建設が一気に進み、東口エリアの開発に合わせて延伸されている。

●駐車場の立体化、収容台数拡大が必要

 新しい商業施設予定地周辺の駐車場は、立体駐車場のウエストパーク1000が1,000台、平和パークが700台。平地のペガサス駐車場146台、タイムズ八島町127台、他に数台から十数台のコインパーキングがある。現在でも利用の多い駐車場もあり、現有の収容力では新商業施設の来店者まで収容することは難しい。高崎市では、立体化により収容力を高めていけるよう、駐車場開発を誘導していきたいと考えている。
 まちなかの回遊性を考えれば、なるべく広範囲に駐車してもらうことが望ましいが、高崎駅から東二条通り、慈光通り周辺までのエリアで一定台数の駐車場を確保することが必要だろう。パーク1000だけでなく、そうした駐車場もペデストリアンデッキでつなぐことが理想だ。

●将来的には都市集客施設、新体育館まで

 高崎市では、将来構想として、東口の都市集客施設・高崎文化芸術センターや高崎駅南の新体育館もペデストリアンデッキでつないでいきたいと考えている。東口・北方向はホテルココグランまでデッキでつながっているが、群馬トヨタビル隣接のイーストバークまで伸ばす計画で、民間開発にあわせて実施していきたいという。
 高崎駅中央コンコースを利用して駅東西、駅なかを回遊する買い物客は増える傾向にあり、高崎市では実態調査を行い、東西交流を促進する取り組みを始める。
 まちなかや高崎駅東西の回遊効果を高めるには、駅東西の駐車場や店舗、中心商店街で駐車料金の特約制度を共通化する必要がある。また高崎のまちなかは一方通行も多く、慣れないと走行しにくいと感じているドライバーもいるので、駐車場への経路、誘導表示なども重要になるだろう。

なぜ大型店が中心商店街に

●大型店は中心市街地にしか立地できない

 高崎市は中心市街地の商業集積をはかり、大型店の適正な立地を誘導するため、中心市街地活性化基本計画に伴い、平成20年に準工業地域への床面積1万㎡を超える大型集客施設の立地を規制している。高崎市では、平成26年4月から5年間を計画期間とした第2期中心市街地活性化基本計画の認可を得て継続している。
 高崎市の都市規模になれば、ショッピングモール開発のターゲットになって当然だ。平成20年以前においても、高崎の立地の良さを求め大型店の出店が高崎市に打診されたこともあったが、高崎市は工業地域には製造業を、商業施設は中心市街地に誘致していく考え方を曲げず、郊外型の大規模店舗を抑えてきた経緯もある。
 中心商店街の商業集積は、一度失われたら再生することは極めて難しい。平成12年に大店法がまちづくり三法に改正され、それ以前と比べ規制が緩和されているが、高崎市では、大型店が立地できるのは中心市街地など商業地域だけとなっており、他市に見られるような郊外型の大型ショッピングセンターが高崎市内に建設されてこなかったのは、こうした背景によるものだ。

●駅周辺の商業集積は高崎の顔

 昭和40年代後半から50年代にかけて高崎は大型店ラッシュとなり、高崎駅西口にニチイ、高崎髙島屋、ダイエーが相次いで出店した時は、中心商店街から反対の声が上がった。その後、大型店と商店街の共存共栄路線が打ち出され、高崎駅西口と城址地区のスズラン高崎店を結ぶ「2核1モール」が高崎の商業戦略となっていた。
 郊外化の波により伊勢丹BIBI、ダイエーが閉店、中心市街地の通行量も減少傾向をたどってきたが、高崎駅周辺を中心とした商業力は維持され、平成20年7月のヤマダ電機LABI1高崎の開店、平成22年の高崎駅E‘SITEにより、新たな集客力が生まれた。
 高崎市民は見慣れた風景になっており、その意義を実感できないかもしれないが、駅前にこれだけの商業集積を持ち、今なお再開発が進行中で大きなプロジェクトを持っている地方都市は極めて少ない。高崎のように拠点駅の両側で都市の発展が広がっている地方都市も珍しく、多くの場合は一方向だけが繁華街となっている。
 また商都博覧会のように、中心市街地の大型店が連携するケースも非常にまれであると言われている。4月に行われる商都博覧会は、高崎ビブレの閉店により1店舗減り、スズラン、高崎髙島屋、モントレー、ヤマダ電機LABI1高崎の4店舗になったが、イオンモール株式会社が特別協賛しており、賞品も提供。2年後の開店を見通した布石と考えられそうだ。

●イオンモールの勝算と高崎の都市ビジョン

 イオンモール株式会社は、高崎の都市ポテンシャルを含めた勝算があって高崎駅西口に巨額の投資を決めたはずであり、同社が西口に描いたビジョンと高崎の都市ビジョンを重ね合わせて考える必要がある。本誌2月号のマンション特集で言及したが、開発マインドの相乗効果は、人口や産業など都市の活力全般に影響しあっている。新しい商業施設の大集客力をまちなか全体に活かし、高崎市全体がWIN-WINとなる戦略を考えていくことが重要となっている。

周辺の商店街の期待と不安

 高崎駅西口の新しい商業施設が、中心商店街の売上に与える影響を懸念する声もある。計画地に隣接するハナハナストリート(東二条通り)代表の岡田恵子さんと大手前・慈光通り商店街会長の清水謙一さんに話を聞いた。

●商店街も攻めの姿勢を

岡田:イオンモールができ、まちに来る人が増えるのは歓迎です。高崎のステータスが上がると思う。
清水:駐車場を作らないと聞いているが、周辺駐車場は立体にしないとイオンモールの客まで収容できないでしょう。高崎駅から鉄道を利用する客もターゲットになる。
岡田:まちと公共交通を見直すきっかけになりますね。それにしても強敵が現れたという感じです。東京資本のアパレルショップは、現在の路面で続けるかイオンモールに入るか検討しているところもあるようです。 清水:商店街の危機感は大きいが、高崎駅とスズランを結ぶ人の流れが復活してほしい。髙島屋やダイエーが出てきた時は、確かに周りの商店街も売上げが上がった。
岡田: 受け身的なスタンスではなく、高崎に来る人が増えるのだから、個店もイオンのお客様を奪ってやろうと言うくらいの意気込みを持たないと。今のままの考え方ではダメですよね。
 柔軟性や攻める姿勢が商店街にも必要ですね。イベントのあり方を考えたり、みんなで力を合わせていかないといけない。
清水:高崎駅に近いお店、特に飲食店は好影響を受けるでしょう。逆に駅から遠い商店街はイオンモールの直接的な恩恵は少ないかもしれない。

●工事中の2年間を生き残れるか

清水:イオンモールが開店する平成28年春までの2年間をどう乗り切るかが一番の心配です。
岡田:ビブレに来ていた若者層の流れが途絶えてしまう。このあたり一帯が工事の壁で囲われて、客足が途絶える。2年間持ちこたえられるか、これを機会に店をやめちゃおうかという声もありますよ。
清水:イオンモールに負けるとか言う前に、工事中の2年間生き残れるかどうか。アパレル、物販の危機感は大きいです。店の業態を変えるところもあるでしょうね。工事関係者が大勢長期滞在するので、宿泊業は良くなるだろうと聞いています。
岡田:工事の壁に「髙島屋方面」、「スズラン方面」などと大きく書いて西口から見えるように誘導してくれると良いと思います。
イオンモールの西側もまち側の玄関として整備してほしいです。まちなかは「ひととなり」を大切にする商店街なので、人情味やふれあいを大切にしながら、新しい分野を切り開く挑戦が必要です。