デザイン・技術・連携で世界へ 高崎art製造projectカロエ

モダンアートやデザイン性の高い工業製品の市場開拓

高崎だるまを表現した「ダルマキューブ」

 高崎市内の町工場等十数社の若手が連携し、デザイナーやアーティストとの共同作品を生み出している「高崎art製造projectカロエ」。様々な分野のエキスパートが集まり、世界へ向かって高崎のものづくりを発信しようと挑戦している。

「商工たかさき」 2014/6号より

●付加価値を高め技術に魅力を

 「国内最大級の工業見本市でも、自社の高度な技術を独自の感覚で見せている企業は少なく、見飽きてしまう。自社にも言えることで、特徴のある展示をするには表現力が必要だと思った」とカロエの代表を務める山﨑将臣さん(山﨑製作所常務)が、デザインセミナーで知り合った群馬県立女子大学の高橋綾准教授に相談に行ったのがこのプロジェクトの始まりとなった。
 山﨑さんは、板金と溶接で製作したバスケットボールほどのステンレス球をサンプルに持参した。「そういうことができるなら芸術家やデザイナー、学生の作品づくりに力を貸してほしい」と逆に高橋准教授から頼まれ、今まで無縁だった芸術分野にものづくり技術の需要があることを知った。
 大きな製作物には様々な技術が必要となり、山﨑さんは親しい仲間に声をかけ、2012年5月にカロエをスタートさせた。名称は「加工」を分解したカタカナで、群馬県立女子大の学生から公募した。

●イメージをかたちにする技術

左から山㟢さん、土屋さん、市川さん、水島さん
一枚板から作製した椅子「スカラベ」

 「カロエにはゼロから立ち上げるおもしろさがある。自社の技術や発想の限界を仲間の力を借りて乗り越えていける」とカロエのメンバーの水島高弘さん(水島鉄工所社長)は語る。「仕事として受注する製品は仕様や図面があるのが当たり前だが、カロエの仕事には図面がない。アーティストのざっくりとしたイメージを実際に図面化するのは試行錯誤の連続。苦労した分、3次元CADのスキルが上がりました」と市川慶一さん(市川鉸工業専務)は笑顔を見せた。土屋幸誠さん(土屋木工所社長)は「普段の仕事ではありえない方法にチャレンジできる」と話す。土屋さんは、木工に金属用のレーザー加工を施した。「業界の常識ではありえない。木工所にはレーザーの設備はなく、メンバーの工場で加工してもらった」と、建築・芸術家など多業種にわたるメンバー同士の技術や設備・発想を活かしあっている。


●高崎だからできる「ものづくりの連携」

おなじみの高チャリポート

 「これは化けるかもしれないよ」と、ある日、メンバーの一人が言ったのを山﨑さんは忘れられない。「今まで、『うちはたいしたことない』、『うちではできない』と思っていたが、実はスゴイ技術をみんなが持っていた。お互いの強みをつなげれば、高崎のものづくりのブランドができる」と確信した。
 高崎は、大手メーカー傘下の企業城下町でないことが、連携を可能にしていると考えている。「同じメーカーの部品を受注しているライバル同士だったら、自分の手の内を見せられない。高崎は、それぞれの工場が独自性を持っているから同じ板金屋同士でも仲良く連携できる」と、高崎に息づくものづくりの伝統を感じている。
 カロエは、これまで2カ月に1製品のペースで製作を受注し、作品は既に30を超えている。デザインみこし、伊香保アートプロジェクトの作品、高チャリ自転車ラックなどは話題となり、カロエの存在感を示すものとなった。

●デザインの本場ミラノで腕試し

ミラノサローネ出展時の様子
ミラノでも好評だった木製細工「カラコロ」

 世界中からデザイナー、クリエイターが集まるイタリア・ミラノで行われる世界最大規模のデザインの祭典「ミラノサローネ」に、昨年から出展し、2度目となる今年は4月8日から13日まで行われた。
 この祭典にはヨーロッパ各国からバイヤーも集まり、山﨑さんは、海外での評価や嗜好などを知ることは、これからの展開に不可欠だと考えている。「ミラノで評価された高崎の技術をカロエの付加価値につなげていく」という。価格や生産体制など、課題として感じてきたことを練り直し、来年は「販売ルートに乗せられる製品を開発・出展していきたい」と意欲満々だ。

●真似のできない高崎ブランドを世界へ

 現在のカロエは「同じ目的を持つ仲間の集まり」。受注に関しては企業広告や技術力強化に繋がるならば「損が出なければいい」という面もある。開発にかかる先行投資はメンバーの負担だ。しかしこれまで様々な課題に挑戦し続けてきた結果、企業としてのコミュニケーション能力が鍛えられ、存在感も向上した。ビジネスとして成功するためのカタチづくりも始めている。
 「高崎発の連携で生み出した真似のできない製品でいつか世界を驚かせ、世界最高といわれた日本のものづくりを絶やさずに魅力ある産業として次世代に伝え繋げたい。また今まで協力をいただいた、地域でともに頑張る魅力的な企業の経営者や関係者の方たちへの恩返しという意味でも、これからも人・組織・機会を繋げられるように動き続けていきたい」と山﨑さんは話す。これからのカロエがますます楽しみだ。