観光・文化・産業で海外をターゲットに

インドを重点国に多面的交流を深める

「商工たかさき」 2014/10号より

■■高崎の海外戦略が合体■■

●高崎の交流拠点性を生かす海外戦略

 高崎市が建設を進めている高崎駅西口の新体育館、東口の高崎文化芸術センターは、それぞれ国内最高水準の施設として計画されており、海外からの招致、集客が見込まれている。世界遺産の富岡製糸場と絹産業遺産群についても、今後、外国人観光客が訪れると期待されている。
 高崎市は、外国人来高者の増加に備え、外国人に使いやすい情報提供や案内について検討し、多言語で対応できるよう準備を進めている。英語、中国語、韓国語による観光パンフレットが既に発行されており、これから高崎駅などにタッチパネル式のディスプレイを設置し、複数の外国語で情報の提供や検索ができるシステム(デジタルサイネージ)を整備していく計画だ。また、外国人観光客向けに案内ボランティアも募集しており、おもてなしの体制づくりが進んでいる。こうした取り組みで、外国人が訪れやすいまちとして、高崎の認知度を上げる効果も期待できる。
 外国人向けの情報発信やインフラ整備とともに、外国人観光客が来てくれるのを待つのではなく、高崎市では2年前からインドを重点国として、誘客開拓に取り組んでいる。

●なぜインドか

 富岡賢治市長は、インドはアジアの中でも著しい経済成長が続いており、外国旅行に関心を持っている富裕層の増加が見込めることに加え、未開拓な市場であることから、今後の可能性が期待できると言う。
 全国一の生産量を誇る高崎だるまのルーツはインド人僧「達磨大師」とされており、少林山達磨寺は発祥の地として、インド人に共感を得られることもある。インドは未開拓としながらも、インド文化に詳しく高崎の海外観光戦略に積極的な人脈を通じて、インドの関係づくりを先駆けて行えることも、見通しとしてあった。


●仏教文化のつながりで好反応


 高崎市は、まず手始めに市場調査と認知度アップを兼ねた観光体験ツアーを行った。平成24年度にインドの旅行関係者とマスコミによる専門家視察ツアー、平成25年度は専門家視察ツアーに加え、日本旅行業協会が主催するアジア最大の旅行見本市「旅博」出展と在住インド人の観光体験ツアーを行っている。ツアーではバスで高崎市内の観光地や飲食店、商業施設を回ってもらい、インド人が魅力と感じる高崎のポイントを探った。
 参加者は、インド発祥の仏教が、白衣大観音や高崎だるまとして高崎の市民文化に溶け込んでいることに、強い関心を持ったようだった。また、寺の各所に見える梵字などにも注目し、文化のつながりに共感を持っていたと言う。ツアーは好評で、高崎市や誘致関係者は、今後に向けて手応えをつかんだ。

●3年目は次の展開に向け第一歩

 3年目となる平成26年度は、前年度の取り組みに加え、高崎音楽祭で9月23日にインドのメーリ・メータ音楽院の子どもたちと高崎の子どもたちによる交流コンサートが実施され、10月にシネマテークたかさきで高崎映画祭主催によるインド映画特集と高崎市文化事業としてインド舞踊団の公演が行われる。この公演は、インド政府による国内巡回公演の一環で、ユネスコ無形文化遺産(=芸能や伝承で世界遺産に匹敵するもの)の音楽舞踊劇を上演する本格的なステージとなる。さらに来年2月にインドで行われる「第21回インド国際産業&技術フェア」に高崎市が出展し、市内の製造業13社の製品や技術を紹介することが予定されている。

●駐日インド大使が高崎を評価

 9月23日の高崎音楽祭・日印交流コンサートでは、駐日インド大使のディーバ・ゴパラン・ワドワ女史が高崎市を訪れた。ワドワ大使は、高崎市役所で記者会見を行い、高崎市がインドに向けた観光誘致を実施していることや来年2月にインドで行われる産業技術フェアに高崎市が出展することなどを評価するとともに、高崎市がこれからインドと交流を深めるための取り組みについて、富岡市長と意見を交わした。
 多忙な駐日大使を高崎市単独で招くことができたことだけでも大きな成果と言えるが、インド人観光客の誘致だけではなく、文化や産業の交流についても高崎市が積極的な姿勢を示していることが大使に高く評価され、高崎市を印象付けた。
 高崎から、市がインドに向けて実施している観光誘致政策や来年2月に計画しているインドでの産業技術フェアへの出展の他、高崎映画祭事務局が計画しているインド映画の上映、インド舞踊団の高崎公演などの説明を受けると、ワドワ大使は「日印関係の推進に取り組まれうれしく思います」と述べ、インド発祥の仏教文化だるまによる高崎とのつながりに加え「インドの現代的な面も紹介してもらえている」と市の取り組みを高く評価した。

●高崎との交流に大使が積極姿勢

 高崎市がインドに向けた観光誘致について大使は、「高崎の情報がインドに届けば、高崎は東京に近いので観光客を増やすことができる」とし、「高崎とインドの都市の間で姉妹都市の提携をすることも良いでしょう」と話した。
 来年2月の産業技術フェアへの出展については、参加する市内企業に対する事前のセミナーに、大使が自ら講師をつとめインド産業界を説明したいと述べ、力の入れ方に関係者を驚かせた。また、大使がインドは映画が盛んな国であることからインドの映画プロデューサーに高崎を紹介するなど、映画を通じた高崎との交流も提案された。
 大使は高崎の印象について「自然や温泉、お寺、企業もあり、理想的な日本の都市」と評価しており、富岡市長は「大使を迎えられて大変うれしい。インドとの交流に弾みをつけたい」と喜びを語っていた。

■■インド戦略の期待と可能性■■

●高崎市がインド産業展示会へ出展

 富岡市長は、今年度の産業施策の一つとして、若手経営者を中心とした市内企業のアジア進出支援を打ち出していたが、インドとの観光交流と一体化させ、相乗効果を上げることになった。
 今回の取り組みは高崎フェア実行委員会(八木議葊会長)、高崎市国際交流協会(原浩一郎会長)など、産・官・民が連携して実施されている。
 このほどインドのニューデリーで来年の2月に行われるインド最大の国際産業見本市「第21回インド国際産業&技術フェア」に出展することが決まり、予定では、市内の製造業13社が出展し製品や技術をPRする。
 この見本市は、インド最大の経済団体であるインド工業連盟が主催するもので、2年ごとに開催されている。会期は2015年2月26日から28日の三日間。会場はプラガティ・マイダン国際展示場。世界中から出展者が集まる国際舞台となっているようで、日本から市が出展するのは高崎市だけとなっている。

●海外で高崎の評価を高める機会に

 今回の開催では、日本がパートナーカントリーとして展示会のテーマの一つになっており、高崎市は、JETRO(ジェトロ・日本貿易振興機構)によるジャパン・パビリオンの中に出展し、環境、機械、電子部品など高崎の技術力の高さをPRする。ジャパン・パビリオンは国際産業見本市の中でも注目されるブースの一つだと言われている。
 見本市にはインド全土からバイヤーや行政担当者が大勢訪れており、インドで高崎の認知度を上げ、トップセールスのチャンスになると言う。海外進出を考える市内企業の足がかりとして、インドでの市場開拓に結び付けていくのが狙いとなっている。
 高崎市から出展する企業は、環境浄化研究所、キンセイ産業、小島鐵工所、太陽誘電、丸山機械製作所、阪東工業、高崎青年経営者協議会から自動車関連を中心に7社。
 高崎市では見本市への出展に関連し、インド経済に関するセミナーを今年11月に開催する。当初はインド大使館から講師を招く予定だったが、ワドワ大使が来高した際、自ら演壇に立つ考えを発表したので、セミナーの意義も大きくなった。高崎に対するインドの注目度も高まるものとなるだろう。

●期待と不安、まずはリサーチ

 出展企業への取材では、インドの将来性に対する期待の大きさが感じられた。一方、取り引きとなった場合、ビジネスを進める上での不安が伴うことも本音のようだ。今回のインド見本市への出展は、各企業とも自社製品を紹介するとともに、インドでのビジネスについて見聞を広げることも大きな目的になっているようだ。
 高崎市では、群馬銀行や日系企業の協力により、タイのバンコクで「高崎ものづくりセミナー」を開催する。高崎市青年経営者協議会の会員企業など市内企業の参加が予定され、新たなビジネスマッチングを狙う。
 企業単独で海外に乗り出すことは大きな労力とリスクを伴うので、今回のような現地国における取り組みは、ビジネス開拓や人脈の開拓に大きな力となるだろう。

■■出展企業の声■■

株式会社小島鐵工所
代表取締役社長 児玉正蔵さん

 重工業に進展に伴う設備機械の需要に期待。過去にインド駐在の経験があり、独特のビジネス環境、ビジネス習慣を実感。公共の後押しが重要だ。
 当社は30年以上前からインドに進出した日本の自動車メーカーにプレス機械を納めており、日本メーカー以外にも韓国他、外資のインド工場に機械設備を導入していただいている実績があります。現在は販売契約を行っている現地商社や日本の商社がおり、又、現地生産の為の技術提携を行っている会社もあります。
 インドには大きな可能性があると考え、インドに駐在所を開設し営業・設計の社員を常駐させましたが、リーマンショックによる世界不況に直面し、一時撤退の止む無きに至りました。インド駐在により、私たちはインド固有のビジネス環境を経験しています。
 当社は、欧米、アジア各国と取引があり、海外経験はある程度蓄積されていると自負していますが、インドではどの国とも違った独特のビジネスが必要となりました。英語が実質的に公用語となっていますので、コミュニケーションはとりやすいです。
 インドは、これから産業基盤として鉄鋼、電力をはじめ重工業が発展していくと考えられ、当社のビジネスチャンスも期待できます。産業インフラ、社会インフラが整うのに伴い、12億人と言われる巨大なマーケットが世界から注目されることは間違いありません。インドと言うと、貧富の差、衛生、治安などを心配されると思います。もちろん十分に注意する必要はありますが、日本を一歩出て、世界に踏み出す時は、どこに行こうともきちんとした準備が必要になります。
 既に韓国企業はインドをターゲットとして進出していますが、新市場を開拓することは当然リスクを伴います。もちろんリスクを恐れていては後塵を拝する結果になりますが、リスクを予見し回避するための情報がカギとなります。インドは親日国ですが、各州ごとに関税がかかるためインド国内にいくつもの国が存在するような印象を持ちます。日本の地方企業、中小企業が単独でインドで活動するのは、現在のところ、まだまだ難しいことが多いと言えます。今回のような見本市への出展を通じて政府や公共が信頼関係を築き、個々の企業に負担を軽減していくことは大きな意義があります。
 数千年の歴史を持つ4大文明の地でビジネスを成功させるのは容易ではないと言われています。当社もインドの展示会に出展するのは初めてであり、当社の商品は投資規模の大きな機械ですから、簡単にはいかないと思いますが、可能性と実現性を調査するチャンスだと考えています。

株式会社環境浄化研究所
代表取締役社長 須郷高信さん

--インドへの拠点進出も視野に--
 上海の生産拠点に加え、次のアジア拠点を検討中。インドは有力な候補地であり、出展を通じてインドの情勢をつかみたい。
 私は日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)の研究者として、研究成果を実用化し、暮らしや産業に役立ててきました。在職中にベンチャー支援制度の認定を受けて、この環境浄化研究所を立ち上げ、暮らしと環境をテーマに製品を開発しています。
 当社の技術は、インドのニーズにも適し、貢献できるだろうと考えています。原子力研究所では外国人研究者とも交流し、インドの留学生も多かった。彼らはとても優秀で、現在、インドの研究機関等で活躍している人材もいますから、現地とのつながりもあります。
 当社の製品は、高崎と中国の上海にある拠点工場で生産されています。中国に加え、アジアでの生産拠点をもう一つ置きたいと考え、東南アジアの国々を検討しています。上海の工場を上回る生産力を考えており、物流も重要になってきます。海外に進出している企業では、「チャイナ(中国)プラスワン」の動きが広がっているようですが、プラスワンをどこに求めるかが大変重要です。私は、プラスワンとしてインドの魅力は大きいと感じています。
 当社では既にタイを候補地としていますが、インドにはタイを上回る将来性、可能性を感じます。今回の出展は、もちろんインドの方々に当社の技術、製品を見てもらう目的もありますが、工場進出も視野に入れています。
 私は、東日本大震災による福島第一原発事故以降、放射性物質の除染技術に力を入れてきました。この技術は、福島第一原発の除染や国内の原発のベントフィルターとして実用化されます。世界の原子力産業から注目される技術です。また廃水から重金属を除去する技術は鉱業に役立つなど、アジア各国の産業発展に貢献できるものと確信しています。

高崎市青年経営者協議会
理事長 小林秀晴さん

 親日国インドは市場規模も大きく、発展する国。出展はインド産業界を知るチャンス。インドは未知の国、参加することが第一歩。
 海外、特に東南アジアへ高崎の企業が進出するのは、最近では珍しくありません。青年経営者協議会の会員にも海外と取引し、東南アジアに出張して出かけているという話もよく聞くようになりました。中国や韓国、タイ、フィリピン、ベトナムなどは身近な国といえるでしょう。しかし、私たちにとってインドはまだ「未知の国」です。観光では人気があり、訪れる人も多いでしょうが、産業やビジネスのことになると詳しい情報をもっている人も少なく、高崎の中小企業の私たちがビジネスで行きたいと思ってもなかなか行けるツテもありませんでした。
 ですから今回高崎市の協力のもと「インド国際産業・技術フェア」への出展は、インドにビジネスで乗り込む、またとない機会になりそうです。こうした機会がなければ、インドに行く機会もなかったと思います。インドは親日国で市場規模も大きく、これから間違いなく大発展していくでしょう。インドは人口12億人の大市場であり、進出している外資も多くないと聞いているので、高崎の企業が足がかりを築いておくことは私たちの将来に対して意味を持つと感じています。
 東南アジアの国々では、仮に進出の話があれば工場の立地や雇用、政府や産業界とのパイプづくりなど操業までの段取りが、ある程度目星がつくような気がします。しかし、インドについては、まだそういうイメージを持てるような段階ではありません、今回の見本市への出展を通じて、少しでもハードルが低くなればと考えています。
 高崎青年経営者協議会では、インドに駐留した元商社マンで中小企業基盤整備機構の国際化支援アドバイザーの方を講師として今年9月に勉強会を開催しました。宗教・文化・商習慣の違いが思ったよりも大きく、東南アジアの他の国々のようにはいかないだろうと思います。カースト制度が社会に根強く残っていることも、インドでビジネスを行うためには避けて通れない問題で私たち日本人にはなかなか理解できないと言われています。すぐに取引や進出といった話に結び付けることは難しいかもしれませんが、行ってみないとわからないことがたくさんあるのではないでしょうか。インドのビジネスを肌で感じてきたいと思っています。

■■中国に次ぐ12億の人口、親日の国■■
 インドは推計人口12億人で中国の13億人に次いで世界第2位(10億人を超えるのはこの2カ国だけ)。面積328万7千平方キロ(日本の8.7倍)で世界7位、首都はニューデリー、公用語はヒンディー語ほか州の言語が21、英語が公用語に準じて使われる。ヒンドゥー教徒が8割。産業は農業、工業、鉱業で、近年はIT産業が躍進している。経済成長率は2014年度で4.7%。親日国として知られ、インド在住の日本人は約7,100人、在日インド人数は約2万3千人。

(商工たかさき・平成26年10月号)