多彩で独自な技術を誇る高崎の製造業

 商都高崎は、ものづくりのまち、工業都市でもある。一つの産業分野に絞られた企業城下町ではなく、高崎の製造業はすそ野が広いのが特徴だ。各社のものづくりは個性的で、開発力が高く、生み出される製品にはメーカーと呼べる力が備わっている。今回の特集では、思わず、おやっ、へぇ、と感心してしまうような製品を作っている企業を紹介したい。

「商工たかさき」 2014/11号より

■■有限会社 望月製作所■■
国内で2社だけの特殊印刷機 宣伝も営業もしない会社

●布テープに特化した印刷機

(有)望月製作所・望月公徳さん

 阿久津町の望月製作所は、ストラップのひもやリボンなど、細くて長い布テープなどの素材に特化した専用印刷機を製作している。この分野の印刷機を製造しているのは国内では2社しかないそうだ。
 ロール状に巻かれた布テープが印刷機を通り、再びロールに巻き取る「ロール・ツー・ロール方式」で、印刷機を連結すると多色刷りも可能で、望月製作所では6色まで対応できる。一度に複数色を印刷できるので手間もかからず大幅な効率アップとなる。
 この印刷機はスクリーン印刷を応用したもので紙や布など素材を選ばず、ゴムのような伸縮素材、織目がある布でも精細に印刷できる。布幅も大小に対応し、アパレルメーカーにとっては欠かせないものとなっている。衣類の衿の部分に付けられたロゴマークのタグや、服の裏側の素材・洗濯表示のタグなどに使われている。

●8割が導入、業界で口コミ「望月で買え」

リボン状に印刷された商品タグ

 望月製作所は、昭和51年(1976)に、孝治社長の父、公徳会長が創業し、機械の修理・メンテナンスを行っていた。繊維産業が集積する福井県に顧客が多かった。当時、布テープ用の多色印刷機は国産には無く、「国産の機械があれば」と持ちかけられたのがきっかけで公徳さんの機械屋精神に火が付き、昭和52年に第1号機を開発した。
 当時は印刷した布製品は洗濯するとインクが色落ちし消費者クレームにつながることがあったが、望月製作所の機械を使うと洗濯に強い製品ができ、福井県の繊維業界での導入が進んだ。
 昭和61年5月、イギリスのダイアナ妃が来日し、世間はダイアナフィーバーで包まれた。ダイアナ妃が日の丸をデザインした白地に赤の水玉模様のワンピースを着ていたのをきっかけに、この年は水玉模様が大流行となった。水玉模様の布地を織機で織るのは手間がかかったが、望月製作所の印刷機を使うと簡単にできた。
 繊維業界の一部は織りから印刷へと大きく移行し、業界内で「望月の機械を買えばなんとかなる」と言われるようになった。この業界では8割の企業が望月製作所の機械を導入しているという。

●メーカーにならなくてはいけない

 望月製作所の評価は高まり、多種少量のアパレル製品が低コストで生産できるので用途は拡大した。受注の多くは繊維業界の口コミで、孝治社長は「宣伝も営業もしていません」と話す。
 「会長は機械職人で、お世辞も言えない。電話でお客様をどなっていた時は横でハラハラしたが、お客様との信頼の絆で結ばれている証拠でしょう。メーカーにならなくてはいけないと、父が取り組んできた機械の価値をお客様に認めてもらっている」と孝治社長はうれしそうだ。海外から突然、注文のファックスが届いた時は、会長と社長が目を見合わせて驚いたそうだ。
 同種の機械はヨーロッパや中国で生産されており、価格面での比較は避けられない。望月製作所の製品は耐久性があり、既に20年、30年の長期間、問題なく稼働を続けている実績がある。「どちらがいいですかと聞くと、望月を選んでくれる」という。
 機械部品の調達や加工のアウトソーシングは高崎市内。「高崎のものづくり仲間なら、品質や技術がしっかり見えているし、細かな注文や無理も言える」と孝治社長は語る。

●真似をされたら更に上を行く

 会長のこだわりで、メンテナンスがしやすいのも望月製作所の特徴だ。顧客側で対応してもらえるので、望月製作所から出向く労力を軽減できるが、保守サービスなどの稼ぎどころを捨てることになる。会長も社長も「それでいい」という。「お客様に利益のある機械となり、事業の拡大に役立てば、もう一台導入してもらえる」と考えている。実際に10台、15台と導入している企業もあるそうだ。
 メンテナンスのしやすさは、機械の内部を簡単に覗かれることでもある。多くの企業が機密とする電子制御部も顧客側で対応しやすいよう、パスワードによるプロテクトをかけていない。プログラムしたデータが盗用されるリスクは避けられず、実際に海外メーカーに不正コピーされていたそうだ。
 孝治社長は「他社が望月と同じ性能が出せるわけではない。今よりも良いものが、必ず登場するので、技術の独占を考えるのではなく常に向上させていきたい。必要な技術は特許を取得しており、望月の技術力を示したい」と意欲を見せる。
 積極的なPRをしてこなかったので、これまでは、口コミの県外顧客が多かったが、最近は県内企業から改めて注目される機会も増えてきたそうだ。応用分野を広げ、新しいマーケットを創造していきたいという。

■■相原製鋲株式会社■■
月170トン、300~400種類のネジを製造 BtoBの生産に特化

●体育館の床を支える「縁の下の力持ち」

相原製鋲・相原武さん

 体育館の床は適度な弾力性が求められ、二重床の構造をしている。コンクリート基礎の上に支持脚と呼ばれる長さ数10センチから1mほどの鋼材の支柱が並べられ、水平を調整しながら床材が張られており、コンクリート基礎と支持脚の間にはクッションゴムの台座を挟み、床から受ける疲労感や関節への負担を軽減している。
 この床下に使う支持脚は、相原製鋲の製品の一つだ。社名の「鋲」は、業界ではネジ類を意味しており、この支持脚は水平高を微調整する機構がネジとなっている。二重床はスポーツクラブやエアロビクススタジオ、剣道場などで使われている。OA機器の床下配線に便利なので、オフィスでも施工されている。

●ネジ一筋に70年

 相原製鋲は、ネジ一筋に約70年の企業で、「ネジのことなら何でもまかせてほしい」と相原武社長は語る。ネジはボルトとナットの総称でJIS規格に定められており、ボルトを雄ネジ、ナットは雌ネジと呼ばれ、相原製鋲は雄ネジ=ボルトを専門に生産している。
 戦後間もない昭和21年に新町で父の栄さんが創業し、昭和40年に綿貫町の高崎工場が稼働を開始した。当初は、ホームセンターに並ぶ木ネジや釘なども製造していたが、海外製品などとの単価競争が激しくなり、BtoBの生産に特化した。
 現在、1カ月に約170トンのネジを生産しており、取引先は自動車や機械、建設関連が多いそうだ。製造しているネジは直径8ミリから25ミリで、材料の鋼材も多様だ。全てを並べると約300から400種類に及ぶという。用途は客先の企業秘密であることも多く、相原社長も自社製品がどのように使われているか、よくわからないという。

●「相原で造れないネジはない」

 相原製鋲ではネジの製造を、常温の金属棒を金型に入れ圧力を加えて成型する「冷間圧造加工」と呼ばれる製法で行っており、材料ロスも少なく切削と違って金属くずなどは排出されない。
 高崎工場は創業者の栄さんが用地の確保など準備を進めてきたが、完成の前年に他界し、武社長が26歳で会社と新工場の建設を引き継いだ。「会社を成長させようとがんばってきた父に新工場を見せたかった」と振り返る。
 「親会社というものはなく、下請けという気持ちもない。ネジメーカーとしての自負を持っている」と語る。「できないネジはない。お客様に頼まれるものは全て造れるようにする」と技術力に自信を持ち、ものづくりの奥深さが工場内に溢れている。製品によっては作業工程も多く、まさに手づくりと言えるネジもある。ネジに刻まれた「らせん模様」の美しさは、産業を支える工業技術の粋を感じさせる。
 「一台の自動車に何本のネジが使われるかわからないが、一本のネジの強さが自動車の性能に影響し、一本のネジの重さが車重を大きく左右する」と語る。ネジを製造している企業は、県内でも数社しかなく、貴重なものづくり技術と言えそうだ。

●実用新案取得も

体育館の床や機械器具の脚部となるネジ

 機械器具の脚部に取付け、高さを調整するアジャストボルトで実用新案を取得している。設置場所が必ずしも平らな場所に設置されるとは限らない。相原社長が考案したアジャストボルト(フレキシブルレベラー)は、15度の傾斜まで対応できる。ネジの仕組みは昔から変わらないが、「応用していくことがものづくりの面白さ。どう使うかが、付加価値につながっていくでしょう」と言う。
 相原製鋲では十年前にISO9000を取得し、生産管理に力を入れてきた。「小口化、短納期化が進む中で、ISOの取得は役立っている。社員教育も非常に大切であり、スキルアップや意識の向上につながっている」。ものづくりは現場が最も大切であり「社員一人ひとりの力が発揮されないといいものができない」と相原社長は考えている。

■■株式会社シミズプレス■■
デザイン性に優れた国内唯一の技術 メーカーをめざした挑戦

●年月をかけて磨いたオンリーワン技術

シミズプレス・清水紀幸さん

 シミズプレスはパイプ鋼のスエージング加工(絞り加工)のスペシャリストだ。スエージング加工はパイプの一部や末端を叩き伸ばしながら細く成型する技術で、シミズプレスは多様なパイプ素材、複雑な形状、多種小ロットに対応できる国内でも数少ない企業だ。応用分野は機械部品からエクステリアと幅広い。デザイン性に優れた加工技術を持つのは国内では同社だけだ。
 シミズプレスは部品加工にとどまらず、「デザインパイプ」を独自開発し、販売も行っている。このパイプは木彫のような風格があり、「グッドデザインぐんま」にも選ばれ、インテリアやエクステリアの市場を狙っている。

●太陽光パネルの架台に新需要

 東日本大震災以降、再生可能エネルギーに注目が集まり、太陽光発電システムの設置が全国で加速した。新規事業者が続々と参入し、設置しやすい平地が無くなると山の斜面や農地での設置ニーズが増え、地盤の悪い条件で効率的に施工することが施工業者の大きな悩みとして浮上した。
 ソーラーパネルの架台は強風に耐える基礎部分が必要だが、山間部の急傾斜などコンクリート基礎が作りにくく、杭を打つにも重機が入らない。事業者間の価格競争や設置工事の増加で、工期の短縮とコストダウンも伴い、簡単に施工できる工法としてスクリュー型の杭打ちに注目が集まり、施工業者から資材メーカーに注文が殺到した。

●回りまわった結果がシミズプレス

開発初期モデル(右)と
商品化されたスクリュー型杭

 この時、スクリュー型の金属杭を製造しているのは国内で奈良県の1社だけで、納品まで3カ月待ちの状況に、資材メーカーは冷や汗をかき始めた。
 ある日、シミズプレスに見積もりの依頼が相次いだ。ある資材メーカーが何社かに打込み型杭の製作を依頼したらしく、回りまわった結果、各社がシミズプレスにたどり着くことになってしまった。
 清水社長の開発者魂が燃え、先行する製品より優れ、価格面でも勝負できる新製品に挑んだ。スクリュー部分など随所にアイデアを加えて半年以上にわたって改良し、何十本もの試作品を作った。様々な地盤で杭打ち実験を繰り返し、群馬県産業技術センターに引き抜き強度の試算を依頼した結果、通常の杭の3倍の能力を持つスクリュー型基礎杭が誕生した。スクリューのらせん部分を連続させずに分割することで、地盤への貫入効果を上げ、製造コストを抑えることができた。
 この杭は、手持ちの小型インパクトレンチで施工でき、施工後すぐにソーラーパネルを架設できる。発電期間が終了して撤去する際は、杭は金属リサイクルでき、コンクリート基礎のような産廃処理も必要ないので環境面でも評価されている。

●「誰も作ってくれなかった」が励みに

 清水社長は、スクリュー型基礎杭の応用分野として、地盤の悪い施工現場や仮設のフェンスの基礎杭を開発し、販売を始めた。この製品は現場の作業性に優れているので、土木工事の様々な場面で取り入れることができそうだ。
 デザインパイプは、群馬県が進める「がん治療技術地域活性化総合特区」の一環として、医療や介護の分野での展開が始まっている。パイプに柔らかな曲面が加工できるので、通常の丸いパイプに比べて体力が衰えた人でも握りやすく、ベッドサイドやトイレなど立ったり座ったりする時の手すりに適している。「どの会社も作ってくれなかった」と看護師から喜ばれているそうだ。こうした試作的な取り組みを積み重ね、同様の悩みを抱えている全国の医療・介護現場へ展開も視野に入れている。「メーカーをめざしていくためのアクション」と清水社長は考えている。
 「自社の強みを生かした技術で社会に貢献できる。喜んでくれる人がいるのは大きな励みになる」と清水社長は語る。常に「次へ、次へ」と動いている清水社長から挑戦を続ける熱気が伝わってくる。

■■関東プラスチック工業株式会社■■
ケロリン桶は50年 ミッフィーで親しまれるメラミン食器

●実はケロリン桶は高崎産

関東プラスチック工業(株)・栗原正広さん

 黄色い重厚なプラスチック桶の中央に内外薬品の頭痛薬「ケロリン」の宣伝が印刷され、銭湯や温泉で使われているいわゆる「ケロリン桶」は関東プラスチック工業で50年間製造され続けているロングセラーだ。昭和の庶民文化の味わいがあり、内外薬品の本社がある富山県の土産品になっており、都内の大手DIYグッズ店でも販売されるプレミア商品だ。
 内外薬品のホームページによれば、子どもが銭湯で蹴飛ばしても、腰掛にしてもビクともしない驚異的な桶で、別名「永久桶」と呼ばれているそうだ。ケロリン桶は根強い人気で全国に行きわたり、これまでに200万個、現在も、年間4〜5万個が生産されているという。
 このケロリン桶が高崎で作られていることだけで、関東プラスチック工業は高崎市民の自慢になりそうだ。

●ミッフィー食器も43年の歴史

「ミッフィー」のマグカップ

 子育て家庭でお馴染みのキャラクター「ミッフィー」の絵柄が入ったメラミン食器も関東プラスチック工業の製品だ。今から43年前、日本で初めて特約生産を開始し、現在は、同社の海外拠点で生産されている。絵本「くまのがっこう」のキャラクター食器も関東プラスチック工業のオリジナル商品となっている。ミッフィーのプレート皿に幼い頃の思い出を持っている人も多い。親子二世代、三世代にわたって愛されているロングラン商品だ。
 他にも技術を活かし、同社はプラスチックで陶器のような質感やガラスのような透明感が表現できる。製品は茶碗や皿など3千から5千アイテムに及ぶそうだ。

●厨房器材・食器に特化し安定したシェア

 プラスチック製品の用途は幅広く、産業や家庭のあらゆる分野で使われているが、関東プラスチック工業は昭和36年に設立され、厨房器材や業務用食器など食に関わる製品に特化し、付加価値の高い製品づくりをめざしている。プラスチック食器メーカーは、全国に7、8社で、関東プラスチック工業は安定したシェアを持っているそうだ。
 プラスチック食器にはメラミンのような熱に強い「熱硬化性樹脂」と、熱で柔らかくなるポリプロピレンなど「熱可塑性樹脂」の2種類があり、関東プラスチック工業は、どちらにも対応できる数少ない企業という。
 プラスチック食器は、昭和50年代に学校給食の食器が金属のアルマイトからメラミンやポリプロピレンなどに移行し、広く普及した。給食の時間の重い食器運びから、子どもたちが解放された。関東プラスチック工業の栗原正広工場長によれば、学校給食用の食器は耐熱温度120度で「食器洗い機で洗って1,000回使えることが標準となっているので5年間使える」というから、とても丈夫で長持ちすることがわかる。

●特許技術を活用した印刷食器

 プラスチック食器は、絵や模様が入ったことで普及が加速したが、栗原工場長は「プラスチックに絵を入れるのは画期的な技術だった」と語る。関東プラスチック工業は、特許技術を取り入れた独自の製造技術を持っている。四角い渦巻模様と龍の絵柄の中華どんぶりは、同社の人気アイテムの一つで、過去に絵柄を変えたら売れ行きが落ちたので元に戻したそうだ。
 製法は、プラスチック樹脂の粉末を金型に入れて高温高圧で成型し、絵柄を印刷した特殊紙、陶磁器のような透明感を出す釉薬を加工するもので手間がかかっている。中華どんぶりだけでなく、ケロリン桶を始め、同社の製品は手作業の工程も多く、手作り品と言っても良い。食器の内外両面や透明な食器に絵柄を入れたりすることもでき、技術を生かした商品企画やデザインも同社の大きな強みになっている。

各企業のものづくりには、それぞれ原点や信念があり、技術革新や製品開発に結び付いている。技能、技術とともに「ものづくり職人」の誇りや発想の豊かさを実感させ、企業の挑戦が高崎の製造業を成長させる原動力になっている。

■有限会社望月製作所
会長:望月公徳
代表取締役社長:望月孝治
住所 :高崎市山名町302
工場:高崎市阿久津町1238
電話 :027-346-5468
URL:http://www.mochizuki.cc/

■相原製鋲株式会社
代表取締役:相原武
住所 :高崎市新町2084
電話 :0274-42-0871

■株式会社シミズプレス
代表取締役:清水紀幸
住所 :高崎市倉賀野町2987
電話 :027-320-2880
URL:http://shimizupress.com/

■関東プラスチック工業株式会社
代表取締役:大橋和男
住所 :高崎市八幡町369
電話 :027-343-1611
URL:http://www.kanpla-net.com/

(商工たかさき・平成26年11月号)