あなたの企業からヒット商品を

実践的なビジネス塾「販路開拓セミナー」を開催

 売れる商品のポイントは何だろう。今、どんなものが売れているのか、消費者のニーズはどんな傾向にあるのだろうか。今年度、高崎商工会議所はそうした会員企業の声に応え、売上を伸ばす商品開発や販売戦略に役だててもらう販路開拓支援事業を実施した。新商品開発に結び付くなど、参加企業に手応えをつかんでもらっている。

「商工たかさき」 2015/2号より

●理論と実践の両輪で

 高崎商工会議所は、会員企業の商品を首都圏で売り込んでもらうイベント「たかさき物産フェスタin 東京駅」を3月6日(金)、7日(土)に計画している。出展する会員企業に、首都圏消費者である東京駅利用者の反応を体感してもらうのが狙いで、バイヤーとの商談会も予定している。
 この事業は、国の公募で全国の中から高崎商工会議所の計画が選ばれたもので、見本市などに出展したことがない企業も臆せずに参加してお勧め商品をPRしてもらい、展示即売会・商談会のノウハウを実際に体験する実践的なビジネス塾となるものだ。もちろん、バイヤーから引き合いがあれば、どんどん商談を進めてもらう。
 事前のスキルアップとしてトップバイヤーなど4人の講師による「販路開拓セミナー」を12月に高崎商工会議所6階ホールで行い、実際に販売している商品をブラッシュアップ。耳の痛いアドバイスもあったようだが、バイヤーの買い付けや共同で新商品開発にこぎつけるなど、大きな成果も生まれている。
 12月に行った販路開拓セミナー「現在のトレンドはこれだ!」から、ヒット商品のターゲットやバイヤーが求める商品について探ってみた。

■ジャパンプレミアムをめざそう

日経BPヒット総合研究所
上席研究員 渡辺 和博氏

●ヒット商品の裏に3つの購買層

◆30代女性の傾向は「不機嫌」
 過去10年ほどのヒット商品の傾向では、30代女性、30代・40代の共働き夫婦、50代から70代の団塊の世代の三つのクラスター(=集団・群)が見えてくる。
 まず30代の女性の特徴を見ると、団塊ジュニアでもインテリ層のジュニアと言える。データを調べれば調べるほどかわいそうな女性たちで、「不機嫌」が特徴だ。就職氷河期で男女の内定率に大きな差があり、女性の方が競争率が高いので、同じ職場の男子と比べると、女子の方が優秀だ。周りの男子は幼く見えて恋愛の対象にならない。自己承認欲求が強いので、自分へのご褒美、癒しが大好きだ。

◆「幸せ」発信するイクメンファミリー
 30代、40代の共働きのイクメンファミリーは、男性が家事に参加するのは当たり前。以前はベビーカーはママが使うので軽くて華奢だったが、最近はパパが使うので、タイヤも太くてごついものがヒットしている。調理家電も人気となっている。
 この世代はインターネットのソーシャル化(人同士のつながり)に伴い、「リア充(現実の生活が充実していること)」自慢で写真を撮って発信しまくるという傾向がある。イベントなどの参加型ブームが起きている。「自分は幸せだ」という「勝ち組感」が大事だ。自慢をして「いいね」をしてもらうのが満足感だ。

◆幸せ感が違うシニア世代
 50代、60代、70代は、世代で「幸せ感」がかなり違う。60代は競争が大好きで、「俺はがんばった」と広い家に住んだり、商品も松竹梅と縦に並べて選んで優越感を感じるところがある。50代はそういう60代を見ながら、隣がどうこうよりも「俺がいいというものがいいんだ」という「こだわり」の世代だ。70代は人口も多く、医療介護施設も絶対的に足りなくなると考えている。そのため健康に関心が高く、自分で自分の面倒を見るセルフメディケーション(自分自身で健康を管理する)のニーズが拡大する。

◆20代の非恋愛型消費の定着
 30歳以下の若者のトレンドを把握するのは難しい。恋愛や結婚をあまり意識しない若者たちだ。恋愛は消費の大きな動機になっているので、20代が恋愛をしなくなると、クルマ、酒、ファッション、映画などのエンタメ(娯楽)、外食、化粧品、旅行などへの強い消費動機が減ってしまう。晩婚化、少子化に歯止めをかけるのは難しい。そのため「おひとりさま消費」、「いいね消費」、インターネットのネタになる「ネタ消費」が一般化してきている。

●地域発ヒット商品の落とし穴

 ターゲットは広げすぎず、100分の1のマーケットを狙ったほうがいい。ターゲットのニーズとずれていると「ものはいいけど売れない」ことになる。どうしても作り手目線になりがちだ。消費者の視線で、消費者のどのような幸せに応えるのか価値を設計し、わかりやすく「見える化」し、伝えることが必要だ。
 地域のブランドづくり、ファンづくりを考え、継続的に愛される存在をめざしたものづくりが大事だ。そのためには、ヒアリングや行動観察がスタートで、ターゲットとなる消費者のことを知ることだ。
 人口が減るので地産池消に余りこだわると発展性が見込めない。海外、世界から尊敬されながら、規模は拡大しなくても持続可能なビジネスを設計し、地域に雇用を創出するジャパンプレミアムが大事だ。中小、中堅企業だからこそ実現できる少量で付加価値の高いものを開発してほしいと思う。

■ 安心・安全と新しい価値観を

小田急百貨店 新宿店食品部
ギフト・企画担当バイヤー 太田 幸伸氏

●新しい価値観、未来につながるギフト

 共働き世帯、子育て世帯、団塊の世代と子・孫の三世代の消費がボリューム感のあるターゲットとなっている。団塊の世代の中でも、高給な仕事を退職し目の肥えたシニアも新たなターゲット分野として見えてきた。百貨店では上層のお客様にいいものを届ける取り組みも重要と考えている。
 今までのブランドとともに、新しい価値観も提供していきたい。未来につながるギフトとして、人と地球にやさしいギフト、環境や健康にやさしいギフト商品を提供している。未来の食材とされるユーグレナを配合した食材などにも取り組んでいる。

●表示には厳しい基準

 昨年の食品誤表示問題を踏まえ、百貨店協会の基準の他、当社独自のガイドラインを定めている。実際の商品よりも根拠がなく著しく良く見せる「優良誤認」に対しては特に厳しく、当社では扱えない。商品名やギフトの中に入っている小冊子やパッケージでも留意していただきたい。「特選」「特上」などは一般的には使いやすい表現だが、JAS規格など具体的な基準があって表現されているものは問題ないが、具体的、客観的な基準がないものについては可能な限り使わない方向で当社は取り組んでいる。青果の「朝採り」も厳しくチェックしている。
 富岡製糸場の世界遺産登録、北陸新幹線やNHKの大河ドラマ、連続ドラマに取り上げられ、群馬エリアが活性化するのは間違いなく、当社も取り組みたいと考えており、これから良い商品に巡り合えることを楽しみしている。

■ 30代女性に生活提案

ナチュラルローソン商品部
部長 稲葉 潤一氏

●30代女性をターゲット

 ナチュラルローソンはライフスタイル提案型で30代の女性が主なターゲットで、「できたて感・美・高付加価値・健康感」をコンセプトに、お客様の一歩先を行く、生活を提案するお店だ。
 ナチュラルローソンは、本物のおいしさにこだわりたい。商品を採用する視点は、本物のおいしさ、本当に安心できる食、新しい価値を持つ商品の創造と発見だ。商品を見つけることと一緒に作ることを同時にめざしている。
 新しい価値というのは非常に難しい。商品開発のプロセスは「創る(現状把握・商品企画)」、「作る(原料調達・製造)」「売る(コミュニケーション・販売)」と考えている。

●商品の3つのポイント

 商品を確認する時のポイントは「見た目」、「こだわり」「裏表記」の3つで、ナチュラルローソンのコンセプトとターゲットに合わせた「見た目」が必要だ。「こだわり」とはお客様にとって価値のあるこだわり、物語性。雑味を確かめるために裏表記も確認している。「いくらで売りたいですか」と販売価格を伺うと、我々が考えるよりもはるかに高いことが多い。もう一歩努力していただき、加工や原料を突っ込んで考えてもらって初めて商品ができる。皆さんと商品を作っていきたいと考えている。

■ 誰に・どこで・どう売るのか

五味商店
代表取締役 寺谷 健治氏

●大手と共存できる仕組み

 どのメーカー、生産者にも一番欠けているのは営業力で、皆さんに営業力の強化を考えていただきたい。
 私たちは零細企業で、大企業と同じ土俵では全く競争にならず、共存できる仕組みを考える必要がある。その地域でしかできない、その企業でしかできない商品は大手と違う魅力がある。零細と大手が共存できる仕組みがわかれば、企業が成長できる。
 製造するメーカーと配送する問屋、販売する小売店とのチームワークができなければものは売れない。商品を作り上げた満足感ばかりが大きく「こんなにいい商品ができたのになんで買ってくれないのだろう」と言われる。商品を販売する方法論、販売方法に対する提案が必要。この商品を誰に、どこで、どのように売るのか、売り方の提案が全くない。

●商品の価値を伝える仕組みを

 商品の絶対条件はおいしさにあると思っている。おいしくなければ売れない。おいしければ、どのチャネルでも売れる。
 とは言え、商品を消費者に届けるには多くの苦労があり、実際に売るのは難しい。百貨店もテナントが多くなる傾向があり、今まで地方から納入していた商品が消えていく。売場の確保も必要で、いいものをお客さんに売れる仕組みづくりが必要だ。消費者に価値を伝えていくことが我々流通業にとって一番大事な使命ではないかと感じている。
(講演要旨は編集部文責)

■ 企業の反応

●ターゲットを明確にした商品づくり

 セミナーの中で、30代女性、子育てファミリー、シニア層が消費動向を大きく動かすターゲットとして共通に指摘された。講師からのアドバイスを受けて、さっそく商品開発に取り組む会員企業もある。
 どんなにおいしくても、手に取って買ってもらえなければ、魅力のある商品とは言えない。和菓子の㈱六郎(貝沢町)では、これまでもパッケージに力を入れてきた。お客様との直接対面販売する店売りを主軸とし、赤飯まんじゅうのヒットで知名度を上げている。若い世代に受け入れられる味わいと、梶田修司社長のアイデアあふれるパッケージで、顧客を広げている。お目当ての商品に加え、並んでいる商品も魅力で「ついで買い」したくなる品揃えだ。
 遠方からも訪れる「赤飯まんじゅう」は、インターネットのフェイスブックなどで買ったことを自慢したくなる。発信力があり、「ソーシャル化」の客層をうまく取り込んでいる。
 上毛食品工業㈱(矢島町)では、健康志向に合わせ、大手メーカーにはできない機能性の高い乳製品を開発した。セミナーを通じ、機能性健康食品が注目されていることがあらためて認識できた。同社の製品は独特の味わいで、飲んだ人の二人に一人が「はまる」。個性があるのだ。価格は大手の量産品よりも高めだが、バイヤーのアドバイスは、売れる価格を決める上で有益だった。「中小企業はパッケージが大事。高崎にいるとなかなか聞けないアドバイスが良かった」と栗本靖彦社長は、今回のセミナーを製品づくりに生かし、新商品では女性が手に取りたくなるパッケージのデザインに力を入れる。

●売れすぎる心配で尻込みするよりも

 今回のセミナーや大手との商談会を紹介すると、「そんなに売れても作る力がない」と謙遜される会員もいるが、商品の魅力と価値を客観的に評価してもらうことは、企業の自信にもつながる。また商談で発注規模が自社の生産力に見合うものでなければ、経営判断を優先する例も少なくないが、現在の企業力にふさわしい取引先と出会えるチャンスもある。
 これから話題になる商品、ヒットする商品は、みなさんの企業ですでに取り扱っている、目の前にある商品となってほしい。

(商工たかさき・平成27年2月号)