災害に備える土木建設業

除雪の最前線で 奮闘する事業所

駅前を除雪するグレーダー(昨年2月)

 ちょうど一年前になる昨年2月の大雪で、道路の迅速な除雪が市民生活を復旧させる上で極めて重要であることが認識された。家の周りの雪かきが一段落して通りに出てみると、幹線道路が除雪されて車の通行ができるようになり買い物や通勤ができると、ほっとした気持ちは忘れることができない。
 あの時、道路の除雪作業は誰がやってくれたのだろうか。

「商工たかさき」 2015/2号より

●降雪予報で除雪待機

高橋榮作理事長

 大雪の経験を踏まえた周到な除雪計画が、国、県、市によって策定されているが、よほどの積雪地域でなければ自治体は除雪車を常備していない。昨年のような「百年に一度」の豪雪に備えた除雪能力を自治体が備えることは不可能であり、また現実的でない。そこで、積雪時には土木建築の事業者に除雪に使える重機を提供してもらい、市内の事業者ごとに、割り当てをした区域の除雪作業を行ってもらうことになっている。
 この取り決めは以前から運用されており、降雪が予報されると各社の担当者は、休日夜間に関係なく、すぐに出動できるように待機することになっている。各社で所有する重機で不足する場合は、レンタル事業者に手配する。予報が外れて雪が降らなければ、待機は解除となる。
 今年もすでに倉渕地区は除雪作業が何回も行われている。昨年の大晦日から元旦に降雪が予報され、元旦に開催されたニューイヤー駅伝に備えた厳重態勢で、スタートの号砲が鳴る前にコースとなる道路はランナーが足元を気にせず走れるように除雪作業、融雪作業を徹底して行うための待機が行われたのは知られていない。
 「それも仕事だろう」と言われればその通りだが、待機で終わった場合は実際に作業を行っていないので、自治体から除雪費用は出ないようだ。一方、現場では「雪が降ってからでは対応が遅くなる。パトロールをして天候や道路の状況をいち早く確認することが重要だ。初動の良し悪しで、その後の作業に大きな違いが出る」と空振りを恐れずに緊張感を持っている。

●土建業の使命感で全力尽くす

 高崎土木建築業協同組合の高橋榮作理事長は「市民のために全力を尽くして除雪し一刻も早く道路を開通させようと取り組んでいる。建設事業者としての使命感が私たちの体に染みついている」と作業に携わる人たちの気持ちを語る。
 昨年2月の大雪は、日頃から準備に余念がない土木のプロ達もさすがに手を焼いたそうだ。14日から日付が変わった午前3時過ぎ、不気味に静まり返ったまちへ融雪剤の散布に出動すると、雪で大型トラックが立ち往生して道路をふさいでいる。なんとか移動しようとしているうちに雪が積もり、早朝の数時間で状況が一変したという。高崎市内の平年の積雪は多いときで10㎝程度、昨年は2月初めに30㎝の積雪があり、大騒ぎしたばかりだった。
 高橋理事長は「寝食を忘れ、一丸となって死にものぐるいで除雪した」と、この時のことは鮮明に記憶している。「行政と契約した持ち場の範囲とか、建前を言う人は誰もいなかった。どこのまちよりも早く高崎の除雪を進めようと必死だった」という。皆、自分の家庭を後回しにして除雪作業に協力した。
 緊急車両が通れるよう優先して除雪する道路を判断し、病院などに通じる道路の除雪も依頼が多かった。普段、倉渕の二度上峠で除雪に使用しているグレーダー(除雪に活躍する建築車両)を高崎市街地まで降ろし、高崎駅前の除雪作業を行った。
 道路に積もった雪をならしながら除雪するので、独自に自宅の前だけきれいにした市民から「家の前に雪を寄せた」と叱られた。「後からきれいにするから」と言っても聞いてもらえなかった。「除雪に来るのが遅い」とも言われた。この時の大雪を災害として市民が自覚するには時間がかかった。作業の大変さは次第に市民に伝わり「お疲れさま」と差し入れを頂き、ねぎらってくれる人もいたという。
 お礼の電話が市民から寄せられ「無事故でやりきった。縁の下の力持ちとして市民の役に立った」と大きな達成感に包まれたという。

●常に災害に備えて準備

 高崎市は、昨年の経験を生かし、土建業組合、レンタル事業者、レンタカー会社と協定を結び除雪計画を策定し大雪に備えている。大雪が予想される場合は、市に除雪対策本部、土建業組合に除雪作業本部を設置し連携が強化されている。除雪箇所の優先順位、除雪要請を一元的に把握し、指示系統が明確になるので、現場の動きもよりスムーズになる。組合は地図を広げて除雪状況を把握し、次の手を打っていく。
 「全ての路線を同時に作業することは難しいが、皆さんのところに必ず除雪に行くので待っていてほしい」と高橋理事長は話す。「大雪は必ずくると覚悟し、気持ちの準備、機械の準備をしています」と組合は常に気持ちを引き締めている。
 除雪作業の障害となったのが雪に埋もれた放置車両、組合では降雪時の不要不急の外出は避けてほしいと呼び掛けている。
 降雪以外でも土木業者は、台風や豪雨、大地震に備えた災害体制を整えている。暴風雨による倒木、落石、土砂崩れの復旧、地震などの災害後のパトロール、倒壊物の除去など市民の見えないところで高崎の土建業者が活躍している。

●若手作業者が不足。育成が急務に

 高崎市内の降雪地、倉渕地域を受け持つ株式会社研屋で除雪作業を担当する平形真さんは30代。「私より若い除雪作業者は市内に少ない」と話す。マンホールや道路の起伏などの道路状況に応じて適切に、しかも迅速に除雪するのは経験と技術を要する。上司の木暮秋光さんは「私も大型特殊の免許は持っているが、いきなり私にやれと言われもできない」という。
 昨年の大雪以来、市民の防災意識も高まり、行政からの要請も念が入っているが、それに応える受け皿が足りなくなる恐れも出てきそうだ。「経験を積んだ作業者が退職し、5年後には大雪がきたらお手上げになるかもしれないと話す事業所も多い」と組合は危機感を持っている。「業界の存在意義を市民に理解してもらい、今後も市民のために持てる力を最大限発揮していきたい」と高橋理事長は話している。

(商工たかさき・平成27年2月号)