大災害! もし も会社が被災したら?!

事業継続計画づくりで会社が変わる

 平成23年3月11日の東日本大震災から4年、時間とともにあの時の混乱は記憶から薄れてしまいがちだが、昨年2月のような大雪が再び高崎を襲うこともある。大型台風などの風水害、新型インフルエンザなど深刻な伝染病の集団感染など災害に備えた計画が、万が一の時、大きな力を発揮するかもしれない。

「商工たかさき」 2015/3号より

●BCPは被災時の企業戦略

 東日本大震災により、社会全体の危機管理意識が高まった。大型台風やゲリラ豪雨は思わぬ地域で大きな被害をもたらし、新型インフルエンザやエボラ出血熱など深刻な伝染病への対策も重要なものとなっている。鳥インフルエンザや豚流行性下痢など家畜の感染症の拡大は生産者のみならず食品流通にも大きな影響を及ぼす。
 もし、基幹設備が被災したら、多くの従業者が出社できなくなったら、サプライチェーンが途絶えたら・・・。
 事業継続計画(以下BCP=Business Continuity Plan)は、大災害など危機的な事態に直面した場合、企業が生き残るための対策をまとめたもので、仮に被害を受けても影響を最小限にとどめ、より早い事業再開をめざすものだ。
 災害が発生した場合に備えた訓練や、社屋や設備の耐震化・火災防止など減災対策、復旧対策を中長期的に進めていく「防災計画」に加え、BCPは自社が被災したその瞬間に何をすべきか優先順位を決めるもので、被災の中で最も優先すべき業務は何か、それをどのように維持継続していくかをマニュアル化する。被災時に、自社の中核業務を継続できれば顧客への信頼につながる。

●被災をシミュレーション

業務改善の副次効果も
 例えば、東日本大震災と同規模の地震災害が「今、発生したら」と考え、社員やお客様の安全、設備財産の保全、原材料の確保、輸送などを頭の中でシミュレーションしてみるのがBCPの第一歩だ。
 群馬県は地震のリスクが低いと言われているが、首都直下型地震の直接的、間接的な脅威は高崎においても十分に認識しておく必要がある。しかし、一般的なISO規格と違って、BCP策定によるメリットも認識しにくいことから、浸透していない状況もうかがえるが、それでも策定に取り組んでいる企業に話を訊いた。

■製造業

◆株式会社モハラテクニカ
有効性の高い自社流BCP。火災保険にメリットも

茂原純一社長 社内で取り組んでいる様子

●ISOの次はBCPの時代に

 「東日本大震災以降、大手取引先からの調査の項目にBCPが加わるようになった」と茂原純一社長は、時代の流れを感じていた。ISOの取得が進み、次の企業課題としてBCPへの意識が高まっている。
 同社がBCPに取り組んだのは東日本大震災の翌年で、社員の防災意識も高かった。もともとISOの取り組みの中で防災訓練などを実施しており、BCPに取り組む素地はできていた。
 モハラテクニカでは、非常の際に重要な書類などを持ち出す分担を決めており、設計データが保存されているサーバーも持ち出すことになっていた。データの重要性は社員誰もが認識しており、東日本大震災の際、データを持ち出せた企業は再建しやすかったという話を聞いていた。しかし改めて考えると、休日や夜間など会社に誰もいない時に災害が発生したらどうするのか。また、社員が使っているパソコンの状況を調べてみると、サーバーに接続されず、個々のハードディスクだけに保存されているデータが数多くあることがわかった。

●BCPの入門コースで十分

 BCPはISO9000(品質マネジメント)、14000(環境マネジメント)とともに3つ目の柱とし、品質管理、環境管理、防災について、一人ずつ責任者を置いている。BCP策定作業は、専門家の知識を活用しようと中小企業診断士の助言をもらいながら進めた。いざ始めてみると「めんどくさいことばかりで、途中でやめようかと思った」と茂原社長は語る。
 「現状は、BCPを策定しているかどうかが問われているだけ」の側面もあり、極論すればBCPは「お守り」として備えていれば良い。ISOと異なり、審査機関により評価を受けるものではないので、社内でのガイドラインとしての性格が強い。
 だが、茂原社長は、「ISOのようにどうしてもやらなければならないことではないが、取り組む価値はある」とBCPを策定してみて、取り組む意義を感じている。同社が策定したBCPは、いわば入門コースで「自社に合ったものを作れば効果がある」と言う。

●社員とともに現実に使えるマニュアルを

 BCPで最も肝心なのは「社員といっしょに取り組むこと」と茂原社長は考えている。BCPに盛り込まれている項目の中でも、同社では余り有効でない内容もあったので、ひな形を鵜呑みにせず取捨選択した。
 災害時に最優先させることを明確にし、計画項目をチェックしていくと、自社の姿が見えてくる。同社の工場は耐震性が高く、省エネ設備の「エコアイス」で水の備蓄も十分にある。業務で使っている梱包材、緩衝材は防寒性もあり、一次避難場所として工場が十分に使えることがわかった。新たに購入する防災資材もメガホンや簡易浄水器などで済んだ。

●ルールがあれば被害が抑えられる

 安定的な電力供給の復旧が長期的に見込めず事業が再開できない場合は、全国1万8千社が登録する受発注サイト「NCネットワーク」を活用するという。データさえあれば代行して製造してくれる企業が見つかる可能性がある。そのため安全性の高いデータシステムを検討し、社内データのバックアップ体制を整えた。
 BCP策定により火災保険が優遇されるという思わぬメリットもあった。「ルールがしっかりしていると、被害が軽減できると評価される」と茂原社長は語る。

■造園業

◆株式会社しみづ農園
市内唯一の国交省認定企業

清水大助専務 防災訓練をしている様子

●品質・環境・安全を柱に

 東日本大震災の直後、清水大助専務は高崎青年会議所のメンバーと被災地に行き、「何かできることはないか」という気持ちが強くなった。被災地支援とともに、高崎で災害が発生した場合、自社がどのように地域貢献できるかと自問した。会社の資機材を使えば、地域の復旧に役立つことができると考えた。災害時には公立公園等の倒木など、被災状況を調査する業務も任されており、公的な責任も大きかった。
 そこで清水専務はISO9000、14000とともに、BCPを企業経営の中に位置づけ、品質・環境・安全を一体的に取り組むことにした。
 しみづ農園では、国土交通省関東地方整備局が建設会社を対象にした「災害時の事業継続力認定」に取り組み、平成26年4月に認定を受けた。入札に加点され、この認定を受けているのは、平成27年1月現在で、群馬県内では22社、高崎市内ではしみづ農園1社となっている。群馬県や埼玉県は東日本大震災で甚大な被害を受けた地域に比べて取り組みが進んでいない。

●社内の体制を再検証

 国交省の認定制度は、厳密にはBCPそのものを認定するものではなく、BCPに取り組む姿勢を「事業継続力」として評価するもので、「災害が発生した場合、事業体制が整うのにどのくらい時間を要するのか」など、実効的なものとなっている。現実的には、この認定に取り組むことで、BCPが結果的に生み出される。
 「単に紙の資料を作成すれば済むのではなく、社員や協力企業との情報共有が必要であり、とっさに動けるBCPは大事だと思った」と清水専務は語る。
 計画づくりには半年かかり、コンサルタントにも支援してもらった。認定を受けるには関東地方整備局での面接があり、7人の審査官が質問を浴びせる。「自分でも足りないなと感じていた部分に容赦なく突っ込んでくるので苦しい思いもした」と言うが、落とすための面接ではないので専門家の指摘は有益だったそうだ。「第三者に評価してもらうことで、ひとりよがりの計画ではなくより良いものができた」と語る。
 清水専務が取り組んだ計画の骨子は①なるべく早く社員が集まる、②会社を再開する、③地域に貢献する―となっており、とてもわかりやすいが、どのように実施していくかを具体的に展開するといくつもの問題点にぶつかった。

●BCPは会社の根本になる

 まず最初に頭に浮かんだことは「社員の安全」だった。現場に出ている社員や協力会社を含めた安否確認の方法を検証してみると、安全に仕事をするための仕組みづくりに直結していることがわかった。
 携帯電話を使った安否確認は、抜き打ち訓練を行う。当初は、返事が翌日になる人もいて、清水専務をがっかりさせた。「これまでの習慣を変えていかなければ」と、危機意識の浸透に力を入れた。日頃からの情報共有が強く認識され、その結果、社員同士のコミュニケーションもより円滑になってきた。コンピュータのデータ管理も見直し、より安全なシステムづくりをめざしている。
 BCPには会社としてやるべきことの根本的な課題が凝縮され、清水専務は「BCPができずにビジネスはできないと思う」と語る。「異業種間のBCP連携が進めば、社会全体のBCPが構築できる」と、自社の取り組みに手応えを感じている。

■販社・商社

◆富士ゼロックス群馬株式会社
トナー供給に全力を尽くす

永井正志部長 災害専用無線

●全国共通のBCPマニュアル

 富士ゼロックス群馬では、富士ゼロックスの仕様により高い水準のBCPを備えている。BCPの基本方針、想定リスク、災害による影響や被害の想定、重要業務の目標復旧時間など綿密な計画が立てられ、計画を遂行するための体制も万全だ。
 群馬における災害リスクを想定し「対応をマニュアル化しておくことが重要」と永井正志部長は語る。
 震度6の地震が発生すると対策本部が自動的に即時設置され、震度5強以下の場合は状況に応じて対応する。30分以内に出社できる社員が初動要員として配置されているほか、災害時の出社ルールも定められている。

●平日なら1時間で安否確認

 災害に備えた社員教育、訓練もBCPの一環として実施されている。災害時にまず行うことは安否確認だ。富士ゼロックス群馬には、携帯電話を使った安否確認システムが導入され、災害時には社員がこのシステムにアクセスし、家族状況も含めて安否情報を送信する。
 確認訓練は年間に4回実施し、平日、夜間、週末など状況を変えている。これまでの訓練では1時間で約7割の社員の安否が確認でき、土曜日でも3時間でほぼ全員が応答した。
 防災用品としては社員一人ひとりにヘルメットを用意し、飲料水及び非常食の他にメガホン、携帯トイレ、手回し発電のラジオ・ライトなどを備えている。また社屋エントランスにはAEDが置かれ、救急救命に備えている。

●優先業務と供給手段の確保

 富士ゼロックス群馬が、災害時に最優先すべき業務は「お客様のコピー機が動くこと」と永井部長は力を込める。コピー、プリンタ、ファックスが一体化した複合機の導入も進んでおり、トナーと用紙の供給は業務のライフラインと言える。お客様との信頼関係を考えても「供給ストップが当社の最大のリスクで、止めてはいけない最重要業務」と言う。
 メーカーのトナー製造工場は耐震性に優れ、生産を継続できるよう設計されているが、消耗品等が不足することが想定される場合はメーカーの地震(BCP)在庫の出荷を依頼する事が出来る仕組みが整っている。保守メンテナンスは、お客様の被災状況をまとめて必要な保守要員を確保し、機械が正常に稼動する事を最優先に考えている。
 有事の際に備えて、通信インフラが遮断しても同社は災害専用無線で全国の主要拠点との通話が出来るようになっている。

●お客様情報はすべてデジタル化

 契約書類などの重要書類はすべてデジタル化されてデータセンターで保管されており、社員が使用しているパソコンからの情報流出も防止している。富士ゼロックスが提供している紙文書の電子化ソリューションとクラウドサービスは、平時はビジネスで力を発揮し、災害に備えたBCPの一環としての導入も進んでいる。

■情報処理サービス業

◆株式会社本島ビジネスセンター
災害に強い情報処理システムを

渋沢清司取締役管理部長 自家発電装置

●情報処理産業はBCPそのもの

 本島ビジネスセンターは、受託計算業務やソフトウェア開発など、情報処理サービスを提供し、情報セキュリティ対策は同社の根幹となるものだ。同社は、ISO27000情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS= Information Security Management System)の取り組みと合わせてBCPに取り組んできたが、機密保護、個人情報保護などの対策も含め、情報処理システムはBCPと表裏一体だった。
 東日本大震災はBCPを見直すきっかけとなったという。ホストコンピュータやサーバーが置かれている高松町の本社は、立地上、水害は考えにくい。地震、火災、新型インフルエンザなどの感染症を対象にBCPを練り直し、昨年2月の大雪の経験で、雪害対策も組み込んだ。
 同社の渋沢清司取締役管理部長は「災害時にユーザーに迷惑をかけずに社会貢献を続けていけるか。中小企業がインフラを直撃された場合、自信を持って継続できると言い切れる会社はないのではないか」と厳しい見方をしている。安全対策は、これで終わりというゴールはない。

●災害に備えたハード設備

 ホストコンピュータとサーバーの耐震対策は施しているものの、東日本大震災後の計画停電は、起動と終了に一定時間を要するホストコンピュータの運用に大きな支障をきたした。従来からの無停電装置(UPS)に加えて、自家発電装置を導入、ホスト、サーバー、オフィスのパソコンや照明、電話に電源を供給し、停電時でも支障なく業務を行える環境を作った。万が一の時に発電装置が動かないということがないよう、週に一度は動作確認を行っている。
 予備システムとなるスタンバイサーバーも設備し、データのバックアップは遠隔地に置くなど、リスク分散をはかっている。
 「被災したからシステムが動きません、では全国の顧客に責任を果たしているとは言えない」と、厳しい状況下でも運用できる体制づくりをめざしている。

●災害時の人員体制は

 災害時の出社の判断は一元化し、状況に応じた対応計画を設定している。ホストコンピュータのオペレーションには最低2人を要するので、災害時の人員確保は重要だ。昨年2月の大雪の日は早朝から対策を行い、積もった雪の中を歩いて出勤していただいた。
 「いかなる事態でもベストを尽くしてお客様の信頼に応えたい」と渋沢部長は語る。災害に備えた設備対策に加え、情報システムを守るエンジニア抜きにBCPは成立しない。
 また、同社では、風邪などで発熱したら出社できないルールになっているそうだ。医師の診断を受けるなど発熱中は出社せずに様子を見ることにしている。机を並べるオフィス内は感染が広がりやすい。新型インフルエンザが世界的な脅威となった時にBCPに加え、蔓延を防ぐため全社員に周知している。社屋玄関には消毒用アルコールを置き、インフルエンザ流行期にはマスクの着用も励行している。
 こうした災害対策でシステムの安全性に自信を持って顧客に説明できるようになり、営業面でも効果を与えている。

■環境保全業

◆株式会社群成舎
避難生活を支えるために

芝崎勝治社長

●被災地支援に必要な業務

 避難所の衛生確保は、被災地支援の中でも報道されない分野だった。東日本大震災の際、食料、水など支援物資が届いても、下水道の復旧は相当な日数を要し、避難所の集団生活におけるし尿処理は現地で深刻な問題になっていたという。
 群成舎は基幹業務の廃棄物処理を災害時に継続させるため、車両の燃料を備蓄し、通信手段を独自に確保した。また事務所には自家発電装置を備え、指示機能を維持できるように準備している。
 芝崎勝治社長は「廃棄物、し尿、がれきの処理など被災後の廃棄物処理は都市のBCPとしても必須な業務」と語る。

●被災後の不足資源を独自に確保

 東日本大震災直後の被災地は、燃料不足や通信機能のマヒなどの状況を伴った。被災地では廃棄物処理施設が稼働できず、遠隔地まで廃棄物を運ばなければならなかったという。運搬車両や人員も限られる中、避難所と処理場までの往復を余儀なく繰り返した。現場と連絡を取りながら効率的な対応が課題となった。
 同社では、ガソリンスタンドと同様の設備を敷地に設け、軽油3万リットルを備蓄。廃棄物運搬車両30台に無線機を配備し、本社と直接連絡がとれるようになっている。行政と連携しながら必要な場所に車両を送り、迅速な対応をめざすという。
 廃棄物処理業者で燃料施設を備えている企業は少なく、高崎市の防災インフラとして力を発揮することになるだろう。



 今回の特集では、BCPを策定するなど危機管理に取り組んでいる企業に取材し、策定の動機や過程、成果についてうかがった。東日本大震災によりBCPの必要性を実感していたようだ。BCPについては、国の指針もインターネットで手に入るが、書類の量にうんざりするのも本音で、初めから大きく構えず自社に必要なことから着手するのが効果的のようだ。BCPの策定作業は日常業務を見直すきっかけとなり、改善につながるといった効果も実感しているようだ。

(商工たかさき・平成27年3月号)