第29回高崎映画祭受賞者・受賞作品

(2015年1月20日)

2015年3月21日(土)~4月5日(日)

 第29回高崎映画祭の受賞者、受賞作品、受賞理由は次の通り。

◇最優秀作品賞・特別大賞
『野のなななのか』大林宣彦監督/キャストスタッフ一同

【受賞理由】
 「映画は一つのジャーナリズムだ」とは、大林監督の言葉であるが、まさしくそれを徹底的に、唯一無二の方法論で展開している。ファンタジックでありながら、そこには日本人の日々の生活が、彼らの息づかいが聞こえる。観客を圧倒的な映画の世界に引き込みながら、共に日本人の心を辿り、平和を願う、そうした想いに溢れた力作であった。

  • 「野のなななのか」
  • 大林宣彦監督

◇最優秀監督賞
『そこのみにて光り輝く』呉美保監督

【受賞理由】
 ザラザラとした手触りがいつまでも心に残るような映画である。生活が貧しくも、かたや豊かでも、どこか地を這うように生きざるを得ない瞬間は誰の中にもあるものかもしれない。しっかりとした物語構成が、観客にそれを静かに確固たるものとして伝えていく。隙のない確かな演出力が高く評価された。

  • 「そこのみにて光輝く」
  • 呉美保監督

◇最優秀主演女優賞
『野のなななのか』常盤貴子

【受賞理由】
 演じた信子は、すでにその人生を終えた者、死に行く者、これからを生きる者、それぞれを繋ぐ生の使者のような存在である。それぞれの登場人物のうちに、彼女そのものが支柱となって存在し続ける。そうした人物像を見事に体現し圧倒的に人を惹きつけてしまう。抑えの利いた演技力、人間の厚みを感じさせる美しくもしなやかな表現力が高く評価された。

  • 「野のなななのか」
  • 常盤貴子

最優秀主演女優賞
『百円の恋』/ 『0.5ミリ』安藤サクラ

【受賞理由】
 高崎映画祭初となる2作品からの受賞である。『100円の恋』では自分の肉体を自在に操るがごとく、主人公いち子のどん底時代とそこから脱却する様子を体現した。内面はもちろんのこと外見からもそれとわかる。『0.5ミリ』においては、内面の成長がその声色、表情、全身の隅々から伝わる。それぞれアプローチは違えども、役として生きた瞬間がまさに生々しく伝わってくる。脱帽である。

  • 「百円の恋」
  • 安藤サクラ

◇最優秀主演男優賞
『そこのみにて光り輝く』綾野剛

【受賞理由】
 人生に迷い、苦しみながらも、愛には実直にまっすぐに突き進む青年を好演している。彼の生真面目な愛への渇望が、閉ざされてしまった世界の扉を開かんとする。それが陳腐になることなく、説得力をもって観客に訴えかけられたのは一重に主人公達夫の存在あってこそだ。抑えの利いた確かな演技力で物語を牽引し、その存在感が高く評価された。

  • 「そこのみにて光輝く」
  • 綾野剛

◇最優秀助演女優賞
『そこのみにて光り輝く』池脇千鶴

【受賞理由】
 演じた千夏は、地に落ち行く主人公を、さらにその底から見つめ、支えとなる女性である。全てのことを飲み込み、引き受けようとする犠牲的精神が彼女の躯体からにじみ出る。あらゆる犠牲が、愛のもとに肯定へと変化し自ら先を歩もうとしたときの彼女の体は神々しくさえ見えた。立ち位置を見据えた役作りと演技力は、稀有なる天性の素質を感じさせる。

  • 「そこのみにて光輝く」
  • 池脇千鶴

◇最優秀助演男優賞
『そこのみにて光り輝く』高橋和也

【受賞理由】
 地を這うように生きる人々を、更に追い込み虐げるかのように見える人物を演じる。しかし彼も又社会の歪みが生んだ犠牲者でしかない。悪者は得てして、一方向だけの表面的な存在として現れてしまうが、複雑で屈折した半生がその後ろに横たわっていることが伝わってくる。静かで繊細な心情から、一瞬にしてかわる激情まで、一人の男の人生を表現した確かな演技力が高く評価された。

  • 「そこのみにて光輝く」
  • 高橋和也

◇最優秀助演男優賞
『そこのみにて光り輝く』菅田将暉

【受賞理由】
 演じた拓児は飄々とした風貌の青年である。怠惰な生活も、短絡的で激情的な暴走も、若さゆえに引き起こされていくその危うさが生々しい。瑞々しく豊かな感性が光る好演であった。

  • 「そこのみにて光輝く」
  • 菅田将暉

◇最優秀新進女優賞
『水の声を聞く』玄里

【受賞理由】
 迷える人々を導く新興宗教の教祖という、まがい物でありながらそれとして映る、その存在感に引き込まれる。閉塞した社会で、自己に立ち戻り、模索して進む現代女性の、揺れを見事に体現していた。役柄に対するひたむきさが画面ににじむ好演であった。今後の活躍に大いに期待する。

  • 「水の声を聞く」
  • 玄里

◇最優秀新人女優賞
『2つ目の窓』吉永淳

【受賞理由】
 子どもから大人へと移行する少女の、やわらかく艶めいた生の躍動が見える。役柄をつかみとろうとする若き才能のほとばしりを感じ、瑞々しい存在感に魅了された。

  • 「2つ目の窓」
  • 吉永淳

◇最優秀新人男優賞
『2つ目の窓』村上虹郎

【受賞理由】
 思春期の危うさ、惑い、不信や不安が等身大で映る。気負うことなく画面の中で生きる少年の繊細な感性が光っていた。

  • 「2つ目の窓」
  • 村上虹郎

◇新進監督グランプリ
『0.5ミリ』安藤桃子監督

【受賞理由】
 現代日本社会を冷静に見つめ、さまざまなテーマを盛り込んでいる。老い、介護、孤独死、ジェンダー、ひきこもり、低所得、そのどれもが散らかることなく、人間の生命力と人同士の繋がりに収斂されていく。さまざまなドラマを飽きさせず展開する構成力、映画を映画たらしめる演出力が高く評価された。日本映画に新たなる旋風を巻き起こしてくれることを期待する。

  • 「0.5ミリ」
  • 安藤桃子監督