有限会社三洋堂

(2010年2月)

有限会社三洋堂

有限会社三洋堂筆は約300種類、値段も100円~45万円と幅広い品揃え

有限会社三洋堂本田淳一社長

パソコン全盛時代に書道のおもしろさを伝える

有限会社三洋堂

 

 今回で10回目となる「勝ち残る専門店」は、書道用品と表装を取り扱う「(有)三洋堂」に、本誌編集委員の串田紀之さん(クシダ工業(株)社長)とおじゃました。


 豊富な書道に関する知識と、県内でも珍しく展示会の作品の表装や貸額など、幅広く書道用品を取り扱っているお店だ。書道用品は、ホームセンターやスーパーなどで購入でき、さらには全国的に書道人口が減っているにもかかわらず、専門店として勝ち残っているポイントを伺った。


●畑違いの理工学部出身

 大学では理工学部に在籍し、卒業後は東京で建設会社に勤めていた本田さん。26才のときに、東京の友人の書道用品店で働きだしたのが書道との出会いだった。


 書道に関して全くの素人として働き始めたが、仕入れや修理に筆や硯職人のところへ行く機会があり、そこで筆や硯の良し悪しや特徴、産地や素材などを教わった。


 書道用品の知識が身につくにつれ、店でも次第に仕入れを任されるようになり、その頃から自分の店を持ちたいと夢を抱くようになった。


●見事にビジネスチャンスをつかむ

 平成元年35才の時に地元高崎に戻り、訪問販売を中心に商売を始めたが、当初は全く売れない時期が続いた。大きな転機となったのが、平成6年に高崎シティギャラリーが開館したことだ。高崎シティギャラリーで多くの書道の展覧会が開催されるようになった。


 「このころから、お客さんが増えて多くのお客さんに三洋堂が知られるようになりました」。三洋堂では、筆や硯などの書道用品のほかに、作品を掛け軸にしたり額に入れて展示するための、表装や貸額も扱っており展覧会が増えたことでそれらの需要が急激に高まった。


 この時期をチャンスと捉え、今まで書道専門店ではしないような貸額を始め、掛軸だけでなく屏風など表装全般を扱うようになり、今では都内の展覧会の仕事も依頼され、売上の約4割が展覧会出展作品の表装や貸額で占めるほどになった。


 表装や貸額を注文されたお客さんとの会話の中で、筆や紙の特徴、使い方や職人のこだわりなど書には直接関係ないが、本田さんの豊富な知識がお客さんに安心感を与え、三洋堂のファンが少しずつ増えていった。  筆や紙などの書道用品から展覧会の表装や額まで、お客さんの希望を全て叶えられるのが三洋堂の強みとなっている。


●他を圧倒する経験と知識で

 書道教室の先生から書道用品について相談を受けるほど、本田さんの書道用品の知識は深い。


 東京で書道用品店に勤めてから30年、時間が許す限り書道用品の勉強に取り組んだ。筆や紙の製造元を訪れて作り方を学んだり、さらには中国語を学び実際に中国各地へ書道用品の勉強にも行った。こうした努力の結果、他を圧倒する知識でお客さんに信頼されることができた。今ではお客さんが、「このような作品を作りたい」と持ってきた写真の書を見ただけで、使われている筆の種類まで分かるという。


 お店では筆が約300種類、紙が約100種類と多種多様な用品が揃っている。例えば筆は、羊毫(中国産の山羊)、馬、イタチの毛などが使われ、それぞれが異なる特徴がある。かな文字や漢字を書くのに適した筆など、お客さんが書こうとしている書や経験、レベルなどにより、その人に最も適した筆をアドバイスしている。


 お客さんの求めているものを、直接話をして把握し、最適な商品を提供する。串田さんも、企業の経営者として「基本的なことかもしれませんが、商売にはこういった姿勢が大切ですね」と共感していた。  これほどの商品と知識を備えている本田さんだが、まだまだ十分ではないという。「この世界はまだまだ奥が深く、今でも勉強しています」と楽しそうに話してくれた。


有限会社三洋堂

●一人前になるまでサポート

 残念ながら書道人口は年々減り続けている。平成20年全国で書道人口は約360万人と、20年前のピーク時のおよそ半分以下となっている。「書道人口は減少してきていますが、群馬県では人口に対する書道人口の割合は全国でも高いほうです。昔から書道が盛んな土地なんですよ」と、群馬県では書道の文化が根付いているようだ。


 「書道は20年~30年かかってようやく一人前になれると言われてます。入門者が一人前になるまでサポートし、私も一緒に成長するのが仕事です」。一人一人のお客さんが上達するために、最善のアドバイスを送り長い間付き合っていく姿勢が、本田さんの商売の基本。


 お客さんと話をし、そのニーズを的確に捉える。そして最適な商品を提供する。本田さんが商品の説明をすると、お客さんがさらに書道に興味をもつようになる。このように直接会話をすることにより、お客さんとの間に信頼関係が築かれる。さらには、三洋堂のファンになった人が口コミで三洋堂の名を広め、新しいお客さんが来店する好循環が出来上がっている。これこそが三洋堂が勝ち残っている理由なのだろう。。


有限会社三洋堂
社 長:本田 淳一
所在地:高崎市上中居町274-4
電 話:027-324-1260


高崎商工会議所『商工たかさき』2010年2月号

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