映画のある風景

心意気で生まれ 育まれた映画『ばかもの』

志尾 睦子

映画のある風景

 厳しい残暑に体力を奪われる日々。ふと、昨年は9月いっぱい暑さが続いて、10月1日になったら一気に気温ががくんと下がったのだったなあと思い出した。今年の9月はどんな気候になるのやら。そういえば、昨年の今頃はある上映会の準備に追われていた。片品村文化センターでの『ばかもの』上映会だ。高崎市在住の芥川賞作家絲山秋子さんの原作を、ゴジラやガメラを手がけ数々のアイドル映画を世に放った名演出家金子修介監督が実力を見せつけ良品にした一作。原作の舞台が群馬ということもあり撮影も高崎市がその大半を担って行われた。

 この上映会の主催者は絲山秋子さん。2011年3月の震災後、県内でいち早く被災者の受け入れを始めた片品村で、絲山さんはすぐにボランティア活動を始められた。絲山さんから片品村の皆さんへの感謝と敬意を何かの形にしたいと相談を受け、レギュラーでご出演されているFM群馬さんの協力で、準備を進め上映会を企画した。東京からはプロデューサーに何度も足を運んでもらい相談を重ね、とてもすてきなあたたかな上映会が開催できた。

 こうしたご縁というのは、絲山さんの人柄あってのことであるのは言うまでもないが、作品自体の力も大きい。公開が終わってしまった作品にプロデューサーを始め製作サイドの方々が地方の上映会のために動く事はまずない。皆さんが「高崎での撮影ではフィルム・コミッションを始め沢山の方々に大変お世話になって、とてもすてきな映画になったから」と上映会への協力を惜しまなかった。

 市内至るところで撮影されていたけれど、圧巻なクライマックスシーンは倉渕の川で撮影された。実は映画ファンの間では、この場所を一目見たいと訪れる方も少なくない。それだけ魅力的で印象深いシーンなのだ。絲山さんも言っていたが、頭の中で思い描いた光景を実写にするというのは自然相手では難しいものだが、これが見事に実現されている。

 金子監督も川縁から覆うように枝が伸びる大木に主人公がよじ上るシーンは最難題だったそうで、それが実現できたのは、倉渕の自然と、何よりシーンの作り込みにご協力された研屋さんの知恵と技術、それから心意気があってこそだと力強く言っていたのを思い出した。

 数々の協力なくしては出来なかった映画という想いが、製作者皆さんの中に根付いていたのだなと実感した出来事だった。そんな風に思っていただけることに高崎市民として誇らしさを感じたのは言うまでもない。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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