高崎の新たなブランドになるか? 生産量全国第二位の梅集

高崎の新たなブランドになるか? 生産量全国第二位の梅集箕郷・榛名地域は全国二位の梅産地

群馬県の梅生産は全国2位

その7割を榛名・箕郷地区で

 高崎市の榛名・箕郷地区は全国有数の梅の生産地で、安中市の秋間地区と並ぶ群馬の三大梅林。面積750ヘクタールに約20万本の梅が植えられ、東日本一の規模を誇っている。梅栽培は明治期に始まり、地域の伝統産業として名を馳せている。
 平成19年の梅の収穫量(農林水産省まとめ)は和歌山県が群を抜いて69、600トン、群馬県は2位の7、760トン。3位以下は2、000トン前後で並んでいる。
 榛名・箕郷地区の収穫量は約5、400トンで、県全体の約7割を占める。秋間梅林を有する安中市は約900トン。和歌山県が突出しているが、市町村単位で見れば、〝一目百万本〟と言われる同県みなべ町の30、000トン、田辺市の24、000トンに次いで、高崎市が全国で3位だ(17年農水省数値)。

★JAよりの梅出荷の約6割は加工企業に/中国産の輸入は昨年より激減

「JAはぐくみ」販売課長 原田 広之さんに聞く

 「JAはぐくみ」によれば、梅農家は平成19年で榛名地区が317軒、箕郷地区が280軒。同JA営農部の原田広之課長は「農家が直売したり、自主ルートで販売するケースもある。生梅を梅干しに加工すれば重量が二分の一程度に減少する。正確な出荷総量を把握するのは難しい」と言う。実際に統計ごとに数百トンの差異が出ている。
 JAはぐくみの選果場の取扱量は平成19年度が3、500トンで、約2、000トンが加工業者、約1、500トンが全国の市場へと出荷される。一部はJAの加工場で製品化されているが、消費者への直売も含め、全体に占める割合はわずか。大口の出荷先は加工業者だ(次頁上図)。
 当地の主品種は「白加賀」(しらかが)で、全国第1位の和歌山産「南高梅」(なんこうばい)と品種は異なるが様々な梅製品で産地間競争を展開している。地産地消や食の安全性への消費者意識の高まりを受け、これまで押され気味だった中国産農産物の輸入が減少し、市場は国内梅にシフトしてきているという。健康食品ブームで梅製品の需要も増えている。原田課長は「中国産が敬遠され、今年は榛名・箕郷産梅への業者の引き合いが強くなっている」と話す。

梅の生産と需要は さまざまな要因で不安定

 こうした市場の需要に対し、安定した出荷量を確保するのがJAの悩みだという。勝負は収穫前のわずか1ヶ月半、開花状況を調査して今シーズンの収穫量を推計し、取引量を配分するが、開花から収穫までの天候によって、実際の収穫量が大きく左右される。「昨年は雹(ひょう)害を受け、傷で2~3割を失った。大打撃だった」。農家に高齢化の波が押し寄せて来ているのは、当地でも例外ではない。梅生産に適しているのは樹齢10年から30年の梅林で、年齢を重ねた古木は観賞用としては良いが、生産力は弱い。「農家も樹木も高齢化している。樹木を育てるのに10年間手をかけて、収穫は年に一度。労力にみあう価格に安定させたい。生産者の減少をくいとめ、いかに現状を維持していくかが最大の課題だ」と原田課長は不安も抱えている。
 さらに、フルーツ街道(高崎―吾妻線)として直売店が沿道に並ぶ榛名地区では、梨から梅へのシフトが進んでいる。昭和60年の梨の収穫量は約5、200トン、梅は約1、000トンだったが、2005年では梨が4、000トンを下回り、梅が3、000トンに伸びている。栽培面積も梨が約200ヘクタールから150ヘクタールに減少(注)。一方、梅は100ヘクタールから四倍の400ヘクタールに増加した。

「JAはぐくみ」より年間500トンの榛名・箕郷の生梅を仕入れている地元最大の“梅食品加工企業”
村岡食品工業㈱常務取締役 町田利夫さんに聞く

■前橋本社:前橋市高井町
■年間売上:42億円(2006年)

梅加工企業の需給バランスは
 榛名・箕郷地区の梅農家に大きな影響が

 前述した榛名・箕郷地区の梅生産の全体像の中で、地元加工企業として最大の「村岡食品工業㈱」の町田常務さんに、同社梅製品の製造販売の中で、榛名・箕郷地区の梅がどのような位置を占めているか、また今後の梅加工企業の動向をどのように考えているか聞いた。  この村岡食品工業㈱は、榛名・箕郷の梅の大半を集荷する「JAはぐくみ」より長年、大量に仕入れる地元最大の企業であるが、商品名・「梅しば」(かりかり梅)の大ヒット以来、生産拡大過程の中で、原料である県内産の生梅の確保と、一方では消費傾向の変動による最終需要の変化という狭間で、常に〝需給バランス調整〟に苦しんできた。  生梅の安定調達では、大阪府の「チョーヤ」
や愛媛県の「愛媛果汁食品」などの梅製品市場への参入による生梅調達競争、榛名・箕郷地区の作付・収穫量の天候や高齢化している労働力での収穫変動があった。町田さんは「年間1、400トンから1、500トンも確保が必要な年もありましたから、どうしても足りない分は、中国・台湾産を使用せざるを得ないという時期もありました。今は、需要全体の落ち込みや、中国農産物安全への不信感からすべて榛名・箕郷地区を中心とした県内産に戻っています」という。
 昭和50年代に、長野産・甲府産小梅の「かりかり梅」をヒントに、一個一個包装にした中梅サイズの「かりかり梅」が大ヒット。それに伴い榛名・箕郷地区からの生梅確保が最大課題になった時期があったのだ。そこに〝梅酒〟でヒットした「チョーヤ」が大きな生梅確保競争の相手として参入してきた。
 それに加え、近年の需要環境はいわば〝逆回転〟して、同社の主な販売先である量販店での販売推移も望ましい状況ではない。さらに、石油・資材などのコスト高、商品の値上げを要請できないなどのマイナス要素も加わった。「仕入価格も抑えなければならないが、梅農家に大きな打撃を与えることも控えなければ」と苦悩の表情。「結局、一歩一歩ですが梅関連製品に対する総需要を高めることが必要」という。
「榛名・箕郷地区の梅は、木も古いし、生産者の高齢化もあり収穫量に不安要素がある。和歌山県では群馬県の10倍くらいの生産量があり、群馬県にも補助金も含め強力な支援措置をお願いしていますが、われわれも〝地域名〟をもっと強調していく必要がある。また、農協だけ、加工企業だけではどうにもならない。地域総ぐるみでの〝ブランド化〟の取組みが大きなポイントとなるでしょう。梅は健康食品の王様だと私は思っています」と結んだ。

全農の取り組み/生梅の出荷から食品加工に力点を
「ぐんまの梅加工協議会」事務局 門倉直人さんに聞く

 (JA全農ぐんま 園芸部・園芸販売課副審査役)
※この組織は、榛名・箕郷地区を中心に群馬県下7農協の梅生産者が産業振興と市場の拡大を目的にこの協議会を作り、「うめ振興プロジェクト」を立ち上げている。

「紀州ブランド」も和歌山県で総力を挙げて取組んだ結果

 国内の梅産地で栽培が本格化するきっかけとなったのが昭和37年の酒税法改正。果実酒が自家製造できることになり、梅酒用の青梅の需要が急増した。価格は高騰し「青いダイヤ」とも言われた。平成5年、戦後最悪と言われた冷害で農作物は大凶作となり、タイ米を緊急輸入した「平成の米騒動」に代表されるように、全国で深刻な米不足をもたらした。これを契機に、アジアからの農産物輸入が急増、あおりを受けて国産梅も価格が下落。かつては嗜好の違いもあり、東西で住み分けていた和歌山産の南高梅が関東を狙って大攻勢をかけ、紀州梅ブランドで市場を席巻している。南高梅は完熟系の品種で赤みを帯び、榛名・箕郷地区の主力品種「白加賀」と共に国内品種の双璧。

振興プロジェクトを着々と実行しているが

 こうした厳しい状況の中で、加工品の梅干しでは紀州の南高梅が全国市場をリードしているのが現状。協議会事務局のJA全農ぐんま園芸部の門倉直人副審査役は「梅干しの消費量は毎年ほぼ一定で、中高年層が中心。若い世代は余り消費していない。梅干しだけでは和歌山に勝てない。価格では中国産とは勝負できない」と状況の打開に努力している。振興プロジェクトを中心として、生産安定をめざした品種改良や技術向上を推進。花粉樹や受粉のためのミツバチの導入、畜産農家と協力した土づくりも行われている。収穫は手作業で行うため、生産者の高齢化に対応して、作業効率を上げるための低樹高化(樹高3・5m前後に剪定)も進めている。
 梅の加工場では、生産者グループが成果を上げ、産直による収入の安定も見られるようになった。梅林への観光客誘致や、梅の消費拡大として電子レンジで手軽に調理できる梅料理レシピを作成するなどの取り組みも行っている。

梅加工品のブランドイメージを作り出したい

 和歌山県の全国攻勢は官民一体となったもので「和歌山の梅産地では、一つの町全体が梅を中心に動いており、群馬とは規模が違う」と言う。
 既に「紀州みなべの南高梅」、「紀州梅干」が地元協同組合によって地域団体商標、いわゆる地域ブランドに登録されている。群馬県でも、群馬県産の梅加工品のブランドイメージの醸成、販売促進、観光PRなどに取り組んでいる。一方「県西部では梅は有名だが、東毛に行けば群馬で梅をつくっているのか?と言われるほど知られていない」のも現状。県土の81%が山地で農業産出額の約6割を柑橘類と梅などの果樹に頼る和歌山と、野菜や米麦等、多様な農業生産を行っている群馬とでは、梅生産に対する力の入れ方が異なるのはやむをえない現実といえよう。
 門倉さんは「中国からの農産物輸入が減少傾向にあるのに加え、中国でも梅が不作。健康ブームもあり、新たな分野を開拓する好機。20年度は加工品分野で動きが出るのではないか」と見ている。安心安全への意識が高まりの中で、残留農薬や食品添加物の厳しい規制にも対応し、生産体制を強化していきたいと言う。

(文責/菅田明則・新井重雄)
(2008年2月15日)

勝ち残る専門店

グラスメイツ
グラスメイツ
メガネ店の店員も買いに来るメガネ専門店
辰巳
辰巳
印傳と陶器の専門店/県外からもお客様
有限会社三洋堂
有限会社三洋堂
パソコン全盛時代に書道のおもしろさを伝える

すべての記事を見る