家づくりへの 新たな提案

家づくりへの 新たな提案住宅コンペ二次審査プレゼンテーション会場

建築士青年委員会が住宅設計コンペを主催

 (社)群馬建築士会の住宅設計コンペが今夏に行われ、家づくりの新たなアプローチとして話題になった。渋川市内に実際に建設が予定されている一般住宅の「基本設計案」を競い、5月から募集を開始。一次、二次審査を経て、8月に最優秀賞が選ばれた。

 住まいへのニーズが多様化するなかで、こだわりをもった家づくりを考えている施主も多い。しかし、個人客にとって設計事務所の敷居は高く感じられがちだ。建築士会が一般個人向けに住宅コンペを開催するのはめずらしい。

 言うまでもなく建築士は建物を設計するのが仕事で、逆に言えば、建築士にしか設計できない。まちなみを形成する一つひとつの建築物は、建築士の作品。地域の気候風土や暮らしを熟知した群馬の建築士たちが、住まいづくり、まちづくりを提案する。

24作品の中から希望の家を

 群馬建築士会は、建築士事務所、建設会社、工務店、行政など2、100人の建築士で組織されている。高崎支部の会員は約400人で、前橋支部と並んで会員数が多い。

 関東甲信越ブロック10都県の青年建築士による大会が平成17年に群馬で開催された際に、講演会などではなく参加型の大会を開こうと建築コンペを企画。安中榛名駅前の分譲地をテーマに選び、各県の代表がプランを発表した。前青年委員長の上原好之さん(伊勢崎支部)は「この企画が好評で、以降、毎年開催県に引き継がれている」と話す。「昨年の神奈川大会では、ペーパープランではなく、実際に建設する住宅の設計コンペが行われた。こだわりのあるデザイナーズ住宅に住みたいという人は群馬にも多いはず。県内で設計コンペを実施したかった」と思いをあたためてきた。

 今年の冬、渋川市内のお客さんから新築の相談を受けた関工務所の関敏孝さん(沼田支部)が、関東甲信越ブロック群馬大会の実行委員長を務めたこともあって、群馬で初めての住宅コンペが実現できた。

 5月から6月末までの募集期間に24作品の応募があり、一次審査を通過した5作品が、8月2日の二次審査を競った。施主を前に設計案をプレゼンテーションし、プランの特徴を説明した。質疑では、光と風の通り道や人の動線など、施主と建築士の熱い議論もあり充実したコンペとなった。最優秀賞には「ATELIER N」(中之条町)の田中伸明氏のプランが選ばれた。

 建築士会青年委員会の秋草博委員長(太田支部)は「作品の質、量ともに予想以上。住宅設計コンペの企画自体を発展させていきたい」と言う。今回のコンペでは、最優秀作品を選ぶまでに6ヵ月かかっており、通常の建築スケジュールよりも時間を要している。施主さんの理解が必要だが、施主夫妻は「毎日、図面を見るのが楽しみ」と家づくりを何倍も楽しんでいる様子だった。

施主の立場に立ったアドバイザー

 今回は、施主をコンペに紹介した関さんが、施主のアドバイザーを務めた。施主からの要望は「丈夫な家であること、自然素材で仕上げること、家族全員が使うクローゼットを生活の動線に組み入れること」など全20項目。アドバイザーはコンペの参加作品が、施主の要望を満たしているか、予算内で本当に建築できるのかを施主の立場でプロとして様々な角度から検討を行う。作品に取り入れた施工技術の妥当性など、二次審査での質疑はかなり厳しい。実際に家具を入れた場合の動線や、空気の循環、光熱費のランニングコストなど、外観や間取りのデザインだけでは良い家とは言えない。例えば踊り場のヘリの仕上げ方など細かい部分まで、設計者の意図がただされた。

 最終的なプランは、もちろん施主によって決定されるが、アドバイザーによる助言が得られるのも、施主にとってはコンペのメリットになっている。  二次審査は公開で行われプレゼンテーション会場では、大勢の建築士が聴講し熱気にあふれた。今回のコンペの開催が建築士の現場のモチベーションを高め、創造的家づくり、まちづくりにつながっていくことを感じさせた。

設計事務所の住宅設計は決して割高ではない

 「同じ広さでも豊かな空間になる。施主のライフスタイルやコンセプトを崩さずに、予算にあわせた設計をする」と秋草委員長は設計事務所での住宅設計を勧める。設計費用は設計と施工監理で建築費の8%から10%前後が報酬の標準額。「個人住宅のお客様が設計事務所を訪れるのは群馬ではまだ少ない」と言う、「設計事務所に依頼すると割高になるというイメージもあって」と苦笑する。ハウスメーカーや工務店に設計から施工まで全て頼む場合も、この価格は含まれているので、トータルとすればさほど変わらない。施工監理は「設計事務所が行うことで、第三者的な視点で監理され、信頼性が高い」という。「こだわりを持った家づくり、住みやすい家を求めている人は増えている。群馬で生まれ育ち、群馬を肌で感じている私たちだからできるデザイン、コンセプトがある。群馬の建築士だから群馬の家づくりを提案できる」と秋草委員長は力を込めている。

 高崎支部の矢島青年部支部長は「施主がわがままを言えば言うほど良い家ができる」と微笑む。「家の建て方など、建築士に対するお客様の満足度も高い。主に顧客はビルの建築など法人がほとんどで、今まで個人客に語りかける機会が少なかった」と今回の成果に自信を深めた。住宅も個性化と量産化に二極化し、それに伴って、大工職人の技術も変わってきているという。「ハウスメーカーは決まった材料を決まったように使う。材料に対する知識や技術力など、在来の木造住宅を施工できる工務店と、そうでない工務店も出てきた」。

外で子どもが遊べるまちづくり 団らんに人が集まる家づくり

 高崎支部は企業内の建築士の参加が多い。高崎支部は活動的でその元気さが群馬の建築士会を下支えしている。西毛地域を中心に広域で活動することも多く、女性委員会は富岡製糸所の「世界遺産伝道師」として評価されている。高崎市と連携した景観まちづくり講演会は毎年、多くの市民を集めて成功させている。

 信澤卓高崎支部長(信澤工業社長)は、建築士の分野別の「専攻建築士制度」の取得に力を入れ、県内会員の啓蒙に努めている。医師が内科や外科といった専門を表示しているのと同じく建築士にもその人の専門技術領域や得意分野がわかるように、各建築士の業務実績で認定されるもので、(社)日本建築士会連合会が6年前に制度化した。まちづくり、設計、構造、環境設備、生産、棟梁、法令、教育の8分野があり、一人3分野まで取得できる。信頼できる建築士の認定制度で、群馬建築士会では3年前から取り組みを始めた。

「二十一世紀になって、心の時代、快適なものを求める時代になってきたように思う」と信澤支部長は、時代に応じた家づくりを考えている。「長野の小布施が観光で成功したり、中山道の馬籠宿なども日本人の郷愁を誘う。昭和がブームになり、日本人の心が豊かだった時代が注目されている」。  信澤宅には暖炉があり「火を焚くと、不思議なことにみんなが集まってくる」という。火のぬくもりがあり、「テレビゲームよりも面白く惹かれるものがあれば、ゲームをやめて子ども達も寄って来る」。昔からあった豊かさを家づくり、まちづくりに生かしていきたい。外で子ども達が自由に遊べるまちが理想だ。まちづくりに建築士が果たす役割、使命がある。建築士、デザイナーのひらめきがまちを輝かせていく。

 今回の住宅コンペは青年委員会が中心になって成果を出した。信澤支部長は「今回のようにコンペを開催して欲しいと考えてもらえるようになれば、きっとすごいまちになるだろう」と話す。

群馬建築士会住宅設計コンペ結果

  • 応募資格/群馬建築士会正会員・正会員で構成されたチーム
  • 表  彰/最優秀賞1点(表彰状、副賞:賞金5万円)ほか
  • 最優秀賞/田中伸明(ATELIER N)
  • 優 秀 賞/小見山健次(株式会社エムロード環境造形研究所)
    伊藤昭博・石北千秋(有限会社HIRO建築工房)
    片山康浩(株式会社ライブ環境建築設計)
    有江直樹(arie建築設計事務所)
  • 入賞/中村 喬(空間設計室)
    上原 均(有限会社HIRO建築工房)
  • ※コンペに参加するには/施主はコンペの賞金など、およそ20万円を負担し、それぞれの建築士から提案が受けられる。気に入った提案で実際に家を建てる場合は、ここから本設計となり通常の設計費用が発生する。

(文/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所 『商工たかさき』2008年9月号

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