公共交通と体験型観光で首都圏集客に取り組む

(2009年3月)

公共交通と体験型観光で首都圏集客に取り組む

交通の要衝といわれるが、通過都市にならない為に!
公共交通と体験型観光で首都圏集客に取り組む

 「新幹線、高崎線など鉄道がお客を連れてくるのは駅まで。そこから先の魅力づくり、おもてなしは地域の取り組み方にかかっている」。高崎の交通拠点性はビジネスでは大きな力を発揮しているが、観光に生かすも殺すも地元の努力次第ということになる。
 群馬県の観光地と言えば、草津、水上、伊香保に代表される温泉地。それだけを見れば、高崎の観光集客力の不足は、今まで指摘されてきた通り。観音山の観光客数が減少していることもあって、どうしても弱気になりがちだった。高崎のような都市型の観光は「住んで良い町、訪ねてよい町」でなければ観光客も呼べない。地元の私たちが出かけて楽しいところが観光地になる。
 県内外の観光地への通過都市にならないように公共交通機関からみた観光について考えてみたい。


●観光地は地域が創り出すもの 観光への意識が低い高崎市民

 高崎は商工業都市、特に商都というイメージが強い。確かに、これまで高崎市は観光開発への戦略的な投資は少なかったし、高崎が観光地だと考えている市民も少ない。高崎市が実施した平成20年度市民アンケートで、高崎市の印象は「北関東の交流拠点として交通網が発達したまち」が第一位で67.9%だったのに対し、「多くの観光客が訪れる観光のまち」は最下位の11.4%。行政への要望でも、観光分野は低い数値で、市民意識の薄さがうかがえる。
 「観光地の多くは地元が作り上げてきたもの。地域がどう取り組むか、どう作り上げていくか。素材はたくさんある」とJR高崎支社は言う。


●首都圏から集客する「駅からハイキング」

 東京から100kmの高崎は首都圏から日帰り観光にちょうど良い位置で、JR高崎支社は気軽に参加できる「駅からハイキング」を成功させている。
 「駅からハイキング」は既存の「小さな旅」の延長として、JR東日本が年間を通じて開催している観光イベント。JRグループ全社で同様の事業が行われている。季節にあわせたハイキングコースが用意され、距離は8kmから15km。文字通り駅からスタートして歩いて観光スポットを訪ねて回る。スタート時間も幅を持たせ、参加者の自由度も広げられている。毎週末にJR東日本管内のどこかで開催され、会員は30万人。会員登録、参加費用は無料で、あえて言えば居住地からスタート駅までの運賃が自己負担。参加するとポイント特典もあり、健康ブームでファンが増えている。
 「観光のかたちが変わってきた」とJR高崎支社は話す。観光と言えば、団体ツアーなどで大きな施設に行くというパターンが多かったが、「地域とのふれあい、おもてなしの心を感じる体験型の観光に関心が強くなっている」という。
 「駅からハイキング」は、JR高崎支社のスタッフが実際に楽しいスポットや話題のイベントを探しコースづくりを行う。神社仏閣、博物館・美術館、公園、お店などと交渉し、入場料割引や参加者へのおもてなしサービスもお願いする。あたたかさが伝わる手作り感が魅力だ。
 “鼻高展望花の丘・少林山”、“観音山・少林山だるま市”、“緑化フェア”、“秋の味覚三昧梨狩ハイク”など駅からハイキングを7回実施し、首都圏から参加者が集まっている。参加人数は、平均430人ほどで、JR高崎支社管内でも好成績を上げているそうだ。
 昨年9月に実施した群馬八幡駅スタートの「梨狩り!シャーベット!シュークリーム」コースは、県内初のフルーツ狩りをメインにしたハイキング。高崎市、地元梨組合と協力し、はるなの梨園、富久樹園、卵太郎、観音塚考古資料館を回った。
 541人が参加し、8割は首都圏からの参加で、高崎のスイーツに魅了された。「よほど魅力がないと500人は集まらない」と反応の大きさに、支社担当者も驚いている。参加者によって高崎の印象は違うが、「思っていたよりも楽しくて素敵なところ」と感じて帰ってもらえばしめたもの。口コミやブログの影響力はバカにできない。


●地域の発展がJRの発展につながる

 「鼻高花の丘や長坂牧場は、こんなにすばらしい場所が高崎にあるのにまだまだPRされていない」と宣伝の必要性を話す。JR高崎支社では、特に駅から徒歩でいける花火大会は最近注目されており「高崎まつり」ももっと知名度を上げ首都圏から集客できるのではないかと見ている。観光客への見せ方、参加の方法、話題づくりなど宣伝展開によって大きく変わる。
 「駅からハイキング」は参加者が増えればJRの運賃収入につながるが、パンフレットや宣伝費などの費用を考えると、到底採算があわないが観光開発という意味で力を入れている。光のページェントは、高崎・前橋・榛名を一枚のポスターにデザインし、JR高崎支社独自の宣伝を行った。「地域の発展がJRの発展につながる。お互いに協力して成功させていきたい」と言う。「小さな旅」から大きな動きが生まれるかもしれない。倉賀野駅、井野駅、高崎問屋町駅を起点とした新コースをこれから計画していきたいと考えている。


●ぐるりんで高崎の一日観光/高崎青年会議所がパンフを製作

 「地方都市の観光では、駅から目的地までの二次交通が課題である」とJR高崎支社は指摘する。マイカー王国群馬では、バス路線廃止の流れで観光拠点や施設間のネットワークが弱い。高崎のバス路線がどの程度観光客の移動手段として使えるのか、使われているのかと考えると、JR高崎支社の指摘の通りである。マイカーに慣れている地元民は観光地ばかりに目がいき、公共交通での移動を見落としてしまう。「駅からハイキング」の参加者は、高崎駅から観音山、群馬八幡駅から少林山、鼻高花の丘まで平気で歩いてしまうが、子ども連れのファミリーや高齢者など多様な旅行者に楽しんでもらうには、安価なバス路線が必要になる。
 高崎青年会議所は、市民や来街者に高崎市の魅力を再発見し、観光振興に役立ててもらおうと、観光ガイド「ぐるりんで周る小旅行ガイド」を昨年12月に作成した。五千部を作成し、高崎青年会議所・小澤健一理事長(08年理事長)から松浦市長に手渡された。高崎市は“ぐるりん”の時刻表にこのパンフレットをはさみ活用している。
 担当した高崎青年会議所・大根原章友委員長(観光都市たかさき交流委員会)は「市内循環バス“ぐるりん”を使った一日観光のモデルコースが楽しめる」と話す。マイカーと違い、バス旅行の楽しさが体験できる。  高崎青年会議所は、07年度から「観光都市高崎」をテーマに調査研究を行い、高崎の魅力を掘り起こすとともに、課題・問題点を検討してきた。“ぐるりん”を利用したバス観光はその一環で、“群馬の森線”、“少林山線”、“観音山線”にモデルコースを設定し、検証ツアーを実施した。高崎市観光ビジョン研究会や高崎経済大学生らもツアーに同行し、高崎観光について意見交換をした。多くの参加者から「パンフレットがあれば県外からのお客様にもわかりやすいのでは」という意見が出され、観光ガイドの作成にいたった。
 大根原委員長は「“ぐるりん”は本来、市民のための生活路線で観光には不向きな面もある。周回のため乗車時間も長い」と感じている。公共施設や医療機関を回り民間路線と競合しないようルートが設定されている。コースによっては観光地での滞在時間が短く散策時間が十分にとれない、あるいは次の便まで時間が空きすぎる。行き先によっては食事できる施設、トイレ休憩所が少ないなどの課題も見えてきた。「駅から目的地までの移動に、民間バス、“ぐるりん”、タクシーを組み合わせることで選択肢が増える」と今回のガイドを応用していくことが可能だ。


●産業観光も模索

 モデルコース以外にも、高崎にはたくさんの観光地、高崎名物がある。大根原委員長は高崎の食や産業観光に注目し、工場見学など体験型の観光を創出していきたいと考えている。伝統を伝える岡醤油(赤坂町)やお菓子工場のハラダ(新町)、高崎市総合卸売市場は「見ていて飽きない」スポット。築地市場で外国人観光客に人気の、マグロの競りをする定温卸売場は、高崎の卸売市場が全国で初めて導入・整備したシステムだ。観光客は仕事の邪魔かもしれないが、「ニコニコ感謝デー」など一般開放日もある。
 大根原委員長は高崎の地産地消を活かした名物を作り、観光に活かしていこうと、高崎まつりで「テイスト・オブ・タカサキ」を部門長として初めて実施し定番化も進んでいる。また、高崎を訪れたビジネスマンをねらい、屋台風の一杯飲み屋街等が出来ればと考えている。
 「本気で産業観光を考えるなら、商工会議所、行政と市民の協力体制を確立することも必要でしょう」と大根原委員長。行政だけでなく市民自ら動き出すことが、観光地として発展していく第一条件だ。  “はとバス”のような定期観光バスも高崎では少なく、かろうじて伊香保と高崎駅を結ぶ一路線のみ。民間バス会社では、需要の見込まれるルートは、夜間の増便や新路線の動きが出始めている。高崎市もぐるりんの路線を大きく見直す考えで、高崎駅東口の長距離バスターミナル整備とあわせ、バス交通の再編が大きく注目されている。


●“高崎はいいところ”という気持ちが大切

 榛名観光(株)の久保田隆部長は「群馬の運転手は親切だ、と言われなければいけない」と言う。観光客が旅先で接するのは、駅員、バス、タクシーの運転手、宿の女将さん、立ち寄ったお店。高崎人の印象は、ほぼこれで決まる。
 久保田部長は、タクシー観光に力を入れ、お客様開拓に取り組んでいるが、「高崎のすばらしさをお客様に伝えられるドライバーの育成が大切」と言う。家族客や電車・バスの乗り継ぎ、待ち時間を敬遠する客層は、駅から宿までタクシーで直行したい。行きにタクシーを使った客は、帰りもタクシーを使うことが多い。タクシー観光のベースとなる潜在的な客層がある。
 七、八年ほど前から個人客、年配の夫婦旅行の引き合いが増えてきた。同社では、高崎駅や磯部駅を帰着点に、妙義、榛名、軽井沢、観音山を観光するモデルコースを用意し、ホームページから申し込めるようになっている。高崎駅から伊香保・榛名を観光して草津へ行くなど、設定コースに限らず要望に応じている。


●お客様をもてなす観光ドライバー

 「観光タクシーのドライバーは誰でもできるという仕事ではない」と言う久保田部長。当地の歴史や文化を説明する知識も確かに必要だが、楽しい旅行の気づかいが何より大切だ。「高崎はこんなにいい所なんですよ、という気持ちで案内できるかどうか。これが一番大きい」。ドライバーが一緒に旅を盛り上げる。ドライバーがつまらないという顔をしていたら、旅がだいなしになる。
 同社では、県の観光ドライバー認証者など六人の観光ドライバーを擁している。「ぴったり付いて案内して欲しいのか、放っておいてほしいのか、お客様との距離の取り方を感じ取れないといけない」とかなり難しい。子ども連れ、高齢者がいる場合は、お客様の体調に気を配る。ここだと思う場所では、記念写真を勧めてシャッターを押す。後日、写真を送ると礼状が届くこともある。「次もお願いします」とリピーターの獲得につながる。ちょっとした隠れた名所を案内するのも、旅心をくすぐるドライバーのノウハウだ。利用者は旅好きが多くいわば旅のプロ。「お客様からの評価、情報が貴重な財産になる」と言う。県が観光タクシードライバー認証制度を設けても、「タクシー業界が活かしきれていない。タクシー観光を知らない人も多く、業界全体として取り組む必要がある」と指摘する。
 「お客様が楽しく遊び過ぎて帰りの新幹線に間に合わなくなった。さてどうする」。ドライバーの対応の仕方でクレームがお客様の満足へと変わる分岐点だ。「管理者がまず自分で経験しないと、タクシー観光に必要なノウハウがわからない」と言う。榛名観光では、専用車を導入し、差別化を図っていく考えだ。「オープンカーを導入したかったのですが、許可されませんでした」と久保田部長は残念そうに笑う。できるだけのことを考えてやっていきたいという熱意が伝わってくる。


(文:菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所 『商工たかさき』2009年3月号

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