コミュニティ放送局の域を超えたラジオ高崎

(2009年4月)

コミュニティ放送局の域を超えたラジオ高崎

 平成9年4月1日に開局したラジオ高崎(FM76.2MHz)は、小規模放送のコミュニティ放送局。身近で役立つ生活情報を伝え、都市防災の機能も担う。コミュニティ放送局は、阪神淡路大震災の被災地で小回りのきいた活躍をしたことで一躍脚光を浴び、全国に広まった。  ラジオ高崎は放送にとどまらず、まちづくりをプロデュースし、市民力、都市力を増幅させる都市装置になってきた。


●安心安全なまちづくりに役立つ身近な情報

 市町村域を聴取対象としたコミュニティ放送局は、全国に200局ほど存在している。群馬県内では、ラジオ高崎が最も早く開局し、FMOZE(沼田市)、エフエムTARO(太田市)、ラヂオななみ(玉村町)、FM桐生(桐生市)がある。「地域密着、市民参加型の放送局」というコンセプトは、各局にほぼ共通し、市町村からの行政情報や住民ボランティアが制作する番組、午前中や夕方のワイド番組も各局の定番となっている。
 高崎市を聴取域とするラジオ高崎は、県域放送とは異なり、まさに自分の隣で起こっている身近な情報を提供する。災害時には、市内の被災状況や給水をどこで実施しているか等、市民に必要なライフライン情報をきめ細かく伝えることができる。大規模地震で道路が分断されてしまった場合も、電波を通じて情報を供給することができる。


●緊急時には76・2

 ラジオ高崎では、高崎市の災害対策本部と連動し、緊急体制を整えている。緊急性に応じて、通常放送を完全に切り替えたり、軽度なレベルでは番組内でアナウンサーが告知するなどの対応をしている。中越地震発生時には、地元のコミュニティ局が落ち着いた対応を呼びかけ、市内の状況や交通情報を放送した。大型台風が上陸した際は24時間体制をとり、徹夜で台風情報を流している。火災発生についてはその都度放送を行い、道路渋滞や鉄道情報、駐車場情報は番組内で頻繁に情報を提供している。
 こうした身近な生活情報を全市民に届けるため、難聴地域の解消が長く求められていた。観音山送信所の指向性により、特に高崎市西部の山間地域はラジオ高崎の放送が聞きにくかった。合併で市域が拡大し難聴地域を解消することは、市内の防災体制を確立する上でも重要課題だった。ラジオ高崎は、難聴地域を解消するために長く調査研究を行ってきたが、今年3月1日に倉渕支所の敷地内に中継所を開局させ、倉渕地域の9割の世帯をカバーした。3月1週目は中継所の開局記念番組を編成し、倉渕の子ども達全員の一人一言を電波にのせるなど、ラジオ高崎の浸透に努めている。「放送を通じて地域交流を推進できる」、と倉渕地域の人も喜びを見せている。


●400平方キロの口コミ

 高崎市内小学校の運動会が同じ日程で行われることから、ラジオ高崎は、7、8年前から早朝に開催情報の放送を行っている。運動会の開催は当日の天候に左右され、微妙な空模様の時など開催されるのか悩むことも多い。当日朝7時に各学校からの情報がファックスでラジオ高崎に届く。放送は地域の人や同居していない祖父母など運動会の見学に訪れる人にも開催情報が伝わると好評で、現在市内小学校の8割が活用している。  商店街のイベント告知や販促にも効果的に使われている。「えびす講市」では、まちなかスタジオから中継放送し集客に貢献している。イベントの楽しい雰囲気や見どころなど現場の臨場感が伝えられるので、生きた情報がリスナーに届けられる。事前告知では、100mのロールケーキづくりの参加者募集にも反響があった。
 レストランとタイアップした番組やイベントも、お店の売りとして開局以来継続されている。生放送でレストランのお客様に電話インタビューすることで、若者層の人気店となったお店もある。高崎駅西口ビブレ前でミュージシャンやCDのプロモーションライブを中継放送する企画も行っている。音楽が通りにあふれ、まちのにぎわいづくりの効果も大きい。
 こうしたライブを行うと、CDショップのセールスに直接つながる。また、あるインディーズバンドがラジオ高崎だけでスポットCMを流したところ、「全国の中で高崎が最も売り上げを伸ばした」と喜んでいたそうだ。ラジオ高崎の特徴を生かして効果的に活用されている。


コミュニティ放送局の域を超えたラジオ高崎

●市民力を基盤にしたラジオ高崎
 都市戦略の一翼を担う

 高崎市は、首都圏、上信越、北陸の結節点として都市の存在感を示し、州都をめざす都市力を蓄えてきた。ラジオ高崎は、高崎市の都市戦略に照準をあわせ、日々の放送はもちろん、放送局という特殊な業態の利点を生かした展開を行っている。
 音楽のまち高崎を代表するイベントの高崎音楽祭、冬の風物詩として定着した光のページェント、昨年行われた全国都市緑化ぐんまフェア高崎会場、高崎アートインキュベーション推進会議などの事業では、市民実行委員会と連携して中心的な役割を担っている。音楽のあるまち高崎の文化創出、高崎駅周辺・まちなかの活性化と商業振興、都市基盤整備など、ソフト事業を主体に、今の高崎が必要としている都市戦略の一部をラジオ高崎も担っている。
 ラジオ高崎の誕生そのものも、まちづくりをめざした市民力の結集であり、その理念がより鮮明となってきている。高崎にはまちづくりを日常的に実践している「高崎やる気堂」、「高崎おかみさん会」、「高崎青年会議所」、「高崎女性経営者研究会」、「高崎青年経営者協議会」、「高崎市青年商業者研究会」など多くの団体がある。高崎映画祭、ストリートミュージシャン他、高崎の都市文化を創出している人達、大学、企業、NPOと枚挙にいとまがないが、この市民力を包括しながら事業展開できる企業は、まさにラジオ高崎だ。放送局という公益性と市民ネットワークを生かしたまちづくりの場となっている。


●市民のコミュニケーション活動

 ラジオ高崎は市民が出演したり、番組制作や運営に参加できる双方向メディアだ。市民自ら番組に出演して展覧会やイベントを広報することは、ラジオ高崎では頻繁に行われている。市民が情報の送り手として参加することで、地域活動の中で多くの市民が新しいコミュニケーションを展開することができる。市民の自己表現を豊かにし地域活動への参加を促進している。
 一つの例として、高崎商工会議所が制作協力して、毎週市内企業を紹介する番組「この人と10分」を火曜午後6時35分から放送している。会議所職員がテーマを決め、製造、サービス、飲食など出演者にバリエーションを持たせている。資料集め、企画、出演交渉を経て収録。収録は現場の雰囲気も伝えるよう各企業に出向いて行っている。収録に要する時間は、事前打ち合わせを含め1時間から2時間。出演が恥ずかしいという人もいるが、伏してお願いをして、企業のトップや店主さんに忙しい仕事の合間に時間を作ってもらう。放送後、番組を録音したCDを出演者に届けて一段落。最低でも1ヶ月先まで放送スケジュールを確定できるよう動いている。
 放送の反響があると、会議所としてもやりがいがある。連雀町の福猫「みいちゃん」フィーバーのきっかけの一つも、「この人と10分」だった。


●市民団体も力を発揮

 高崎の子ども達が出演する「わいわいスポーツキッズ」が、毎週日曜日午後5時30分から放送されている。毎週、高崎市内のスポーツチームの子ども達が交代で出演する。子ども達はユニフォームを着て颯爽とスタジオに入り、司会のアナウンサーの進行で、チームの紹介や目標をちょっと緊張しながら話す。引率の保護者は、オープンスタジオの前を囲み、ワーキャー的な雰囲気で子ども達を応援し写真など撮っている。子ども達にとって、放送で話すのは大イベントであり、事前に内容を考えたり大きな刺激になる。「高崎市で優勝して県大会出場が目標」と放送で言ってしまえば、がんばらないといけない。監督やお母さんも自分の子どもが出演すればうれしい。毎週毎週、この作業を繰り返し、年間40チーム以上が出演する。
 この番組が継続できるのは、企画を受ける高崎市児童文化スポーツ連合会、高崎市のスポーツ少年団の力だ。児童文化スポーツ連合会は、子どもフェスティバルという他市にはできない年間事業を行っている。  子どもたちが出演する番組には「ラジオ保育園」もあり、高崎市保育部会が協力して制作している。高崎市内の保育園が出演し、好きな食べ物や将来は何になりたいかなど、子ども達の元気な声が聞こえるにぎやかな番組だ。この番組も開局以来続き、保育部会の力が発揮されている。


●一人ひとりの力にスポットを当てる

 番組作りには情熱と労力が必要だ。裏を返せば、児童文化スポーツ連合会にしろ、保育部会にしろ、番組に出演することは大きな負担になる。負担感など気にせず、楽しむくらいの組織力がないと、毎週の放送は続かない。週単位、月単位で放送枠を持っている団体はたくさんあり、市民力を生かした番組になっている。市民力がなければ、こうした番組は成立しない。
 一人ひとりの市民にスポットを当てていくことが市民力につながり、放送を通じて活力が循環する。産業振興と言っても、がんばってくれているのは一人ひとりの企業人や店主、職人さん。スポーツ振興、子育て、子ども達の健全育成を担っているのも同様に一人ひとりの力。この力に着目した番組を構成し、市民力を高めていくことがラジオ高崎の大きな役割となっている。


●市民が活躍する舞台づくり

 全国都市緑化フェアでは、市民組織のまちなか部会が存分に力を発揮した。高崎駅西口駅前にオープンカフェをつくり、毎週末のコンサートやもてなしイベントでフェアを盛り上げた。オープンカフェやまちなかイベントだけでも、期間中の72日間に、延べ数千人のスタッフが投入されているが、ラジオ高崎はまちなか会場の事務局機能を担い、市民活動を手伝った。
 まちなか会場「花路花通り」のコンセプトやもてなしイベントの考え方などをまちなか部会と提案協議しながら事業の方向が形成されている。まちなか部会を構成していた諸団体は、まちづくりで汗をかくのが大好きで、経験、ノウハウ、アイデアも豊かな人ばかり。まちづくりの市民力を発揮させる舞台づくり、シナリオづくりがラジオ高崎の役割だった。どのような方向にエネルギーを向ければ魅力的なまちなか会場になるのか、市民とともに描いた。


コミュニティ放送局の域を超えたラジオ高崎

●高崎の音楽性を全国に発信

 高崎音楽祭は、音楽のあるまち高崎を代表する事業で、ラジオ高崎が事務局となり、コンサートの具体的な立案まで行っている。高崎音楽祭は、高崎の創造性を高め、全国に発信するものであり、事業内容には豊かな音楽性が伴っていなければならない。高崎音楽祭のコンサートは、全国ツアーのようなパッケージ物ではなく、全て高崎独自の内容で構成されている。群馬交響楽団や高崎で活躍するアーチスト、国内外から招へいしたアーチストの演奏会を柱に、ミュージックシーンをとらえた高水準の企画が要求される。演奏レベルも高く、楽しいコンサートを組み上げるのは、専門性の高い仕事だ。
 昨年の音楽祭でも来高し、市民に馴染み深い熱帯ジャズ楽団は、高崎音楽祭をきっかけに誕生したジャズバンドだ。高崎の音楽性に共鳴し、ミュージシャン自身が新しい音楽を発見した象徴的な出来事と言える。また音楽祭では、デビュー間もないゴスペラーズをストリートライブに起用するなど、現在のゴスペラーズの人気を考えれば、有望な才能を発掘し、市民に紹介する先見性も持っている。


コミュニティ放送局の域を超えたラジオ高崎

●高崎駅周辺のにぎわい創出

 高崎の冬の風物詩「光のページェント」もラジオ高崎が事務局となっている。前回からは緑化フェアの成果を踏まえ、まちのにぎわいづくりの効果を高めるため、高崎駅西口周辺で開催した。駅東口ペデデッキにも波及させ、ヤマダ電機LABI1前にもイルミネーションが飾られるようになった。
 高崎駅コンコースから駅東西を一体化したにぎわいづくりは、緑化フェアや高崎音楽祭でも実験され、群馬県最大の集客施設「高崎駅」からの情報発信にもラジオ高崎は取り組んでいる。東京電力、東京ガス、NTT東日本、JR東日本との連携で高崎駅西口にサテライトスタジオ「COCOA」をオープンさせ、生放送を行っている。
 高崎の音楽産業創出を目指す高崎アートインキュベーション推進会議と連携した「うたイスト」公開オーディションは、COCOA前で開催され、高崎発のプロミュージシャンを養成するコンテストだ。高崎駅西口周辺は、若者が集まるファッション街で、音楽、若者文化、集客力を生かしたイベントは、注目度も高い。アートインキュベーションは、高崎駅西口ペデデッキで演奏するストリートミュージシャンも応援している。  多様な文化の集散は、高崎の都市機能となっている。


●市民力を都市戦略に

 ラジオ高崎は、毎日の放送や事業のプロデュースを通じて、地域情報の集積と市民のネットワークを促進させている。放送局が地域情報のデータベースとなり、まちづくりビューローとしての機能を持つことで、さまざまな市民活動を支援することが可能となる。ラジオ高崎の番組審議会では、市民活動や商店街振興に放送が寄与し、市民メディアとしての機能が高く評価されている。行政にとっては、即時性を生かした情報伝達により、市民一人ひとりに問いかけ、新しい市民サービスを提供していくことが可能だ。
 番組制作、緑化フェア、高崎音楽祭などの事業を通じて、ラジオ高崎は市民と高崎の都市像を描いている。市民一人ひとりの力を輝かせることであり、それが高崎の市民力、都市力に直結する。ラジオ高崎も高崎の都市戦略なのである。


(文責/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所 『商工たかさき』2009年4月号

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