ぐんまちゃん家で群馬学/「群馬の食ブランド」シンポを開催

(2009年9月)

ぐんまちゃん家で群馬学/「群馬の食ブランド」シンポを開催

 群馬県立女子大学は、八月三十日に東京銀座のぐんま情報センター「ぐんまちゃん家」で群馬学連続シンポジウム「群馬の食ブランド」を開催した。


 基調講演は京都の京料理店「わた亀」五代主人の高見浩さん。パネリストは、JAたかさき・鎌田勝さん、鼻高町の長坂牧場タンポポ専務・長坂幸夫さん、そば処きのえね・菅家恵子さん、司会は同大群馬学センター副センター長の熊倉浩靖さん。


 同大の富岡賢治学長は「群馬学もだんだん広がってきた。群馬は東西の十字路で交通の要地で異文化が共生している。群馬のアピールがまだまだ足りないと思う。群馬の魅力を再認識する必要がある」と東京でのシンポジウム開催の意義について話した。会場のぐんま情報センターの金子敏男所長は「オープンして一年二カ月、ぐんまちゃん家の入場者も25万人となった。十一月までに30万人となる。他県は東京にアンテナショップを置くだけだが、群馬は総合情報センターとして群馬を発信し、群馬への認識を深めてもらっている。群馬の魅力を発信し県外の方に交流を深めてもらえるよう努めたい」とあいさつした。要旨は次の通り。


○基調講演「京料理のこころ・そのブランド展開」高見浩

 京料理にはどのようなイメージをお持ちでしょう。京料理は地方料理の一つです。東京、大阪、群馬にもすばらしい郷土料理がある。京料理も郷土料理の一つだと思っています。みんなががんばることが日本料理の発展につながります。東京で京料理の看板を上げるのはおかしいような気がします。

 京料理の定義は難しいですが、みなさんの印象の通り薄味、ゆば豆腐、繊細などの特徴があります。京都では千二百年同じことをずうっとやってきて、それがたまたまスポットライトを浴びた。何も変わっていません。


 京都の土地柄、海が遠いので新鮮な魚がありません。一番近いのは若狭湾。昔は京都では新鮮な魚が手に入りませんでした。江戸前の魚の鮮度には負けます。絶対に勝てません。

 どうにかして魚を京都に運び料理できないかと、苦心してきた結果が受け継がれています。若狭で浜塩した魚を京都に持って来る。人力で一晩かかったのだと思います。たまたま京都に届いた時に、ちょうど良い塩の回り具合だった。


 活きている魚はどうか。鯛など無理です。何があるかと言うと、息の強いハモなんです。これしかなかった。かまぼこにしかならないような魚です。これをなんとか料理しなければならない。ハモの骨切りに料理人は苦心しました。これが京料理の発展につながったと私は思います。


 なんで京都ではハモ、ハモと言われるか。梅雨があけて祇園祭りの頃のハモは脂がのってものすごくおいしいです。十月にも二回目の旬があり、松茸と料理します。五月の終わりから十一月までハモを使います。ハモには京料理の強い思い入れがあるのです。


 京料理の特徴は水です。四方を山で囲まれ、水がきれいで地下水もすごくいいです。伏見の銘酒、友禅の染め、湯葉も京都の水から発展しました。京都の水は軟水です。岐阜あたりで東西の水の種類が分かれると思いますが、東は硬水ではないかと思います。京都の軟水には、鰹だしがあいます。関東の硬水に昆布があうと私は思います。こちらは昆布を生かして濃い口醤油、京都はかつおを生かして薄口醤油。水が根本にあるのだと私は思います。


 京都の料理は色は薄いですが、けっして薄味ではありません。関東は色は濃いですが、味は案外濃くありません。塩分などそれほど差はない。


 京料理は素材をうまく生かしています。京料理に出会い物があります。鯛とかぶら、いもとボウダラ。採れるところは違うが旬が同じ。畑で採れたもの、海で捕れたもの、旬のものをいっしょに料理する。お互いのもつ旨み、成分がうまく作用しながら料理ができあがる。


 京料理はカロリーが低い。健康的です。マスコミに取り上げられる一因かと思います。


 京料理には茶懐石、精進料理、御所の有職料理、おばあちゃんが作るような家庭料理、我々料理屋がつくる会席料理があります。私達は京都の家庭料理を若い世代に伝えようと活動しています。三歳までに鰹と昆布の味を子ども達に教えないと、大きくなってから、それを生臭く感じるようになってしまうそうです。


 京都には、本当に古い料理屋さんがあります。僕らの仲間でも十五代目、十七代目がいます。京都では、経営者が料理人です。それが代々つないでいく基本になっているのだと感じています。例えばデパートに出店する話があるとします。子どもの代、孫の代にどうなるかを考えるのが京都の料理屋です。きっとお断りすると思います。子どもや孫が仕事を継ぐ時のことを考えるのです。


 京都は変わらないのが魅力だと思います。私達も変えない。変えたらあかんものがあるのです。


 料理屋同士は親子で親交しています。他の料理屋の親父さんに料理のこと経営のことを色々学び、世代が順送りに伝統を伝えています。実の父親に言われるとカチンときますが、他のお店のご主人から聞くと素直に耳に入るものです。


 受け継いできた伝統を我々はどう伝えるべきなのでしょう。二十年後、三十年後の京料理はどうなっているのでしょうか。フランス料理の手法を和食に使えないか、新しい食材を取り入れられないか勉強もしています。しきたりの勉強も大切です。古くからの冠婚葬祭、婚礼料理のしきたりなど伝え残していきたいものです。昔は神社の披露宴に出向いて我々が料理していました。しきたりを守り伝えるも京料理屋の品格だと思います。


 私達はバトンランナーの役割をしています。伝統を守るということはどういうことなのでしょう。守るだけでは先細りすると思います。守って破って、守って攻める。京都の料理屋の旦那は、店を女将に任せて、祇園のお茶屋で朝まで遊んでいると思われているでしょう。そういう時代もありました。今はそんな時代ではありません。


 今の若いお客様は、老舗だからと店を選んでくれません。フランス料理もイタリアンも和食も、古かろうが新しかろうがみな同じです。どれだけ良い料理を出してくれるか。どれだけ真剣に料理を作っているかで選びます。


 私は料理が好きです。好きでなかったら料理人はできません。毎朝七時に卸市場に仕入れに行きます。一日中、料理のことを考えています。私達は国際線の機内食の和食の監修も手掛けています。ホームパーティのケータリングサービス、デパートのお節料理も売上が伸びています。どんな時代にも、右肩が上がっている分野があります。そこに食い込んでいく。僕らができることがあるはずです。守るために挑戦をしています。


 今回、群馬学に参加するにあたって、群馬は関東の上のほうにあるのは知っていましたが、地図を見て感動しました。鶴が舞っている形です。ひじょうにおめでたい。おめでたい産業が伸びるのではないでしょうか。鶴は千年、亀は万年。うちの屋号は亀ですから鶴亀のおめでたい同士です。群馬においしいものはたくさんあり、自然も豊かで温泉もすばらしい。温泉だけで人が呼べる強みがありますが、温泉に頼りすぎていたのでしょうか。京都には食材も何もなかったのです。あったのは社寺仏閣だけです。


 今まで群馬をコーディネートする人がいなかったのではないかという気がします。メディアを良い意味で利用し、話題を作るのも良いかも知れません。


○シンポジウム「群馬の食のブランド」

熊倉 群馬の食文化とブランドについて、これから考えていきたいと思います。


長坂 高崎の山の上で酪農をやっています。乳牛を三百頭ほど飼育し、絞り立ての牛乳を使って先ほど飲んでいただいたヨーグルトの他にアイスクリームも作っています。できたての物を皆さんに召し上がっていただくのが僕の仕事です。全国のデパートにも自分が出向いて、実際に召し上がってもらい、納得して販売してもらうのが僕のスタイルです。できるだけ地元の食材を使い、安心安全にこだわってお客様を裏切らないよう心がけています。そうやって群馬を全国に広げていきたいと考えています。


熊倉 豚は全国4位、乳用牛は全国6位です。卵を取る養鶏は9位、肉牛も11位で群馬はたいへんな畜産県です。小麦は日本有数の産地です。意識が薄く、暮らしの中で我々が誇りを持って使い伝えていく仕組みが足りないのではないでしょうか。


鎌田 米麦養蚕が昔からの群馬の風景でした。今は残念ながら養蚕が廃れてしまいました。高崎線沿いにあった製粉工場も輸入小麦が主流になり、今は海辺に移転しています。


 高崎の学校給食は自校方式で行われています。遺伝子組み換えが問題になり、学校給食の栄養士さんが心配して農協に相談に来ました。そこで生まれたのが高崎しょうゆです。そして高崎の田園風景を大切にしようと高崎産小麦「絹の波」から高崎うどんができました。絹の波は麺用のたいへん良い品種です。麺用小麦は少なく、たいがいの麺はオーストラリア産で作られています。残念ながら価格で輸入品には勝てません。安心安全にしっかりとした考え方がブランド確立のために必要です。飲食業とタイアップし、高崎うどんとモツを結びつけるイベントも開催しています。


菅家 きのえねは、大正十三年、甲子の年に創業しました。高崎駅にほど近い所にあり、高崎にお越しいただいた方、観光客の方も多いので、高崎うどんを提供しています。評判が良くて、冬は鍋焼きも人気があります。多くのバリエーションに対応できるうどんです。滑らかさに驚かれるお客様もいらっしゃいます。


 高崎市で全国都市緑化ぐんまフェアが行われた時に、高崎らしさ、群馬らしさを味わっていただこうと、榛名の梅を使い「梅おろし」を考えました。高崎うどんを通して高崎に良さを発信しています。


熊倉 群馬の小麦は全国で4位です。600万トンが輸入されていますが、国産は90万トン弱にしかすぎません。群馬の人は小麦粉と言わず、「うどん粉」と言いました。それだけ群馬では、小麦をうどんとして食べていました。


高見 群馬は女性がしっかりしていて、強いという言い方をしてよろしいのでしょうか。京都でも女将がしっかりと接客をします。旦那は料理人で表にはあまり出ません。夫婦でがしっかりしている店は繁盛しています。経営だけではなく、従業員の和、嫁姑、家庭環境、後継の子どもたちも含めてバランスが大事だなと思います。売上だけ良くてもうまくいきません。


参加者 群馬は下仁田ねぎなど素材がおいしいから、料理に到達するまでに食べてしまうのではないでしょうか。


高見 素材が良いぶん技術を工夫する必要がなかったということですね。京都は本当に素材が無かった。素材が無くてどうしようかとやってきた京料理が、たまたま時代に合ってきた。素材が良くて技術もある料理を集団で本気で取り組んでいき、前に出ていただきたいと思います。


参加者 群馬の素材と京都の技術を組み合わせる京都・群馬サミットみたいなことをやったらどうでしょう。


高見 京都の料理人は、そういうのが好きです。挑戦してやりたいです。


熊倉 前回は、大阪の初亀さんに基調講演をお願いしました。今回は京都のわた亀さんで、「鶴亀食のサミット」をやりましょう。


(文責/菅田明則・新井重雄)

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