マンション建設ラッシュ後の高崎のマンション事情

(2009年11月)

 空前のマンション建設ラッシュで、高崎の中心市街地に10階以上のマンションが並び建った。バブル期を超えるとも言われたブームも、昨年のリーマンショックで、なんとなくマイナスイメージに包まれたが、今年の春以降、高崎市では中心市街地を中心に人口は増加し堅調な伸びを見せている。中心市街地の人口増加はマンションによるものなのか、今マンションはどのような価格帯で販売され、どんな物件が売れているのか、高崎の中心市街地で繰り広げられているマンション事情について探ってみた。


●昨年で止まったマンション建設ラッシュ

 平成13年から14年以降、首都圏から地方都市に拡大したマンション建設ブームは、高崎の中心市街地では平成18年から19年にかけてピークを迎え、利便性の高い「駅近」を中心に建設ラッシュが続いた。


 マンション開発は、地方都市での展開を得意とする事業者、都心・首都圏で低価格のマンション供給を行ってきた事業者が中心だった。昨年のリーマンショックに前後して、事業者の倒産など不況の波にみまわれ新たな建設は止まった。中には、建設途中で頓挫し、周辺住民の心配の種となっている物件もある。


 高崎市によれば、平成19年度に完成したマンションの戸数は392戸、平成20年度が600戸で、平成21年度は10月末でゼロ。平成21年度は、日清製粉跡地(江木町)の再開発が計画されている以外は、マンション建設の新規申請は出ておらず、当面の間は、新規着工はないだろうと見られている。


 国土交通省の建築着工統計を見ると、群馬県内のマンション着工件数は、平成18年、19年をピークに、平成20年は大きく減少。月ごとの動きを見ると、昨年11月に着工した98戸を最後に、平成21年の新規着工はゼロ。全く動きが無くなっている。群馬県だけではなく、新たなマンション建設が行われているのは、首都圏の東京、埼玉、千葉、神奈川で、大都市圏以外ではどの県もほぼ群馬と同様。栃木県でわずかに動きがあるだけだ。


マンション建設ラッシュ後の高崎のマンション事情

 山一不動産(株)の山田堂雄常務は「高崎駅周辺、中心市街地のマンション建設は、区画整理など再開発事業の影響も大きい。換地処分も終わり、再開発や建築予定が一段落したところにリーマンショックが起きた」と言う。


またマンション建設の鎮火傾向は、「リーマンショック以前から始まっていた」と(株)群馬総合土地販売の川本裕明社長は話す。リーマンショックの一年ほど前から潮目が変わり、首都圏ではマンションデベロッパーに対する融資を銀行が抑え始めた。資金繰りが悪化し、マンション在庫を抱えたまま黒字倒産するケースもあったという。高崎でも、デベロッパーの不調で影響を受けた物件がある。不動産筋では「更地のままだったら、まだ処理の仕方がある。建設途中で投げ出されると、権利関係も複雑で撤去するわけにもいかない。完成すれば管理費負担が出てくる。とにかく売り切りたいのが今の状況だろう」と見ている。


●激しい価格競争

 現在最大の焦点は、平成19年、平成20年に売り出されたが、リーマンショックによって生まれた数百戸のマンション在庫を、どのようにして売り切るかだ。


 今の状況は「急激な需給バランスの崩れ、マンションの供給過剰」と市内の不動産筋は口を揃える。平成14年以前の年間供給の平均は百数十戸。平成18年以降、年間数百戸の供給が続いた。売れ行きを左右する要因に、マンションのグレードやブランド感があった。値引きをすれば、マンションのイメージにも影響する。ブランドイメージを維持し、売り切るまでの長丁場に体力が持つかどうかも勝負だ。


 マンションのグレードは坪単価が指標になると言う。高崎では、坪130万円を超えればかなりグレードが高く、100万円台が平均的な水準になっているそうだ。広さ75㎡の物件であれば、坪単価130万円の場合、約2、950万円となる。また一棟の中でも両端や上層階に人気があり、逆U字形に売れ価格も高くなっている。約10年前の平成12年が坪140万円で一戸の販売価格も3,000万円を超えていた。以降、順次坪単価は下降し、最近の平均は100万円前後と見られ、一戸の価格も2,500万円前後に相場が移っている。


 坪単価が130万円、販売価格が4,000万円を超える高価格帯を持つマンションは数が少ないが、売れ方が安定しており現在でも引き続き需要は維持されているそうだ。高層階は5,000万円を超え、部屋のつくりや共用スペースなども豪華で風格があり、ホテル並みの施設となっている。「差別化するためには、一戸建てと競合できるような、マンション住まいの醍醐味が必要」と川本社長は言う。


 リーマンショック前の売れ筋の価格は、2,000万円台半ばから3,000万円台前半で、ハイグレードマンションでも販売の中心はこのあたりに置かれていた。そしてマンション建設ラッシュの中で、多く建てられたのがこの売れ筋をメインに、高くても3,000万円台前半の比較的買いやすい物件だった。


 マンション一棟全てを売り切るには一年以上、場合によっては数年かかると言われる。市内に建てられた多くのマンションは、完成して間もなくリーマンショックに襲われ、景気が冷えこみ、物件の動きが見えなくなった。その間にマンションの所有権が転売され、売り主や販売代理店が変わり価格が変わってしまうケースもある。リーマンショック後、年が明け今年の3月決算期に前後して激しい価格競争が幕を開けた。それまでの売れ筋価格帯から数百万円、なかには1,000万円以上値引きした価格がチラシに刷り込まれるようになった。実勢価格から坪単価を算出すると70万円から80万円になるケースも珍しくない。

 「高崎が本来必要とするマンション需要の約十倍の戸数が、一気に供給され供給過剰になった時に、リーマンショックが追い打ちをかけた。過剰な在庫をどうするかが、デベロッパーの死活問題になったのではないか」と市内の不動産筋は読んでいる。「この坪単価では、これからマンションを建設することは難しい。新しい計画はしばらく動かないだろう」と言う。


 平成20年は、全国で販売戸数が減少し、十数年ぶりの低水準となっているが、販売価格の変化は数%のマイナスにとどまっている。今年に入り、このように激しい値引きが全国的な傾向なのか、地方都市あるいは高崎固有の現象なのか、現在のところ検証する資料が見あたっていない。


●市街地人口増加はマンションの効果

 あるマンションは実勢価格が1,000万円台の中盤で、月々のローン支払いは、アパートの家賃とあまり大差がない。「過去に例がないほど、大胆な値下げ幅だ」と川本社長は言う。下げれば売れる、下げなければ売れない、というマインドが市場を覆い「安くなったら買いたい」と言う購買層が動き始めた。


 中心市街地では、売り出し中のマンションが隣接し、勝負所を前面に打ち出している。一社がキャンペーンを打つと見学客が近隣の分譲マンションを回遊し、誘客の相乗効果があるそうだ。価格に引かれる購買層の食指が動く一方、値引きよりも「高崎の魅力を感じさせるロケーション、グレード感などの不動産価値が決め手になる」とマンション各社の営業担当は、それぞれのセールスポイントに自信を持っている。「実際にショールームを見て、今住んでいるアパートと変わらなければ、安くても欲しいと感じてもらえない。マンションのグレード感、ライフスタイルが提案できなければ成約に結びつかない。お客様は、よく研究している」と言う。立地が隣り合うのに、売れ行きに差が現れている。


 また、「高崎駅の東西で、ブランド感に違いがあることがわかった」とある営業担当は言う。川本社長らも「南小校区、高松中校区は人気があり、強い地域だ」とエリアブランドがあることを指摘する。


 こうしたマンションの販売戦略の影響で、高崎市の人口は興味深い軌跡を描いている。人口減少社会の中にあって高崎市は、常に増加基調を保ち、右肩上がりを続けている。昨年10月から一年間の住民基本台帳(外国人含まず)を見ると1,265人増加しているが、今年に入って傾斜が上がり、4月以降の上昇が顕著に現れている。春以降の人口増加を牽引しているのは旧市街地で、細かく見ると、マンション分譲が行われている町内になっている。10月から12月にかけてリーマンショックで伸び悩み、1月以降の値下げ競争によって伸び始め、3月以降、本格的な入居が始まったことで大きく人口が動いていると見られる。


マンション建設ラッシュ後の高崎のマンション事情

●中古市場にも影響/マンションは今が買い時か?

 新築マンションの値下げは、中古マンション市場にも激しい影響を与えている。かつて3,000万円台で購入したマンションを、せめてローン残高の2,000万円台で売りたいと考えても、新築マンションの方が安くなってしまっている。中古マンションの価格も下がり、売る側にとっては「転売益は考えないほうがいい」と川本社長は言う。「今は損切りできるか決断するしかない」と山田常務。


 売るよりも、ローンの返済額に見合うならば、賃貸も選択肢として考えたほうがよさそうだ。売買価格は大きく変動したが、賃貸の家賃はあまり変化しない。また、マンションを購入し、賃貸での収入を考えている場合も同様で、同じ間取りであれば3,000万で購入したマンションが2,000万で購入したマンションの1・5倍の家賃で貸せるとは限らない。一般的には、間取りに見合う家賃の幅はある程度決まっている。


 どこを底値と言うのか難しいが、新築にしろ、中古にしろ「欲しい人にとっては、今が買い時」と考えてもよさそうだ。中古市場では、ロケーションも良く、グレードの高いマンションが手頃な価格で売りに出ることもある。高崎駅徒歩圏内でグレードの高いマンションへと住み替える需要は、潜在している。群馬は一戸建て志向が強く、駐車場確保もマンション選びのポイントになる。「3,000万円出せば一戸建てが手に入る。魅力があり、一戸建てと競争できるマンションでないと売れない。駅から近いことが大きな条件ではないか」と不動産筋は話す。


 アパート家賃と同等の金額で月々のローンを支払うことができることで、新たなマンション購買層を開拓した結果、一戸建てからの住み替えも多いと言う。購買層は、30代、40代を中心としながら60代以上も多い。支払いも分割ではなく一括。一戸建てを売却し、マンション購入の資金にすると考えるのが一般的だろうが、持家をすぐに売らない人も珍しくないという。マンション価格が高額になるほど、こうした傾向が強くなる。「高崎のお客様はお金持ちだ」と言う営業担当もいる。


 一方で、若い層の購買意欲が落ちていると指摘する営業担当もいる。「リストラ、派遣切り、リーマンショックで、若い人たちが自分の将来の収入に対して自信を失っている」というのが一因ではないかと推測している。


●店舗・業務系への影響は?/飲食関連の需要に高まり

 エリア固有のブランド作りが人を呼ぶ

 こうした高崎のマンション事情は、商店街の貸店舗やテナントのマインドにどのような影響を与えているのだろうか。


 「不動産相場の値下がりは、時間がたってから感じるものだが、今回は落ち込みが急激ではっきりと目に見えるほど厳しい」と山田常務は言う。テナントが家賃に見合う収益を上げるのが難しくなっている。賃料は、リーマンショックを前後して、3割から4割も値下がりしているという。借り手側も貸し手側も厳しい時代を迎えているが、「店舗物件の7割は飲食出店の希望者」と、このところ、街なかへの飲食関連の出店が増えている。以前街なかでは、区画整理・再開発事業で、ファッション・アパレル関係の店舗にシフトし、飲食店が減少した。飲食テナントの入居を嫌う家主も多かったようだが、時代の流れに合わせた対応が求められるようになり、再び飲食関連の出店へとつながっているようだ。


 山田常務は、「多様な店舗が混在し、バランスのとれた魅力がまちには必要。飲食で人が集まれれば、回遊性も生まれ、集客の好循環が生まれてくる」と期待している。街なかの居住人口増加を、周辺商店街の集客に結びつけるよう戦略が重要だ。マンション周辺の商店には、居住者が買い物に訪れており、人口増による商業ポテンシャルは確実に高まっている。


 川本社長も「動きが顕著なのは、高崎駅周辺から東二条通りにかけて。新たな引き合いの少ない商店街もある。商業系、事業系は厳しい。ニーズをとらえていくことが重要だ」と見ている。


 また「前橋市では、敷島エリアが住居地域としてブランド力を高め洗練されたまちなみを形成する。吉岡町ではショッピングセンター集積が進むが、群馬地域のイオン周辺では土地利用の制約などがあるようだ」と指摘。高崎の都市ブランドを高めながら、エリアごとの戦略をしっかりと打ち出していくことが重要になってきている。


(文責/菅田明則・新井重雄)

高崎商工会議所『商工たかさき』2009年11月号

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