高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る

企業の生き残り戦略、独自化戦略、オンリーワン戦略

 「ニッチ・ビジネス」とは、業界や市場で、隙間分野を対象にしたビジネスを行うことを指す。ニッチとは「マーケットの隙間」を意味し、他社が参入しにくい特定の市場で専門性の高い商品やサービスを提供する企業戦略のことを指す。ニッチ戦略とは、企業の生き残りや独自化への戦略であり、言い変えればオンリーワン戦略でもある。また、消費者から見ると高満足戦略で、魅力的なナンバーワン戦略である。

 このニッチ・ビジネスのメリットは、限られた経営資源を集中することができ、その市場で高いシェアを獲得することができること。つまり、競争のない新たな市場を開拓できることだ。しかし、参入障壁が高くビジネスモデルを確立するのは非常に難しい。「ニッチ・ビジネス」は、企業の生産やサービス領域を特定の分野、限られた範囲に絞り、その領域で優位な市場地位を得て、競争優位性を構築することを目指したものだ。

近年では経営資源が限られている小規模企業や大企業でも事業単位で行われていることが多いようだ。高崎にも、「ニッチ・ビジネス」という視点から捉えて、高いシェアを獲得している企業がある。今回の特集では代表的な3社を紹介する。

高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る

極細線から特殊電線を巻く技術は
日本でトップクラス

株式会社トクデンプロセル

業界シェアを大幅に占める製品を数種製造

 トクデンプロセルは、上佐野町に本社工場、ビジネスセンター、配送センター、埼玉県さいたま市に支店を置く、諸電線・電子機器および電子部品の販売や各種電子、電気機器及びその部品加工を行う企業。昭和29年に電線メーカーが北関東地区での市場拡大のために高崎市に拠点を置き、営業活動を開始したのが会社創立のきっかけだ。そのために、製造技術はもちろんだが、営業力があるのも特徴である。

 様々な太さの電線を巻きコイルを作る技術に優れており、身近な製品では自動車ランプや監視カメラ部品に用いられている。そのほか、通信・電子・計測機器の組み立て、金融機関のATMの制作、モニター組立てや検査などの業務も幅広く行っている。

 髪の毛よりも細い電線と特殊電線を巻く技術は日本でトップクラス。例えば、平角(ひらかく)線と呼ばれる平たい電線を扁平縦巻にする技術だ。平角線は丸い電線に比べて、巻いたときの隙間が少ないために、密度、つまり占積率が高くなり、小型化して消費電力が少なくて済むというメリットがある。しかし、平面であるために巻くと円周に差がでてしまい、技術面において実現が非常に難しい。トクデンプロセルは、これを成功させた。

 2000年頃から、自動車のHIDランプ(高輝度ランプ)に使用する高圧トランスに、この平角線扁平縦巻技術が活かされている。2001年には中国の大連で合弁会社を作り生産を行っている。ここで作られた製品は、日系中国工場1社だけに納められ、日本だけでなくヨーロッパやアメリカなど世界中の自動車にも取り付けられている。

 中国工場では1カ月に70万から80万個のコイルを生産。つまり、自動車1台にライトは2個取り付けられるため、約35万台分以上のコイルを作っていることになる。トクデンプロセルは、自動車ランプの部品を供給する2次メーカーなので、製品の一部として世界中の自動車メーカーに納められ、様々な車種に取り付けられる。世界シェアは40%を越える。また、監視カメラ用のサーボモーターコイルも世界の半分のシェアを誇っている。

高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る代表者:古川 和男氏

 売上はリーマンショック前までには回復していないが、前年対比では倍以上となっている。HIDランプに使用されるコイルは、社内全売上額の10パーセントに満たないが重要な基幹事業である。  また、プリント基板組み立てでは、半導体の試験装置製造を行う世界のトップクラスに入る企業に納めている。製造過程では、顕微鏡を使ったハンダ付けを行っている。誰もが出来る技術ではなく、人を育てなくてはならない。同社では、10年以上の作業経験を持つベテランも少なくない。
 同社では、製造部門、販売部門が一体となって、お客のニーズを捉え、満足してもらえるものをいかに安く速く提供できるかを第一に考えている。そのために、前述のような多品種小ロットの生産が多くなっている。

 もの作りに特化し、生産技術だけで勝負する同社だからこそ引き合いは絶対断らず、新しい商品を提案する。そのために、多品種小ロットの生産が行われる。
 社長の古川和男さんは、自社について「地域に雇用をもたらすことと、利益をあげ、会社をさらに発展させること」が必要だと考えている。そのために、おもな製造拠点は中国以外は高崎にしかなく、高崎に製造の主力を置くことは、今後も変えるつもりはない。地元に地固めをしてこそ、企業が発展すると考えているからだ。リーマンショックの時もリストラを行なわずに乗り切った。

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株式会社トクデンプロセル

住 所:高崎市上佐野町714
電 話:027―326―8020
代表者:古川 和男氏

■ここがニッチ

平角線の扁平縦巻の技術。高圧トランス巻線のほか、車載用のステアリングのセンサーコイル、監視カメラ用のサーボモーターコイルなどに使われている。

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ある自動車メーカーの足回りに
100%使用される「ボールジョイント」

株式会社オオサワ

少量多品種のボールジョイントは、会社を語るのに欠かせない主力商品

 倉賀野町に本社を置くオオサワは、自動車部品メーカーに製品の一部を納める、いわゆる下請け企業だ。作っている製品は、自動車の自動変速機や足廻りのジョイントの役割をする装置に使用される部品を中心に、主に4種類。自動変速機の前加工品とボールジョイント、クランクシャフト(カーエアコン用部品)、これらは全て車に取り付けられる部品だ。残りは、設備機器関係に使われる「リニアケース」といわれるもの。工場内には汎用機のNC旋盤のほか、専用機なども揃え、短時間で高品質のものを作り出している。

 自動変速機の前加工品は、量産加工。月に100万個ほど生産を行っている。これが、オオサワの売上高の7割を占める。残りの3割は、少量多品種の生産品だ。ボールジョイントは、全売上高のわずか12%だが、会社を語るのに欠かせない主力商品だ。これは、昭和48年に個人創業で自動車部品加工業を始めた時から生産を行っているというもの。社長の大沢照義さんが、親会社から「これを作ってくれないか」と頼まれたことが、会社創業のきっかけとなったというエピソードを持つ製品だ。これはある自動車メーカーの足廻りに100%使用されている部品。ほかではどこでも作っていない、まさにニッチ市場に対するものづくりだ。直径15ミクロンという、非常に小さな球面に加工を施す。専用機で行うが、近年、その精度はさらに増し、作業効率も上がっている。

高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る代表者:大澤 照義氏

 オオサワは、球面加工のほか、小径深穴加工や偏芯軸加工なども得意とする。これらの技術が必要とされるクランクシャフトは、通常6工程を経て製品化が行われるが、機械メーカーと4カ月間試行錯誤を重ね、3工程で製品を作る機械を開発した。さらに、偏芯軸加工では、工作機械を1分間に最大4000回転させることができるように改良。これにより、短時間でたくさんの製品を製造することができるようになった。

 「私たちは、決して特殊な技術を使っているわけではなく、一般的な金属加工を高精度に効率よく生産しているだけなのです」と大沢さん。しかし、言葉の裏には多大なる努力と技術に対する試行錯誤がある。自動車関係の部品を作る中小企業は、業績がメーカーの景気に左右される。オオサワも今まで大小あるが、その影響を受けてきた。そうした時に、他業種の製品や販売先の新規開拓を行わないのか、との問いには「まったく思わない」との答えが返ってきた。一般的な製造業の場合、メーカーとの関係上その構造や使っている部品の詳細を多く語りたがらない。そのために、オオサワも製品の詳細は公に明かせないという事も理解して欲しい。

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株式会社オオサワ

住 所:高崎市倉賀野町4748-13
電 話:027―347-3889
代表者:大澤 照義氏

■ここがニッチ

他社に真似できない球面加工、小径深穴加工、偏芯軸加工などの技術

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LEDプリントヘッドの世界シェア76%

株式会社沖デジタルイメージング

高い技術を極めるために自社の持つ技術はたった1つ「LEDに関するものだけ」

 沖デジタルイメージングは、沖電気工業と沖データから分社した企業。沖データグループの関連企業として、1999年10月に設立された。今年、高崎市横手町に本社、製造拠点を八王子から移し、現在、LEDプリンターのプリントヘッドの開発、設計、製造、販売を行っている。販売先は沖データのほか、他のメーカーにも供給する。

 LEDプリンターとは、電子写真プリンターの光書込み部にLED(=発光ダイオード)を使ったものであり、前身である2社が開発した製品。LEDを利用し、ドラムと呼ばれる感光体にトナーを付着させ、それを熱と圧力で紙に転写して印刷を行なう。インクジェットプリンターなど他の方式に比べ、高品質で高速に印刷することができ動作音も静か。つまり、コンパクト、高解像度、高速印刷、高効率なプリンターなのだ。

 LEDプリンターの開発は、他社プリンターとの特徴を差別化するために、1966年沖電気工業と旧電電公社(NTT)が共同で世界ではじめて成功させてから始まった。1980年代から生産は始まり、当時は用途が限られており、月に10台ほどしか需要がなかったため、LEDヘッドは100万円以上もする高価なものだった。市場は小さく、ある大手企業に納める程度だった。

 その後開発が進み、1989年頃から量産期に入った。LEDプリントヘッドの特徴を活かした小型のLEDプリンターは、1000ドルを切るプリンターとして世界に紹介されるようになった。この頃、プリンターには、さらなる高精度が求められていった。開発を繰り返し、当初の5倍ほどまで精度を高めたヘッドを量産できるまでになった。

 2001年頃からは、カラー機に搭載対応のチップを生産。さらに小型化させることを追求し、2006年頃からは、LEDアレイチップの材料であるウエハを大型化して、ロスが少なく効率的に材料を使うことにより、コストダウンに成功。後述する新技術「エピフィルムボンディング」も用いられ、独自の新型ヘッド(スマートヘッド)が実現した。

 全世界で年間約171万本生産されるLEDプリントヘッドのうち、同社の生産本数は130万本。76%のシェアを誇る。A4、A3サイズのプリンタヘッドだけでも、多いときには月に20万本生産する。しかし、プリンター市場全体から見ると、オフィス用のプリンターは現在光書込み部にレーザーを使ったレーザープリンターが主流となっている。

高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る代表者:荻原 光彦氏

 「スマートヘッドの実現でレーザーからLEDへの切り替えも始まった」と社長で理学博士の荻原光彦氏。この業界は日々新しい技術や製品が求められている。つねに新しい提案を行うために、従業員一丸となり、研究開発を進めている。

 スマートヘッドが実現したのは、薄い膜状のLEDを使ったプリントヘッドの量産に成功したからである。これは、「エピフィルムボンディング」という世界で初めて実用化に成功した独創技術を用いて作るもの。薄膜状のLEDを、別の材料の上に、分子間力を用いてシールのように貼り付ける技術だ。ガラスやプラスチックなど色々な基材の上に張ることができ、曲面にも対応できる。

 この技術を使えば、小さな面積にたくさんのLEDを形成することも可能なので、高密度、高精細な光を形成できる。上写真は試作品の超小型ディスプレイで、昼間や明るい場所でも見やすくなる。発光部はほとんど発熱しないので、色々な場所に取り付け可能。応答速度も速く、省電力化も実現した。

 現在このLEDを、プリントヘッド以外にも使えないかと考える。また、クリーンな環境での開発・製造も念頭に置き、地域密着型の企業になろうと努力している。

高崎製造業のニッチビジネスの現状を知る

株式会社沖デジタルイメージング

住 所:高崎市西横手町1―1
電 話:027―360―5600
代表者:荻原 光彦氏

■ここがニッチ

世界初のエピフィルムボンディング技術、LEDプリントヘッド

●企業によって異なるビジネスの考え方と将来像

 今回紹介した3社は全て、作り出す製品が市場で高いシェアを占めているが、その市況や経営者のコンセプトが違うため、目指す方向性がそれぞれ異なっている。

 トクデンプロセルのコイルに関しては、営業が見つけてきた顧客の希望に沿って加工を行ってきた。この経営戦略は、製品は小ロットでしか生産はできないかもしれないが、市場は大きいと言える。「中小企業は2~3年先を見据えるのと同じに、目の前のことに精一杯集中することが大事なのです。世の中の変化にうまく追従してゆくしかないですね。市場の動向を常に把握し環境の変化に対応できる柔軟さを常に持ち生き残っていきます。」と古川社長。同社は技術にあった市場を探すことを目標にしているようだ。

 一方、「当たり前のことを守ってやっているだけ」と社長が話すオオサワのボールジョイント製造は、特定の自動車メーカーにしか供給していない規模の小さい市場。オオサワは、市場拡大する考えは持っていない。現在の顧客に満足してもらうために、ものづくりを行うというのが理念。

 前述の通り、自動車部品製造に関わる中小企業は、リーマンショックの後、特に苦しんでいる業種・業態であるが、オオサワの場合、仕入れに関して自社では行わず、発注者側が行い有償材料が供給されている。つまり、発注者側にとって、コスト削減のためには、オオサワが行う加工の費用をカットすることを考える。だからオオサワは、上質なものを、早く、安く発注者に納品し、信頼を勝ち取っていかないと取引を打ち切られてしまうのだ。

 取引を持続させるために、実行しているのがQCD(品質・コスト・納期)改善だ。QはQuality、CはCOST、DはDeliveryの略だ。製造業にとって、これらは当たり前のこと。しかし、それを着実に行うことが、次の受注とシェアの拡大にもつながる。またそのために、新機種の投資とそれに伴う技術開発は積極的に行っている。

 沖デジタルイメージングの場合、同社が追求する技術はLEDに関するものだけである。LEDの性能をさらに上げ、活かしきるために研究を行い、その技術を新しい分野で使えるかを考え顧客に提案している。他社が真似できない新技術だからこそ、市場100%を一時的にでも獲得できるのだ。

 現在、エピフィルムボンディング技術において、光源の色を赤色だけでなく、今後は白や緑なども使ったディスプレイの開発を行っている。

 LEDプリントヘッドやエピフィルムボンディング技術は「マス」、つまり大衆に向けた製品や技術ではないかも知れないが、規模は隙間産業同等であっても、そのものではない。先端技術を世の中に提示しているといっていいだろう。それを将来的に「マス」にすることを会社として目指している。

 3社に通じていえるのは、高い技術力を持ちマーケットは小さいが高いシェアを誇る製品を製造しているということだ。各社とも製品メーカーではないが、技術力が高いということで独自の強みを持っている。このような一つの産業に片寄らないことが、高崎の製造業の強さとなっている。

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