全国初「高崎ならでは」の環境プロジェクト

高崎食品リサイクルループ協議会

全国初「高崎ならでは」の環境プロジェクト協議会の会合であいさつする大宮会長

 食品製造や調理過程で発生する野菜くずや流通にのらない食品や販売されない食品を飼料としてリサイクルし、その飼料で育った家畜を食材として活用する地産地消プロジェクトが高崎で産声を上げた。大手スーパーやコンビニチェーンではグループ傘下で取り組む例はあるが、地域の排出企業や畜産農業、小売店、さらには高崎経済大学が一体となって力を合わせて立ち上げたプロジェクトは、全国で初めてだ。また、食品の残さを「肥料」ではなく、「飼料」としてリサイクルする事業としても群馬県初の画期的な試みを紹介する。

高崎食品リサイクルループ協議会が発足

 産学協働で、地域による食品循環リサイクルをめざす「高崎食品リサイクルループ協議会(会長=大宮登・高経大副学長)」が、今年1月に発足し、今秋に野菜くずを「飼料」として再生する処理プラントを稼働させた。名称に付く「ループ」の意味は、循環を表す「輪」。

 地域の食品製造業者やスーパーから排出された野菜くずから家畜の飼料を作る。その飼料で地元の畜産農業が豚や鶏を育てて畜産品とし、地元で販売したり飲食店で消費者に提供する。地域の中で食べ物を循環させる輪を作り、エネルギーロスの少ないリサイクル社会を実現していこうとする事業だ。これまで高浜クリーンセンターで焼却されていた食品廃棄物をリサイクルすることでゴミを減量し、CO2削減など地域の環境負荷軽減にも貢献する。

 地球環境を守るために、ゴミの分別やリサイクルが社会的な使命となり、家庭、地域、企業など社会のあらゆる場面でエコ活動が行われているなか、今回のような食品リサイクルプロジェクトが、なぜ無かったのか。同協議会事務局の広瀬雅美さんは「ひとくちに言えば、利益を生み出しにくいからでしょう。根気が必要です」と言う。エコ活動として企業イメージを高めることには有効だが、ビジネスとして成立させるのは難しい分野らしい。

 協議会にはスーパー、ホテル、百貨店、食品加工、流通、廃棄物処理、飼料加工業者、環境NPO、農業生産者などが参加し、各メンバーの役割やコストなど具体化に向けて検討を進めている。

食品をリサイクルして作られるものは

食料問題を地域から考えるきっかけに

 国は、食品リサイクル法を平成19年に改正し、食品廃棄物の中で肥料、飼料として再生できるものを「食品循環資源」と定め活用を促そうとしている。しかし、衛生面、安全面から常識的に判断できるように、直接人が食するものは生産できない。再生利用の方法として国は飼料を最優先とし、肥料、熱源の順番に定めている。食品製造業では再生利用率が高いが、卸、小売、外食と川下の業態ほど再生利用率は低くなる。国の基本方針では、平成24年度までに、自社で発生した食品廃棄物の再生利用率を、食品製造業85%、食品卸売業70%、食品小売業45%、外食産業が40%まで引き上げることが目標として定められている。

 国は、食品リサイクル法を平成19年に改正し、食品廃棄物の中で肥料、飼料として再生できるものを「食品循環資源」と定め活用を促そうとしている。しかし、衛生面、安全面から常識的に判断できるように、直接人が食するものは生産できない。再生利用の方法として国は飼料を最優先とし、肥料、熱源の順番に定めている。食品製造業では再生利用率が高いが、卸、小売、外食と川下の業態ほど再生利用率は低くなる。国の基本方針では、平成24年度までに、自社で発生した食品廃棄物の再生利用率を、食品製造業85%、食品卸売業70%、食品小売業45%、外食産業が40%まで引き上げることが目標として定められている。

 目標が定められているものの、食品廃棄物のリサイクルの受皿は、十分に整備されているとはいえない。飼料、肥料いずれにせよリサイクルによって、最終的に人間の口に入る「食べ物」を生産するのは、紙や金属を再資源化すること以上に高いハードルが法的にいくつかある。そのハードルを越えるには、思いのほかコスト、リスクがかかる。

 日本は食料自給率が低い一方、賞味期限切れのお弁当や、料理の食べ残しが大量に捨てられている、などと批評されることがあるが、協議会がやろうとしている食品リサイクルは、こうした構造に一石を投じることにつながる。日本の飼料自給率は約4分の1と言われ、輸入穀物・飼料高騰が国内の畜産農家に大きな打撃を与えた。また、輸入船舶や国内輸送による、二重三重の環境負荷も伴っている。リサイクルによって地域内で飼料を生産すれば、こうした燃料消費を抑制し、環境負荷の軽減を図ることができる。

全国初「高崎ならでは」の環境プロジェクト試験運転で作られた飼料

食品廃棄物をリサイクルするためには

 肉や野菜、調味料が混在する弁当や料理の食べ残しは、飼料化が難しい。現実に利用できるのは、製造過程、調理過程で排出される種類別に分別できる野菜やパン等に限られる。  飼料は安全性の法基準があり、近代的な畜産では成分が科学的に管理され、家畜の生育に必要な栄養が配合される。リサイクル生産された飼料もきちんとした成分保証が行われる。そのためには、どのような「食品循環資源」から生産されたのか、トレーサビリティ(追跡可能性)が必要だ。肉骨粉によるBSE問題で教訓化されたように、草食系の家畜の飼料となる原料には植物性のものだけを使い、肉類が混入することは許されない。

 スチール缶、アルミ缶、段ボールなどの資源ごみと同じで、食品廃棄物も分別しないと再利用はできない。野菜くず、パンのみみなどのように品種ごとに分けて排出する。スチール缶がアルミ缶に混在していても、処理施設で分別できるが、一度混ざり合った食品廃棄物は分別し直すことができない。排出現場でルールが徹底されないとリサイクル資源として使うことが難しくなる。

 一方、様々な食材が混ざった食品残さも肥料としてリサイクルされ、高崎市では学校給食の食べ残しを回収して有機肥料が作られている。肥料についても、飼料と同様のことが言え、成分管理されていない製品では、農業生産者の用途は限られている。

 リサイクル飼料を商品として確立させるためには「品質の良い飼料を安定供給できることが必要だ。飼料のトレーサビリティに価値がある」と広瀬さんは強調する。協議会では野菜くずやおからなど、まずは植物性の食品廃棄物に限定して、飼料を生産する考えだ。

コストと社会貢献のバランス

 飲食品を加工生産する大規模工場では、野菜、果樹、お茶がらなど同じ種類のものが大量に排出されるので、分別の必要性が低いため活用しやすく、焼却されずに有価物としてリサイクル業者に引き取られるケースもある。スーパーなど量販店では、焼却処分していた廃棄物がリサイクルでき、自社の再生実施率がアップするので、今回のプロジェクトを歓迎している。飲食店では食品廃棄物も多品種で排出量も少なく、分別などの手間が増えてしまうことが心理的な負担になるなど、現状では、業態によってリサイクルへの取り組みは温度差が大きい。協議会は、この温度差を丸抱えすることで、参加企業への門戸を広げている。

 また、飼料化するためには、鮮度を保つことが必要で、野菜くずなどの排出物を腐らせないように冷暗所に保管することも求められる。原料となる食品廃棄物を排出業者からプラントまで運搬する車両も、冷蔵車を使う。鮮度を保証するために「リサイクルループ」の業務範囲は、高崎を中心にある程度限定されることになる。

 リサイクルプロジェクトに参加するにしても、排出側にすれば廃棄物の処理料金も心配だ。焼却処分していた時と同じ料金で引き取ってもらわないと企業負担が増えて経営的にはマイナスになる。協議会の参加企業からは「環境に貢献できるのであれば現場の手間は多少増えてもいいが、直接的な支出が増えることは避けたい」という声もあった。

 大手グループが傘下に対してトップダウンで指示を下すのと違い、地域の企業連携で行う場合は、こうした一つひとつの課題を解決していかなければならない。環境貢献という総論には賛成だが、分別の手間や保管、運搬、処理コストなど現実的な問題が阻害要因となり、結果的には持ち上がらなかった前例も多い。高崎の協議会が全国初となったのは、今までどこの地域もこうした問題に答えをみつけられなかったからだ。「まず、各企業が無理をしないで、できることで参加してもらうことにした」とフレキシブルな運用を心がけたことが、協議会の立ち上げにつながった。

 協議会に参加した小売業のスーパーは「食材を提供する事業者としてリサイクルループに参加したい。どういう企業でありたいかを表現する機会であり、企業の社会的責任でもある。環境に配慮した商品をお客様に啓蒙し、地域スーパーの在り方を示したい。高崎、群馬に根付いた取り組みとして成功させたい」と意欲的な意見が出されている。

全国初「高崎ならでは」の環境プロジェクト「リサイクルプラント」の一部

地産地消のブランド化を視野に

 リサイクルプラントは、協議会メンバーのIRM株式会社が建設し、1日に29トンの処理能力を持つ。プラントはほぼ竣工し、本年度内に認可を得て本格稼働する予定。処理プラントには原料からでる臭いを取り除くためにシャワーとオゾン脱臭装置を装備している。使用した水は、水蒸気として排出される分以外はリサイクルされる。このプラントで生産されたリサイクル飼料は、飼料メーカーの協力で、配合飼料に混合される予定だ。また直販やJAに卸していく準備もしている。

 生産したリサイクル飼料を、協議会に参加する畜産農家に供給し、実際に豚や鶏を育ててもらう。飼料の価格も既存製品よりも高ければ普及しないし、最終消費者にわたる畜産製品の値段にも反映してしまう。入り口から出口まで、コスト意識を徹底する必要がある。

 飼育結果が出るのは、当分先になるようだが、品質の良い畜産製品ができてほしいと期待も高い。できれば、地産地消としてブランド力を持った商品を開発したいと考えている。こうした分野では、ホテルや百貨店、食品製造業の協議会メンバーに力を発揮してもらう。ホテルのメンバーからは「食品リサイクルによる地場産野菜や豚・鶏卵を食材として活用しようと参加した。お客様の舌も肥えている。良い食材を生産し、ブランド化のためのネーミングも工夫し、訴求力のある商品を開発することが重要だ」と意見が出されている。

 「製品化できた暁には、イベントやフェアを開催して消費者の反応をみていきたい」と協議会では、一日も早くその日がくることを楽しみにしているようだ。

民間の枠を越えた相互連携で実現

 協議会では、平成21年から準備会を組織し、内閣府の「地方の元気再生事業」を活用してリサイクルループの立ちあげに取り組んできた。当初から代表を務め、会を取りまとめてきた大宮・高経大副学長は「これからが本番。私達の生活、私達の地域のために小さなループを大きく広げていきたい。これから各者の役割を明確にしていたい。ブランド化で協議会に参加するメリットを高めていきたい」と本格的に協議会が動き出すにあたっての所感を語っている。

 プラントの稼働により、協議会では来年3月までに、農林水産省の「再生利用事業計画」認定の手続きが行えるよう作業を進めている。この認定は「食品循環資源」の排出、飼料化、生産される農畜産物、食材提供・販売に至る一連の流れがポイントとなる。将来にわたって継続できることも重要な視点となる。協議会では、関係する企業、生産者が無理をしないで協力しあい、ある程度のメリットをそれぞれが感じ合える仕組みづくりを描いている。

全国初「高崎ならでは」の環境プロジェクト広瀬事務局長

 認定を受けると、市町村間を越える食料廃棄物の運搬に関わる届け出が緩和されるが、補助金などがもらえるわけではない。「民間が連携し、自分たちの力で実行することに意味がある」と広瀬さんは考えている。「リサイクルループを作るために様々な業種の人と話をすることができた。みなさんが抱えている経営問題の中で、環境を切り口に解決できることがあると感じた。枠を越えた相互連携、相互理解が成功に導くカギではないか」と言う。

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