コンベンション都市高崎の可能性と課題

「交通が便利」だけでは人は来ない。

コンベンション都市高崎の可能性と課題

高崎商工会議所の提言を活かした「高崎市都市集客戦略ビジョン」が動き出す!

 今年3月に北関東自動車が全線開通、平成26年に北陸新幹線が金沢まで延伸し、高崎を中心とした高速交通の十字軸の完成が目前となっている。昨年12月に高崎市は、高崎商工会議所・新都市創造推進委員会の提言の内容を盛り込んだ「高崎都市集客戦略ビジョン」を発表した。このビジョンは、高速交通の十字軸によって生まれる2時間圏域の人口4,600万人をターゲットにした高崎への集客戦略構想である。高崎市の交通の利便性、業務機能の集積、芸術文化の集積などを、集客都市(コンベンションシティ)に発展させる都市戦略だ。

4600万人交流圏

今、生かされているのは半分

 「高崎都市集客戦略ビジョン」は、高崎市全域を「コンベンションシティ」と位置づけ、都心部の交流人口の増大を、全市的に経済的な波及効果や地域活性化につなげていく狙いがある。高速交通網による交通利便性の向上を基盤に、高崎・玉村スマートインターチェンジ(以降、スマートIC)を活用したアクセス性を高め、新しい集客の核となるコンベンション施設を建設する計画だ。そして、高崎駅東口から高崎・玉村スマートICに至る高崎駅東口線(東毛広域幹線道路)沿線地域を開発・整備し、新たな産業副都心を建設し、広域的な業務都市としての集積を高めていくことで、高崎市の発展を牽引しようとする高崎市始まって以来の都市開発プロジェクトである。

 「高崎都市集客戦略ビジョン」に掲げられた、4,600万人交流圏は、関越・上信越・北関東自動車道、上越・北陸新幹線の高速十字軸上にある都市人口を合計したもので、日本の人口の約半分がこのエリアに存在することになる。十字軸の中心にある高崎が、この潜在する交流人口をどのように活かすことができるか。高崎市の発展のみならず、群馬県、北関東、北信越地域の発展にも大きく関わることになるだろう。

コンベンション都市高崎の可能性と課題平成20年度 旅客移動量

 国土交通省が実施している「旅客・貨物地域流動調査」(左表)で、鉄道、自動車、船舶、航空による人や物の動きが示され、各都道府県の交流人口や物流の実態をまとめている。自動車による人の移動は、サンプル調査のために精度は低いが、全国を同じ尺度で測定されたデータとして、各県の傾向を知ることができる。

コンベンション都市高崎の可能性と課題平成20年度 物流移動量

 人の移動を示す旅客移動量は(左表)、群馬県から他県への発量は年間1億3,077万人、他県から群馬に来る着量は年間1億3,017万人、群馬県内で移動する県域移動量は年間14億9,737万人となっている。群馬県内で移動している人に対し、県境を越えて行き来している人、つまり交流人口が少ない。群馬県から人が向かう先も、群馬県に来る人も、上位は埼玉県、栃木県、東京都。交流人口の半分強は埼玉県となっている。この上位三都県で、群馬の交流人口の約9割となる。他県との交流の様子を見ると、群馬県は、思ったよりも固定化して多様性が無く、関東の中では低い水準となっている。

 現在の群馬県の交流実態を見ると、既に高速交通で結ばれている新潟県、長野県との往来は多いとは言えない。新潟県・長野県は中部圏とのつながりの方が強い。群馬と北関東、上信越、北陸地域との相互交流は、これまでの歴史的なつながりなどで、自然発生した流れの域を出ていない。4,600万人交流圏の中で、現状で活かされているのは、半分の2,300万人程度の圏域となっている。高速交通網で結ばれるだけでは、4,600万人の交流は創出できない。

「交通が便利」だけでは「売り」にならない

 観光、コンベンションを通じた交流人口の増加政策は、高崎市で強く言われるようになったのは最近のことだが、全国で高崎市だけが持っている戦略ではない。コンベンションを都市の「売り」にしていこうとする動きは、既に全国で高まっており、高崎市はむしろ後発だ。

 コンベンション誘致を積極的に行っている都市を見ると、その多くが、まず一番に「国内外からアクセスが便利」をPRしている。本当に便利かどうかは別にして、「交通が便利」をセールスポイントに上げ、集客を狙っている都市は高崎だけではない。思っている以上に全国にたくさんある。そうした都市をよく調べると、高速交通でダイレクトに着く高崎の方が、圧倒的に便利だと住んでいるものは実感できるのだが、全国の土俵で戦うには、外に対してなみならぬ訴求力が必要だ。高崎市が打って出るために、都市戦略の持つ意味は大きい。

コンベンションシティとしての潜在力は

コンベンション都市高崎の可能性と課題

 高崎駅東口エリアは、新幹線開業以来、ビジネスゾーンとして業務機能が集積してきた。「高崎都市集客戦略ビジョン」では、高崎駅東口から高崎・玉村スマートICに至る高崎駅東口線沿線を、高崎を牽引する新たな都市軸として開発、整備していく計画が示されている。

 平成19年の高崎市商業調査で、高崎市の総販売額は年間1兆7,470億円で、内訳は卸売が1兆3,202億円、小売が4,268億円となっている。商都高崎の売上は卸売が支えている。(19年が現状では最新のデータ)

 エリアごとに見ると、相生町あたりまで含めた中心商店街の販売額が年間1,797億6千万円で、このうち高崎駅西口エリアが708億9千万円。高崎駅東口エリアは、2,389億7千万円、問屋町エリアは1,821億9千万円。東口エリアでは、卸売の販売額が特に大きく、高崎のビジネス拠点であることを示している。なおヤマダ電機本社移転は平成20年7月で、19年の販売額には含まれていない。

 こうしたビジネスを支える力として、高崎市は、大きな宿泊能力を持っている。平成21年の観光客入込調査で、高崎市の県外客の宿泊数は年間57万6千人で、温泉・リゾート地を除く都市部としては、群を抜いている。またコンベンション戦略の中で、ホテル、旅館など宿泊施設の役割は大きい。

 一方、国土交通省「旅客・貨物地域流動調査」で、物流移動量を見ると、群馬県は、平成20年度は1億1,795万トンで、全国的には中位。物流では、群馬県は関東で最下位となっている。年度によってバラツキがあるが、おしなべて見ると群馬県の物流機能は、関東、北関東エリアでは弱い傾向にある。東口線沿線、スマートIC周辺に物流機能を充実できれば、群馬県全体の産業振興にも貢献できることになる。

群馬の国際会議の開催件数は全国最低水準

コンベンション都市高崎の可能性と課題

 一般にコンベンションと言うと、国際会議や全国会議、見本市などを指すことが多い。コンベンションの開催状況を、政府観光局がまとめた国際会議の開催実績で見ると、2009年が全国で2,149回、参加人数は125万2千人となっている。国内参加者が114万3千人、外国人参加者が10万9千人。日本国内での国際会議の開催は増加傾向にある。

 この09年に群馬県内で開催された国際会議はゼロで、08年は2回開催されている。年度により開催件数にバラツキがあるので、2005年から2009年までの5年間の開催件数を合計してみると、群馬県は4回と極めて少ない。内訳は05年、06年、08年に前橋市で各1回、08年に高崎市で1回。5年間で4回という数字は、全国で下から2番目。年間1回以下は群馬、和歌山、佐賀の3県だけで、どこの県でも年に2、3回程度は開催されている。

 これほど群馬県内の開催が少ない理由は何か。全国の中で、群馬県だけが際立って悪い条件にあるとは考えにくい。立地や施設などを考えても、群馬県と似たり寄ったりの県はあるだろう。この国際会議開催回数の並び順は、調査会社などが実施している都道府県のブランド力ランキング、魅力度ランキングの順位と同じ傾向を持っている。問題の根は、つながっているのではないだろうか。

 注)集計対象となる国際会議=国際機関・国際団体・国家機関・国内団体が主催。民間企業は除く。参加総数50人以上。参加国は日本を含み3カ国以上。開催期間1日以上。

コンベンションを誘致するには

 コンベンション誘致のための組織は「コンベンションビューロー」と呼ばれ、商工会議所が先頭になって旗を振っている都市も少なくない。コンベンションビューローは、映画撮影のフィルムコミッションのような働きで、会場の紹介や弁当の手配など、主催者に対して様々な支援を行っている。

 コンベンションビューローの全国組織「日本コングレス・コンベンション・ビューロー」には全国68団体が加盟し、群馬県内では、前橋観光コンベンションビューローが加入している。高崎市には、コンベンションビューローは設立されていない。

 コンベンションビューローには、観光協会的な側面を持った組織と、コンベンションに特化した組織の二種類ある。コンベンション施設をコンベンションビューローが運営するケースもある。国際会議の誘致は、コンベンションに特化した組織が存在するような大都市が強い。地方都市のコンベンションビューローでも、国際会議まではいかないが、全国規模の会議や東北、関東といった地方ブロック規模の大会誘致を成功させている。

 地方都市に、コンベンション専用施設は荷が重すぎるという見方もあり、高崎市と同じ規模の地方都市におけるコンベンション専用施設の例では、旭川市(人口35万人)「旭川市大雪クリスタルホール・旭川大雪アリーナ」、郡山市(人口34万人)「ビッグパレットふくしま」、富山市(人口42万人)「富山国際会議場」、米子市(人口15万人)「米子コンベンションセンター・ビッグシップ」、高松市(人口42万人)「サンメッセ香川」など。運営主体は各施設で異なっている。

 コンベンション専用の施設を持つ都市もあるが、専用施設は無く、文化会館、体育館、ホテルなどを組み合わせてコンベンション施設として紹介しているケースも少なくない。

施設の立地と使い勝手の良さ、アフターコンベンションも大切

 コンベンション専用施設では、アリーナ、会議室に加え、国際会議に備えた外国語同時通訳のシステムが標準で装備されている。立地は、最寄り駅から近いことやバスなどの公共交通ですぐに着くことが条件だ。高崎市の計画では、今のところ「都市集客施設」と呼称され、「コンベンション施設」とはっきり明示されていないが、コンベンション誘致をめざすならば、高崎駅至近に立地させ、設備の水準も考慮すべきだろう。国際会議の同時通訳システムなどは、仮に稼働しなくても、セールスポイントになる。

 宿泊を伴うコンベンションには、参加人数に応じて開催者に補助金を出すところもある。地方のコンベンションビューローは、アフターコンベンションの観光なども有名どころを紹介し、誘致に力を入れている。旅客はもとより食や観光、宿泊を始め、設備、印刷、警備などコンベンションが波及するすそ野は広い。

重要なのは都市戦略とシティプロモーション

 交通利便性と言っても、交流人口に見られるように、戦略性がなければ、高速交通網に付随する自然増以上の効果を得るのは難しい。高崎のビジネスポテンシャルは高く、交通拠点性を活かした都市戦略として、コンベンションは、高崎を発展させる可能性と実現性を持っている。

 当たり前のことだが、目的が無ければ、人は来ない。行ってみたい魅力を生み出すのは、大変な作業で、地道な努力をコツコツと積み上げる必要がある。残念ながら、高崎は、知名度、魅力度とも全国でもかなり低いランクにある。魅力づくりに対して、過去、長きにわたって、戦略的な位置付けがなされてこなかった結果ではないだろうか。

 同じ交流人口の中でも、ビジネスや会議は、レジャーと違って、どうしても開催場所に行かなければならないものだ。コンベンションの誘致は、観光客の誘致とは、全く違う側面を持っている。もちろん、観光などにも貢献するし、交流人口が増えれば都市の魅力が多くの人に伝わり、ネームバリューも上がる。コンベンションシティに向けて、戦略をさらに具体化し、官民の協力と議論を深めるべきだ。

資料の出典
日本国政府観光局/2009年国際会議統計
国土交通省/平成20年度「旅客・貨物地域流動調査」
高崎市/平成19年「高崎市の商業」
群馬県/平成21年度「観光入込客数」
高崎市内各エリアの販売額として集計した範囲
 
中心商店街エリア:高崎市中心市街地活性化基本計画に定める中心市街地の中で、高崎駅から西側・連雀町交差点からおおむね1Kmの範囲
高崎駅西口エリア:八島町、旭町、あら町
問屋町:問屋町全域(1~4丁目と西)
高崎駅東口:栄町、江木町、東町、双葉町、北双葉町、岩押町

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