空き店舗は減っているのか?

変化する高崎のビジネス環境

空き店舗は減っているのか?

 群馬県内の路線価は、高崎市の中心市街地が、常に商業地、住宅地とも最高価格地点となっている。地価の下落傾向が続く中で、高崎駅周辺は注目度が高く、県内でも数少ない下げ止まりを感じさせる地点だった。リーマンショック以降、再び下落に転じているが、ポテンシャルイメージは高く、テナント家賃の低下をチャンスと捉え、出店意欲も高まり、高崎駅を中心に新しい商業地図を描き始めている。

 特に表通りの空き店舗を中心に出店が目立ちはじめたという声も聞かれるが、本当に空き店舗は減少したのか。テナント賃料の最近の動向と変化するビジネス環境を検証する。

やはり「駅前は一等地」

 高崎に限らず、全国的に地価は下落し、地方都市では、その傾向はさらに顕著だ。地価の標準価格となる国の公示価格では、市内商業地の地価公示価格は10年前の半分以下になっている。下落状況の中でも、依然、高崎は群馬県内で商業地、住宅地ともに最高価格地点となっている。商業地の公示価格の最高地点は高崎駅西口前の八島町63番がトップを保って、平成22年価格で40万9,000円/m2。なお群馬県の地価調査の全用途では大手前通り・旧ロッテリアの連雀町71番地がトップで、平成22年価格は26万6千円/m2となっている。

 近隣都市の商業地最高価格地点を見ると、ほとんどの都市が駅前だ。なんと言っても駅前は一等地なのだ。地価は水戸市、宇都宮市とほぼ横並びだが、高崎市の下落率は小さい。

 地価を反映し、中心市街地では店舗やオフィスの賃料も高い水準で推移してきた。高崎駅周辺から城址地区にかけて、かつては路地の横町のような通りが区画整理で生まれ変わり、街区のイメージも一新された。旧態の商店がテナントビルになり、デザインされた新築の物件は、それに見合う家賃が設定される。都市インフラやまちそのものの魅力・ブランド力、歩行者通行量、商圏人口なども物件選びの際にポイントになる。そうした商環境、ビジネス環境も家賃に含まれる。

 集客には個店の努力がもちろん重要となるが、店舗周辺の環境やロケーションのブランド感は不可欠だ。不況の長期化と購買意欲の低減、デフレ傾向、中心商店街の通行量減少もマイナスの相乗効果として働き、賃料にも反映してきた。総体として賃料が下がったことで、これまでと違ったマーケットを生みだしているようだ。まちなかの商環境については厳しい見方が強いが、厳しい時は厳しい時なりのビジネスチャンスが生まれる。

駅周辺の空き店舗が減少

 高崎市商業課のデータによると、高崎駅周辺の空き店舗が減りつつある。駅周辺の空き店舗数の推移は、平成16年度の107件、平成19年度の94件から、平成21年度は55件と減少している。

 新たな現象として、地価の下落傾向に伴い、物件の家賃が下がり、良好な商環境を求めて高崎に出店する動きが平成20年度以降、見え始めた。

 利便性の高いまちなかの店舗、事務所の家賃は高かったが、最近値崩れが起こっている。市内大手不動産業者によると、今まで駅周辺の路面店舗物件の1階家賃は、2万円/坪程度だったが、現在1万円くらい。2階以上の物件家賃は、1万3,000円/坪くらいであったが、2、3年前から1万円以下になっているという。今まで高値であった駅周辺の家賃が下がり、郊外にある物件の家賃相場との差がなくなってきたために、駅周辺に進出する事業主が増えてきた。テナントの入れ替わりはあるが、空き店舗が少なくなってきている。

数字に隠れた裏事情

 新たな出店が進む一方、「シャッターを降ろしている店はもっと多いだろう」という感覚は否めない。閉めていても、家主の事情で貸す意志がなければ、空き店舗としてカウントされない。シャッターを降ろしていることが、必ずしも空き店舗ということではないようだ。

 また貸店舗の看板を降ろす理由には、物件のブランドイメージを維持しようという家主や不動産業者の意図が加わる場合もある。「"貸店舗"の看板を同じ物件に長い間掲げていると、『店を出しても流行らない』というマイナスイメージが植え付けられてしまいます。つまり、物件のブランドイメージが下がってしまうのです」と語るのは別の市内不動産業者。

 その対処法として、なかなか借り手がつかないので募集を一旦やめたり、居抜きとして、水面下で交渉を行うなど、破格値で取引が行われることもあるようだ。

 同じテナントビルでも、道路に面した1階に比べ、2階以上の物件は厳しい状況のようだ。新築で7千円/坪のところも出てきて、郊外と同じ程度の家賃になっているが、店舗の出店希望者からはやはり敬遠される傾向にある。

 広さ別に見てみると、10~15坪の物件の需要は増加しているが、50坪程度の中型、80~100坪の大型店舗は不人気。飲食店の場合では、たとえ週末は回転する採算が見込めても、平日に空席ができるリスクを考え、手を出さないという。

駅周辺進出のチャンス到来

 家賃が下がったことをチャンスと捉え様々な業種が出店を行っているが、中でも多いのは飲食店で7割強を占めるという。少ない資金、個人の事業主でも家賃が下がったために出店できるようになったからだ。

 通町にある(株)コスモス不動産は「店舗そのままオークション」という、主に飲食店舗を貸したい人、借りたい人のためのマッチングサービスを行っている。同社は群馬県内の物件を扱うが、全国にネットワークをもっているため、県外から問い合わせが来る場合もある。

 特に飲食店にとって、高崎駅周辺は魅力あるエリア。交通網が整いオフィスが集まっている。人が行き交うため、ビジネスが成功する可能性が高いと考えられている。前橋市や伊勢崎市の事業主が、近年の家賃下落を高崎進出のチャンスと捉え、高崎に2号店、3号店を出店するケースも増えてきた。

 同社の事業部長・薗田進さんは「今は低投資で店が持てる時代。イニシャルコストが600万円くらいだったものが300万円台になっている。そのために、リスクが低くなり資金力のない人でも出店のチャンスが訪れた」と語る。

 今まで、駅周辺の路面店は、洋服などの専門店が多数を占め、アパレルブランドが集客力を作っていた。近年、不況と購買意欲の低下、まちなか通行量の減少など専門店には厳しい状況が続いている。郊外の複合大型店との競合で「他店にはない品揃えでないと、わざわざ車を時間貸し駐車場に停めて、まちなかに買いには来ないでしょうね」。(不動産関係者)

 商都高崎のイメージはまちなかの専門店だが、高崎のもう一つの顔となった高崎駅周辺、特に駅東口の業務エリアは、堅調と見られる。このエリアには、オフィスビルが集中し、昼食とアフターファイブの居酒屋を求めるサラリーマン需要がある。飲食店にとっては、魅力ある場所だ。飲食店は他店と差別化しやすく、ターゲットにあわせた個性や価格をPRしやすい。

交流人口増が飲食需要拡大に

 高崎駅構内を往来する人は1日に約10万人で(JR東日本高崎支社)、駅の周辺で食事をしてから移動しようという人も少なくないだろう。また、高崎駅を挟む八島町と栄町でサラリーマンは約1万1,000人と言われ、駅周辺の昼食時間帯では、今まで飲食店が少なく、昼食難民が発生していると言われるほどだ。

 さらに、夕刻からの居酒屋需要も大きい。飲食関係者の話では、ここ2、3年で夜の客足は1.5倍ほど伸びているという手応えもあり、その言葉を裏付けるかの様に高崎駅周辺やまちなかに居酒屋の新規出店が増えている。駅周辺オフィスの在勤者に加え、市内ホテルの宿泊客も飲食需要を広げている。平成21年度観光入込客数推計では、高崎市内で1日平均1,800人の宿泊客があり、そのうち約1,600人が県外客となっている。その多くはビジネス目的で、ビジネスマンの場合まちに出て食事をすることも多い。平日の「高崎の夜」にはこうした需要がある。

 土・日曜日は買い物客を中心に、駅周辺の集客力は、1日におよそ15万人ほどと考えられている。来街者層は幅広い。高崎のファッションを求めて集まる若者、購買力の高い年配層、ファミリー客など幅広い層の来街者が飲食店を利用する。青少年が気軽に安心して利用できる飲食店、年配層の嗜好にあわせた飲食店、子連れで入れる飲食店も必要で、多様なニーズを受け止める飲食店のバリエーションが必要とされている。

 高崎駅東西の飲食店の数は、平成18年の実数で約110店だが、現在は150店ほどと見られている。

 このように駅周辺は、平日の昼間、夜、土日とそれぞれ違った需要があり、今後ますます新しい流れに乗った飲食店の出店が更に進むエリアではないだろうか。

小規模の飲食店が出店ラッシュ

 飲食店にとって人が集まる駅周辺は魅力ある場所だ。現在、15坪程度の小規模の飲食店に関しては、出店ラッシュとなっている。今まで飲食店が少なかったのは、高い家賃のほか、家主が飲食店の入居を歓迎しなかったこともあるようだ。

 物販に比べ、飲食は物件が汚れやすい。また、まちなかには、昔ながらの住居と一体または隣接した店舗も多く見られる。

 居酒屋などは夜遅くまで営業するので、騒音問題やにおいの問題が懸念される。そのために家主が飲食店の入居を歓迎しなかった。

 しかし、借り手が減り、借り主を選んでいる場合ではなくなった。飲食店の入居に対し、家主が首を縦にふるようになってきたのだ。

 駅周辺でもっとも魅力があるとされるのは、東二条通り、高崎駅西口駅前というが、「メイン通りから1本中に入ったところをすすめる」というのは、コスモス不動産。家賃の浮いた分を販促費にまわせるので「隠れ家的な店」をPRすれば、成功の可能性は多いにあるそうだ。

 広田住宅センター社長の広田誠四郎さんは「田町の屋台通り、すもの食堂などのプロジェクトは若い力を育てている。商店街との連携をもっと進めるべきだ」と期待している。まちなかの遊休地や空き店舗を、新しい手法で活用し、まちのにぎわいや話題を創出していることも注目すべきだ。

まちなか駐車場も新局面

空き店舗は減っているのか?

 まちなかの空き店舗が更地となり、コイン駐車場に変わる動きも一段落してきた。古い家屋などを建てかえ、貸店舗、貸しビル、マンション・アパートなどへ転換したほうが高度利用でき、商店街としての連続性も維持できるのだが先行き不透明な情勢の中、土地の所有者としては、大きなリスクを背負わずに、固定資産税等に見合う収入が当面得られれば良い、といった気持ちもあったのだろう。

 中心商店街では、広い駐車場を持った郊外店に対抗するため、まちなかの駐車場整備が求められてきた。高崎市は、昭和63年から平成元年にかけて駐車場案内システムを稼働させた。平成10年頃は、まちなかの駐車場は平日で約200台、休日で約1,200台不足していると試算され、高崎市は平成13年にウエストパーク1000、西口サウスパークをオープンさせるなど、高崎駅東西に約2,000台収容する駐車場を建設した。大型駐車場の位置も、目的の場所の前に自動車を乗りつけたい買い物客の心理にどこまで応えられるのか、といった側面も持っていた。まちなかのあちこちに増えたコインパーキングは、低料金と小回りの良さで、長く中心商店街を悩ませてきた駐車場問題をある程度解消してしまった。

 こうしたなかで、買い物客に対し、大規模小売店舗による特約駐車券サービスと高崎商店街連盟による共通駐車券サービスが行われてきた。しかし、駐車場状況の変化に伴い商店街連盟では、昭和60年から行ってきた共通駐車券制度を、平成23年3月末で廃止し、新たなシステムの検討に進む考えだ。(なお共通駐車券の利用は6月末までとなっている。)

 昨年12月にオープンした高崎駅東口のEサイトがにぎわいを維持している。高崎駅利用者だけでなく、一般の買い物客も多い。Eサイトは駐車場も駐車場特約制度もないため、西口エリアに駐車して、モントレー、高島屋やビブレを見て回っているということで、回遊性も生まれているようだ。この回遊性を更に拡大していくことが重要だ。

ビジネスにつながる都市整備

 高崎駅周辺では、都市整備が、民間の投資意欲を喚起し、新たな出店を促進した。人の流れを止めてしまったのではないかと懸念される東二条通りの拡幅や、時代の流れで閉鎖に至った駅西口のウエストワンビル地下街など手放しで喜べない面も持つが、駅周辺はまだ魅力はある。

 高崎信用金庫の話では、弱いながらも回復基調にあった市内中小企業の業況も、ここにきて横ばいとなっており、企業の資金需要も伸び悩みが続いている。ただし、環境・エネルギー関連事業、医療・介護・健康関連事業、高齢者向け事業、社会インフラ整備事業等の分野については今後の成長が期待されるとしている。

 飲食業などで資金需要はあるが、高齢化などで閉店する人もいるため、全体としてそれほど伸びていない。しかし、業況が降下しそうななか、横ばいでも良い状態だと言えるだろう。

 高崎市内の土地取引の状況を見ると、平成20年までの横ばい状態が、リーマンショックで平成21年度は落ち込み、特に法人の減退ぶりがうかがえる。

 その中で同金庫では「公共のインフラ整備は、開発の期待感を促し、民間の土地活用の意欲は高まる」と指摘している。東貝沢町から新保町地区、高崎操車場跡地(倉賀野町)付近、京ケ島南八幡線など区画整理や幹線整備によって、周辺の立地ポテンシャルが高まった。郊外地でも、開発の計画区域では、遊休地の住宅、アパート、店舗などへの活用により、新たなまちなみの形成が期待されることから、不動産市場の活性化が予想される。

期待される業務機能の集積

空き店舗は減っているのか?

 現在、高崎駅東口線(東毛広域幹線道路)が拡幅され、4車線化が進む上中居町から総合卸売市場あたりにかけて、沿線の様子が徐々に活気づいている。平成25年には「高崎玉村スマートIC」の供用開始が予定されており、これによって東口線沿線の役割がこれまでと大きく変わってくる。小売やサービス業だけでなく、地域経済への波及が大きい業務機能の誘致が期待される。

 大手企業が地方へ進出する際の支店等は、土地建物を自社所有とせず、賃借でまかなわれることも多い。

 オフィス用のスペースは事情が少し違い需要は横ばい、もしくは下降気味のようだ。特に規模の大きなテナントビルなどは厳しい状況も見られる。広い事業所用スペースは、借り手が一部上場企業などの資本金の多い企業に限られる。リーマンショック以降、大手企業は、営業所を1つにまとめるなどして、コスト削減を図っている。大宮、宇都宮、高崎に営業所がある場合は、大宮に集約されてしまう。また、空きが出たとしても、所有者も大資本の企業なので、家賃交渉は難しいという。高崎駅西口前では、事務所スペースが、学習塾など、本来の用途とは違った使われ方も目立っている。

 広田社長は「事業所物件の照会で、特に幹線沿線にある程度の広さを持った物件がない。優良な企業に進出してもらえれば、まちの発展に寄与できるのだが」という現状も指摘する。一定規模の空き物件、あるいは企業の提示条件を満足する物件が、アクセスの良い高崎市都心周辺部に見あたらない。賃料の相場が下がって進出意欲があっても需給のミスマッチも見られている。高崎商工会議所の提言を盛り込んだ「高崎市都市集客戦略ビジョン」では、高崎駅東口線沿線が、こうした需要の新たな受け皿として機能させることを計画している。

(文責・菅田明則/新井重雄)

高崎商工会議所『商工たかさき』2011年3月号

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