変化する進学塾事情

変化する進学塾事情

高崎駅周辺は塾激戦区。
大手から中小までが凌ぎを削る

 数年前から、特に高崎駅の周辺で、ビルの窓に「○○大学合格○名」と書かれた学習塾の貼り紙が目に付く。少子化が進行し子どもの数が減少する一方、学習塾の市場は拡大しているようだ。駅周辺に規模の大きな学習塾が展開しているのは、県内では高崎に特徴的な現象で、今回の特集では学習塾を通して高崎の都市力を探っていく。

 (都市現象として考察することを目的としており、教育について問題提起するものではありません)。

小学生45%、中学生63%が塾通い

 文部科学省が公立学校の小学校6年生と中学校3年生に実施した、平成22年度「学力・学習状況調査」で、「塾(家庭教師)で勉強しているか」に対して、「通っていない」と答えた小学校6年生は全国で52.6%、逆算すると、47.4%が塾に通っていることになる。群馬県は全国平均よりもやや低く、44.6%の6年生が塾に通っている。

 中学校3年生で塾に通っているのは、全国が63.1%、群馬県は62.7%。全国的に見て大都市は、全国平均よりも5%程度、中核市では2?3%程度、数値が上回っている。

 小学生の約5割、中学生の6割から7割が塾に通っており、一昔前と比べて、小中学生の塾通いが増加している。少子化が進み子どもの数が減少しても塾へ通う生徒の割合が増加しているため、塾に通う子どもの数は減少していない。受験ビジネスは、かつての大学浪人の予備校から大きくモデルを変え、中学受験も加わり低年齢化している。

 「塾通い」が増えた時期は、はっきりしないが、高崎駅周辺などに塾の看板が目立ち始めたのは、さほど昔ではない。文部科学省の「学力・学習状況調査」で、帰宅してからの学習時間を、平成13年と比較すると、平成19年には大きく伸びており、この間に変化があったようだ。 小学生で毎日3時間以上勉強する子どもは平成13年の約6%から、平成19年以降は約12%と倍増。2時間以上勉強する子どもは、平成13年で約15%、平成19年以降は26%になった。また、平成13年は、家で全く勉強しない子どもが、全体の10%程いたが、平成19年以降は4%と半減している。

 高崎市内の学習塾関係者の話でも、この4、5年における学習塾の環境変化は大きかったという。

今のニーズは成績上位と下位

変化する進学塾事情2名~4名の個別指導を行う教室

 江木町の学習塾「ビビッド」代表の撹上雅彦さんは、塾が増えた要因として子ども達の学力に応じたニーズが背景にあると指摘する。

 文部科学省の学力調査で、正答率(正解をした受験者数÷受験者総数)と塾の関係を見ると、正答率が高いのは「(塾で)学校の勉強よりも進んだ内容や難しい勉強をしている」児童生徒、「塾に通っていない」児童生徒、「(塾で)学校の勉強でよくわからなかった内容を勉強している」児童生徒の順になっている。レベルの高い志望校をめざす生徒のグループと、わからない内容を教えてほしい生徒のグループが塾に通っていることが示されている。成績が普通の子は、通塾率が低い。

 こうした生徒のニーズに応えるため、近年塾では一つの教室で生徒が一斉に受講する教室形式の形態は少なくなり、学力によってクラス分けをするため必要な教室の数が増える。少人数・個別指導が主流となっており、小教室をたくさん用意しなければならない。そのため教室スペースや指導講師の人数が増加している。

 また、高校生を対象とした塾は、生徒達が講義以外の時間を有効に活用する為に自習室が必要で、塾は自習専用の部屋を授業で使う教室とは別に確保する。使いやすい自習室は塾の魅力であり、生徒たちにとって重要な選択肢になっている。

 現在中心市街地、特に駅周辺のオフィスビルのビジネス用空き物件は多い。家賃も以前から比べると安くなっているが、なかなかビジネス物件は埋まっていない。今、塾では、広いスペースが求められており、オフィスビルの事務所スペースの転用が進んでいる。オフィスビルを塾として転用し目立つ看板を掲げていることが街中で、塾の看板が目に付く一因になっているようだ。

駅前は塾にとって好立地

 子ども達が勉強するために集まるので、周辺は落ち着いて勉強できる環境が望まれる。小中学生を対象にした塾は、一つの塾が2、3の学校区を対象エリアとしており、立地は特に駅前ということではなく、地域ごとの展開が郊外で進んでいる。

 郊外型の塾は、保護者が自動車で送迎するので、子どもの帰りを待って待機するための駐車場を確保しなければならない。塾の周辺には広い駐車場が何ヶ所かあり、夜になると、塾のスタッフが赤い誘導灯を持って送迎車を整理する光景を目にする。駐車場所がなく送迎が不便な場合、保護者のストレスになって、他の塾へ移ってしまう可能性があるので、塾側としては切実な問題だ。駐車場は塾が始業する夕方から夜間にだけ稼働し、昼間はほとんど使われていないので利用効率は低いが、十分な駐車スペースの確保は、塾の必須条件となっている。中心市街地にある小中学生を対象とした塾のなかに、駅周辺から郊外に移転する塾も現れている。その理由は中心市街地に子どもが少なくなっているのも要因のようだ。

 しかし、高校生を対象とした塾は、高崎駅周辺に集中している。高校そのものが広域的な学区であり、塾一校あたりの商圏が広い。生徒の通学方法も自転車や公共交通なので、利便性の良い駅周辺の立地が望まれ、高崎駅周辺に集まる傾向が生まれている。塾の勉強が終わる時間は遅いので、女子は高校生でも保護者が迎えに来ており、翌朝の通学に自転車が必要なため、ワゴン車に積み込んで帰っていく光景も珍しくない。

多様化する塾の経営形態

変化する進学塾事情塾でありながら机は生徒専用、参考書を置いたまま帰宅する

 少子化が進む中、学習塾では、個別重視の戦略が勝ち残りのカギとなっている。中学生、高校生は科目を選択して受講する形態が多く、都内の人気講師の授業を受けるため、またなかなか時間の取れない生徒に向けた衛星放送をモニタ画面で受講するサテライト授業などもあり、カリキュラムは細分化している。

 もとより個別指導に近い小規模な個人塾は募集する生徒層を東大や医学部専門コースなど志望校を明確にした指導などに特化させることで生徒を獲得している。大手学習塾のカリスマ先生が独立して塾を開き、慕う生徒が集まってくる例もある。

 ノウハウが本部から提供され、コンビニ店と同じようなシステムのフランチャイズ形式の塾も見られる。高崎市内にはこうした、様々な形態の塾が数多く展開している。

小規模塾は生き残れるのか

 平成18年度の事業所調査によれば、高崎市内の学習塾は141事業所、従業者は802人となっていた。平成18年度の事業所調査と平成21年度の経済センサス(経済センサスは事業所調査を発展させた企業活動調査、調査方法がこの年度から異なり、国では平成21年度以前の数値との比較はできないとしている。また集計内容も異なるため、数値はあくまで本誌による試算値として参考にしていただきたい)をもとに、高崎市内の塾、英会話、音楽教室などを含む民間の「教育・学習支援業」の事業所数を試算し傾向を見た。

 事業所数では、平成18年度から21年度にかけて、高崎駅東口の比重が大きくなった。西口の八島町が減少し、対照的に東口の栄町が増加した。高崎駅西口方面では、駅から若干離れた場所が増加しているのに対し、東口方面では駅から離れた場所では大きな増加は見られない。

 平成21年度の経済センサスで、事業規模を見ると、講師が数人の個人経営的な学習塾が最も多く、高崎市全体では半数以上を占める。小学生を主な対象としたフランチャイズ系の塾が大勢を占め、寺子屋のような塾は減少傾向にある。高崎の都市部では、事業規模の大きな学習塾の進出が目立ち、従業者10人から19人の塾は、19事業所で、5年前に比べ5事業所増。従業者20人以上の塾は、5事業所から8事業所に増えている。また、景気低迷で、家計の教育費抑制も塾経営に響き、大手の系列化と大規模化が進んでいる傾向がある。

 西中毛地域に学習塾など33校を展開し、開校36年の「うすい学園」の柴崎龍吾社長は、「この様な大規模経営を行っていくことができるのは、地域の大型学習塾と、全国展開をしている大手学習塾に絞られてくるのではないか」と見ている。

駅東口開発が塾にも影響

 高崎駅東西の八島町から栄町周辺地域では、平成18年度の27事業所から、平成21年度は31事業所と4事業所増加した。

 高崎駅直近の八島町と栄町を比較すると、八島町は11事業所から7事業所に減少、栄町は10事業所から12事業に増加した。八島町から栄町に移転した大手学習塾もあり、栄町は、従業者10人以上の規模の大きな事業所が多くなっている。代々木ゼミナール、小野池学院ほか、全国展開する学習塾も数多く所在している。うすい学園も駅東口のイーストタワービル内の複数階に展開している。全国展開する大手学習塾によれば、高崎駅周辺は、高校生を集めやすいほか、通勤が便利なため講師の確保に有利だと話す。

 また、駅周辺から郊外に移転した塾もある。「ビビッド」の撹上さんは、アットホームな雰囲気を求め、今年3月に鞘町のオフィスビルから江木町の一戸建てに移った。生徒の利便性にはマイナス面があったことを感じる一方、教室の賃料や駐車場料金などのコストは減少したという。

 「ビビッド」は、幼児から小中学生、高校生まで幅広い生徒層を持っており、子ども人口の少ない中心市街地から、一歩郊外に出てビジネスチャンスを広げる目的もあった。学習塾の低年齢化に伴い、生徒層にあわせた立地が進んでいくことが考えられる。

 数値で見ると駅周辺の進学塾は微増だが、塾の看板や貼り紙、通塾する子ども達で賑わう様子が目立ち、塾が多くなったと感じる人は多いのではないか。

今の高校生のライフスタイルにあったロケーション

 「ビビッド」の自習室には生徒各自のロッカーがあり、机も生徒専用になっている。自分の勉強道具が置きっぱなしになっていて自分の部屋そのものだ。塾が自習室を整備したり、勉強しやすい環境づくりに力を入れているのは、最近の高校生は、あまり自宅では勉強しないからだという。

 学校の帰りに、塾が始まる時間まで図書館やファーストフード店、コーヒーショップに寄り道して勉強する。塾に着いてスタッフの顔を見ると「ただいま」という雰囲気なのだという。そして塾でしっかり勉強して帰宅する。高校生の勉強の中心は、家ではなく塾になっているようだ。

 もう一つ浮かび上がった重要なポイントは、寄り道をする場所だ。高崎駅周辺には、高校生が好むファーストフード店やファミレス、コーヒーショップなどがあり、塾がこのエリアに所在することは、彼らのライフスタイルにぴったりのロケーションなのだろう。

低年齢化を顕著にした「中央中等校」の受験

 市内の学習塾関係者は、塾に通う子どもたちの低年齢化が、中高一貫校の「群馬県立中央中等学校」のスタートによって顕著になったと口を揃える。高崎では以前から首都圏の私立中学を受験する、いわゆる「お受験」のニーズがあったが、中央中等学校の開校によって、今まで中学受験を考えなかった保護者にも、中学受験が強く意識されるようになった。中央中等学校は、定員120人に対し、平成22年度が志願者539人で4.5倍、平成23年度が646人で5.4倍の狭き門となっている。うすい学園では、中央中等学校の受験対策に力を入れ、実績を上げている。

 また、高校受験でも、群馬県の入試にあわせた対策が必要で、「例えば記述問題でどのような答えを回答すればいいのか、指導することが大切だ」と「うすい学園」の柴崎社長は話す。

口コミで決まる塾の評価

 子どもに優劣や序列をつけることを避ける風潮の中で、受験では合格、不合格という厳しい現実にいやおうなく向き合わなくてはならない。塾は、どうしたら受験で勝てるかを教える場所だ。塾の評価や受験の情報も、子ども達の方がよく知っていて、口コミで広がる。塾にとっては、この口コミが怖い。将来の希望や、悩みを聞いたり、親以上にきめ細かいフォローをしている塾経営者も少なくない。受験を通じて、人生を切り開いてほしいと言う。

 「高校受験で第一志望をあきらめて、努力をしなくてもすむ第二志望を選ぶ子は、大学受験でも同じように楽な選択をする。楽な選択を続けて、その子の人生はいいのだろうか」と、ある塾経営者は言葉に力を込める。

 「昔は大学受験に親が付いていくことは少なかったでしょうが、今は珍しくない。子どもの成績を上げてやることが何より大切だが、親に対するフォローが悪いと、塾をやめさせてしまうので気を配っている」と言う。塾経営も楽ではない。

〝自分の子どもだけは〟重くのしかかる親の負担

 通塾率の増加は、少子化によって世帯の子どもの数が減り、子ども一人にかけられる教育費用が増えていることも背景として指摘されている。高校生の場合ビビッドの撹上さんは、子ども達の親がバブル崩壊世代で、「子ども達には、人生に失敗させたくないという気持ちを強く持っているのではないか」と言う。

 「高崎の教育ニーズは高い」と、取材した塾の経営者は口を揃えている。県内に複数の教室を持つ塾の経営者は、「高崎は、子どもの教育に費用をかけられる家庭が多い」と感じている。 塾の費用は、高校生が1教科あたり1ヶ月1万円から2万円。小学生から高校生まで含めた全国平均では、生徒一人当たり年間30万円から35万円で、1カ月あたり2万5千円から3万円になっているようだ。所得の多さだけではなく、親の考え方や読書や芸術に対する習慣など、家庭環境のレベルも子どもを通してわかる。海外経験をさせたり、子どもが成長するために様々なチャンスを与えていて、塾に通わせるということも、子どもの可能性に対する投資の一つだろうという。

高校受験も「高崎ブランド」?

 今年の10月に発表された中学生の進路希望調査で、希望者の倍率が高い公立高校は、高崎経済大学附属高校1.99倍、高崎工業高校1.89倍、高崎北高校1.77倍、前橋市立前橋高校1.71倍、高崎高校1.55倍、前橋女子高校1.54倍、前橋高校1.53倍と、高崎市内の高校が上位を占めた。

 今回の取材では「それぞれの高校の魅力もあるが、高崎のイメージに惹かれる要素も少なくない」と、各塾の経営者から同様の意見が出た。中学生、高校生なりに、高崎のまちの魅力を感じてもらっているとすれば、喜ぶべきことだ。中学生や高校生が高崎の都市イメージに好印象を抱いていることを意識して、まちづくりに取り組むことも重要だろう。

塾で高校生がまちなかに回帰

変化する進学塾事情駅周辺

 かつて高崎のまちなかは、高校生があふれていた。さやもーるにあった喫茶店「あすなろ」や書店「学陽書房」の前は、道路いっぱいに高校生が駐輪していた。慈光通りにあった新星堂高崎店では、高校生の自転車を整理するためのスタッフを置くほどだった。

 高崎女子高校が末広町から稲荷町に移転し、昭和町にあった高崎市立女子高校が高経大附属高校として浜川町に移った頃から、通学する姿以外は、徐々に高校生をまちなかで見ることが少なくなった。女子高がいなくなると、不思議なもので男子生徒の姿もいなくなる。

 高崎ビブレ周辺の駅西口あたりも高校生の駐輪でいっぱいだったが、東二条通りの拡幅で整備されあふれていた駐輪は消えたが、高校生もいなくなった。まちから自転車を規制することは、結果的に、自転車を移動手段とする高校生にとって行きにくいところにしてしまったのではないか。

 駅周辺のファミレスや駅なかのコーヒーショップに高校生の姿が目に付くようになり、高校生がまちに帰ってきた。塾があるビルでは、数十台の駐輪が通行の邪魔にならないよう敷地内に納めて整理している光景が見られる。教室で机に向かっているので、外から姿は見えないが、数多くの高校生が、「勉強」という目的のために高崎駅周辺の塾に集まって来ている。前橋市の「前橋プラザ元気21」のフリースペースは、高校生の勉強の場所として賑わっており、高崎でもまちなかに高校生が居心地良く勉強できる場所を造るのも、彼らの声なきニーズに応えることになるのではないか。

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