ヤフー北関東拠点が高崎に進出

高崎で展開されるヤフーの地域戦略とは

ヤフー北関東拠点が高崎に進出

 日本最大級のインターネットポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営するヤフー株式会社の国内6拠点目となる北関東営業所が、今年1月、高崎駅西口前に開設された。これまで大都市にしかなかったヤフー拠点がなぜ高崎市に設置されたのか、ヤフーによって高崎のビジネスがどのような影響を受けるのか。ヤフーが高崎で展開する新たな地域戦略について聞く。

1月に北関東営業所を開設

 ヤフー株式会社が100%出資する「ヤフーカスタマーリレーションズ株式会社」の北関東営業所が、高崎駅西口のウェストワンビル(八島町58番地1)に開設された。

 ヤフーは、日本最大級のインターネットポータルサイト「ヤフー・ジャパン」の運営を始め、インターネットを中心とした広範なサービスを提供し、ヤフーカスタマーリレーションズは、ヤフーの前線部隊として「ヤフー・ジャパン」を利用する中小規模の事業者を対象に、効果的な「ヤフー・ジャパン」の活用方法を提案していくことを業務としている。

ヤフー北関東拠点が高崎に進出

 ヤフーとヤフーカスタマーリレーションズは、これまでに東京、大阪、名古屋、仙台、福岡の5か所に営業拠点を設けているが、今年1月16日に、北海道拠点を札幌市に、北関東拠点を高崎市に同時開所させ、全国7拠点とした。北関東営業所は、「ヤフー・ジャパン」で地域情報を充実させることを柱に、群馬県、栃木県、茨城県の北関東3県を商圏として業務を展開する。当初は高崎エリアを中心に、ショッピングや生活情報の配信を行っている中小零細企業の支援業務を計画している。

 開所式に招かれた高崎市の富岡賢治市長は「日本のトップのIT企業が高崎にお目見えし、心から歓迎している。高崎のビジネスに刺激を与えるものと期待している。高崎駅西口エリア、中心市街地の活性化の起爆剤にもなり得る。今後の企業誘致にもつながる」、当所の原浩一郎会頭も「中小企業の活性化に大きな力になるものと期待している」と官民を上げて歓迎の意を表した。ヤフーの山名正人本部長は、地方への拠点展開について「地域・生活圏情報の充実が主な目的。地域に拠点を置くことでお客様の満足を作り上げていく」と述べ、「近所の八百屋の情報までヤフーに出していきたい」と、まさに"ドブ板営業"の意欲を見せた。

なぜヤフーが高崎に

 言うまでもなくヤフーの知名度は十分に高く、ポータルサイト「ヤフー・ジャパン」の一般利用者を増やすために、わざわざ地方拠点を置く必要があったとは考えにくい。

 北関東営業所エリアマネージャーの渡辺武男さんは、北関東拠点を開設した背景として、「北関東エリアは、かつては東京本社で担当していたが、既存顧客が多く物理的な距離を縮めて、より密に営業展開をかけるために北関東に拠点を作ることになった」と見解を話す。ヤフーカスタマーリレーションズは、平成20年の設立時から地方への展開が構想にあったそうだ。

ヤフー北関東拠点が高崎に進出北関東営業所 渡辺氏

 高崎市を選んだ理由は、「北関東の中でいくつかの候補地があるなか、交通の利便性を考慮した。高崎市は民間企業と共同で企業誘致組織を形成しており、IT活性化の連携が積極的に行えると考えられたことが理由として上げられる」と話している。北関東の主要都市をピックアップし、比較検討を行ったそうだ。高崎市の交通拠点性とITに対する姿勢、高崎市と高崎商工会議所との官民連携がヤフーから高く評価された。お互いに利益を共有する「Win-Win」の土壌が高崎にあると感じた。歴史的に高崎は、他から来た商人を受け入れる精神があるが、ヤフーもそうしたオープンな気質を感じたのだろうか。

目的は地方の潜在市場と底上げ

 インターネットは、世界中どこからでも情報の発信ができ、場所を選ばないと言われるが、インターネットを通じた販売・宣伝など情報発信を効果的にビジネス活用しているのは、首都圏、大都市の事業者が中心で、「地方では十分に活用されていない」とヤフーでは見ている。商店や企業はホームページを作っただけで満足してしまうケースも少なくない。インターネットを通じた電子商取引(Eコマース)においては、未開拓な市場が地方には潜在している。

 こうした地方の状況に対し、「地域・生活圏情報の充実」は、ヤフーが掲げる事業戦略の重要な柱の一つに位置づけられており、未開拓な地方市場に本腰を入れて乗り出してきたと見ることもできる。

 北関東拠点の目的は、エリア3県で「ヤフー・ジャパン」を活用したビジネスを掘り起こすとともに、既にヤフーに情報を掲載している既存ユーザーに対しては、もっと魅力のある情報発信の方法をコンサルティングし、上手に集客や活性化をしてもらうことだと言う。見方を変えれば、ヤフーが高崎、群馬のネットビジネスにテコ入れをしてくれることになる。高崎の情報発信力やネットビジネスの環境が、ヤフーによってどのように変わっていくのか注目される。高崎と同日に開所した札幌の拠点はコンサルティングを行う同社初の拠点で、ヤフーが地方展開を行うモデルケースとなり、その成果を次の地方展開に活かしていくという。

電話帳以上の情報量を目指す「ヤフー・ロコ」

 ヤフーは、北関東拠点の地域戦略において、力を入れていくサービスとして、「ヤフー・ロコ」、「ヤフー・リスティング広告」、「ヤフー・ショッピング」と「ヤフー・オークション」の4本柱を示している。

 「ヤフー・ロコ」は、昨年の6月からスタートしたサービスで、これまで「ヤフー・ジャパン」の中で別々だった地域、生活に関わる情報が統合された。県・市町村などのエリアごとに、グルメ・ショッピング・レジャーなどのジャンルでタウン情報をワンストップで知ることができる。

ヤフー北関東拠点が高崎に進出

 「ヤフー・ロコ」で高崎市を見ると、現在約3万件の情報があり、エリアでは高崎駅周辺、柳川町周辺、高崎市郊外に分類されている。インターネットユーザーは、自分の今いる場所から簡単に店を探し出せ、地図情報と合わせて利用できる。店舗を「お気に入り登録」しているユーザーには、店側から直接情報発信でき、来店促進がはかれる。

 ヤフーでは「ヤフー・ロコ」に電話帳以上の情報を盛り込む考えで、ユーザーの「行きたい」ニーズと店の「来てもらいたい」ニーズを結びつけるサービスを強化していく。拠点エリア内の全てのお店に登録してもらう意気込みで力を入れている。

 「ヤフー・ロコ」には無料、有料のサービスがあり、「まずはエントリーして試してほしい」と登録を勧めている。「ヤフー・ロコ」の登録サイトで申し込み、受付後、作成画面のガイダンスに従ってPC、モバイル、スマートフォンの各ホームページを作成することができる。

 検索画面に広告を表示する「ヤフー・リスティング広告」は、クリック課金制で、「インターネット上で商売を広げるためには、必要不可欠なサービス」とヤフーは話す。

 インターネットを販売や宣伝に活用したいが、時間がとれない人、パソコンの操作など不安がある人には、ヤフーの地域代理店が登録業務の代行やアドバイス、ホームページの作成を請け負ってくれる。北関東営業所は、地域代理店の支援業務を行い、すそ野の拡大をはかっていく。

ネットで目立つためのコンサル

 経済産業省の調査で、インターネットを通じて物品の売買や決済を行う電子商取引(Eコマース)の市場規模は平成22年で7兆8千億円(前年比16.3%増)となり、年々伸びているという。

 成長市場であればこそ、競合も厳しい。検索エンジンの表示順位を上げるための専門ビジネスが生まれるほどだ。インターネットを媒体とした販促を、更に効果的に活用し、集客や売上げ増につなげていくには専門的なノウハウも必要だ。ヤフーではユーザーに対して「効果の最大化をはかるためには、知識と技術が必要であり、コンサルティングを行いながら事業の活性化に貢献したい」と考えている。

 「ヤフー・ロコ」や「ヤフー・ショッピング」で、膨大な店舗情報、商品情報の中から一歩抜きん出るにはどうしたらいいか。「目立たないと埋もれてしまう。目立つためにどうしたらいいのか課題を解決していく。商品写真の撮り方などで訴求力が大きく変わり、意外に自分では気づかないポイントも多い」と言う。地方戦略の中で、コンサルティングにかける比重は大きい。コンサルティングの対象は、既存客の中からヤフーが優先度の高い順に、必要に応じて巡回していく予定だ。

専門店の方が売れる?

 「インターネットにホームページを開設しただけでは、人の通らない場所に看板も無い店を出したのと同じ。ヤフーを使いこなせば、銀座のように人通りの多い場所に店を出すのと同じ位の効果が期待できる」という。

 インターネットショップの場合は、一つの分野に特化した専門店の方が売れる可能性が高いという。個人商店や中小企業の力が発揮できる分野だと言えそうだ。

 欲しい物があった場合、今は多くの人がインターネットで、まず検索する。商品の特徴や価格を調べた後、ネットショップや実際の店舗で買い物をするというパターンが多くなっている。インターネットユーザーでも、自分の居住地域で買い物をしたい人は大勢おり、検索された時に、選ばれることが重要だ。飲食店でも同じことが言える。「年齢層やターゲットに応じたコンテンツづくりが大切。季節に応じた商品の入れ替えも必要」だと指摘している。

高崎市との連携も視野に

 ヤフーは、北関東営業所の進出に合わせて、高崎市に対して連携業務の提案を行っている。現在、ヤフーと高崎市の協議が始まった段階なので、実施については確定していないが、ヤフーでは「積極的に話し合っていきたい」と意欲を見せている。

 提案内容としては、1、税金をWeb上で払うなどの利便性向上のための公金支払い、2、市民や、市外から高崎市に訪れた人の利便性向上とIT活性地区のイメージを定着させるためにWi-Fiスポットを設置、3、PC、モバイル、スマートフォンに対応した市内公共施設ページを「ヤフー・ロコ」に作成し、市民が高崎市の施設ページをより探しやすくする、などが示されている。

 ヤフーで税金や水道料金、国民健康保険料を納付できる公金支払いは、既に130の自治体で実施されており、クレジットカードやヤフーポイントまで納税に使えるのも特徴になっている。

 ヤフーを使った納税は、実現すれば群馬県内では初めてとなる。富岡市長は「市民が便利な手続きで納税できることは重要だ。適正な執行ができるかチェックする方法など検討したい。1年以内に方向を出したい」と考えを示している。

情報発信力は身近で切実な問題に

 北関東営業所のスタッフは10人で、前出の渡辺氏を含む2人が本社から異動、8人が現地採用となっている。年齢は20代から30代が多く、キャリアよりも仕事に対する姿勢を重視して採用したそうだ。そもそもヤフーという会社には社有車が1台もなく、高崎においても公共交通で営業活動を行っているが、「将来的には自動車が必要になるだろう」と苦笑気味だ。

 北関東営業所が、直接セミナーを主催することは人員的に今は難しいが、今後は行っていきたいという。

 インターネットや携帯電話で情報を取り出し、口コミ評価を読んだりして、買い物やレジャー、生活に活かしていくことは、今や誰もが行っている普通のことだ。携帯電話やスマートフォンに情報依存している世代にとって、検索して電話番号さえも出てこないお店は存在しないに等しいし、情報の更新をしないで放置しているようなお店は確実に敬遠される。ヤフーの地域戦略は、「既にそういう状況になっているのに、あなたのお店はどうするのですか」という問題提起になっている。今回のヤフーの進出を自身の商店、企業の情報発信力を検証するきっかけにしてはどうだろうか。高崎市にとってもヤフーの進出に伴う都市イメージアップ効果は大きく、また地域経済の活性化に向けた事業展開に期待したい。

ヤフーの地域戦略

ヤフー・ロコ

 グルメ、ショッピング、レジャー、エンタメ、ライフスタイルなど地域情報の総合サイト。これまで「ヤフー・ジャパン」で別々に分散していた地図情報、交通情報、グルメ、クーポンなど7つの地域系サービスを統合し、日本最大級の地域情報サイトになっている。携帯電話やスマートフォンからも利用できる。

 「ロコ」のネーミーングの由来は覚えやすく親しみやすいネーミングとして、地元育ちの人という意味の「ロコ」や「ロケーション」「ローカル」などをイメージして決定されたそうだ。

ヤフー・リスティング広告

 「ヤフー・ジャパン」で商品やサービスを検索しているインターネットユーザーに対し、検索結果画面に広告を表示させるサービス。検索キーワードと関連する広告を表示する検索連動型広告「スポンサードサーチ」と、ユーザーが現在閲覧中のページや過去の閲覧履歴、直近の検索キーワードに応じて、最適な広告を掲載する興味関心連動型広告「インタレストマッチ」がある。

 両方とも、クリックをしサイトに誘導してはじめて課金される広告で、クリック課金型広告と呼ばれる。インターネットユーザーの誘導数と広告料金が対応しているため、費用対効果がはっきりわかる。

ヤフー・ショッピング/ヤフー・オークション

 「ヤフー・ジャパン」のショッピングサービス、オークションサービス。「ヤフー・ショッピング」はポイントが貯まるネット通販。「ヤフー・オークション」は個人やオークションストアが出品する商品を落札形式で購入。「ヤフオク」の略称で知られている。平成23年10月〜12月期の出店数、売上げは「ヤフー・ショッピング」が2万店、830億円、「ヤフー・オークション」が1万7千店、1,826億円。

ヤフー進出について地元情報産業界の声

東日本電信電話㈱群馬支店
群馬支店長 五十嵐 克彦 氏

 地域の活性化に向け、事業者の情報発信の方法には、放送やペーパーメディアに加え、インターネットによる情報発信が有効であると考えています。

 ヤフーが高崎に進出するにあたり、大きな目的の一つはヤフーが提供する各種商品のコンサルタント業務だとお聞きしております。例えば「Yahoo!ロコ」は代表的な商品の一つですが、これらのサービスを使って高崎の事業者が情報発信を行うということは、地域の活性化にもつながることだと考えています。

 NTT東日本では、市内全域での事業者及びお客様向けに高速インターネットアクセスサービス「フレッツ光」を提供しています。「フレッツ光」は、そういった事業者がインターネットへ情報発信するうえで有効なサービスであると認識しています。

 また、一昨年10月より、「光GunmaHappyタウン」という、個々のお店(事業者)が無料で様々な情報を発信できるサービスを提供しています。提携店も1月末で1,300を超え、現在も続々と増えています。今後も、地域の活性化に貢献できる取組みを強化していきたいと考えています。

 ヤフーというブランド企業が高崎を選択したことについては、やはり鉄道網や高速道路の結節点であり、アクセスや拠点性、光通信網については県民人口比率では99%がカバーされており、総合的にポテンシャルの高い都市として評価されたのではと受け止めています。

高崎商工会議所情報産業協議会会長
マクロ株式会社代表取締役 竹内 健 氏

 東日本大震災によって、企業の危機管理意識が高まっています。都内の企業も地方にバックアップオフィスを設けようと具体的に考えているのではないでしょうか。情報産業であれば、サーバーなどのバックアップセンターを設け、国内の通信網が災害で分断されても、複数の回線や通信手段を確保し、機能が維持できるような体制づくりが求められていると思います。

 高崎は災害が少ない上、東日本大震災の直接被害や、その後の原発事故の影響を考えても、北関東の他都市に比べ、安全で優位な状況と言えるのではないでしょうか。

 ヤフーの北関東営業所設置についても、おそらく災害に強い高崎という背景があったからではないかと考えています。今後、この北関東営業所が拠点機能を高め、バックアップセンターを視野に入れた展開が生まれれば、高崎の都市機能にもっと大きなプラスになると思います。富岡市長が、国や公共機関のバックアップセンター誘致を提唱していますが、多くの企業もバックアップセンターを必要としています。高崎は、バックアップセンター設置に最適な環境であることをもっとPRしていいと思います。

「Yahoo! JAPAN」とは

 インターネットの草創期から立ち上げられた国内最大級のポータルサイト。Yahoo! JAPAN IDを取得・利用中のユーザー数は2600万人。平成23年10月〜12月期の月平均ページ閲覧は496億6300万回。

■社名:ヤフー株式会社
■本社:東京都港区赤坂
■設立:1996年1月
■主な事業内容
 インターネット上の広告事業、イーコマース事業、会員サービス事業、その他
■代表者:井上 雅博氏
■従業員:3815人(H23年末)
■平均年齢:33.8歳(H23年末)
■主な沿革
 1996年1月創業
 1997年11月株式公開(店頭登録)
 1999年9月「Yahoo!ショッピング」、「Yahoo!オークション」を開始
 2003年10月東証一部上場
■Yahoo! JAPANの利用状況(四半期開示情報 平成23年10〜12月)
・Yahoo! JAPAN 月間総ページビュー数(PV)※1 49,663百万回
・Yahoo! JAPAN 月間アクティブユーザー数 ※2 26.01百万ID
・Yahoo!オークション
 ストア数(四半期末) 17,023店舗
 取扱高(四半期計) 1,826億円
 落札単価 5,021円
・ショッピング関連
 ストア数(四半期末) 20,513店舗
 取扱高(四半期計)※3 830億円

※1:利用状況をより正確に反映したデータを開示するため、ツールバー起動時に発生するページビュー数等を計測対象から除いています。
※2:各月中にログインしたYahoo! JAPAN ID数です。
※3:「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!チケット」「Yahoo!トラベル」を含みます。

高崎商工会議所『商工たかさき2012年3月号』
(文責/菅田明則・新井重雄)

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