変化する高崎の商業環境

高崎駅周辺エリアへの一極集中
高崎を最大の市場として捉えるスーパー

変化する高崎の商業環境

 高崎都心部への幹線道路の整備、人口の微増傾向、県下最大都市としての存在感が高崎の求心力を高めている。高崎駅周辺になぜ人が集まるのか? 駅周辺の商業環境はどう変化しているのか?大型店の動向は? そして郊外を中心に、市内に広がるスーパーマーケットの動向は?

 高崎の商業環境が変化の兆しを見せ始めていると言われるなかで、高崎駅周辺エリアへの集積動向と、高崎を最大の市場として捉えているスーパーのビジネス戦略を通して探ってみた。

群馬最大の商業集積地
高崎駅周辺を核にした「まちなか商業」の再生

高崎駅東口の集客力の増大と大型店が結ぶ駅東西の一体化の兆候

  「高崎駅東口広場のロータリーのリニューアル」、「高崎駅東口を起点とした東口線(東毛広域幹線道路)の拡幅工事完成」、「高崎渋川線バイパスと国道17号線の直結」いずれも高崎駅および高崎都心部へのアクセスの良さを向上させ、今後ますます高崎の求心力を高める要因となることが予測される。

 東日本大震災以降の消費マインドの低下、長引く景気低迷による閉塞感など商業環境にとってマイナス要素が多い中、これまで減少していた高崎都心部の人口がここ数年増加傾向にある。

 近年高崎駅東口周辺エリアは、業務機能の集積と販売額の増大が著しく、そのことで高崎の交流人口が増加し、都市としての求心力・存在感が高まってきている。また、県内経済の高崎への一極集中化の進展や、人々の都心回帰というマインドの変化が高崎都心部のポテンシャルを高めている。

 このような状況の中で、群馬最大の商業集積地として、その動向が注目される高崎駅周辺地域の商業環境の風向きを探っていきたい。

飛躍的に向上した都心部へのアクセス

 高崎駅から東に伸びる東口線。高崎駅東口から環状線までの拡幅工事が長く続いていただけに、通行の際の快適感は格別である。

 ある男性は「今まで環状線から駅東口まで7〜8分かかっていたのが、1〜2分で行ける」と話す。時間だけでなく、道路拡幅や電線地中化による心理的な解放感も大きく、群馬の玄関口、高崎の顔としての高崎駅東口の姿を実感することが出来る。

 高崎駅東口から東口線、国道354号線を経由すると、北関東道の前橋南ICまで容易に辿りつくことができる。高崎玉村スマートICが完成すれば、東毛地域、栃木、茨城からのアクセス環境が一層スムーズとなり、高崎中心市街地の"商圏"拡大に期待が高まっている。

 また、高崎渋川線バイパスと国道17号の直結により、榛東村、吉岡町、渋川市からのアクセスも容易になっている。昭和59年に、前述の町村に高崎市と当時の群馬町を含めた自治体で設置を目指してきた念願の道路である。

 これまで渋川方面から高崎に向かう場合、高崎渋川線バイパスを順調に進んで来た後、大八木工業団地南交差点と国道17号の小八木町南の交差点で信号につかまることが多かった。今回の直結により、この"関所"がなくなり、高崎市街地へのアクセスが格段に容易になっている。

駅周辺大型店の売上げに伸び

 高崎駅では昨年の群馬デスティネーションキャンペーン(以下、群馬DC)の開催、「E-site」、「群馬いろは」の開業を経て、人の流れに大きな動きが出始めている。駅ビル関係者は「高崎駅は鉄道を利用する人だけでなく、様々な人の結節点。今後長距離バスターミナルの整備も含めて一連の整備の完成が予定され、高崎駅の次のステップに期待していただきたい」と話す。モントレーは主に地域住民へのサービス提供、「E-site」は高崎・群馬の玄関口として地域の魅力を知ってもらう役割と捉え、地域の核として揺るぎない存在感を打ち出している。

 一方、市街地の大型店関係者は「売上・利益は伸びているが、入店客数の減少が課題」と打ち明ける。来店者は減少しているものの、上得意客と外商営業で売上を伸ばしているという。これまで築いてきた地域との密接な関係が苦境を乗り切る原動力となっているようだ。現在、店内がもっとも賑わうのは日曜日。前述の大型店は子どもから高齢者まで、家族揃ってゆっくりと買い物が出来る店を目指していることもあり、地域戦略が正しいことを裏付けている。

 駅周辺の大型店からは、言葉は控え目ながらも売上が下げ止まり、回復基調に向かっているという声が聞こえている。

 駅東口の大型駐車場の関係者は「週末は大型電器店、菓子店、フィットネスクラブの利用者、都内への鉄道利用者等の利用で稼働率が高い」と話す。昨年の「E-site」の開業は駐車場の稼働率を大きく向上させたそうだ。まだまだ手放しで喜べる状況ではないが、上向きの気配は感じているという。今年夏にはヤマダ電機北側に11階建てのホテルが開業し、同時期には駅東口ペデストリアンデッキの延長も予定され、稼働率の向上と東口の賑わいの創出に大きな期待を寄せている。

オフィス需要で交流人口が増加

 北関東道全面開通と高崎駅東口線(東毛広域幹線道路)の延伸と拡幅により、高崎駅東口へのアクセスが飛躍的に向上した。北関東道の全線開通に関する調査によると、群馬県と埼玉県、栃木県、東京都との交流の増大が予測されている。高崎駅東口が文字通り群馬の玄関口となり、前橋・伊勢崎はもとより東毛地域や栃木県から高崎駅東口への人の流れを増加させている。

 高崎駅東口の駐車場の稼働率の向上、JR高崎駅コンコース通行量の増加(1日6万人超)、高崎駅周辺の大型店の売上増などにその傾向が見られる。市内の不動産関係者は、「県外企業のオフィス需要では、高崎が断トツ一番人気。新幹線が必須条件となっている。ヤマダ電機の高崎移転により、電気メーカーの事務所も東口に増え始めている」と言う。不況下で撤退傾向にあった営業所が戻り始めているようだ。

 ビジネスゾーンとして集積を図ってきた高崎駅東口エリアは、年間販売額2,389億7千万円で高崎駅西口エリアの708億9千万円をはるかに凌ぐ。高崎駅東口エリアは、高崎のビジネス拠点であり、交流人口が増大していることを示している。朝夕のラッシュ時に駅東口の人の流れをみれば歴然としている。

変化する高崎の商業環境

集客力・交流人口の増加が駅東西の一体化を促進

 東口エリアの交流人口や入込客の増加が、結果として高崎駅東西の流れをつくり出し始めている。ヤマダ電機の袋を持った人が髙島屋で買い物をしていたり、逆に髙島屋の袋を持った人がヤマダ電機や「E-site」の中を歩いていたりする。東口の駐車場に車を置いて、西口の髙島屋や近隣の商店街まで歩くという、これまでの高崎にはなかった光景を目にすることができる。駅が街を分断するのではなく、駅コンコースが東西の一体化を促進していると言えそうだ。特に「E-site」の開業以降、東西交流が進んできたと見られる。

 高崎駅の乗降客数や、高崎駅周辺の大型店の来店者数、小売・卸の販売額から推測すると、高崎駅周辺エリアは東西併せて、年間2,500万人の集客力がある。この数字は全国の同規模都市と比較すると上位の数字となっている。

今こそ集客イベントの充実を

 データとしては、このような集客力を示している高崎駅周辺エリアだが、実感としてまちの賑わいが脆弱になっていることは否めない。

 今後の課題は、高崎の県下最大都市としてのポテンシャルの高さが注目され、交流人口や集客力が向上をしていることを、高崎の商業環境の活性化にどう結びつけていくかということになる。まさにこのチャンスの到来をどう活かしていくかが問われている。

 ハード面が充実してきた今、改めてソフト面の充実について考えなければならない。昨年、県下最大のイベントとなったのが群馬DC。関連イベントの中で、高崎市街地で大きな話題となったのが、「機関車の街・高崎まちなかスタンプラリー」だ。お目当ての「機関車だるま」は当初1,000個用意されていたが、多くの人が市街地の参加店を巡った結果、だるまは9,700個まで増産された。今年7月からは、「ググっと群馬観光キャンペーン」で後継イベントが予定されており、まちなかの回遊性向上への注目が集まっている。

 また、今月末に開催される「高崎商都博覧会」への期待も大きい。駅ビル関係者は「高崎駅の西口と東口に位置する大型店、商店街が一体となり、意義のあるイベントに育ちつつある。これも、高崎の行政、商工会議所、事業者の密な連携が良い結果を出しているのではないか。高崎駅東西の流れもでき、市街地の活性化に期待している」と話す。また、大型店関係者も「個々の店で出来ない大型イベントにも、共同で取り組めるチャンスもある。さらに話題性のあるイベントに取組んで、より多くの方に街を歩いて欲しい」と期待を寄せている。

 ある関係者は「ハード面が充実しつつある今だからこそ、高崎が培ってきた市民力を改めて集結しなければならない。高崎映画祭会期中に行われた無料のレンタサイクル、今月末の高崎商都博覧会、来月の高崎バルなど、チャンスの種は多数、用意されている。これらの種に水や肥料を与え、自分の商売に結び付けなくては」と意気込んでいる。

工場誘致が駅のにぎわいをつくる

 駅周辺の商業活性化は、東口を中心としたビジネスオフィスの集積を後背地とした交流人口によって支えられている。不動産関係者は、「生産拠点となる工場が進出してくれば、その後に関連部門が追いかけるように高崎に出て来る。まずは生産工場を誘致することが重要だ」と指摘し、高崎市の産業立地政策を評価する。オフィス集積に伴って、買い物や飲食需要が伸び、駅周辺の回遊範囲が徐々に広がると言う。高崎には、駅東口周辺のオフィスビルの空きが少ない。しかし、今後オフィスビルの需要が高まることが予想されるため、オフィスビルの新設に注目したい。

 首都圏から企業が進出する条件として、新幹線や高速道など交通基盤はもちろん重要だが、心理面として、駅前のにぎわいを重視するそうだ。駅を降りて、閑古鳥が鳴いているまちには、オフィスは進出して来ない。駅前の活力が、企業を呼び込む吸引力になるというのだ。人通りだけでなく、「高崎音楽祭」の高崎駅西口前ステージや「光のページェント」のような駅周辺のにぎわいづくりや発信力も、駅を降りた時に都市力を感じさせる手法として有効だろう。

ベイシア・フレッセイの動向に見る高崎のスーパーマーケット事情

さらなる出店が予測される高崎は群馬の最重点エリア

 群馬県全体の人口減少化が進む中で、高崎市の人口は微増を続け、その増加数は群馬県で一番多く、全国の41の中核市の中でも対前年人口増加率は5位となっている。

 このような状況に対応して、今後の高崎市の都市政策の重点は、都心再開発や都心居住人口の増加推進、少子高齢化に対応した住環境の質的向上、郊外住宅地の再構築へと移行していく。

 県下最大都市としての人口の増加傾向と都市としての成熟化。この二つの流れは商業環境にも大きな影響を与える。さらに地域に密着したスーパーマーケットの経営戦略や出店計画にも大きな影響を与えている。

 スーパー業界では、今、県内最大手のベイシア、フレッセイがともに、市場としての可能性と魅力が高まる高崎での出店を計画し、その勢力図を塗り替えることが最重点戦略と考えている。

高崎は最重点マーケット

 ベイシア、フレッセイともに「高崎は群馬県の中で、今、一番活力を感じさせ、魅力のある地域」と太鼓判を押す。「高崎は県内の最重点エリアに位置づけている」と口を揃え、出店機会をうかがっている。2社とも、高崎市内の店舗数が県内全店舗数に占める割合は1割強程度で、「まだまだ少ない」と言う。「高崎でシェア1位をとることが生き残りのカギ。高崎の店舗数を倍増したい」「県内トップシェアを維持するために高崎を制しておきたい」と強い意欲を示している。

 スーパー業界では、「高崎駅東口線が整備され、生活動線が大きく変化している」と沿線エリアの開発に注目している。高崎駅東口の都市集客施設建設計画、高崎玉村スマートIC周辺や高崎操車場跡地への産業集積などにより、ビジネスの活性化と雇用の拡大が見込まれ、スーパー業界も指をくわえて見ている状況ではなくなっている。

環状線の内側は空地がない

 スーパー業界では、高崎駅東口線の環状線内側エリアの動向を特に注目しているが、出店用地の確保は、現実的には難しいようだ。標準的なスーパーは、店舗面積が200坪、駐車場を含めた全敷地が少なくても1,000坪程度必要で、高崎駅東口近辺には1,000坪のまとまった用地は見あたらない。「出店したくても土地がなかった」というのが本音のようだ。

 不動産関係者は、「スーパーの出店条件は、各社ともほとんど同じ。東口周辺を欲しがっているが、住宅が密集し開発は難しいだろう」と言う。環状線を越えた中居地区あたりが、これからホットな開発エリアになるのではないかと見ている。一方、このエリアの都市計画区域が中居町で途切れることから、高崎駅東口線沿線の市街化調整区域が用途変更されるかどうかが、商業施設進出のポイントになると指摘している。

 高崎駅東口線沿線を含む高崎市の東方面は、スーパーの件数が少ないことは広く認識されており、市内の不動産関係者によれば、県内大手スーパーだけでなく、県外スーパーからも高崎市内の適地を物色する問い合わせが数多くあり、水面下の前哨戦が繰り広げられているようだ。高崎玉村スマートICの開通まで、あと1年となり、店舗の建設期間を考えれば「そろそろ動きが始まってもいい」と語る。

変化する高崎の商業環境

変化する高崎の商業環境

高崎市も出店に積極姿勢

 ベイシア、フレッセイが高崎市内での店舗が少ない理由は、高崎への出店に消極的だったわけではなく、土地とタイミングに恵まれなかっただけだと言う。住宅地が近く売上が見込めるロケーションに出店するだけでなく、「吉岡町のようにショッピングモールが核になってまちが広がっていくケースもある。行政が進めるまちづくりと、私たちの戦略が合致すれば良い結果が出る」とベイシアは指摘する。吉岡町は、群馬県内で、最も人口の伸び率が大きい。「スーパーが出店すると、周辺の宅地の動きも活発になる」と、不動産関係者は生活基盤の充実が定住人口の増加につながることを指摘する。

 ベイシアは、将来のマーケットを見込んだ出店には、行政が都市計画ビジョンを示すことが不可欠だと言う。幹線道路の役割や沿線のマスタープランを行政が描き、民間活力を導入することがまちづくりに重要だ。区画整理、再開発にあわせ、一定規模の土地を空け、そこにどのような都市機能を誘致したいのか、行政が明確なビジョンを示すことが重要だ。「以前から高崎市には投げかけを行ってきたが、具体的な提案はなかった。高崎市から誘致を持ちかけてくれるようになり、高崎市の積極的な姿勢を強く感じている」とベイシアは語っている。

スマートIC周辺の物流機能にも注目

 物流はスーパー業界にとって生命線とも言え、関越道、上信越道、北関東道にアクセスが容易な高崎玉村スマートIC周辺は、物流拠点として注目されている。フレッセイは「当社は新鮮さで勝負しており、毎朝、築地市場から仕入れ、その日のうちに店頭に並べている。スマートIC周辺に流通拠点があれば、仕入れと配送が効率的になることは間違いない」と言う。

 物流拠点と高速道のインターチェンジは一体となっている。「北関東道の全線開通は高崎にとって大きな意味を持っている」と不動産関係者は力を込める。群馬県内で物流拠点を求めるなら、「北関東道の路線上で首都圏と上信越につながる高崎か、首都圏と東北につながる館林かどちらかになるだろう」と明言する。物流関係社から高崎に用地を求める打診も増えているそうだ。東毛広域幹線道が開通し、県内の東西交通が便利になった効果も大きい。

 「需要はあるが、今すぐに紹介できる土地がないのが高崎の現状。スマートIC周辺開発の計画も高崎市が詰めに入っているようなので注目している」という。ベイシアも「スマートIC周辺には関心を持っている」と話しており、流通業界からは既に熱い視線が送られているようだ。

お客様や立地にあわせた販売を工夫

 「スーパーは生活のインフラであり、高齢化社会に対応していくため、スーパーも変わっていかなければならない」とベイシア、フレッセイとも考えが共通している。スーパーの立地に最低1,000坪を要する現状では、中心市街地に出店することは、土地の確保や費用対効果を考えると難しい。ベイシアは「かつては地価が高い場所が、売上が高い場所だった。

 現在は、かならずしもそうとは言えない。地価と売上のギャップが大きくなった時点でまちなかへの展開が難しくなった」と言う。しかしコンビニ型のスーパーや移動販売車、宅配など、様々な手法を視野に入れた検討が進められているそうだ。フレッセイでは、移動販売車による営業を高齢者施設と連携し、4月から実際に開始した。中型のバス車輌の中に生鮮食品、そうざい、お菓子などがショーケースに並び200アイテム以上を揃えている。駐車場所さえあれば、どこにでも出張できる。

 ベイシア、フレッセイは「スーパーは車で5分が商圏、お客様一人の買い物額もある程度決まっている。生活必需品においては、各店を比べても価格差はほとんどない。お客様に選ばれるための差別化にしのぎを削っている。地域におけるスーパーの存在意義を高めていくことが結果としてシェア拡大につながっていくと考えている」と話している。

 高速交通網や東口線整備により高崎の魅力が増している。産業施設誘致で雇用の場が増えれば人口増にもつながる。

 スーパー各社はこの点にも意識し高崎を最重点地域として進出を望んでいる。進出には5年10年先まで見通さなければ判断できないが、人が集まりお店が集まれば、さらに人が集まる。このような好循環にも期待したい。

 一方、「駅なかや東口、限られた大型店の一人勝ちではないか」という中心商店街の不安も根強い。まちなかの温度差は否定できないが、県内最大の集客施設・高崎駅を最大限に活用し、見え始めた駅東西交流を波及させていく都市戦略的な一手を、時を待たずに打つ必要があるだろう。

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