民間活力で高度な公共性の高い都市づくり

プロポーザル方式で民間事業者を決定。
企業の資金力、専門性を活かした公共用地の活用

 富岡賢治市長は就任以来「新しい高崎」を理念とした新政策を打ち出してきた、3年目となる平成25年度予算には、これまでの政策に加えて大胆な成長戦略が盛り込まれ、高崎の将来ビジョンが明確に打ち出されている。また平成25年度は行財政改革においても市長公室の廃止を始めとした組織再編などを断行し、大ナタを振るって取り組む姿勢がうかがえる。

 公共事業等では、市内事業者への発注を徹底して経済効果を促進するほか、プロポーザル方式で企業の専門性を活かし、市有地を高度に活用する都市づくりの手法に取り組んでいる。今回の特集では、平成25年度事業の中から高崎市ならではの都市戦略、中小企業支援策をピックアップし、新しい高崎の流れを見ていく。

民間の力で新たな都市づくり

民間活力で高度な公共性の高い都市づくり

 富岡市長はかねてから「市役所の力には限りがあり、市民、産業界の力を借りてまちづくりを行うことが重要」と述べ、市民組織による新たなまちづくり活動や、高崎商工会議所やJAなど農業関係者と連携した産業発展施策や高崎市の対外的PRに力を入れてきた。

 平成25年度も高崎産農産物を全国に拡販する「地産多消」や、高崎の産業を発展させるビジネス誘致キャンペーンを産官連携で展開するほか、高崎玉村スマートインターチェンジ周辺のビジネス団地、農産物直売所の構想を具体化し、新たな民間活力を高崎市に導いていく考えだ。

 高崎商工会議所が中心となり高崎市が応援して準備を進めている「高崎まちなかコミュニティサイクル(高チャリ)事業」、「高崎まちなかオープンカフェ(高カフェ)事業」も4月からいよいよ本格実施を迎える。また、まちなかにプロ仕様のレコーディングスタジオを整備し、高崎ブランドの音楽を発信する「高崎サウンド創造活動」も、高崎出身の人気プロデューサーなど民間の専門力を活かして実施していく。

「市が作り、市が壊す」まちづくりから脱却

 高崎市が打ち出した新事業では市内企業や専門家のノウハウを積極的に活かし、施策効果を最大限に引き出す方針が目を引いている。

 都市計画においても高崎市の計画に沿った開発を誘導して良好な都市環境が形成されることに加え、優れた企業ノウハウが発揮されることで市民生活や高崎の発展に必要な都市機能が効果的に実現される。

 高崎市の松本泰夫副市長は「これまで高崎市に必要な施設は市が土地を購入し、市が建設、時期がくれば解体し建て替えを行ってきた。市の財政には限りがある。多様化する市民ニーズに応え、厳しい都市間競争の中で高崎市が生き残っていくためには、今までとは違った"まちづくり"の手法が必要だ。市が作って市が壊すことを繰り返していたら財源がいくらあっても足りない」と言う。

 入札は、行政が定めた仕様に従って最も価格の低い事業者に発注を行い事業費を縮減する方法だが、高崎市が進めているプロポーザル方式は、最も優れた計画を提案した事業者に実施を委託するもので、費用だけではなく総合的な企画力、事業力を求め事業効果に主眼を置く。施設設計、運用管理に民間の高い技術やノウハウを活かすことができ、これまでにない施設が開発される可能性を持つ。また、事業着手までの時間を短縮できる効果もある。高崎市は、新斎場の基本設計、市営中央駐車場の多機能型住宅、家畜市場跡の商業施設整備などをプロポーザル方式で行い、市内企業の力を活用している。新体育館もプロポーザル方式で行うが、施設が特殊で施工実績を必要とするため市内企業に限定しない予定だ。新斎場は既に基本設計が完了し、市内事業者によって機能性とデザイン性を備えた計画が進められている。

 平成25年度から実施される注目事業として、市営中央駐車場の多機能型住宅、家畜市場跡の商業施設整備を見ていく。

まちなか活性化で先進施設

連雀町市営中央駐車場に全国初の「多機能型住宅」

民間活力で高度な公共性の高い都市づくり市営中央駐車場

 連雀町の市営中央駐車場に計画している多機能型住宅は中高年層や学生、外国人の住宅と介護サービス施設などを備えた複合施設で、富岡市長が中心市街地の活性化とまちなか居住者の増加対策として構想を選挙公約にも掲げてきた。平成24年度に具体的な方向が発表され、今年3月中にプロポーザル方式で事業者が決定される予定だ。

 元高崎郵便局跡地の市営中央駐車場は、昭和56年に、中心市街地で不足していた駐車場対策として整備されたが、近年、中心市街地にコインパーキング等の駐車場が増加し、利用者が減少傾向にある。高崎市では市営中央駐車場の使命は全うしたとし、この場所を選んだ。

 この施設は、中高年層、学生、外国人のための住宅とともに、デイサービスなど福祉施設、働く女性のニーズに合った保育施設などを備える。居住者や施設利用者による世代間交流、異文化交流をはかり、地域コミュニティの創出をねらう先進的な事業だ。これまで中心市街地には長寿センターがなかったので、高齢者向けのサービス機能を充実させ、まちなか居住人口の増加に貢献させていきたい考えだ。

 高崎市が想定した構成では、1階が長寿センター、子ども預かり施設、多世代交流施設。2階が特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護施設。3階から5階がサービス付き高齢者住宅(30戸〜40戸)。6階から8階が学生向け住宅、外国人研究者・技術者向け住宅(40戸)。9階から11階が中高年向け住宅となっている。

 市が民間の委託事業者にこの土地を貸し付け、事業者が建物を建設する。公的な機能部分については市が借り上げ、管理運営は事業者に任せる方式が考えられている。福祉施設を伴うため、医療法人や社会福祉法人への委託が想定されている。仕様の取りまとめは高崎市の政策理念を事業に十分に反映させるため、外部のコンサルタントに委託せず市職員が行った。

 松本副市長は「自由な発想で創造性があり、しっかりとした資金計画を求めていきたい」としている。市の建設費はゼロで、地代が市財政に入る。事業者の採算性を考慮し、税制面の一部優遇を行う。東一条通り「せせらぎ通り」など周辺環境とあわせた都市景観の創出も期待できそうだ。

地域雇用・障害者福祉・地域防災を包括

上並榎町の家畜市場跡地に大規模小売店

民間活力で高度な公共性の高い都市づくり家畜市場跡

 上並榎町の家畜市場跡地は、平成11年に閉鎖された後、長く空地となっており、これまで、公共工事の資材置き場や大きなイベントの際の駐車場として暫定利用されてきた。高崎市は家畜市場跡地を有効活用するため、地域貢献と環境に配慮した大規模小売店を開設できる事業者に売却する。

 跡地の面積は約8千㎡で、高崎市では、地価の下落が続く中で公有財産を有効に利用し、市民生活の向上と地域経済の活性化に役立つ活用方法として、今回の売却に踏み切った。 周辺地域は住宅が多い一方、スーパーが少なく買い物が不便な状況にあり、地域の実情にあわせた整備計画となる。

 最低売却価格は3億4,250万円で、プロポーザル方式で事業者の選定を行った。開設する大型小売店の要件として、環境対策や景観への配慮、地域雇用、障害者福祉、地域防災に役立つ施設づくりなどが盛り込まれている。

 事業者選定のポイントには、土地の購入価格も含まれているが、「高額の入札を提示しても選定の評価が大きく上がるわけではない」と松本副市長は舞台裏を語る。「一過性の売却価格よりも、市民に対して長期的に貢献してもらうことが重要。波及効果を大きくとらえれば税収増につながり、市の財政にとってもプラスになる」と言う。

 跡地は国道17号バイパスに沿った立地であり、交通面では隣接する既存店舗と歩調をあわせた総合的なプランが求められるだろう。

 今回の要件として盛り込まれている障害者の就労訓練、福祉ショップは、これまでも市内スーパーの一角に補助金によって設置されたことがあるが、補助金の年限に伴って閉店するなど運営が難しい。福祉機能の導入を含めた採算計画を当初から立案してもらうことで、継続性を確保することが期待されている。

 家畜市場跡地については、不動産デベロッパーから再三にわたって引き合いがあったが「分譲住宅で終わってしまうと、高崎市の公有地の活用としては不十分と考えてきた」と松本副市長は振り返る。

日清製粉跡地(東小学校隣接地)に3棟の大規模マンション開発

民間活力で高度な公共性の高い都市づくりタカラレーベンが開発したマンション群

 住宅供給で高崎市が民間活力を導入し、優れた都市空間を導いたのが江木町の旧日清製粉跡地に建設されたタカラレーベンのマンション開発だ。

 高崎市は、同跡地約2.1ヘクタールと周辺をあわせた2.5ヘクタールについて、「都心東地区再開発」として質の高い都市空間と緑豊かな都市環境をめざした地区計画を平成7年に施行した。当初は丸紅と東京建物が大型のマンション建設計画を持っていたが、その後計画が進まないまま凍結され15年が経過していた。高崎市は平成19年に、同地区の地区計画を変更して開発に幅を持たせ、タカラレーベンが計画を引き継いだ。快適な空間創出をめざした公園、隣接の東小学校との境界などには緑道が整備されている。

 平成22年に着工した第1期工事は14階109戸で、リーマンショック以降マンション建設は停滞していたが、3年ぶりのマンション建設となった。群馬県に初めて進出したタカラレーベンは「完売までは時間を要するのではないか」と考えていたが、予想に反して好評となり完売。すぐに第2期95戸に着手し今年1月に完成させ、こちらも完売。現在、第3期91戸を建築分譲中で引き合いが加速しているそうだ。

 全3棟あわせて295戸の大規模開発となり、同社では「一つのまちを理想的につくることができ、通常のマンションプロジェクトとは全く異なっている。お客様の満足度も高い」と自信を持っている。

 入居者は、30代、40代の子育て世代から高齢者層まで幅広く、高崎駅が近く他にない居住環境に資産価値を求めた購入も少なくない。第1期から3期まで、各棟には特色を持たせている。

 このマンションによって隣接する東小学校の児童数も増加した。統計に表れている1期分を見ると平成19年度の153人から、平成24年度は188人に増加し、今後、第2期、第3期の引き渡しで児童数が更に伸びるだろう。子どもの増加は、地域全体の活力につながっていく。現在建設中の第3期分には、東小学校の学童クラブの設置が計画されている。

 タカラレーベンでは、高崎市の都市計画マスタープランを他都市と比べて高く評価し「本物件を、まちづくりの拠点のひとつに位置づけており、再開発のメリットを当社も発揮できた」と話している。

小売店・飲食店などの経営を後押し

まちなか商店 リニューアルを助成

 都市整備とは異なるが、平成25年度の商業振興施策の目玉の一つが、「まちなか商店リニューアル助成事業」だ。事業名に「まちなか」とあるが全市域を対象にしており、市内の商業者が活用できる。小売業、飲食業、生活関連サービス業など対象業種が広く、店舗の改装などが対象となる。補助率は工事費の2分の1、上限100万円で、平成25年度分として1億円を予算措置している。

 高崎市では、効果的な商業振興施策を立案するために市内商業者に調査を行った結果、リニューアルのニーズが浮かび上がった。補助額も施工業者に調査を行い標準額を設定した。富岡市長が就任初年度に創設した住宅改装を対象とした「住環境改善助成事業」が市民、施工事業者ともに好評で、経済効果もあったため、今回のリニューアル助成事業も同じ手法をとり、施工は市内の施工事業者への発注が条件だ。

 「店舗の改装をしたくても、費用がかかるので、なかなか実行できないという商店主が多かった。この事業でやる気のある商店主の背中を押し、高崎市全体の活性化につなげたい。リニューアルの効果を点から線、面へと広げていくのが狙い」と高崎市では期待している。

 反響も大きく既に沢山の問い合わせが寄せられているという。高崎市では「商店主に前向きな気持ちを持ってもらえるのも成果」と考えている。店舗のリニューアルをきっかけに顧客拡大、品揃えの見直しなど店の戦略を練り、売上増に結びつける努力も生まれる。詳しい内容の発表はこれからとなっている。

政令指定都市水準のまちづくり手法

 高崎操車場跡地、家畜市場跡地など長く保留していた市有地が、明確な都市ビジョンのもとで、新しいビジネスの場に再生していく。市営中央駐車場も同様で中心市街地の新たな核施設として高度利用がはかられる。そこには市内事業者の優れたアイデアとノウハウが注がれ、高崎市の将来を見据えた都市機能が実現されていく。併せて中小零細の商店主、工務店をきめ細かく支援し高崎市全体の底上げをはかっていく。

 今回の事例で見られた開発手法は官民の適切な役割分担に基づく新たな官民のパートナーシップが必要だ。

 プロポーザル方式には、事業者の能力によって事業内容のレベルが決まってしまう。創造性・独創的な企画力のある事業者がいなければ、最悪の場合、誰もプロポーザルに参加しないというリスクもある。

 プロポーザルで競争が生まれるということは、高いポテンシャルを持った事業者が高崎市内に数多く存在することを立証し、大都市でなければ実施できなかったまちづくり手法が高崎で実現できることを示している。

 富岡市長は「市役所にビジネスができるわけがない」と、話すことがあるが、その本意は、民間の力を最大限発揮させることにつながってくるようだ。今後も芸術・文化、ビジネスなどあらゆる分野で、市民の力、産業界の力をさらに発揮できるよう高崎市の事業手法に期待したい。

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