オリジナリティを活かせ!文房具店のサバイバル戦略

ハイセンス・個性的で使い心地の良い文房具を提案

 まちの文房具店は生き残れるのか。文房具市場は縮小する一方と言われ、しかも大手ネット通販のシェアが拡大している。地方都市の文房具小売業が厳しい状況に置かれるなか、個性的な戦略を展開する市内の文房具ビジネスを探った。

■100円のボールペンを巡る熾烈な戦い

 文房具店が消えている。かつて学校の校門の前には、必ずといっていいほど文房具店があったが、その姿は見えなくなった。高崎のまちなかでも文房具店の路面店は数えるほどになってしまい「不便で仕方がない」という声がある。

 文房具の購入方法も大きく変わった。企業では、社内で使用する事務用品を、インターネットの通販サイトを利用することが多くなっている。ちょっとした文房具ならコンビニエンスストアや100円ショップで足りてしまう。ホームセンターには、コピー紙を始め、一連の事務用品が並び、郊外の書店では子ども向けのファンシー文具に広い売場を取っている。文房具店の競合は厳しい。

 2010年頃から文具ブームと言われ、使いやすい文房具、個性的な文房具が注目されている。市場が活性化しているとも言われているが、1本100円前後のボールペンを売るために、激しい戦いが行われている業界だ。

アサヒ商会「HI-NOTE」アサヒ商会「HI-NOTE」

■老舗がサバイバルで二つのビジネスモデル

 こうした文房具販売の環境変化に対応するため、全く正反対の経営戦略に踏み切った文房具の老舗企業がある。3年前に店売りから撤退した㈱富田文具(あら町)と、店舗をメインにした戦略で、トレンドに合わせて品揃えを強化した㈱アサヒ商会(問屋町)である。

 アサヒ商会は、平成22年7月に店舗名を「Hi-NOTE」としてリニューアルし、法人客だけでなく、若者やファミリー層まで幅広く顧客を取り込むことに成功した。富田文具は、文房具だけでなく机などのオフィス環境のトータルビジネスにシフトしながら、オリジナル文房具を開発し、新需要の掘り起こしに成功している。

 アサヒ商会は店売りを強化、富田文具は法人営業に特化する戦略をとったが、2社ともトレンドの動きには敏感で、感度の高い商品やサービスを提供しているのが共通点だ。

文房具を売るための戦略

ポイント1 顧客の心をつかむ3万アイテム

 富田文具の富田孝史専務は、小売りを閉めた理由を「15坪ではお客様に自分のコンセプトが伝わる店づくりができない」と説明している。同社は昭和24年に創業しているが、かつて銀行街だった大通りの様相が変わり、店舗の売上が徐々に減少していた。「店をどうするか5年間悩んだ結果」という。富田専務が納得する品揃えは3万アイテムで、300坪の店舗が必要となるそうだ。

 その3万アイテムを実現したのがアサヒ商会の「Hi-NOTE」だ。広瀬一成社長は「3万アイテムの商品を揃え、文房具ならワンストップで買える。専門店のセレクションを楽しんでほしい」とHi-NOTEの魅力を語る。定番商品を始め、文房具を見て歩くだけでもおもしろく、随所に遊び心がちりばめられ、知的な刺激を与えてくれる。入口付近には、特に力を入れている季節商品が並び、工夫を凝らしている。便せんは季節で入れ替えるなど品揃えはきめ細かい。

ポイント2 法人客は価格、個人客は機能やデザイン

 文房具の購入は、法人を中心にネット通販の利用が増え、シェアを拡大している。ネット通販はリーズナブルで、注文した商品は翌日に届き利便性も高い。

 ネット通販との競合に加え、「文房具は経費削減のターゲットになりやすい」と富田文具、アサヒ商会とも話しており、文房具の小売りは苦しい様相だ。

 その一方、企業の経費節減で、会社が社員に支給する文房具が経費削減のために少なくなったり、支給品は使いにくい、デザインが気に入らないなどの理由で、自分で使う文房具を自費で購入するOLやビジネスマンが増えている。

 機能性やデザインが重視される傾向が強くなり、ファッション雑貨の感覚で文房具を楽しむようになっている。メーカーは新製品を投入し、文房具を特集した出版物も多い。OLやビジネスマンを中心に文房具への関心が高まっており、気に入った文房具を使えば、仕事も楽しく、モチベーションも上がる。

 文房具の専門店は、雑誌に特集された話題の文房具を取り揃えるなど、多様な需要に追われているようだ。富田文具の富田専務は自身が書き味を試し、吟味した40本の様々な筆記具をサンプルとして携行し、営業ツールとして活用、成果を上げているという。

オフィス空間を創造する企業に

■(株)富田文具 富田 孝史専務取締役

富田文具 筆記用具サンプル富田文具 筆記用具サンプル

 店を閉めた時は、「これからどこで買えばいいのか」とお客様に怒られたそうだ。事務用品を中心に、かゆい所に手が届く品揃えで、お客様に愛されていた店だった。長年の常連客も多く、「高崎に土着の企業。創業64年の蓄積を活かしたい」と考え、郊外に移転せず、あら町の店舗を、富田文具の拠点としてリニューアルした。オーダーメードのオリジナルファニチャーなど、オフィス環境をデザインするクリエイティブな事業を展開している。

 昭和31年に建築した店舗を改装した事務所は、「ライブオフィス」と呼び、個性的なオフィス空間に生まれ変わった。こんなオフィスで働いてみたいなと思わせる場所だ。通りから事務所内が見えるのもメリットで、「何屋さんですか」と、いぶかしそうに入ってくる人もいるが、見学大歓迎ということだ。

富田文具 富田専務富田文具 富田専務

 店売りはやめたものの、法人向けの文房具販売は継続し、インターネットから注文もできる。配達にかかる経費を考えると、文房具は単価が安く、お客様から「わざわざ申し訳ない」と言われることもあるそうだ。富田専務は「文房具の配達は、取引先の潜在ニーズを把握できる貴重な機会」と考えている。文房具の注文は「消しゴムとボールペンを届けて」のように大ざっぱなことが多いが、使い易く、手ごろな価格の商品選びが腕の見せ所だ。「自分たちの目で選び、お勧めできる商品を選んでいる」という。届けた時に新しい文房具の提案をしたり、相談を受けたりと、ビジネスチャンスが広がっている。

 オリジナル商品も開発し評判が良い。内容物を保護するプチプチで出来たバッグや、おしゃれな文庫本サイズのノートは優れものだ。このノートは366頁で日記にもなり、しおりもついている。アイデア次第で使い方も広がる。群馬県産杉材を用いたオフィス家具なども開発した。

 富田専務は現場第一主義を実践し、次の富田文具の姿を描いている。

(株)アサヒ商会 広瀬 一成代表取締役社長

 8月3日にHi-NOTE伊勢崎店(宮子町)がオープンし、順調なスタートを切った。「文房具が売れない時代になったが、文房具屋ががんばらないといけない。やってやろうじゃないか」と広瀬社長は熱い。

 「東急ハンズやロフトなど雑貨系の店舗で文房具が好調となっているが、東京だからお客様が違うとは思わない」と語る。商品の魅力を伝えるために、遊び心を持って楽しさを前面に打ち出そう、お客様に刺激を感じてもらう店にしようと、コンセプトを描き、問屋町のアサヒ商会は平成22年7月にHi-NOTEとしてリニューアルオープンした。リニューアル効果が現れたのは約半年後の東日本大震災の後で、それまでは思うほど客が入らず心配もあったそうだ。それまではビジネス客が中心だったが、若者層、ファミリー層も増え、広瀬社長の店づくりが幅広い支持を受けた。問屋町の土地柄を意識し、伊勢崎店よりも事務用品を多く品揃えしているそうだ。

アサヒ商会 広瀬社長アサヒ商会 広瀬社長

 「店が活性化しているのが大きな成果」とリニューアル効果を語る。品揃えやディスプレイはスタッフに任せ、人材育成に力を入れている。岡山県の大手文房具店で社員を研修させ、しっかりした店舗づくりを学ばせた。帰ってきた時は、意識が大きく変わっていたという。毎朝10分間の勉強会で、一日1品、スタッフが交替で商品紹介を行っている。「ある商品を説明するには、他の商品も知らないといけない。商品知識が広がり接客にも効果がある」という。

 「文房具は楽しく、価格も手ごろ。エンターテイメント化した道具として使ってもらえる」と、提案力のある売場を作り、お客様の反応を確かめている。3万アイテムの在庫管理は手間がかかるが、豊富な品揃えが店の競争力を支えている。

 今から20年ほど前、日本で最初に文房具の通信販売を始めたのはアサヒ商会だった。時代を先取りするビジネス感覚が、新しい文房具市場を高崎に創造する。

データに見る文房具ビジネス

出荷額や店舗減少するも一定の需要をキープ

 文房具の出荷額について、ボールペンや鉛筆、サインペンなど筆記具の推移を見ると、平成15年の1,582億円から、10年間で350億円減少し、平成24年は1,243億円となった。

 店舗数は、産業分類では「書籍・文房具小売業」として集計されており、平成11年には全国6万3,760件だったが平成21年には4万8,010件に減少している。高崎市内の「書籍・文房具小売業」は、平成11年は現在の市域に159件で、平成21年は123件に減っている。

 文房具の全国出荷額を品目ごとに見ると、鉛筆は激減しているが、ボールペン、マーキングペンの出荷数は平成21年以降、上向きに転じている。特にボールペンは一定の需要を持っていることが示されている。(上記グラフ参照)

文房具は必需品、購入回数は増加

 総務省がまとめた家計調査で、平成15年から平成24年まで10年の動きを見ると、家計の消費支出額は、年間319万円から297万円に減少し、長引く不況が家計を直撃していることやデフレの影響が示されている。

 支出額は減少しているが、食料品に対する支出割合はほとんど変わっておらず、文房具も年間6,359円から5,689円に減ったが、支出全体から見た割合は変わっていない。

 勤労者世帯だけを見ると、文房具の支出は多く、10年前と比べてわずかな減少幅で年間7,130円を支出しており、文房具が必需品であることがわかる。

 また、消費全般について見られる傾向として、10年前に比べ、支出頻度つまり買い物の回数が増えており、文房具の買い物も、10年前の年間12.7回から14回に増えている。勤労者世帯は、文房具の購入頻度が多く、24年度は年間18回となっている。月に1.5回、平均して1回あたり400円程度を文房具に支出していると言える。

 少子化により文房具を購入する子どもが減少し、企業も経費節減により文房具の購入費を抑えるなど市場規模は縮小している。IT化で筆記具を使う機会も減っている。とはいえ、文房具は生活やビジネスの必需品であり、一定消費量が確実に見込まれるのも事実だ。

 高いデザイン性が注目されがちな文房具。今回取材した2社とも取り扱い商品のデザインを意識しながらも、道具としての使い心地や機能性といった本来の魅力をお客に伝える努力を続けており、こうした提案力がこれからの文房具業界を生き抜いていくカギとなりそうだ。

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