電車とバスをもっと身近に

 高崎市は、上信電鉄の南高崎駅と根小屋駅の間に新駅を設置する計画を進めている。高崎市によれば、新駅は、上佐野町内の烏川に架かる佐野橋北側あたりを予定し、来年秋頃の開業をめざしている。また、新駅設置の背景には、高崎市がめざす公共交通網のビジョンが長期的な視点で描かれている。

鉄道新駅と最寄駅2㎞構想

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●駅間距離の短縮で沿線の利便性が向上

 上信電鉄の新駅は、高崎商科大学が短期大学から4年制に移行したことにあわせ、根小屋駅と山名駅の間に平成14年3月に高崎商科大学前駅が開業しており、1日平均約250人が利用している。乗客数は増加しており、上信電鉄の乗客数としても好成績となっている。

 上佐野町に計画されている新駅は、昨年夏に地域住民から陳情されたもの。高崎市と上信電鉄が検討した結果、具体化した。佐野地域は住宅が増えており、新駅予定地周辺にはマンションもあることから、一定の乗客数が見込める算段だ。この地域は、最寄り駅の空白ゾーンとなっており、地域の生活利便性を高め、新たな乗車需要が生まれるものと期待されている。住宅需要にもプラスの効果があるものと考えられている。

 通常、鉄道に新駅を設置する場合は、実現までに長期間を要するが、今回は極めて短期間で具体化に至り、富岡市長の提唱するスピードある市政の現れの一つとなった。

●駅施設は高崎市が費用負担

 新駅は、高崎商科大学前駅と同様に、高崎市が建設費用の負担を予定している。施設内容も、同駅と同じ程度とされている。新駅前には、ロータリーも計画されている。

 上信電鉄は乗客の減少で苦戦を余儀なくされており、新駅は沿線活性化の一助にしていきたいと高崎市では考えている。上信電鉄は世界遺産登録をめざす富岡製糸場へのアクセス鉄道としての役割が期待され、高崎市でも上信電鉄の活性化に力を入れていく方針だ。

 JR線、上信線ともに、高崎駅以外の市内の駅では、定期券の乗客が7割から8割を占め、通勤・通学に利用する固定客となっている。新駅の設置で上信線の乗客の底上げをはかっていく。

●気軽に乗れる電車

 上信電鉄の運行は、朝夕が1時間に2本、昼は1時間に1本。運賃は高崎から山名が片道340円、吉井が540円、上州富岡が770円、終点の下仁田が1,080円となっている。所用時間は、高崎から下仁田までが約1時間。

 高崎から南高崎までが170円、根小屋までが200円なので、高崎・新駅間の運賃も同程度となるだろう。高崎駅までの所用時間は、おおむね5分前後と考えられる。上信電鉄は、運賃が高いというイメージが持たれているところもあるが、高崎市域内は利用しやすく、特に高崎・根小屋間の200円圏は、ちょっと乗る感覚で手頃に使える。

●「2㎞ごとに最寄り駅」が目標

 高崎市では、新駅によって鉄道の駅間距離を短縮し、沿線の利便性を高めていきたい考えを持っており、JR高崎駅と井野駅の間に平成16年に開業したJR高崎問屋町駅は問屋町一帯の発展の呼び水となり成功している。

 市は、鉄道各路線について徒歩圏内の駅設置をめざし、駅間距離2㎞を目安にしていきたいと考えている。1㎞(徒歩で10分強)歩けば鉄道の最寄り駅に行けることになり、各駅を中心に半径1キロの円を描いていくと、徒歩圏エリアは広い面積をカバーしている。

 駅間距離2㎞はJR線では、高崎問屋駅によって両毛線が目標を実現、高崎操車場跡地の新駅によって高崎・倉賀野間も2㎞構想が実現される。上信線沿線についても、高崎から吉井まで市域内の利便性を高める必要があり、南高崎駅と根小屋駅間の距離が長いことから、新駅の設置に踏み切った。上佐野町の新駅で、2㎞ごとの駅が達成されることになる。

●待たれる高操新駅の具体化

 佐野地域では高崎操車場跡地にJR高崎線の新駅設置が計画されており、人口増加や産業集積に伴う交通アクセスの強化が目指されている。

 高崎操車場跡地の新駅は、企業進出によるビジネス拠点化や高崎森永株式会社など線路北側の企業、周辺住宅地を合わせ、一日2,000人から3,000人の利用者を見込んでいる。高崎問屋町駅の乗降客数は一日約5,600人であることから、実現性は高い。

 高崎市では、JRとの協議を行っており、一日も早い実現が期待される。一方、全国からJRに寄せられる新駅要望は非常に多いそうで、高崎問屋町は、当時、100駅余りの要望を勝ち抜いて実現したそうだ。

路線バスを利便性の高い地域交通に

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●公共交通維持に行政支援

 地方都市では自動車、マイカーへの依存が強く、公共交通は弱体化している。一方、高齢化等により公共交通は交通弱者の足としての役割を担っており、来街者にとっても拠点駅から目的地までの移動手段となる2次交通は極めて重要だ。

 鉄道が通っていない地域の公共交通としては路線バスが大きな役割を果たす。また、赤字を抱えるバス路線や私鉄を支えるために、資金面での行政支援が行われている。

 高崎市内では、民間バス路線31系統、市内循環バスぐるりん他、高崎市が携わるバス路線が22系統あり、民間バス路線においても3分の1にあたる10系統が市の支援対象となっている。

●「まちなかぐるりん」が好調

 ぐるりんは、平成9年に開始され、カラフルなラッピングバスとかわいいネーミングで市民に浸透した。

 高崎市は、平成22年にぐるりんの路線を大幅変更した。支所地域と高崎駅を結ぶ路線を廃止し、各地域内を循環する方式に改めた。また、周回距離の短縮による定時制の確保と運行費用の圧縮をはかり、まちなか活性化を目的とした都心循環線を新設した。平成24年には、都心循環線のコースを慈光通りなどに変更し、買い物やまちなか散策に使いやすい「まちなかぐるりん」を開始した。

 平成24年度の全路線の乗車人数は、約57万人で、前年度よりも2%増加し、1便あたりの平均乗車人数は6.60人で、前年度よりも0.15人増加した。

 利用が伸びたのは都心循環線で、前年度よりも26%増の4万9,017人(1便あたり4.39人)となっている。高崎市によれば、20分間隔と使いやすく、時間帯では昼間、停留所ではスズラン前などの利用が多く、買い物に利用され、都心循環線創設の目的を果たしていることが示されているという。

●市の支出も減少

 ぐるりんは、既存の民間バス路線などと競合しないようにコースや運行時間帯が設定されている。町内の路地を走っているのは、そのためで、気軽に使ってもらえるように路線はきめ細かい。

 ぐるりんは、市営バスと思われている面もあるが、民間の路線バス事業者が運行し、赤字分を高崎市が補助金で補てんする方式をとっている。高崎市によれば、ぐるりんのようなバス事業は赤字となるのが前提となっている。市民の利便性を確保しながら、補助金支出を抑える費用対効果のバランスが事業の肝となっている。

 路線や便数が多ければ便利だが、高崎市の支出もそれだけ増える。平成24年度は、運賃の増収や経費節減により、補助金支出は前年度よりも1,204万円減少し、2億9,369万円となった。補助金を乗客一人あたりに換算すると、516円で、前年度よりも32円減少した。

 支所地域は乗車人数が少なく大きな課題となっており、地域ごとの検討委員会で今後の在り方が協議されている。高齢者や自動車を運転しない若年層の移動を中心とした地域内循環としていく方向が考えられている。

●バスにも結節拠点が必要

 高崎市内の年間鉄道乗客は、JR・上信の各駅の合計で延べ1,600万人、バスの乗客数は約220万人で、鉄道はバスの7倍となっている。また、鉄道とバスを合わせた公共交通の乗客の8割はJRの利用者となっている。鉄道は時間通りに運行する定時制と、大量輸送、安い運賃によって、公共交通の大黒柱といえる。JR線と上信線により、市内の鉄道網は充実しているが、これから線路を新たに敷設し、鉄道網を広げていくことは難しい。

 鉄道が通っていない地域と高崎都心部を結ぶ公共交通の幹線を強化し、あわせて地域内のきめ細かい公共交通網を整備していく方法として、路線バスの充実にあらためて取り組んでいきたいと高崎市では考えている。

 各地域の中心部や車庫など主要なバス停を結節点として拠点化し、地域活性化も含めた活用などの研究に取り組んでいきたいとしている。

 鉄道の場合は、駅舎で待ち時間を過ごすことができるが、路傍のバス停で次の便が来るのを立って待つのは、乗客にとっても居心地が良くない。猛暑や悪天候の時など、日差しや風雨を避けられるよう、バス停の施設を整備していくことも必要だ。

●公共交通利用者にも買い物特典をサービスアップで集客にもつなげる

 高崎駅周辺の大型店などでは、特約駐車場に駐車した買い物客に、駐車券をサービスしているが、電車・バスを利用する買い物客には、特にサービスは行われていない。公共交通の来店客にも、乗車賃に対するなんらかの補てんがあれば、商圏や来客層の拡大につながるものと考えている。

 公共交通のサービスも向上し、車椅子利用者や高齢者、妊婦、小さな子ども連れなど、乗客に対する心配りも行き届いてきているが、更なるサービス向上に努める必要がある。ぐるりん都心循環線については、200円の一日乗車券、高齢者に対しては、敬老バスカードによる運賃割引などが行われている。

 バス車両や運転手の制服も工夫すれば、「乗ってみたいバス」として話題性も増す。交通拠点都市・高崎にふさわしい公共交通の魅力づくりにも、大いに期待していきたい。

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