映画のある風景

時代を切り取る映像 蘇ったC6120

志尾 睦子

映画のある風景

 今年も機関車の街高崎、まちなかスタンプラリーが始まった。昨年の群馬デスティネーションキャンペーンの一企画は好評を博し、今年も開催される事になり、シネマテークたかさきは、今回機関車が出てくる映画、機関車の映画を上映し、スタンプ設置店舗として参加している。

 機関車の街と改めて言うと新鮮な感覚を覚える。安中には碓氷峠鉄道文化村があったり、信越線の自宅近くの踏切では蒸気機関車を撮影するためにアマチュアカメラマンが集っている光景を見かけることも度々あるので、そう考えるとなるほどと思う。全国どこにでも、機関車の歴史はある訳だけれど、語り継がれ、実物が保存され、また現代の線路を走るというのはやはり特記すべきことなのだなと昨年初めてわかった事だ。

 さて。ちょうど一年前、NHKスペシャルで「復活〜山田洋次・SLを撮る」が放映された。おなじみ『男はつらいよ』シリーズから、藤沢周平原作の時代劇まで、古き良き日本を、そして人情深い日本人の姿を優しいまなざしで描き出す名監督が初めて手がけたTVドキュメンタリーだ。伊勢崎華蔵寺公園に静態保存されていたC6120を改修し再び走らせるという一大プロジェクトを記録しはじめたのが2009年12月。足掛け3年このプロジェクトを追い、2011年の夏の再運転間近には出発点となる高崎駅での撮影が度々行われた。

 山田監督の電車好きは知られた話だけれど、お父様が南満州鉄道のSL技術者であったということもあり、今回の企画には相当の思い入れと力が入っていたそうだ。

 実は、最初は映画にする予定だったという。しかし莫大な製作費がかかること、時間の制約がある事などなどから、テレビ企画として再構築され現在に至ったとのことだった。今回のドキュメンタリー班には選りすぐりの映画畑の撮影監督が何人も呼び寄せられている。知り合いのキャメラマンが参加していて、高崎駅での撮影があると映画館に立ち寄ってくださった。細部までこだわった撮影話は非常に面白く興味深かった。

 山田監督は「蒸気機関車は、科学技術の発達に人々が全幅の信頼をおいていた幸福な時代のシンボル」と言われたそうで、その言葉が胸に残った。放映された番組には、映画と趣は違えど、日本の成長を常に等身大に見つめてきた映画監督の偉大な言葉が、映像の中にくっきりと刻印されていたように思う。

 今年もC6120が高崎駅から出発する。歴史とロマンと一人の映画監督の熱き想いが駆け巡る夏の始まり。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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