高崎新風土記「私の心の風景」

87. 6月の風に揺れる「本日休診」看板

吉永哲郎

高崎新風土記「私の心の風景」

 休日当番医の一覧表が、市の広報に公表されますので、日曜に体調を崩しても心配することが少なくなりました。6月の休日の散歩の道すがら、風に揺れる「本日休診」の看板を目にしますと、なんとなく懐かしい思いがします。

 それは、井伏鱒二の名作『本日休診』を思い出すからです。井伏の作品では「山椒魚は悲しんだ」という書き出しの『山椒魚』が、教科書にも載り親しまれいますが、庶民性のあるテーマを、人情あふれる主人公を通して描いた作家です。また、『斜陽』『人間失格』を書いた太宰治の師にあたります。

 さて、『本日休診』の主人公は、蒲田駅北3丁目に産科と内科を開院した三雲病院の顧問 三雲八春先生といい、土地の警察医もしています。この八春先生のモデルが、高崎中学校22回生の南雲今朝雄医師なのです。

 第二次大戦末期の東京大空襲の際には、警察医として負傷した人々を自転車で廻り、不眠不休の治療にあたり、終戦直後には女性の保安のために進駐軍用の慰安所を創設、またGHQ推薦によって大森保健所所長に任命されました。その頃、大森文化村に住んでいた、井伏鱒二をはじめ坂口安吾・尾崎一雄・檀一雄との親交がありました。昭和23年6月19日、玉川上水で発見された太宰治の遺体の検死をしたのが、南雲今朝雄でした。

 後にこの遺体発見の日を「桜桃忌」といって、太宰文学を偲ぶ日となりました。わたしは、六月の風に揺れる「本日休診」の看板を見ると、井伏の作品や南雲今朝雄を思い出し、「今宵は一献差し上げたい」ということになります。

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