志尾 睦子の映画づくし 4

新感染 ファイナル・エクスプレス

志尾 睦子

2016年 韓国 118分
監督:ヨン・サンホ  
出演:コン・ユ/チョン・ユミ/マ・ドンソク

怖くて切ないパニックムービーで夏を乗り切る

 今年の梅雨入りは平年より約2週間遅かったそうですが、梅雨明けはどうなることでしょうか。梅雨時期の肌寒さはここ数年味わっていない気もしますし、じわじわと暑い日がすでに続いていますから、今夏も厳しい暑さに見舞われそうです。暑さ対策の知恵を駆使した便利グッズも増えていますが、打ち水をしたり、風鈴を軒下に吊るしたりといった昔ながらの涼の取り方も忘れたくないですね。街中で怪談話イベントのポスターも見かけるようになり、怖いのは苦手ですが、ああ、これも風物詩だなあと思う今日この頃です。

 ということで、映画で涼を取りつつ楽しんでいただける映画を今月はご紹介したいと思います。

 舞台は韓国。ソウルでファンドマネージャーとして働くソグは、仕事人間がゆえに妻と別居中の身です。母親の手を借りながら幼い娘・スアンと暮らしています。スアンは自分の誕生日に、今は釜山にいる母親に会いたいとせがんできました。娘を不憫に思うソグは、朝一番のソウル発プサン行きのKTXでスアンとともに妻の元へ向かうことにしました。予定通りにKTXはソウルを出発するのですが、その列車の12号車には、駅で何者かに襲われた女性が命からがら乗り込んでいました。襲われたことでウイルスに感染した女性はゾンビ化してしまい、介抱しようとした乗務員に襲いかかります。そうして、瞬く間に感染者が爆発的に増え、逃げ惑う人々、ソンビとなって凶暴化していく人たち、との地獄絵図がKTX内に広がっていきます。

 ソグたち親子をはじめ、どうにか安全な車両に逃げ込んだ乗客たちは、列車を降りさえすれば助かると思っていたものの、途中駅でも同様の感染が広がっていることがわかり、列車の中に閉じ込められた状態になってしまいます。ウイルスの感染は韓国全土に広がっていたのです。

 生き残りをかけた人間とソンビの必死の攻防戦は、スリリングなアクション映画の極みを見せますが、ソグをはじめとする登場人物たちの人間模様もまた丁寧に織り込まれているので、なんとも言えない感情が蠢いてくることになります。

 生存者たちで力を合わせようとする人たちもいれば、自分だけ助かればいいと不安を煽動して誰かを犠牲に生き残ろうとする人もいます。皆、さっきまで普通に生きてきた人間なのに、突如として襲いかかる理不尽な出来事が全てを変えてしまう。その恐ろしさ。背筋に冷たいものが流れながら、人間味についても考える切なさを残したホラー映画です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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